映画 プリキュアオールスターズVS魔法少女まどか☆マギカ 悠久の絶望は永久の希望に 作:牢吏川波実
ダメ、そんな事したらダメ。そんな事を考えたらだめ。だって、そんなことをしたら、彼女が……。
この気持ちに最初に気がついたのはいつだっただろうか。多分、最初は彼が交通事故に遭遇したという報告を聞いたときだっただろう。彼の母親からの連絡を受けて、すぐに病院へと向かった自分は、幼馴染の友達と合流して、そして手術の終ったすぐ、まだ深い眠りについている彼の姿を見た。その時の感情は、今思い出そうとしても息を飲み、脂汗が流れて落ちていくほど嫌なもので、思い出したくもない。多分、自分の隣にいた幼馴染のさやかも同じであっただろう。
彼、恭介とそれからさやかに出会ったのは幼稚園の時の事。それからずっと、一緒の学校に行って、一緒に遊んで、まどかという共通の友人もいつの間にかできて、その間誰も大きなけがをすることなく生活してきて、いきなり彼が大怪我を負ってしまった。ハンマーで頭を殴られてしまったかのような衝撃を自分に与えるなんてこと、容易いことだった。彼は目を覚ましてくれるのだろうか、またみんなでいつものように遊びに行くことができるのだろうか。また、自分たちにあの美しいヴァイオリンの音色を聞かせてくれるだろうか。そう考えていた彼女は、気がついてしまった。自分が、上条恭介を好きであるという事実に。
幼い頃からほとんど一緒であったというのに、その事実に気がつくのがあまりにも遅すぎた。だが、同時にとある事実にも気がついてしまった。自分もそうなのであれば出会った時期がほとんど同じである幼馴染のさやかもまた、彼の事が好きなのではないだろうか。いや、きっとそうなのだろう。後々、彼のお見舞いにかなりの頻度で行って、クラシックの珍しいCDを買って一緒にそれを聴いてたりして、あれは絶対に恋する乙女の顔つきなのだ。自分もそうなのだから。自分もまた、同じように彼への贈り物を病室に持って行って、でも自分は習い事が沢山あるから頻度としてはさやかに遠く劣っていて、でも彼はそんな自分にも変わらず笑顔を振り撒いていた。でも、その中で見せる寂しそうな表情もまた印象的で、心の中に残っていて、何故か罪悪感を感じた。おそらく、腕の事についてだろうか。
彼の腕は、事故によって複雑に骨折しており、その時神経や筋肉をいたく損傷してしまい、物を掴むことができても、以前のようにヴァイオリンを弾くほど細かい動きができなくなってしまったのだ。彼のヴァイオリンは聴いていてとても心地の良いものだった。彼自身も、コンクール等に出場して、いつも金賞をとって、将来はプロになることも期待されていて。でも、その大事な腕を壊してしまって、とても落ち込んでいた姿は、今でも記憶から離れようとしない。彼の心を救う方法を、いつもさやかとふたり探していたような気がする。それが、CD等の送り物だった。でも、それすらも彼を傷つけているような気もして、もうどうしようもないのではないか、そう彼女は考えていた。
あくる日、奇跡が起こった。恭介の腕が突然動くようになったのだ。何故、そんな奇跡のようなことが起こったのか自分も、病院も不思議ではあった物の、幽霊の正体見たり枯れ尾花、その実態は一人の少女が人生をなげうったことによって生まれた奇跡だった。そうなると、ある意味で病院側がかわいそうになる。元々見滝原総合病院は、心臓の病気に関しては日本随一と言われていた。実際、見滝原総合病院が心臓の病気治療に関して名を上げていたのは間違いではない。それには、二つの心臓の病気治療が関係している。一つは、花咲つぼみの妹、ふたばの一件。これも結局はつぼみの犠牲のたまものではあった物の、もう一つは少しだけ違っていた。心臓に病気を持った少女への手術。それは、本来ならば臓器移植でなければ治らないとされていた病気。しかも、移植してももって数年だろうとみられていた少女。しかし、見滝原総合病院は臓器移植というものではない、別の方法を用いることによってその少女を助けたというのだ。その時のことは新聞にも載っていて、その時執刀した長髪に銀髪の主治医の顔の整った、でもまるで狐のような男の顔はよく覚えている。この話にはもちろん裏話が紛れているのだが、それを仁美が知ることなどはこの先ないだろう。他、呼吸器系の重い病気にかかった少女を救ったりもしていて、見滝原総合病院の名前が世界的に知られることになるのはそう遅くはないだろう。