映画 プリキュアオールスターズVS魔法少女まどか☆マギカ 悠久の絶望は永久の希望に   作:牢吏川波実

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明確な名前を出さなくても、なんか聞いたことのある設定が盛りだくさん…。


もっと素敵な明日にしましょう

『そう、ふたばちゃんが治ったんだ、よかったね』

「はい、ありがとうございます。いつき」

 

それは、あの魔女との戦いから数時間後のことである。彼女たちは巴マミの家に集合していた。この後のことについて話さなければならないし、それにえりかが自分の願いで助けた女の子を裸のままで連れまわせないからだ。今、まどかたちはベッドで眠っている女の子のところにいる。つぼみだけは自分の仲間の一人であるいつきと電話するために離れている。

 

『後3週間とちょっとはそっちにいるんでしょ?』

「はい、もともと学校交流が目的でしたから…」

『…つぼみ』

「はい?」

「何かあったのかい?」

「え…ど、どうしてです?」

 

その言葉につぼみは一瞬ドキッとした。何かあったことは確かなのだから当然であろう。

 

『いや、なんだかちょっと声色が優れないからさ』

「…分かっちゃいますか…」

『…』

 

つぼみはいつきや他の友達には自分やえりかが陥って莉う状況については離さないでおこうと考えていた。すべては、自分の友達にあらぬ心配をかけないために。

 

「でも、今は言えないんです。せめて、そちらに戻ってから…」

『…わかった、なら何も聞かないよ』

 

深くは聞かないことも友情なのだろうか。だが、もしそれがよきことなのだとすれば、いつきの判断は確かな物であろう。

 

「すいません…」

『できればまた、電話して欲しいな…それじゃあ』

「はい」

『あっ待って!』

「?」

 

電話を切ろうとしたその時、いつきはつぼみを呼び止める。

 

『つぼみ……いや、なんでもない。えりかにもよろしく伝えて』

「はい」

 

ピッという軽快な音があたりに響く。電話をポケットの中に入れて、一度ため息をつく。うまく悟られないようにしようと思ったのだが、流石にそうはいかなかったようだ。

 

「言わなくていいの?魔法少女のこと…」

 

その時、この家の家主であるマミがキッチンにやって来た。

 

「今の、プリキュアの仲間なんでしょ?」

「はい…けどできるだけ心配をかけたくないんです」

「そっか…」

 

本当にそうなのだろうか、つぼみは自分の中で押し問答を繰り広げていた。もしかしたら怖いのかもしれない。何に?何が?つぼみ自身もあまりよくわからなかった。だが、その一歩がどうしても踏み出せないでいた。

 

「そうだわ、あの女の子が目が覚めたのよ」

「本当ですか!よかった…」

 

その話を聞いたつぼみは一安心する。もし、女の子が目覚めなかったらえりかの願いも無駄になるから、それだけはいやだった。

 

「今、自己紹介をしている最中なの」

「分かりました。今行きます」

 

そう言って、つぼみはマミの後についていく。

その部屋に入ると、すでにまどかたちがくつろいでいた。そして一人、ベッドの上で腰あたりまで布団をかけて座っているのが先ほど、えりかの願いによって魔女から人間に戻った女の子であった。髪の色は銀、見たところ背格好は自分よりも年下、小学生ぐらいであろうか。

 

「初めまして、花咲つぼみです」

「はい、なぎさは百江なぎさです」

「なぎさ…」

 

その名前を聞いてつぼみ親近感のようなものを感じた。なぜかというと、つぼみの友達、プリキュア仲間の中になぎさという少女がいるからだ。彼女はなぎさと違って、茶髪の中学生であったのだが。

 

「なぎさは…どうやらみなさんにご迷惑をおかけしたみたいで…」

「そんなのどうだっていいの、みんな無事だったんだからさ」

「…ありがとうございます」

 

えりかのその言葉は誠のことである。どれだけ自分たちに危険が迫ったとしても、命に別状もなく、なぎさの命も助けられたのだから。その後、さやかは聞きにくそうに口を開いた。

 

「その、さ…なぎさは覚えているの?…魔女になっていたこと…」

「全然覚えていないです…魔女になって……そこからはこの部屋で目が覚めるまでの記憶は……」

「そっか…」

「でも…」

 

そう言うと、彼女は布団の端を掴んで悲しそうな顔をする。

 

「でも?」

「…私、覚えているんです。魔女になった時の、あの悲しい気持ちを…」

「悲しい気持ち…」

「そもそも私が魔法少女になったのは、入院した母のためでした」

 

