映画 プリキュアオールスターズVS魔法少女まどか☆マギカ 悠久の絶望は永久の希望に   作:牢吏川波実

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私は…もう割り切ったんだ

私は英雄になれる

この世界なら私の天下

私を捲し立てる人はいない

いじめる人はいない

外になんて出たくはない

この子だけが私の友達

この子の中にいる人だけが私を受け入れてくれる

名も知らず

顔も知らず

どこかの誰かがほめてくれる優秀な自分がそこにはいた

 

 

 

 

やめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめて

 

 

来ないで

ドアを叩かないで

チャイムを鳴らさないで

どうして私の名前がこの子の中にあるの

どうして私の顔がこの子の中にあるの

どうして私の家が写っているの

誰も見たくない

何も聞きたくない

書かれていることを鵜呑みにする人達

嫌いだ

思ってもないことを書き写す人達

嫌いだ

 

偽善

 

同情

 

綺麗事

 

もうこの世界に本心で言葉を語る人などいない

 

どんな言葉も美談になり

 

どんな人でも悪人にする

 

正しいことを言っているのにそれを受け入れてくれない

 

同じ世界なのに

 

同じ国に住んでいるのに

 

どうして争うの

 

皆には皆の意見がある

 

皆には皆の好きがある

 

それじゃダメなの

 

こんなことなら言葉なんてなければよかった

 

言葉なんて生まれなければよかった

 

言葉なんて言葉なんて言葉なんて

 

 

 

 

 

私なんて生まれてこなければよかった…。

 

 

 

「ん…?」

 

 ふいに目が覚めたゆまは、目をこすって毛布がかぶっている上半身を起こす。両脇にはシプレとコフレが一緒に眠っていた。ゆまは思い出す。確か、いつもの三角形のテーブルのあるリビングでシプレとコフレ、それからなぎさと一緒にトランプをしたりして遊んでいて、その途中につかれて寝てしまっていたのだ。今日は、毛布をかぶせてもらっているがいつもなら、ベッドの上に運ばれているのだ。しかし、あいにく今日いたのは体型がほとんど変わらないなぎさだけだったため、そこまで運ぶのが困難だったようである。

 

「起きたのですかゆま?」

「なぎさ…」

 

 声をかけてきたのは、ゆまの近くで本を読んでいたなぎさだ。どうやらずっと起きてゆまの近くにいてくれていたようだ。と言っても、時計を見るとさほど時間は立っていないようではある。ゆまは、なぎさに聞く。

 

「杏子は…?」

「まだ帰ってきていません。でも大丈夫です、みんなは強いですから」

「…うん」

 

 だが、その言葉ゆまは沈んだような顔を見せる。と言うのも、彼女はある夢を見たのだ。それは、虐待を愛情ととらえていたときの記憶。そして、自分を助けてくれる天使と、自分から黙って去っていく天使の夢。ゆまも天使を追おうとした。だが、どれだけ走ってもそこにはたどり着けない。走っても、走っても、彼女達が近くなることはない。いつしか、ゆまは一人ぼっちになってしまう。そんな夢を見てしまった。ゆまは、祈るように言った。

 

「杏子…さやか…つぼみ…みんな、無事で帰ってきて…」

 

 杏子一人が帰ってきてもだめ、誰がかけても悲しい、自分の心を救ってくれた、自分に優しさを振りまいてくれた人達。暖かい紅茶をくれたり、自分のために服を作ると約束してくれたお姉さんたち。みんなが帰ってきてくれないと絶対に嫌だった。なぎさは、ふと窓から見える月を見上げる。そこには黄色く光る満月が浮かんでいた。気のせいだろうか、少し笑っているようにも見える月だった。

 

「フッ!ハァッ!セイヤァ!!」

 

 そのころのさやか&杏子の二人は、特にさやかの気合いはもはや狂気じみたものも感じるほどに強く、結界の中を進んでいた。何故にここまでさやかが気合十分で挑んでいるかと言うと、それは結界の中に入るときまで話が遡る。

 

「ふん!」

「せやぁ!」

 

