映画 プリキュアオールスターズVS魔法少女まどか☆マギカ 悠久の絶望は永久の希望に 作:牢吏川波実
つぼみです。私達が魔法少女になってから1週間がたちました。結局、あの日からほむらには一度も会えていません。学校にも来ておらず、ほむらの家を訪ねてもいつも留守で、だからまだほむらの真意を聞くことができていませんでした。それから、あの日から変わったことと言えば、やはり日常での生活でしょうか。今日も授業で居眠りをしてしまって先生に起こされてしまいました。それでも、最初の1日2日に比べればまだましな方です。私も含めて、魔法少女が7人もいるので、マミさんからの提案で、持ち回り制という物になって、私とえりかは火曜日と日曜日担当になりました。それ以外は、ゆまちゃんとお留守番か、完全フリーということになりました。そして、今日は私は病院に来ています。目的はふたばのお見舞い。やはり病院の先生から見て、すでに末期の方にまで来ていたふたばの病巣が急に無くなったということは奇跡というよりもはや奇妙であったそうで、今日も今日とて精密検査が続けられています。余談ですが、おとといはまどかが家族でお見舞いに来てくれました。タツヤくんは、普通の小児病棟に移ったふたばの事を小さいながらも気にかけてくれて、二人はいい友達になってくれそうです。そして私が病院にきたもう一つの理由、それは…。
「来たみたいですね」
夕方の病院の屋上、エレベーターから降りてきたのは、さやかと、車いすに乗る少年、上条恭介であった。今、病院の屋上には、恭介の父と母、それから病院のスタッフが数人と、つぼみ、えりか、そしてまどかが来ていた。仁美は残念ながら習い事があったため、参加することはかなわなかったが…。
「あっ…みんな」
恭介はその場にいるメンバーを見て驚いた。何故父や母、それからさやかの友達である3人がいるのか。そんな恭介にさやかが声をかける。
「本当のお祝いは退院してから何だけれど、足より先に手が治っちゃったしね…」
そして、恭介の父親があるものを差し出す。それは、バイオリン、恭介が使っている愛用のバイオリンであった。
「それは…」
「お前からは処分してくれと言われていたのだが…どうしても捨てられなかったんだ…」
「あっ…」
恭介は、自分の腕がもう動かないと聞かされた時から諦めていた。もうバイオリンは弾けないのだと。もう、夢を追うことができないのだと。だから、バイオリンなどいらない。あっても、未練がましいだけだから。そう思っていた。しかし、恭介の親は違っていた。たとえそれが息子を苦しませることになるかもしれない。それが息子の負い目になってしまうかもしれない。だが、それでもそれは、恭介に一時の夢を与えてくれたものだから。だから、処分などできるはずもなかった。そして、今日、その選択は間違っていなかったのだと彼は思う。こうして、彼が夢を追うチャンスが戻ったのだから。
「…」
恭介はバイオリンを受け取る。久しぶりの感触だ。それにちゃんと手入れされているらしい。何日も触っていなかったのに、弦の張り具合も、松脂も塗られてちゃんと手入れされていた。これなら、バイオリンを弾くこと自体は可能であろう。しかし、と彼は思う。
「さぁ、試してごらん、ためらわなくていい…」
「できるかな…もう何日も弾いていないのに…」
よく言われることが、楽器は1日引かなければ取り戻すのに3日必要ということだ。それに、腕の筋肉だって治った日からリハビリをしていたとはいえ、衰退してしまっている。きっと、今すぐ前のようには弾けないだろう。だったら、今すぐ引く必要なんてない気がする。
「恭介」
「え?」
その時、さやかが声をかける。
「大丈夫だよ。奇跡が起こったんだから、きっとまた弾ける。勇気を出して」
「さやか…」
幼馴染のさやか、どちらかというと男勝りな性格と言っていい彼女は、いつだって自分を後押ししてくれていた。いつだって、自分の夢を応援してくれていた。恭介は、決意する。自分のためなんかじゃない。ここに来てくれている人のため、そして何より、さやかのために…。バイオリンを肩に乗せ、弦と弦を接し、そして引いた。