なぎさ曰く、それはカレンダーを見る限りでは今から5年前の事である。

 

「なぎさのお母さんは不治の病という物で入院したんです。お医者さんからはなおる見込みはないだろうって言われて…」

「お母さんは、たった一人でなぎさを育ててくれました。そんなお母さんになにか恩返しがしたいと思ったんです」

「そんな時、QBに出会ったんです」

「もしかして、お母さんを治してもらったの?」

 

まどかがそう言う。しかし、なぎさは違うと言う。

 

「私の素質では、お母さんを治してもらうほどの願いはだめだと言われました。私の友達だったら大丈夫だと言っていたんですけれど…」

「友達?」

「はい」

 

そういうと、なぎさは遠い思い出を見つめるように天井を見やる。

 

「お母さんと同じ病院に入院していた、一つ年上の白血病の女の子です。その子の素質なら、お母さんを治すことも、ましてや人一人生き返らせることもできると…」

「それは…すごいわね」

「まどかの素質もそれぐらいすごかったんじゃなかったけ?」

「そうだったんですか?」

「えぇ、花咲さんの素質も相当なものだったのよ?」

「え…そういえば私ふたばを……」

 

そういえば自分はなぎさができなかった病気の完治をQBに叶えてもらっている。よく考えてみると、あと少し自分の決断が遅かったらふたばの命はなかったはずだ。それはイコール死にかけた人間を生き返らせることと同意義であったのではないだろうか。今考えてみればとんでもないことを祈ったものだ。もしかしたら失敗していたかもしれないような、いわば大きな賭けのようなものだったのだろう。自分は気が付いていなかったのだが。

 

「私は大事な友達を危険な目に合わせるわけにはいきませんでした。だから、別の願いをQBに頼んだのです」

「別の願いって…」

「それは…」

 

この時点で数多くの願いの候補が上がってくる。最後に思い出の場所に行きたい。母が好きだった人に会わせたい。最期を迎える人間にできることなんて限られてくる。だがそれでも、人生の最後の時を過ごすために、そして魔法少女になる代償として、どのような奇跡を願ったのだろうか。

 

「チーズケーキです」

「…はい?」

 

耳を疑った、というか妄想を絶した。

 

「なぎさはチーズケーキをQBに願ったのです」

「ち、ちーず…」

「けーき…」

「ですか?」

 

様々なドラマを思い浮かべたが、真剣な表情を浮かべてチーズケーキなどと言うなど、誰が想像できるだろうか。

 

「はい、実は神奈川県の加音町という町にある『Lucky spoon』というお店で季節限定ケーキが販売されたのですが、その中にチーズケーキがあったのです」

「…」

「…」

 

そのなぎさの言葉に元プリキュア組と妖精は『え?』という表情を浮かべる。それにマミは気が付き、彼女たちに質問する。

 

「どうしたの、花咲さん?」

「あ、いえ実はそのお店…私の友達の親が経営しているお店なんです…」

「僕たちも何度もそのお店のケーキを食べさせてもらっていたです」

「えっ、マジ?すっごい偶然…」

 

さやかの言う通り、すごい偶然である。だが、これが元ボディーガードが経営している喫茶店あたりの話だと接点がまったくない為これ以上話が広がらない可能性があっただろう。だからといってこのチーズケーキの話を長引かせるつもりはないが。

 

「なぎさもお母さんもチーズが大好きだったのです。だからなぎさは…元気になったら一緒に食べに行こうと話していたチーズケーキを頼んだのです」

「お母さんはとても喜んでくれました。私もそれをみてうれしくて、魔法少女として戦っているときも、その笑顔とチーズケーキの味を思い出せば、どんな事も苦ではなかったです」

 

だがそれも長くは続かなかったとなぎさは言う。

 

「あれは、魔法少女家業も板についたころの事です」

 

なぎさが学校に行っているとき、母が急変したというのだ。学校を早退し、急いで病院に向かったそうだが、途中で魔女が現れた。それを無視して病院に行くことだってできたはずだった。しかし、なぎさの性格がそれを許さなかった。すぐに倒して病院に行こうと思っていたのだが、なぎさが戦った魔女は意外にしぶとく、倒すまでに多大なる時間をロスしてしまい。そして病院についたころには…。

 

「…」

「その日、私をいつも励ましてくれていた女の子は試験外泊でいなくて、その子のお見舞いによく来てた女の子ももちろん来ておらず、私はただただ絶望するしかありませんでした…」