そうでなくても、全身麻痺の少女が治ったということで街全体がパワースポットなのではないかと言われているというのに。因みに、これは全てこの二週間で起こった出来事である。これに加えて、恭介の件もあって整形の分野でも日本中に見滝原総合病院の名前が知られることとなった。それが、自分たちの手柄でもなんでもないなど知らずに。自分も最初は喜んで、彼を祝福した。でも、真実を聞いてから喜んでいいものなのか全く分からなくなってしまった。それどころか、自分は、自分の事が嫌になってしまった。彼女の目の前で流した涙、その本当の意味を彼女が知ったら、彼女はどう思うのだろうか。自分の中にあるこの思いを彼女に話したら、いったいどうなってしまうだろうか。いえない。言えるわけがない。そんなことをしたら彼女は絶対に……。どうすればいい。どうすればいいの。
『ねぇ』
「え?」
声がする。頭の中に響く声。それは、あの時と、あの日と同じもの。けど、心地よく聞こえる物。
『なに悩んでいるの?』
「私……友達に絶対に言えない秘密があるんです……」
『ふ~ん、でもいいじゃん別に』
「え?」
『一緒に来てよ。そうすれば悩みなんてすぐに消えるから』
「本当に?」
本当にこの苦しみが消えるのだろうか。本当に心の痛みを消してくれるのだろうか。消してくれるものなら消してもらいたい。そのためだったら、私は誰にだってついて行く。だから……。
『うん、だから来てよ』
「えぇ、行きますわよ……すぐに」
彼女は誘われる。志筑仁美は誘われる。二度と足を踏み入れてはいけない場所へと誘われる。例えそれが、破滅に繋がることであろうとも、踏み入れてしまう。少女は、あまりにも心が弱すぎた。いや、もしかしたらそれが本来あるべき少女の姿だったのかもしれない。彼女たちがただ、強すぎたのだった。
「それにしても、ほむらの目的がまどかを魔法少女にするのを止める事だったなんて……」
「だからつぼみやえりかを恨んでんだな……間接的にとはいっても、まどかを魔法少女にさせちまったんだから」
火曜日の夜担当のさやか&杏子の二人は、裏通りを歩きながらそんな話をしていた。マミとまどかが遭遇した織莉子という女性の話は、二人の耳にすでに届いていた。最初に聞いたときは驚いたし、それは他の面々だってそうだった。だが、それですべてに納得がいった。初めて会ったはずのほむらが、あまりにもまどかに固執しているという事実の謎が明かされたことによって、ほむらがプリキュアを憎む理由も明らかになった。自分の友達を魔法少女へと導いたことが、許せないのであろう。しかし、それは完全な逆恨みだ。まどかが魔法少女になったのは完全な自分の意思であるし、さらにはプリキュアであったつぼみやえりかもまた自分達と同じく魔法少女となってしまっている。恨むべくは、自分たちをこんな体にしたQBであるはずなのに、彼女はまるでそれに気づいていないのではないだろうか。
「逆恨みだよそんなの……」
「そうでもしないと、自分の心が持たないのかもしれないな」
「どういうこと?」
まどかが魔法少女になってしまったこの世界において、ほむらの目標は完全に達成不可能なはずなのだ。だったら、さっさと時間を巻き戻して過去のまどかをすくえばいいはずだ。しかし彼女はそうしなかった。このことについて、杏子は二つの考えを持っていた。
「ほむらが過去に跳ばない理由……分かるか?」
「え?……そういえばなんでだろう」
「考えられることは二つ、一つはほむらの魔法がそのワルプルギスの夜が来るその日まで使えないってこと」
そもそもほむらの時間逆行の始発点はワルプルギスの夜にマミたまどかが負けた後だ。もしもそこからでしか時間を遡ることができないのだとしたら、すぐに巻き戻さない事にも辻褄がつく。そして、もう一つは……。
「もう一つは、もう時間の逆行ができないってこと」
「え?そんな事ってあるの?」
「さぁ、もしかしたら精神的に弱っていたら発動できないって制約があるかもね」
「……」
杏子自身、家族のことがトラウマとなってしまって幻術系統の魔法を使えなかった。今となってはすでに克服したも同然ではあるのだが、もしもそれと同じようなことがほむらにも起こっていたとしたら、何となく辻褄があってしまう。使用回数にも制限があるのかもしれない。そして、この世界が最後の世界だったという事があるのかもしれない。しかしだ……。
