映画 プリキュアオールスターズVS魔法少女まどか☆マギカ 悠久の絶望は永久の希望に   作:牢吏川波実

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 プリキュア要素が一切ないこの二人の話。外伝がおかしくなる一方で、なんとかなるかこの本編。


≪生き続ける事≫…かな

 友達が、何かを隠している。それに気が付いたのは、そう遅い話ではない。何かあるなと思ったのは、2週間ほど前のこと。妙に付き合いが悪くなって、それでどこかよそよそしくて、二人は目と目で会話するような、そんな時間が続いていた。どうやら、先輩と一緒にどこかに出かけているようだった。それから、今に至るまで、その二人と一緒にどこかに出かけたというのはただの一回のみ、しかも途中で自分だけ帰ってしまったから、実質的に約1時間ほどしかいなかった。他の学校からここに来た二人とも仲良くなったのだが、どちらかと言うとその二人も友人二人と一緒にいることが多い。モールに行こう、放課後どこかに行こうと誘ってみるが、いつも今日はだめだと断られ、いや、自分もさっき断った。友人の上条恭介のけがの全快を記念して病院の屋上で開かれた演奏会。今日あったそれを、自分は塾があるからと断った。ともかく、断り続けていた二人はこう言っていた。来週からなら何とかなると。…私にはもう来週なんてないのに。

 裕福な家に生まれ、お嬢様として生きてきて、幼稚園の時から友達と一緒に中学まで来れて。思えば、自分をお嬢様としてでなく、友達として見ていてくれていたのは、二人の女友達と、一人の男の子。それだけだった。3人といると、なんだか自分はお嬢様としての自分ではなく、ただの人間でいいんだという気持ちになって、けどこれからはもうそうは行かないかもしれない。高校は東京にある有名進学校への進学を前提に話が進んでいる。本当は小、中、高といわゆるエスカレーター式の学校なのだが、今までは両親に無理を言って、なんとか中学まではみんなと一緒の学校に行けることとなっていた。それももう終わり。来週からは、塾や習い事がたくさん詰まっていて、もう遊びに行くなんてことができないほどの過密スケジュールとなっている。だから、自分にとっての中学生としてのスクールライフは、今日で最後。まだ、やり残したことがたくさんあるというのに。

 あぁ、抗いたい。母に抗える自分に、父に嫌だといえる人間になりたい。でもそんなことは無理に決まっている。そんな勇気、私にない。今まで、ずっと甘えて過ごしてきた自分にできるはずない。このまま、家に帰らず、どこか遠くへと行きたい。

 

『じゃあ来なよ』

 

 誰?

 

『私は、一人ぼっちな女の子』

 

 一人ぼっち…私と同じ。

 

『うん、でもこれからは違う。今からみんなで遠い場所に旅立つの』

 

 みんな?…友達?

 

『ううん、みんな知らない人。でもみんな心が私たちと一緒で寂しい人』

 

 私たちと…。

 

『一緒に来ない?誰にも追いかけられることのない、誰も一人ぼっちにされない、素晴らしくて美しい世界』

 

 素晴らしい世界…いいですね…。

 

『でしょ?待ってるから早くおいでよ!』

 

 えぇ、今行きます。きっと美しい場所なのでしょうね…。

 

 

「ふわぁ~…眠い」

「おい、気は抜くんじゃねぇぞ、工場はもう少しなんだからな」

 

 さやかと杏子の二人は、今だに工場にたどり着いてすらいなかった。とはいえ、二人がのろのろしていたわけじゃない。実は、さやかの家へと一度立ち寄っていたのだ。というのも。

 

「にしても結構大胆じゃない?制服姿で街を歩き回るなんて」

「こういうのは堂々としていた方が怪しまれないんだよ」

 

 さやかが制服姿だったのはともかく、杏子も見滝原中学校の制服を着ていた。それは、さやかから貸してもらった替えの制服である。このような格好で、しかも堂々とビル街のど真ん中を歩いているとどう考えても補導されてしまいそうであるが、今のところ声をかけられるということはない。これは、現代社会における制服姿の子供、バッグを持っているという状態がどういう意味を持っているのかを杏子が理解していたためである。確かに昔は不良や家出少女がやたらと多く、夜の街にいるというだけで色々と大人たちが声をかけたり、警察官が声をかけたりということが多かった。しかし、現代社会では、大人たちの大半にとってはこう考えられる。

 

『あ、あの子は塾帰りなんだな』

 

 と。さらに、コソコソ隠れながらというのは確かに人に見つからないという利点があるが、もしも見つかった場合、こんなところで何をしているのかをしつこく聞かれてしまう場合がある。しかし、街中を堂々と歩いている少女たちである場合、やはり塾帰りであろう、または遠い学校から帰ってきたぐらいにしか思わないであろう。これは、現代社会における日本人の危機感の消失からくる察知能力の低下に当たるだろうが、今回杏子たちにとってはそれが効果的に作用したものと考えられる。