 一人の男がその一撃によって倒れ、その手に持っていたバケツは杏子の手に渡った。中には二種類の洗剤が入っているようで、中途半端に中身の残った容器を見ると、塩素系のものと酸性タイプの洗剤だったようだ。この二種類の洗剤は、それぞれ使うに至っては害はない。しかし、二つが合わさると有毒な塩素ガスが発生する。塩素ガスは、猛毒であり吸入量が多いと死亡事故に直結し、実際にそれによって死亡してしまったという例はいくらでも報告されている。また、入手が容易い為に、自殺の手段の一つとしてよく用いられてしまう。それほどの危険性を持ったものなのだ。杏子は、洗剤の入ったバケツを月明りを取り込んでいる窓から外へと投げる。これで、ここにいる人間の安全は確保されただろう。そして、さやかが言う。

 

「ここにいる人たちはみんな気絶させれたみたい」

「あぁ、じゃぁ行くか」

 

 手段を一つつぶしたとしてもまた別の手段を用いられる恐れがある。そのため、こうして仁美の時のように気絶させた方がよっぽど安全なのだ。儀式のようにバケツの周りに集まっていた人々は全て片づけた。後は、魔女の結界の中にいる魔女を倒せばいいだけだ。杏子はソウルジェムを手にし、結界の反応を探る。そして、その場所へと足を踏み入れた。壁に、魔女の紋章が出現する。

 

「この先だな」

「そうみたいね…」

「…なんだよその不満気な顔は?」

「別に…ただ、人相手に暴力を振るうのはちょっと…」

 

 相手は、敵ではない。むしろ、魔女に操られてしまっている被害者である。そんな彼らに暴力を振るうというのにさやかは戸惑ってしまう。

 

「割り切れよそういうのは、そうしなきゃ助けられないんだからな」

「でもさ、もう少し方法があるんじゃ…」

「少なくとも、あたしはそう言うの知らないからな」

「…」

 

 割り切れと言われても割り切ることなんてできやしない。そんなことは杏子も分かっていた。だが、一つだけ問題が生まれただけだ。それは、さやかのテンションがかなり駄々下がりしてしまっているということ。やる気と根気、それからテンションと言うのは戦闘においてかなり大事となってくる。主に集中力が違う。ちょっとした油断が命取りとなる魔女との戦いにおいて、少しでも気が逸れてしまえば、どんな好機も、一転大ピンチとなってしまう。さやかのテンションを何としても上げなければならない。さて、どうしたものか。さやかのように強気で、意地っ張りで、単純な猪突猛進タイプの人間を盛り立てるものと言ったら…。

 

「よしさやか、一つ勝負をしてみないか?」

「勝負?」

「あぁ、魔女を先に倒した方が、相手に自由に命令できるって奴」

「それ、本当?」

「あぁ」

「…よし、それじゃ行きますか!!」

 

 と言うようなことがあった。結果作戦は成功し、今に至る。とは言うものの、流石にこれは効果的面すぎる。とはいえ、調子に乗っているというわけではないのでいいのだが、いったい自分に何をさせようとしているのだろうか。これは、自分も本気を出さなければならない。杏子は気を引き締めた。そして…。

 

「この先だね…」

「あぁ…」

 

 たどり着いたのは、魔女の部屋へと至る扉。杏子は、それをゆっくりと開ける。その瞬間、二人の身体が徐々に浮く感覚が出現する。

 

「何コレ!?」

「無重力?いや、でも自由には動けるよな?」

 

 足はちゃんと地面に付いているはずである。しかし、そこに立っているべき地面はなかった。球体上のその部屋には、上も下もなく、二人は浮かんでいるだけだった。外縁を周るのはフィルムのようなものとその中を馬らしきものが回っている。それが上から下に何セットか均等に羅列されていて、屋根らしきものがある物もあったため、メリーゴーランドらしきものと表現しておいた方がいいだろうか。とりあえず移動はできるようだ。

 

「魔女は?」

「…上か!」

 

 杏子の言葉を聞いて、さやかもまた上を向く。そこには確かに魔女と思わしき存在がいた。パソコンの中から髪だけを出している風な魔女の近くには、不気味な妖精のような使い魔が何体か飛んでいる。パソコンの中には、一人のシルエット状の少女が立っている映像。そして、それが降りてきた瞬間、青かったその場所は黒く染まり、馬らしきものの上にテレビのようなものが乗せられる。

 

「な、なんなの!?」

「…」

 