「どっちにしても、ほむらの心には相当なストレスが溜まっているはず。ソウルジェムもかなり濁っているのかもな。ワルプルギスが来るのを待つにも、時間を遡れないにしろ、あいつにとっちゃ、誰かを相手に鬱憤晴らしをしなかったら、すぐに魔女になっちまうんじゃないか?」
「……」
哀れだ。さやかはほむらの事をそう思ってしまった。それではまるでほむらは自分自身のためではなく、まどかのためにしか生きれない人形ではないか。誰かのために冷酷なマシンになることしかできない。とはいえ、実際ソウルジェムで身体を操っているという意味では自分や杏子もまた人形なのではあるが。しかし、そんな人形であるからこそ、彼女はまどかという心の支えを失った瞬間に自分で動くこともできず、何もできず、ただ自分が死にたくないばかりに行動することしかできない。無駄に時間を浪費するという手段すらも取れない。心の有りどころがたった一つであるが故に、それを失った瞬間に彼女は壊れてしまったのかもしれない。
「かわいそうな奴……」
「同情なんて、できないけどな……」
だが、だからこそそんなやつにつぼみやえりか、ほかのプリキュアたちを殺させるわけにはいかない。憂さ晴らしで力を使うなんて、あってはならない事なのだ。止めなければならない、ほむらの暴走を、なんとしてでも。
そういえば、と杏子は思った。
「ちょっと前のあたしに……似てるな。……ん?」
「この反応は……」
その時だ、かすかに魔女の気配を感じた。しかし、魔女にしてはかなり小さなものだ。多分、使い魔なのだろう。だが、使い魔であったとしても油断をしてはならない。使い魔であったとしても時には一般の人間を操って自分の作った結界に誘いこむことがあるのだ。だから早く倒さなければならない。
「え?」
そう思った矢先だった。見間違えだろうか。彼女たちの眼に見覚えのある緑色の髪をした少女がいる。さやかは、眼をこすってもう一度その少女の事をみる。身間違いじゃない、彼女だ。だが、どうしてここにいるというのか。彼女の心は、確か自分たちで救ったはずだったのに、どうして。さやかは、超特急でその少女の下にたどり着くと、少女の肩を揺さぶって言う。
「仁美!」
「あら、さやかさん。今日も魔法少女の仕事ですか?」
仁美だ。さやかは、胸の高鳴りを抑えられないでいた。そんなはずはない。もしかしたら、今日もまた塾か何かで出ていただけなのかもしれない、買い物に出ていただけなのかもしれない。いや、仁美は先日の一件でしばらくは塾も習い事も休んでいるはず、買い物も家のお手伝いがしてくれて、自分に関連する買い物の場合は自分かまどかやつぼみ達にも声をかけるはずだ。だったら、考えられることは、いや考えたくないが一つだけありえる事がある。見たくはないが、さやかは仁美の首筋をみる。そこには、つい先日も見たあの模様が、魔女の口づけが存在していた。
「そんな、なんで……」
「おい、さやか!」
「杏子、仁美が……」
「ちっ、嬢ちゃんまた魔女に、いやこの近くにある反応からして使い魔か……さっさと倒してくるから、さやかは嬢ちゃんを頼む」
「う、うん分かった」
「すぐ戻ってくるからさ!」
そう言うと、杏子は変身して夜の闇にへと消えていった。さやかと仁美は、暗い路地に二人っきりとなり、奇妙な沈黙が流れていた。だが、果てしなく奇妙だ。何故仁美はまた魔女の口づけを受けてしまっているのだろう。習い事も塾もない、魔法少女としての仕事がない日はできるだけ仁美との付き合いは欠かさずにしてきた。魔女の口づけにとらわれてしまうほどにストレスが溜まっているとは思えない。ならば、何故だ。
「さやかさん?」
「え、何?仁美?」
「……どうして、人って恋をしてしまうんでしょうか?」
「え?」
恋、とはどういうことか、失恋でもしたのだろうか。いや、しかしさやかは仁美に好きな人がいるという話を聞いたことがない。そう言う噂が耳に入ったこともない。さやかの耳に入らないような遠い場所で恋をしていたというのだろうか。分からない、仁美の人生なのだから、分からないのも当然だ。
「恋……か、いいな仁美は……私恋したことないからそう言う気持ちわかんないや」
「のんきで、羨ましいです……」
「え?」
「……あら?私、どうしてここに」
魔女の口づけが消えた。どうやら杏子が使い魔を倒した様子だ。どうやらかなり近くに使い魔の結界があったようで、それに使い魔一匹であったのだからベテランの杏子ならばそれを倒すのは簡単なことだっただろう。
