ー??? ???ー
私は、あの子の友達でいてはいけない。
私が、あの子と親友であってはいけない。
あの子は自分の道を進んでいる。
自分は、その子の道を阻もうとしている。
早くここから出ないと。ここから出て、姿を消さないと。
彼もおいて行かないと。たぶん彼の事はあの子が何とかしてくれるだろう。
でも、自分はだめ。
自分は一緒にいる資格なんてない。
私は……
「世界を壊してみませんか、私と一緒に」
あなたは誰?
コポコポというなにか懐かしいような音が聞こえる。それから香ばしく、そして芳醇なまでの香りが鼻の奥まで届く。これは、コーヒーだろうか。そういえば、ここ最近は飲んでいない気がする。あの写真館にいた頃は毎日のように飲んでいたというのに、なんだかあれが遠い思い出のようにも感じる。
夏海やユウスケ、それから栄次郎はどうしているのだろうか。これまで以上に危険だったあの戦いに彼らを巻き込みたくなかったために、彼は一人であの世界に赴き、そして勝った。その後、ディケイドのカードを海東に盗まれて、そしてそれを取り返そうとして負けて、それから……。
「ん?」
士の意識が完全に覚醒する。身体中に痛みを感じるものの、動けないほどではない。士はゆっくりと起き上がる。どうやら、自分はソファーの上に寝かされていたらしい。しかし、たしか自分はゴミ置き場のゴミ袋の上で気絶していたはず。どうしてこんなところに……。
「ここは……?」
ー某所 06:45 a.m.ー
士は周囲を見渡した。その時だ、物を見つける前に、彼女の姿を見つけた。長い黒髪の女性。白衣を着ていることから医者か科学者か。刹那、彼女もまた士が目覚めたことに気がつく。
「よかった。目が覚めたのね」
「あんたは、何者だ……ここはどこだ?」
「私は、雪城ほのか。そしてここは私の研究室」
「研究室?」
「えぇ、この大学で教鞭をとりながら、色々と研究しているの」
「ほう……」
どうやら、彼女は学者の方だったらしい。彼女の後ろにはホワイトボード、周囲には大量の本や、資料が置かれていたり、冷蔵庫が置かれていたり、なにやら厳重そうな金庫まである。続いて、自分の身体をよく見ると、手当された形跡が見られる。彼女が手当てしてくれたのだろうか。
「あなた、この大学のゴミ置き場で気絶していたのよ?」
「……」
どうやらあの場所は学校内であったようだ。どおりで、車の通りがなかったわけだ。公共の道路ではないのだから信号機もいらないし、車がそれほど通っていなくても何らおかしくはない。あのビルのような建物も、今考えれば学校の一部だったのか。それにしても、一つおかしなことがある。
「お前、どうして警察に通報しなかった?」
「……」
自分は、この大学とは関係のない、いわば不審者だ。そんな人間が、公共の場所に無断で入った場合、建造物侵入に当たる犯罪だ。普通なら警察に連絡するなりの手段をとるはずだが……。ほのかは机に向かうと、その上に置いてあった長方形のカードを見せる。
「まずはこれを見てあれ?って思ったの」
「それは……俺の免許証か」
士は、懐を探ったがその先に自分の免許証はなかった。というよりも、色々とないものが他にもある。だが、よく見るとそれらは彼女の机の上に並べられている。どうやら、この一晩でとことん調べられたようだ。
一応、バイクを運転するために夏海の世界で免許はとっていた。のだが、それは夏海の世界限定の話。他の世界に行ってしまうとその効果は一切ないので、もし警察に止められて身分証を出せと言われても、多分免許偽造なりなんなり言われてしまうだろう。
「色々あるけど、私が一番注目したのはあなたの生年月日よ。この免許証によると、貴方は今三十七歳ということになるわ。でも、この顔写真と比べてもあなたの顔にあまり変化は見られないし、若作りしているという可能性も考慮してみたけれど、気になってあなたの持ち物を少し調べてみたの」
そう言いながら、ほのかは机のすぐ後ろにあるホワイトボードをひっくり返す。そこには、自分の所持するカードの名称と、それぞれを囲む丸印があった。
「この『MASKED RIDER』つまり直訳して『仮面ライダー』と書かれたカードは、これだけあったわ」