 そして、テレビに映るのは一人の男。十字架のアクセサリーをその胸にぶら下げている黒い服を着た男性。牧師だろうか。それが、こちらをビンタするように手を右から左にはたいた。その後、鬼のような形相で何かを叫んでいるような映像。そして、外へ出る大きな扉を指さして叫んでいるようだ。視点は、その扉へ向けられる。そして徐々に徐々に近づいていき、両開きのドアの片方を開け、外の映像が見えた。が、その視点はすぐに後ろに向けられる。そして、その場所の全景も見えた。やはり教会だろうか。多くの長いすが見える。先ほどの男性も見えた。その隣には、一人の女性と、女性に抱き着いている一人の女の子。視点は、それをしばらく見た後、また外へと移った。さらに映像は切り替わる。今度は、夜の街を大急ぎで移動している映像だ。よく見ると、目線の端が赤く光っている。どうやら支店は、それに向かっているようだった。段々とその光が強くなっていき、そしてたどり着いたのは。キャンプファイヤーの焚き木のように燃えている教会だった。視点は、教会の中へと移っていく。今にも燃え落ちそうな教会。煙もひどく、早く逃げなくては命の危機があるだろう。そして、視点は捉える。血まみれで倒れている女性と、首を吊っている男性。どちらも、先ほどの映像に出てきたその人であった。

 

「こ…これ…」

「…さやか気を付けろ、この魔女は他人のトラウマを掘り起こして精神に直接攻撃をする奴だ」

「え…」

 

 さやかは、その言葉を聞いて気が付いた。何故これがトラウマと分かったのか、それは、これが杏子の記憶だからだ。杏子自身のトラウマ。杏子は以前、自分の家族は全員死んでいるということを話してくれたが、まさかこんなことがあったなど思いもよらなかった。

 

「きょ、杏子…あのさ」

「こんなの私に見せても無駄だよ」

「え?」

「私は…もう割り切ったんだ」

 

 割り切った。自分の家族の死を、割り切ったという。だが、杏子が槍を持つその手をみて、それは違うとさやかは思った。我慢している。手をいつも以上に握っているのは、耐えているからだ。杏子は、顔を魔女の方に向けると言う。

 

「さやか、とっとと片づけるから」

「…うん」

「はぁ!」

 

 杏子は槍を魔女に向けて投擲する。槍は、魔女の使い魔を吹き飛ばし魔女へ当たる物の威力は落ち、撃墜にはいたらなかった。だが、隙は確実にできた。さやかは、その隙を見逃さず、魔女へと突貫する。

 

「はぁぁぁ!!」

 

 空を蹴りながら魔女へと接近したさやかは、パソコンの中から現れた使い魔を一蹴すると、即座に上空に次々と足場となる魔法陣を出現させ、魔女の上へと移動して突撃する。

 

「これで…トドメだぁぁ!!!」

 

 それにより飛行が乱れきりもみ飛行で墜落していく魔女に向けて、剣を投擲する。剣は見事に魔女の中心にあたり、そのままの勢いで地面に串刺しにする。その瞬間、魔女の体内から真っ黒な血のようなものが噴き出し、そしてパソコンの中にいたらしい魔女の本体が飛び出し、地面に落ち、その動きを止めた。

 

「終わったよ、杏子…」

「…あぁ」

 

 魔女は、杏子の言う通り、精神攻撃が主な攻撃だったようで、倒すに関しては簡単に終わった。だが、その代償は大きかったかもしれない。意気消沈している杏子を見て、さやかは思う。もしかするといつもの杏子は強がっているだけなのではないだろうか。自分のトラウマと戦っているただ普通の少女なのではないだろうか。自分でも吐きそうだったあの映像。それをまじかで見ていた彼女の心の傷は大きいだろう。グリーフシードを拾ったさやかは、杏子にもう帰ろうかと言おうとした。だが、言えなかった。結界が突如変化したのである。青だった空間は突如橙色に。地面も現れ、周囲には家々が立ち並んでいく。遠くには煙突らしきものも見える。何なのだこれは、それにはさすがに杏子も顔を上げて驚いているようだった。

 

「なんで、魔女は倒したのに!?」

「…まさかッ!」

「杏子?」

「気を付けろさやか!まだ終わってない!」

「え?」

 

 次の瞬間、使い魔らしき兵隊が出現する。どう見ても先ほどの使い魔とは違う物だ。

 

「魔女はもう一匹いたんだ!」

「え、マジ!?」

 

 おそらく、先ほどの魔女の結界と重なっていたのだろう。パソコン型の魔女を倒し、その結界が解除されていたことにより、重なっていたもう一つの結界が出現したのだ。さやかは急いで武器を持つがその時、周囲にある家々の一つの玄関が開くと、その中から黒っぽいナニカが伸び、さやかへと向かって行く。それに気が付いた杏子はさやかの元へ走りながら言った。

