映画 プリキュアオールスターズVS魔法少女まどか☆マギカ 悠久の絶望は永久の希望に 作:牢吏川波実
友達が何かを隠している。電話口で聞いていてもわかった。彼女の焦り、戸惑い、そして秘密を作ることの苦しさ。自分たちには話すことができないという秘密は何なのだろう。プリキュアよりも大きな秘密などあるのだろう。あの時、もう少し聞けばよかった。明堂院いつきはそう思った。しかし、深くは聞かないということも友情の一つであると思ってそれをしなかった。学校交流で見滝原中学校に行ったつぼみとえりか。つぼみが最も気にしていた妹のふたばは、心臓の病気が治ったというのだが、なぜもう少し嬉しそうにしなかったのだろう。いつきには全く分からなかった。
「ねぇ、ポプリ……」
「なんでしゅ?」
「友達って……難しいよね」
「でしゅ?」
せめて、友が何に悩んでいるのか、今更ながらもそれだけでも聞いておいた方がよかった。そうすれば、二人、いや三人で一緒に悩んで、良い答えを出すことができたのかもしれない。けど、何も聞かないという友情もあるんじゃないかと、そう言ういことが頭をよぎってしまった。だから、何も言うことができなかった。それで、彼女を傷つけてしまうんじゃないか、自分が臆病なばかりに、彼女に辛い思いをさせてしまっているのかもしれない。
「私は……どうすればよかったのかな?」
いつきは、カバンから携帯を取り出すと、花咲つぼみの電話番号を出して、コールボタンを前にして、結局それを押さずにカバンに戻して、空遠くを見つめる。その方向は、偶然にもつぼみ、そしてえりかたちのいる方向だった。そして彼女は考え事をしていたため、自分が見知らぬ場所にたどり着いていたことには全く気が付いていない。それが彼女たちの運命を変える出会いを産むものとは知らずに。
「あれ…」
彼女がようやく気が付いたのはどこかの裏通り。買い物をした帰り道であるので、希望ヶ花市のどこかであるとは思うが、その場所に心当たりはなかった。周りを見ると、建物に囲まれて四方にそれぞれ道があった。どれを行こうか迷っているときだった。
「にゃ~」
「え?」
猫だ。赤を少しだけ肌色に近づけたような色をした猫がいつきに近づいてきた。
「ボクに用でもあるのかい?」
流石にそれはないなと思いながらいつきはそういった。瞬間、猫はいつきの前にある道に入っていく。
「あっ…」
しばらくすると猫はいつきの方を向いて止まった。どうやら自分を待っているようだ。
「?」
いつきは首をかしげながらその猫の方に近寄る。そして近くによるとまた猫は走り出し、止まってこちらをみる。近くによる、走り出す、止まる、こっちをみる。という工程を何度か繰り返した後、いつきはある店の前にたどり着いた。大きな看板などはなく、小さい、表札のような看板が張り付けてあった。
「えっと…『マホ堂』?」
英語のM・A・H・Oと漢字の堂。それで形作られた名前であった。ふと、周りをみると、先ほどまでいた猫がいなくなっている。やはりこの店に連れてきたかったのだろうか。いつきはおそるおそる店の中へと入っていく。
「雑貨屋さん…っていうのかな?」
店の中はまるでアンティークショップのような内装だった。敷物、コースター、ビーズのブレスレット、たくさんの商品と思わしきものが置いてある。だが中でもいつきの目を引いたのは壁にかかった1枚のタペストリーである。座っている男女は親子だろうか。おそらく日本人ではないのだろう。女性はその手にオレンジ色の花束を持っている。その両脇には女性の子供と思われる子供達、後ろに立つ金髪の女性もそうかもしれない。とすると、6人の子供たちに囲まれた親子のタペストリーだ。数多くの商品がある中、それだけは誰の手にも届かないような場所で、おそらく日の光も浴びないような場所に飾られていれていることから相当大事にしているのではないだろうか。だがなぜだろう、光が当たっていないはずなのにスポットライトを浴びているかのように、それか自分で光を放っているようにキラキラしていると感じるのは。中でも特徴的なのは描かれている人物がみな笑顔なのだ。それを見るだけでいつきもまた笑顔になれるような気がする。
「何かお探し?」
「え?」
その時、店の奥から女性が現れたため、妖精のポプリはぬいぐるみのふりをする。長髪の女性、それはタペストリーに描かれた女性と同じ顔をしていた。だがいつきは返答に困った。まさか猫に案内されてきました、等とはいえるわけもない。
「えっと…ボクは……」