と、彼女は並んでいる仮面ライダーの名称をすべてまるで囲んだ。
「それの右下にあったマークが、この『ATTACK RIDE』と書かれたカードと符合するものがあった。それで、マークが一致する者同士を同じ色で囲んだのよ」
確かに、よく見るとそれぞれのアタックライドのカードを仮面ライダーを囲んでいる色と同じ色で囲んでいる。それでも、丸を付けていないものが何枚かあるのだが。
「でも、中には何枚か仲間外れのカードがあった。中でもこの『FINAL ATTACKLIDE AMAZON』というカードに符合するカードは他に一枚もなかったわ。この異質な一枚と、何も書いていないカード二枚も除くと」
そう言って、まるで囲んだ物をイレーザーで消していく。そして残ったのは……。
「『DECADE』」
「……」
「これに関係する『MASKED RIDER』のカードがないのよ」
なるほど、確かにディケイドのカードだけは海東に盗まれたためにない。仮面ライダーアマゾンに関連するカードは、昭和ライダーに変身することができないために仲間外れとなっている一枚のみ。何も書いていないカードというのは、九つのライダーの世界を回った後から必ず一枚はライドブッカーの中に入るようになったブランクのカードの事だろう。だが、それにしても警察に連絡しなかった理由にならない。
「……だが、それが警察に通報しなかった理由にならないんじゃないか?」
「そうね、でもちょっと気になったらとことんまで追求したいじゃない?」
「……まさか、俺が警察に掴まったらその答えが分からないからか?」
「それもあるけど、このカード……」
すると、ほのかは一枚のカードを取ると壁に向かって投げる。カードは手裏剣のように縦回転しながら進み、壁に突き刺さった。
「普通の紙のように曲げようと思ったら簡単に曲がるほどの柔らかい材質。けど、投げたら鋭い鉄……そうまるでダーツの矢のように壁に刺さってしまうほどの硬さ。そのどちらも併せ持つ不思議な材質。少なくとも私はそんなもの知らないわ」
「……」
「ねぇ、貴方の事私に教えてくれない?」
「突拍子もない話になる。下手を打てば俺を精神病院に連れて行きたくなるほどのな」
「大丈夫よ。私はそう言った話には慣れているわ」
そう言った話に慣れているとは、どういうことか。士にはよくわからなかったが、なんとなくではある物の、彼女にすべてを話してもいいような気がしてきた。その時、ドアをノックする音が聞こえた。
「私の仲間よ。どうぞ」
「失礼するわ」
その言葉のすぐ後、一人の女性が部屋に入ってくる。薄紫色の髪色で、彼女もまた長髪だ。直感だが、自分が先ほどまで話していたほのかよりももっと多くの人生経験を積んでいるのではないかと思う。その大人びた背格好、そしてたたずまい、それらが自分に様々なことを教えてくれる。彼女は部屋に入って早々に自分に向かってお辞儀をする。士もまたそれにお辞儀で返した。
「ほのか、彼が電話で言っていた?」
「えぇ、門矢士よ」
「そう、初めまして。私は月影ゆり。ほのかと同じで、この大学で講師をしているわ」
「そうか。先に言われたが、俺は門矢士だ」
ゆりもまた、ほのかと同じくこの大学の講師だそうだ。ほのかは、窓の側にあるコーヒーサイフォンから三つのコーヒーカップへと中身を移した。そして一つをゆりに、そしてもう一つのコーヒーは士に渡した。
「砂糖とミルクはいるかしら?」
「いや、いい。それで、さっきの話はどうする?」
「いいわよ始めても。彼女も私も、不思議な話には慣れているから」
「えぇ、それに今日は二人とも担当している授業は二コマ目からだから時間はあるわ」
と言いながらゆりは時計を見た。どうやら、今は七時らしい。
「そうか。かなり長い話になるからな。そうだな、まずは……」
そして、士は話すことになる。自分の半生を、そして自分の罪を。
年齢計算方法。元々の仮面ライダーディケイドが放送されたのは2009年。仮にこの歳に、士20歳とする。スーパーヒーロー大戦が勃発したのは2012年。つまり、この時点で23歳とする。そして、現在一番新しいプリキュアは諸事情で2016年、それから十年後のため、士はこの世界では37歳という計算になる。