 

「で、あの工場にいったい何があるっていうのさ?」

「…なんか、嫌な雰囲気がするんだよ…」

「なにそれ?野生の勘って奴?」

「…せめて第六感って言葉が出てこないか?」

 

 まぁ、実質家がなく野宿もすることがあったのだから野生の勘と言っても刺し違えないのかもしれない、とはいえ、そんなことを言われるといろいろとしゃくである。

 

「まぁそれは置いといて…ってあれ?」

「ん?」

 

 若干ごまかしかけたさやかは、目の前に一人の少女の姿を見た。それは、自分たちの友達、志筑仁美である。そういえば、今日は塾があると言っていた。そのため、夕方にあった恭介の演奏を聞けていなかった。まさか、夕方からずっと塾に行っていたのだろうか。ともかく、ここであったが百年目、声をかけてみることにした。

 

「お~い、仁美」

「あら、さやかさん」

 

 仁美はさやかの声を聴いて、振り返る。なんだかその目はうつろに見える。

 

「塾帰り?」

「えぇ、でもいえには帰りませんの」

「え?じゃぁどこに…まさか彼氏とか?」

「いいえ、違います。みなさんでとても楽しい場所に行くんです」

「楽しい場所?」

「…!おい」

「へ?うぁっ、ちょ!」

 

 仁美の様子をうかがっていた杏子がさやかの首根っこを掴んで後ろへと引きずる。さやかはこけそうになったが、何とか持ち直した。

 

「ちょっと何なのいきなり!?」

「あいつの首筋…よく見てみな」

「首?…え、あれって…」

 

 仁美の首筋にはタトゥーのようなものがあった。さやかはそれと似たものを一度見たことがある。おそらくあれは魔女の口づけ。…ということは。

 

「間違いない…あいつは今操られてる…」

「え、それじゃ仁美の言ってた楽しい場所って…」

「魔女の結界だろうな…まっ楽しいかどうかはひとによりけりだと思うが、少なくとも…私は楽しい場所とは思えない」

「ッ!それじゃ、早く止めないと!!」

 

 と、言って遠ざかろうとする仁美の元に行こうとするさやか、だが、杏子はそれを食い止める。

 

「まぁ待て」

「どうして!このままじゃ仁美は!」

「いいから、ここは私に任せとけって」

 

 と、制止した杏子は、代わりに仁美に話しかける。

 

「なぁ、ちょっといいか?」

「あら?あなたは…その恰好は、見滝原の方ですか?見かけない方ですけれど…」

「あぁ、私は少しクラスが離れているからな。それよりも、あんたの言っていた楽しい場所、私たちも連れてってくれないか?」

「ちょ、杏子!」

『いいから黙ってろって』

 

 突然何を言っているのかと杏子に物言いをしようとしたさやかであったが、念話で止められる。

 

「えぇ、そうですわね…さやかさんも一緒に来ますか?」

「あぁ、行くってさ」

「そうですか、では行きましょう」

 

 そして、さやかと杏子は仁美に同行することとなった。しばらく歩いた時、さやかは念話を使って杏子に聞く。

 

『あんた、どういうつもり?』

『何が?』

『何がって、あんたこのままじゃ仁美が魔女に!』

『こいつは、魔女に引き付けられている、ってことはこの先には魔女がいる』

『そりゃ…当たり前でしょ』

『ってことは、このままこいつについていけば魔女の結界まで案内してくれるってことだ』

『でも、それじゃ仁美が…』

『私達で守ればいいだけだろ』

『そりゃ、そうだけれど…』

 

 要は、仁美は撒き餌である。先ほどの話からすると、仁美以外にも不特定多数の人間が魔女に操られているらしい。ここで彼女を止めて魔女を探しに行くという手も確かにあるにはある。しかし、もし場所探しに手間を取られれば、不特定多数の人間の命が脅かされる。仁美の命を助けるか、仁美を含めて全員の命を助けるか、杏子は最善の一手がどちらであるのかを考えた結果、この作戦に打って出たのだ。

 

「ねぇ、さやかさん…」

「えっな、なに?」

 

 その時、突然仁美がさやかに話しかける。

 

「いえ、最近めったに話をすることがなかったものですから」

「あぁ…うんそうだね」

 

 確かに、学校ではまどかやえりかたちとずっと一緒にいたから仁美のことは完全にスルーしていた気がする。

 

「まぁ、来週からは私達にも暇ができるしさ、またどっかに遊びに行こうよ」

 