「フフ、いいのよ冷やかしでも」
「いや、そういうわけじゃ」
と、いつきはテンパってしまう。それに女性は冗談よと一言言う。
「奥にいらっしゃい、紅茶を入れるわ」
「え…」
いつきはお言葉に甘えたが、なぜただの客である自分にそこまでするのか疑問に思った。女性に連れられ店の奥に行くとそこはテラスになっていた。そこからは希望ヶ花の全景が見渡せる。遠くの方に明堂学園が見える。いい場所に店があるなとは思うが、果たしてこんな場所に店などあっただろうか。いやそれ以前に、いくら考え事をしていたとはいえ、こんなところまでよく来たものだと、自分自身感心していた。
「ケーキどうぞ」
「あっ、ありがとうございます」
差し出されたのは赤いジャムで周りを塗られたケーキ。よく見ると、ジャムは輪切りにされたロールケーキの上から塗られているようだ。上から見ると三角形に見えるから、おそらくもとは円形だったのだろうそれを、フォークで少しだけ切って一口サイズの半分ぐらいにして食べる。
「おいしい…」
ただ、その言葉だけが口からもれた。社交辞令でもなんでもなくおいしい。ふわふわのスポンジ、中にも外にもふんだんに盛り込まれたジャムの甘酸っぱさ、イチゴだと思っていたが少し違うような感じがする。このようなケーキ食べたことがなかった。
「喜んでくれてよかったわ」
女性は顔を笑顔にさせてそういった。何故だろう、彼女を見ているともっと年齢が上なような気がする。見た目は30ほどであるだろうが、もっと歳を重ねたかのような印象があった。
「あなた、何か悩み事でもあるの?」
「え?」
いつきは不意を突いたその発言を聞いて、思わず手に持ったフォークを落としそうになった。
「ど、どうしてですか?」
「私ね、これでもかなりの人生経験があるの。子供を育てた経験もあるし、貴方と同じくらいの孫を育てた経験もあるわ。だから、子供の表情の変化には敏感なの」
「子供に、孫……えぇ、孫!?」
「全然そうにはみえないでしゅ!?」
女性のその言葉に、思わずポプリも驚愕する。孫がいるということは彼女はおばあちゃんと呼ばれるほどの年齢であるということだ。だが、まだ分からない。もしも、彼女と娘さんが未成年で妊娠、出産したと考えれば、いや自分と同じくらいの年齢の孫を育てた経験もあると言っていた。ということはそこに十四をプラスすると、やはり最低でも四十歳を超えてしまう。しかし、それでもまだありえない年齢じゃないかなとは思うのだが、しかしそういても驚くことは驚く。
「フフ、ほら、貴方も食べる?」
「え?」
と言って女性はもう一つケーキの乗っている皿を出してくる。貴方もとはどういうことだろう。と思ったがしかし、すぐにそれが指す者の正体が判明する。
「あっ」
「いいんでしゅか!」
「えぇ、どうぞ」
「ありがとうでしゅ!」
ポプリは、女性の言葉に甘えてケーキにかじりつく。そういえば、自分が彼女に孫がいるという話を聞いて驚いたとき、ポプリもまた声を出していた。まぁ、あんな衝撃的な告白を聞いてしまえばしょうがないだろうか。
「あの……」
「この子のことは内緒にしといて、かしら?」
「あっ、はい……」
「安心して、他人の秘密をしゃべるような真似はしないわ」
「……ありがとうございます」
本当に、この人にはなんでも見透かされているようだ。自分が言おうとしたことや考えていることがすべてわかってしまっている。この人は、エスパー何だろうか。
「貴方は、エスパーなんですか?」
「いえ、どちらかと言うと……魔女、かしら」
「ま、魔女?」
それは、自分をからかっているのだろうか。それとも、美魔女ということで言っているのだろうか。だが、女性の微笑みは、本当に魔女と思えるほどに妖艶であった。
「まぁ、エスパーでもあってるかもしれないけれどね」
「?」
「話を戻すわ、貴方……何に悩んでいるの?」
「……」
いつきは思った。この人に秘密なんてできるわけない。いつきは、正直に、無論プリキュアの事を隠して悩んでいることを話した。
「そう、友達が何かを隠してるの……」
「はい、それで……その子に何を悩んでいるのか聞いた方がいいのかなって……」
「そうね……」
女性は、ティーポットからいつきの分の紅茶をもう一杯淹れてから言った。
「それで、あなたがどう思うかね」
「私は……聞かないっていうのも、友情なのかなって……」
「けど、隠し事をしているその子にも問題があるんじゃないかしら」
「それは……そうかもしれませんね」