「なぎさちゃん…そんな辛いことが…」

「そして、その日の夜、私は魔女退治に出かけて…こいつらがいたから私は…って……それで、ただ憎しみを晴らすためだけに、魔女を殺して…その内、お母さんの笑顔も…チーズケーキの味も思い出せなく…なって……心が、すさんでくるような感じがして………どうして…こんな世界に生まれたのか…こんな世界で生きてる…意味なんてって…そしたら何もかも、嫌になって…目の前が真っ黒に…ッ!」

「もういいのよ、なぎさちゃん!」

「マミ…」

「もういいの…辛かったわよね……」

「う…うぅ……」

「…」

 

親の死に目に会えないこと、それがどれだけ辛いことなのだろうか。いや、それは主語にもよりけりだろう。もし、自分が辛いかと聞かれれば、どちらかといえばそうではない。日に日に衰弱し、息も絶え絶えになり、たくさんの機械につながれた親、そして心電図の波形が弱まって最期には無機質な長い電子音が流れていく。確かにそれは見るのが辛い。しかしもっとつらいのは親の方であろう。痛みに耐え、苦しみに耐え、薄れゆく意識の中でただただ自分が一人前に育てた子供が来るのを待って、そして来なかった、その絶望はどれだけのものだろう。その悲しみは到底推し量れないものであろう。孤独の中、子供に看取られずに死んでいくその哀しみは想像することもできない。

 

「なぎさは、親不孝者です……お父さんが蒸発して、女手一つで私を育ててくれたお母さんを…最期は、一人ぼっちで死なせてしまって……」

「そんなことありません!」

「!」

 

なぎさの自責の念、しかしそれをつぼみは否定する。

 

「なぎさは、自分を犠牲にしてチーズケーキを願って、お母さんを笑顔にしたじゃありませんか」

「そうだよ、きっとお母さんはすごくうれしかったと思う…大好きなものを大好きな人と一緒に食べることって、世界で一番幸せなことだから…」

「つぼみ…まどか……」

「なぎさのお母さんは、その時の嬉しかった思い出を持って天国に行ったはずだよ…だからさ、親不孝だなんて思っちゃダメだよ」

「えりか…」

 

綺麗事とでも言うのは勝手だ。なぎさのお母さんが最期にどう思って死んでいったかなど今となっては誰も分からないのだから。だが、思い出は消えることはない。それは確かだ。だからそう思っていた方がいいのかもしれない。

 

「なぎさちゃん…確かにお母さんの最期を看取れなかったのは悲しいことかもしれないけど、なぎさちゃんがいつまでも悲しんでいると、お母さんも安心できないわ」

「マミ…」

 

マミが両親死に目に会えなかったのは言うまでもない。確かにその時はマミも悲しんだ。だが、それではだめだとマミは立ち直ったから今まで頑張ってこれたのだ。いつまでも悲しんでいると親が安心して成仏することができないから。だから彼女は生きてきた。自分が死んだとき、私はここまで頑張ったよと自慢するために。

 

「だから一生懸命生きましょう、そして、もっと素敵な明日にしましょう」

「なぎさのお母さんにとってなぎさはたからものだったはずです」

「そうです、そんななぎさが笑っている姿を見せることがお母さんへの親孝行です!」

「シプレ…コフレ……はいです」

 

元々暗く、表情もあまりなかったなぎさには病院で知り合った二人以外の友達はいなかった。だから、これだけの人数に励ましてもらうことなど今までなかった。余談だが、なぎさの性格を今のように明るくしたのはその二人の友達である。母が入院し一層暗くなったなぎさがふと立ち寄った小児科、そこに入院していた女の子。そしてなぎさが魔法少女になった後、病室を間違えたことがきっかけで仲良くなった春のように暖かく明るい女の子、二人とも自分よりも年上であったが、友達となって、そして接していくうちになぎさ自身の性格も明るくなって。その子が作ってくれた不格好だけれど思いのこもったチーズケーキを食べたことが決め手だったのかもしれない。母と一緒に食べたチーズケーキ、友達と一緒に食べたチーズケーキ、友達と一緒に遊んだ神経衰弱、そのすべてがなぎさを今の明るい性格に変えるきっかけとなったのだった。

 

(見てますか、なぎさにはこんなに沢山の友達ができたんですよ。なぎさは皆と一緒にもう少し生きようと思います。見守っていてくださいね、ママ…)

 

その時のことを思い出したなぎさは、自分はもう絶望しないと心に誓うのであった。なぎさはマミの胸に抱かれながら、微笑むのであった。

 

(あれ、あの(さやかちゃん)の出番は?)

 

忘れてた(安定のさやか)




分かる人には分かる。
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