 来週からは…バイトのようにも聞こえるがシフト制を導入することによって、それぞれ休みの時間が増えることとなる。そのため、仁美といる時間も増えるであろうと考えていた。しかし、仁美の顔は暗い。

 

「…私にはもうそんな時間がありませんわ」

「え?」

「明日から毎日塾が入っていて、それ以外にも剣道、柔道、空手、合気道、棒術、古武道、テコンドー、カポエラー。華道に戦車道に茶道にお琴に書道にピアノ…色々習い事が入っていて、私に自由な時間なんて…」

「仁美…」

「少し前の事なのにもう、懐かしく思えてきます。まどかさんやさやかさんと買い物をしたり、ファーストフード店でハンバーガーを食べたり、本当に楽しかった…」

 

 あぁ、そうか、自分と仁美は別々の存在となっていたと思っていた。一般人である仁美、魔法少女である自分たち。でもそれは違う。元々別の世界の人間だったんだ。お嬢様と一般人、今はお嬢様と魔法少女の関係。二人の道が重なることなんて、もう二度とないのか。自分たち魔法少女は、メルヘンというか非科学的な世界に足を踏み入れていたが、彼女は現実的な別世界の住人だった。自分は庶民だなんだって、仁美に対して言ってて、もしかしたら仁美はそれにあこがれを抱いていたかもしれない。塾や習い事で、忙しくても、自分たちといることで安らぎを得ていたのかもしれない。ストレスやフラストレーションを発散していたのかもしれない。

 

「…ごめんね」

 

 気づいてあげれていなかった。友達なのに、親友なのに。一番近くで感じなければいけないのに。

 

「でも、もうそんなこと考えなくていいんです。これからそう言うのは何もない、素晴らしい世界に行くのですから」

「…うん」

 

 本当に、仁美を助けたほうがいいのだろうか。このまま、仁美が魔女の結界に行って、死んでしまえば、仁美は苦しみから解放される。仁美を助けたとして、待っているのは塾や習い事で自由を縛られる地獄だ。助けるとは何なのだろう。助けるというのなら、このまま、仁美を自由にしてあげたほうがいいのではないだろうか。それが、仁美のためなのではないだろうか。

 

『さやか、変なこと考えるなよ』

『杏子…』

『確かに生きているのは辛い、けど死んで何もなくなることよりよっぽどましだ』

『でも、仁美の幸せは…』

『お前の考える正義の味方ってのは、その程度のもんなのか?』

『…』

 

 正義の味方。確かに、魔法少女やり始めの時、そう考えていた。人々を陰から守るかっこいい自分に酔っていた。でも、魔法少女の真実を知ってからは、完全無欠な正義の味方なんて、言えなくなった。結局、元魔法少女だった仲間の命を守れず、魔女を退治するたびに心が痛くなって。辛くなって。

 

『もう、正義の味方なんて言っていらんない』

『けど、マミたちは立派に正義の味方やってると思うけどな。マミだけじゃない、つぼみも、えりかも、まどかも…あのほむらだってそうかもしれないだろ』

『…』

 

 正義は、広義的に見れば自己中だ。一人一人が心の中に持っている混沌とした感情だ。だから、さやかの正義も、正義だ。そういえば、自分の正義は何だったのだろう。儚い夢物語のハッピーエンドは、一体どんな結末を心に描いていたのだろう。待てよ、そういえば。

 

『ねぇ、じゃあ杏子の正義ってなに?』

『…』

 

 杏子は押し黙った。

 

「着きましたわ」

「え?…ってここは…」

 

 さやかたちがたどり着いたのは、工場であった。というか、当初目指していた場所である。そして、杏子の予想通り、中からはたくさんの人の気配を感じる。やはり、ここに集団自殺のために弱った人々が集まっているのだ。

 

「やっぱりここだったんだな…」

「ッ!」

「仁美!」

 

 杏子が、仁美に触れた瞬間、仁美の意識は刈り取られたかのように突如倒れてしまう。さやかはそんな仁美を支える。

 

「気絶させただけさ。このまま、ここに置いていけば、もしもの時に安全だろ」

「…」

 

 さやかは 何も言えなかった。ここまで仁美を囮にしたのはしゃくであるがしかし、この場所を特定できたのは、杏子の作戦勝ちである。それに、もう少し方法があったと考えると、何も思いつかないのがさやかである。結局のところ、優しすぎるさやかと、割り切っている杏子の違いである。さやかは、仁美を近くの壁にもたれかけさせて、改めて工場へと向き直る。

 

「さっさと終わらせるよ、仁美が風邪ひいちゃうから」

「あぁ…そういえば、まだ私の正義について話してなかったな」

「ん?…うん」

「私の正義は≪生き続ける事≫…かな」

「え?」

 

 さやかは、その意味が分からなかった。




 仁美の習い事、ちょっとやりすぎた感がある。
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