正直、自分たちはなんでも言い合える仲であると思っていた。だからこそ、彼女が何も言ってくれないということに傷ついていたりする。でも、それももしかしたら友情なのかもしれない。そして、それが友情をさらに深めてくれるものなのかもしれない。そう思うことにしている。だが、女性は言う。
「隠し事は……悲劇を生むかもしれないわ」
「悲劇、ですか?」
「そう……さっき、孫がいたっていったじゃない」
「え、えぇ……」
「あのタペストリー、実は私の子供と孫がいたのよ」
「え?」
その言葉は、あまりにもショッキングであった。というのも、いつきは孫と言っても赤ちゃんぐらいだろうと思っていたからだ。いつきの見たあのタペストリーには、目の前にいる彼女の他には、父と思われる男性と、女性の子供達であろう6人しかいなかったからだ、どう見積もっても女性が孫と言っている年齢程の子供が描かれてはいなかった。本当に、彼女は何歳なのだろうか。
「私、ある事情があって年を取りにくいの」
「年を、取りにくい?」
「そう、でもその事情を孫たちに話すことはできなかった。そのせいで周囲からバケモノ扱いされて、あの子たちとも喧嘩別れになって、決して元には戻らない深い深い溝ができてしまったわ」
「そんな……仲直りすることは?」
「皆、もうこの世にはいないのよ」
「それは……すみません」
「いいの、仕方のないことよ」
その時の女性の表情を、いつきは一生忘れることはないだろう。昔を懐かしんで、まるで遠い異国でも眺めているような、そんな表情。涙を流したい。でも、それだけは絶対にしたくない。そうしてしまうと、全てが流れてしまう。そう考えているようだった。
「そして私は、あの子たちを、人を誤解して……呪いを振りまいてしまったわ」
「呪い?」
「そう、もう誰も傷つかないようにとかけた呪い、それのせいで多くの悲しみを増やしてしまった……」
「なんだか、突拍子もなさ過ぎて……何が何だか」
「いづれ、貴方にも教えてあげるわ。でも、それは今じゃない……」
「……」
一見して、信じることのできないような話だ。だが、何故だろう。彼女の話は聞いてて嘘も、誇張もないような気がする。それは自分がプリキュアとして戦ってきたからこそ不可思議なことでも信じられるようになったということもあるだろうが、その眼が、全て真の事であるということを語ってくれているような気がしてならなかった。
「貴方が、友達思いなのは十分わかるわ。でも、秘密や隠し事は、貴方が守ろうとした友情すらも壊してしまうかもしれない。それがどれだけ硬いものだと思っていたとしても、ちょっとしたことで崩れてしまって、どちらも傷つけて、また別の誰かも傷つけてしまうかもしれない」
「……」
「理解したようで、本当は理解していない。そんなすれ違いが悲劇を生んでしまう。だから、話し合って、理解し合いなさい。これ以上、悲しみを産まないためにも……ね」
「……よく、分からないこともあります。でも、話してみることにします。つぼみや、えりかと……」
「そう、良かった。頑張ってね」
そう言うと、女性はティーカップとケーキの乗っていた皿を片付け始める。
「それじゃ、これでパーティーはお開きにしましょうか」
「あ、はい……あの」
「ん?」
「私は、明堂院いつきです。あなたの名前は?」
「私は……そのケーキに付けられた名前と同じよ」
「ケーキ?」
「えぇ、夫の作ってくれたケーキ……『愛しのトゥールビヨン』」
瞬間、その笑顔を最後にして、いつきの目が眩んだ。
目が覚めた時、いつきとポプリの姿は自宅のベッドの上にあった。あれは、夢だったのだろうか。それわ分からない。が、いつきはすぐに携帯電話を手に取って、つぼみに連絡を取った。例え、彼女のどのような秘密を抱え込んでいたとしても、全部受け入れ、そしてまた一緒に笑い合いたい。そう決心して。
そして電話は……つながらなかった。
「本当に、よかったずら?」
「どうして?」
いつきがいなくなった後、猫がしゃべりだしたのも全く驚かずに、女性は返答した。
「本当の事を、伝えずに返したことずら}
「そうね……でも、似ていると思わない?」
「あいつらにずら?……確かに、雰囲気は似ている気がするずらが……」
「あの子たちなら、きっと正してくれるわ。私達魔女が、かつて犯してしまった間違いを……そして、きっと、彼女と彼を救ってくれる」
「だといいずらが……」
そして、女性は指を一度だけ鳴らす。その瞬間、女性も、猫も、そして店も跡形もなくなくなってしまった。もうすぐ夕方、日は傾き赤く見える。明日は、雨だろうか。