 

「さやか!逃げろ!!」

「え?」

 

 だが、そんなこと突然言われても動けない。杏子もそれは分かっていた。だから、その手段を取ることにした。さやかを突き飛ばしたのだ。

 

「クッ!」

「きょう…こ?」

 

 さやかは助かった。だが、その代わり杏子自身がナニカに捕らえられてしまった。

 

「くそっ!離せ!!」

「杏子!!」

 

 抵抗するも空しく、杏子はナニカに家の中へと引きずり込まれてしまった。

 

「そんな、杏子ぉ!!」

 

 さやかはすぐに杏子を助けに行こうとした。だが、兵隊の使い魔はそれを阻むかの如くさやかの前に立つ。

 

「そこを…どけぇぇぇぇぇ!!!!!!」

 

 さやかはまず道を阻む使い魔と戦う。夕日は、そんな彼女を尻目に輝きを増して空に浮かんでいた。

 

 

 

ここは、どこだ?

 

 

 

 

真っ白だ…。

 

 

 

何も見えない…。いや、あれは?

 

 

 

杏子…。

 

 

杏子…。

 

 

お姉ちゃん!

 

 

「ッ!」

 

 ここはどこだろう。天井が見える。知らない天井?いや、知っている天井だ。あのスタンドグラスを見間違えるはずはない。ここは、あの教会だ。父親が牧師をしていた教会。だが、あそこは燃えてボロボロになっていたはず。なのに、どうしてこうもキレイなのだろうか。そこで、ようやく杏子は自分が仰向けで倒れていたことに気が付いた。

 

「ここ、どうして…」

「お姉ちゃん!」

「え?」

 

 その言葉にとっさに杏子は振り向く。その声は聞き覚えのある、しかしあり得るはずのない声だった。だって、その声の持ち主は、もう…。そして、そこにいたのは…。

 

「お姉ちゃん、大丈夫?」

「モモ…?」

「リンゴを踏んで転ぶなんて、お姉ちゃんらしくないよ」

 

 杏子は地面に落ちているリンゴを一つ拾う。そこには、足跡が付いているから、これがモモの言っていたリンゴなのだろう。いや、待てどうしてモモがここにいる。だって、モモは…モモは…。いや、何を考えている。モモは一緒に暮らす自分の妹ではないか。どうしてなんて言葉は必要ない。

 

「杏子」

「!」

 

 そこにまた二人の登場人物。あぁ、こっちもまた見知った顔だ。当たり前だ、一緒に暮らしているのだから。

 

「お…父さん…母さん…」

 

 一瞬、親父という言葉が出そうになった。どうしてそんな言葉を使おうとしたのだろう。自分はずっと、父さん、母さんと呼んでいたのに。母が言う。

 

「大丈夫?頭、痛む?」

「…ううん、私は大丈夫…それより、リンゴ…食べ物を粗末にしたら神様に…」

「いいや、杏子が無事なら、神様もきっと許してくれるさ」

「父さん…」

 

 何故だろう、こんなに懐かしいのは。いつもの光景だというのに。優しい父と母、そしてかわいい妹のモモ。当たり前の光景が、まるで何年振りかのように思える。

 

「お姉ちゃん!」

「ん?」

「私のリンゴあげる!」

「…ありがとう」

 

 モモは、そう言ってリンゴを一つ差し出してくれた。杏子は、しゃがんでそれを受け取ると、ほぼ半分に割って、一方をモモに差し出す。

 

「二人で食べよう」

「うん!」

 

 そして、二人で一緒にかじった。酸っぱいけれど、でもおいしいリンゴだ。杏子は思う。こんな幸せな日々が続けばいいなと。その手に、指輪などはまっていなかった。

 

 

 

 

過ぎたときは戻らない

進んだ針は戻らない

いい未来を夢み、希望にあふれていたあの日

全てが光輝いて見えた未来が信じられたあの日

戻らない覆らない遡らない

だから彼女はそこにいる

現実なんて見にくいだけだから

だから彼女は外に出ない

心が醜い人ばかりだから

野を駆け歩き川で遊び

自由出会ったあの思い出の色

昔の臭いが染みついた古びたアパート

彼と一緒に暮らしたそこが彼女の居場所であるから

 

それが例え虚像であったとしても

 

 

あの日をもう一度

 




夕方の魔女スーザン
その性質は懐古
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