余談だが、仁美に魔法少女の事についてはなしたその日の夜中の事、杏子は言っていた。自分は、ゆまと出会うまでは使い魔を積極的に狩ろうとはしていなかったらしい。使い魔は魔女と違ってグリーフシードを落とさないから、使い魔が成長して魔女になるまでに倒すと非効率だからというのが理由だそうだ。少し前の自分だったら、激怒していただろうが、きっとそれは杏子にとっても無意識に自分の中の正義である『生きる』という物を成すためだったのだろうということがさやかには分かっていた。だから、顔を十発ぐらい殴るだけ(回復付き)で済ませた。杏子自身、そういった自分の行いについては思うことがあったようで、そう言った自分のせいで死んでしまった人たちの分まで生き続けることを誓い、命を背負って生きることを決めたそうだ。今更こんな事を言っても、自分が地獄に落ちるのは変わらないのに、と自笑して……。
「仁美……」
「あっ、さやかさん……もしかして、私また……」
「うん……あの、さ」
「はい?」
「仁美って、失恋でもしたの?」
「ッ!」
「その、操られている時にどうして恋をするんだろうって、言ってたから……」
その言葉を聞いた瞬間、仁美はうつむきかげんになった。よく考えたらなんて乙女心に配慮しない発言だったことだろう。同じ女性として、それだけは配慮しなければならない事だったはずなのに、さやかはついつい聞いてしまった。親友だからという、果てしなく甘い考えで。
「ご、ごめん。言いづらいのは分かるよ。でもさ、そのまま何か持ったまま生きていたらまた使い魔や魔女に操られて……」
「……」
仁美は黙り込んだまま何も言わない。しかし、魔女や使い魔に操られた人の心のケアもまた魔法少女の仕事であるとマミも言っていた。ならば、さやかはその役目を全うするだけだった。さやかと仁美の間には深い沈黙の時が流れた。その時だ、杏子がちょうど路地裏へと帰ってきた。
「さやか、それに嬢ちゃんも大丈夫かい?」
「杏子さん……」
「んで、どうして嬢ちゃんが使い魔に操られたのか分かった?使い魔程度に操られるんだから、よっぽどの物だと思うだけどさ?」
「……」
二人とも何も言わない。さやかもおそらくまだ理由が分かっていないのだ。仁美が、親友であるさやかに相談できない理由はただ一つしかない、杏子はそう考えてさやかに話しかける。
「言いたくないってか……分かった。さやか、ちょっと向こうに行っててくれ」
「え?」
「いいから、終ったら念話で呼ぶからそれまで来るんじゃねぇぞ」
「……分かったわよ」
さやかは、しぶしぶながら杏子のいう事に従って、魔法少女に変身した後ビルの街へと飛び去って行った。これで、今度は杏子と仁美の二人だけとなった。
「さて、これで話してくれるよな嬢ちゃ……仁美」
「……」
「なんで私抜きで話をするなんて……」
親友であるのだから、仁美がどんな悩みを持っているのかを知りたかった。しかし、杏子はそれを良しとしなかったようだ。
「仁美は、一体何を悩んで……」
「どうしてか知りたい?美樹さやか」
「ッ!」
さやかは、咄嗟にサーベルを出現させてその声が聞こえた方向に向けて、振り下ろす。しかし、その攻撃は相手の日本刀によって防がれてしまった。双方の刃が当たった瞬間一瞬だけ火花が散った。そして、双方ともに距離を取る。彼女の顔を見たのはいつ以来か、確かつぼみが魔法少女になったその日の昼間に見た時以来だった。思えば、かなり長い間彼女と会っていなかったし、そういえば彼女の魔法少女としての姿も見たことがなかった。少し見滝原の制服に似ている。
「へぇ、銃と爆弾を使うとだけ聞いていたけど、そんなものも使うなんて知らなかった」
「えぇ、とある所から失敬したの。接近戦なら、これでも爆弾よりも安全よ」
「あっ、そう……で、今日はつぼみもえりかも魔法少女の活動はしていないわよ。なんで私にちょっかい出してくるのかな?暁美ほむら!」
その夜、彼女たちの魔法少女人生の終焉へのカウントダウンは、動きを速めて残酷な最後の時を刻もうとしていた。その音は、あまりにも悲しく、あまりにも愚かだったという。
外伝をみて分かる通り、七匠がご都合主義で他作品をハッピーエンドにしたがる。という事がよくわかると思います。なんで今後出てくる予定のないあの作品をハッピーエンドにしようとするのだろうか……。というか、ハッピーエンドなのだろうか……。気がつくと他アニメのキャラが出現しすぎて結果、一つの作品が原作崩壊に……。