「アヴェ・マリア…」
「うん…私が一番好きな曲…」
ブランクなどは感じさせなかった。心地いい音が周りに広がっていく。濃密で、心に響いてくるその音は、気持ちが乗っており、バイオリンだけのはずなのに伴奏が合わされているように聞こえるほどだった。風が、花びらを空へと持っていく。その様子もまた恭介の演奏を後押ししているようであった。
「よかったですね、さやか」
「…うん」
つぼみは、さやかに声をかける。さやかは感慨深くうなづく。もう聞くことなんてできないと思っていた。でも、魔法に出会えたおかげで、こうして恭介の演奏を、恭介の笑顔を見ることができた。確かに自分にはこれから辛いことが待ち受けている。けど、恭介の夢を守ることができた。それだけでさやかは幸せだった。だから…。
「後悔なんて、あるわけない…」
その時、少しだけ悪魔に魂を手渡してよかったと思っているさやかがいた。
「ふ~ん…あれがさやかが手を治しったっていう恭介か…」
「そう…さやかさんも幸せそうでよかったわ」
そんな病院の屋上を展望台から見ているのは杏子とマミであった。展望台と病院はかなり離れているため普通の双眼鏡では到底見ることができないのではあるが、二人が使っているのは魔法で作った自前の双眼鏡であるため、このような場所でも見ることができるのだ。彼女はさやかが助けたという恭介の顔が見たかったからこうして遠くから見ているのだ。
「けど、なんでこんな場所から覗いているのかしら?」
確かに、普通に恭介の姿が見たいだけなら、こんな遠くからわざわざ魔力を使ってみなくてもいいはずである。マミはそれが気になっていた。
「…あぁいうお涙頂戴の場面に立ち会うのは恥ずかしいんだよ」
「そう?私には普通に感動的な場面に見えるのだけれど」
お涙頂戴と表現する杏子にそう言ったマミ。それに対して杏子は手に持った双眼鏡を消し、懐からポテトチップスの箱を取り出して中身を食べながら言う。
「まぁ、いいけど…あれで失恋しましたじゃ、喜劇にもなんねぇぞ」
「…確かにそうだけれど…」
失恋した時の代償は確かに大きすぎる。下手すれば魔女直行ルートとなってしまうだろう。杏子はかねてから他人のために魔法を使うとろくなことにならないと、実体験から感じていた。結局のところのそれである。だからだろうか、彼女がさやかとコンビを組んでの戦闘が多くなっているのは。なんだかんだ言って、杏子は仲間の事を心配しているのだろう。戦闘と言えば…。
「そういえば佐倉さん、昔は幻術の魔法も使っていたわよね」
「あぁ…」
主に分身を作り出す魔法である。それのおかげで何度助けられたことか。しかし、ここ最近杏子と行動を共にすることがあってもそれを使っている様子がなかったのだ。
「あれは、使わないんじゃなくて使えないんだよ…」
「え?」
「…あの日から、幻術は使ってねぇよ」
あの日、それは杏子の家族が死んで、そしてマミのもとから去った日である。あの事件はマミ自身新聞のニュースで知った。見つかったのは、大人二人分の遺体、それからその娘が行方不明となり、生存者は1人だったとか。娘というのは杏子の妹である。おそらく子供の骨というのは脆く軟らかいため、炎で溶かされてしまったのだろう。そう思われたから、警察も捜索を打ち切ったのだとか。結局そのニュースはそれほどの情報もないまま、いつも間にか新聞から消えってしまっていた。
「あれを使おうとするとな…頭の中に出てくるんだよ。あたしのせいで死んじまった親父とお袋…それからモモの顔が…」
それはトラウマというのだろう。だから、彼女は本来はもっと強いはずの少女だった。だが、幻影が使えないからこそ、多節棍と槍しか使っていないのだろう。
「結局さ、それが他人のために魔法をつかった代償なのさ…他人のための魔法がどれだけの悲劇を生むのか…だからあたしは…」
それ以上杏子は何も言わなかった。何も言えなかった。マミもあえて何も聞かなかった。そして二人は展望台から降りて今日も魔女退治へと向かっていく。それが彼女たちの日常なのだから。
魔法少女にこそ恋愛禁止令が必要なのは確かだが、その前に片思いを禁止したほうがいいのではないだろうか。