映画 プリキュアオールスターズVS魔法少女まどか☆マギカ 悠久の絶望は永久の希望に   作:牢吏川波実

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四人いるんだよ、本当は

「着いたわ、ここよ」

「ここが、杏子の家……」

「……」

 

 マミとえりか、コフレ、そしてゆまの三人と一体は見滝原の隣町、風見野にある教会にまで足を運んだ。そこは、マミも何度も通ったことがある杏子の家である。話には聞いていたが、火事の後かろうじて焼け残った教会は、見た感じからして廃墟で、そこに誰かが住んでいたという面影すらも感じさせないほどだ。だが、紛れもなくそこには先週まで杏子、そしてゆまもまた一緒になって暮らしていたのだ。何故彼女たちがここまで足を運ぶことになったのか、それは昨晩のある予想外の出来事が関係する。

 昨晩、火曜日担当のさやかと杏子は確かに、いつもの魔女退治に向かって行った。それから一、二時間が経った頃であろうか、まどかの携帯電話に仁美から電話があったのだ。それによると、彼女は再び魔女の口づけによって操られ、またも街をさまよっていたそうだ。その時に、杏子とさやかに見つかり、気がついた時には目の前にさやかがいたらしい。その後、杏子と二人きりになり自分のとある悩みについて打ち明け、相談に乗ってもらったそうだ。そして……。

 

「ありがとうございました、杏子さん……私の悩みに乗ってくれて……」

「いいってそんなの……けど、やっぱり恋愛は魔法少女にとって敵ってことだな……」

 

 仁美の話を聞いた杏子は頭を掻きながらそう言い、座っていた二人は立ち上がってどこへ行くまでもなく歩き出した。以前から恋心という物の危険性を感じていた杏子にとってみれば、仁美の思い、そして仁美の考えはそりゃそうだろうなといえるようなものだったからだ。この言葉に対して仁美は下を向きながら言う。

 

「でも、やっぱりさやかさんが……魔法少女の皆さんがかわいそう……大勢の人たちの命を助けるために戦うというのにほとんどの人に感謝もされず、さらには恋心も捨てないといけないなんて……」

「まぁ、あいつの事だから恋心なんてもんがあったとしてもそんなもん気がついてはないだろうけどな」

「……」

 

 正直言えば、さやかは自分の恋心についてあまりにも鈍感なのだ。彼女が恭介のために願いを使ったことについても、幼馴染だからと彼女は言ってはいる者の、それが実は恋心からであろうという事は周りから見たら一目でわかる。出なければ、ただ幼馴染だからという理由だけで入院中に珍しいレコードを探して来り、たった一度だけの奇跡のチャンスを使わないだろう。

 

「さやかさんは、純粋な方ですから……」

「純粋……ね」

「……」

「……」

 

 杏子は、そんな馬鹿なと思いながら聞いていた。この世に純粋な心を持つ人間などいない。誰でもどこかに心の闇を抱えており、誰もが人生に疲れを感じており、誰もが生きていくのに苦労しているのだ。それが人間なのだ。大人も子供も変わらない普遍的な事実だ。だからさやかもなんら純粋な人間などではない。だが、一つだけ彼女が純粋であろうという事がある。それが……。

 

「ハァ、まっとにかくまずはさやかと合流して話し合ってみることが一番だな」

「はい……」

「しかしさやかの奴、どこまで行ったんだ?」

 

 そう、二人がこうして歩いているのも近くにいるであろうさやかと合流するためである。仁美との話し合いが終わった直後杏子は、念話を用いて近くにいるであろうさやかを呼び出した。しかし、送れども送れどもさやかは答えることなく、不審に思った杏子は仁美とともにさやかを探しているのだ。何か不測の事態でも起こったのであろうか。

 その時であった。二人は路地裏の方にさやかの姿を見つけた。だが、なにか様子がおかしい。しゃがみこんで、その様子はまるで悲しんでいるかのようにも見える。

 

「どうしたんでしょう……さやかさ」

「待て、仁美」

「え?」

 

 彼女の事を呼ぼうとした仁美を制した杏子は、近くにあった建物の影に連れていくと座らせて、彼女の周囲に結界を張った。

 

「杏子さん?」

「仁美、よく聞いてくれ。さやかには私一人で会ってくる。だが、もしも……もしも私になにかがあったらマミ……いや、まどかに電話してくれ」

「まどかさんに?」

「あぁ……」

 

 第六感というのだろうか。さやかの周囲から、何か別の魔力を感じ取ったのだ。それは確実にさやかとは違う別物だった。なんらかの罠が仕掛けらている恐れがある。もしもの時を考えて仁美に対して自分に何か起きたときには魔法少女の中で唯一連絡先の分かっているまどかに連絡を取るように、そして声などの物音は絶対に立てないようにと言った。幸いにも、まどかはマミの家にいるため、彼女に連絡がつきさえすれば、そのままマミにまで連絡がいくようになっている。本当は、そんなことがないのが一番ではあるが、杏子はついこの間も嗅いだことがある嫌な臭いから、何かがあるのは確実であろうと考えていた。

 

「んじゃ、頼む」

「……はい」

 

 それだけを言うと、一人建物の影から出てさやかの元へと向かった。

 そして目の当たりにしたのはあまりにも凄惨な光景。魔法少女という経験上、そのようなものに出会うのはあまりにもよくある物で、つい2週間ほど前にもゆまの両親が死んだ結界の中で同じような現場を見たことがあった。だが、今回のそれは何というか、それとは全く違っているように感じた。赤くそまった石畳と、鼻の奥に抜けるさびた鉄のような血の匂い。それから血の匂いに隠れてはいるが少しばかり鼻に抜けるアンモニアのツーンとした匂い。そして、その中心にいるさやかの姿と、その奥にあるのは首のない身体。さらに、さやかの手前にあるのはボールのように無機物となった女の子の顔。杏子は実際に出会ったことはなかった者の、その身体的な特徴から、その二つがもともと暁美ほむらという一人の人間を形作っていただろうと察した。

 

「さやか……」

「ッ!」

 

 杏子は、まるで血をかぶったかのように頭の先から真赤に染め上げられたさやかに声をかけた。さやかはそれに対し、ビクッと身体を振るわせた後、ゆっくりと振り返って彼女の顔を見る。

 杏子の目線の先、そこにあったのは確かにさやかの顔だった。しかし、血を触った手で顔に触れたのだろう。手形についた血がさやかの顔を塗りつぶし、さやかの事を知らない人間から見れば、まるでさやかのことが狂人のように見えるだろうというぐらいにさやかの顔を乱すアクセントとなっていた。

 

「……ほむら……か?」

「……」

 

 さやかは、何も言わずにゆっくりとうなづいて、そのまま建物の上へと跳んで行った。杏子はそれを追わなかった。それには二つの理由があったからだ。まず一つ目に、今の彼女にかけてあげる言葉が見つからなかったこと。自分自身魔法少女として多くの経験をしてきた物で、魔女だってたくさん殺してきた。しかし、魔法少女自身を殺したという経験はない。それも、このようにむごったらしく残酷なまでな有様に。恐らく、現場の様子から察するにほむらのさやかはほむらの首を切ったのだ。もちろんさやかがそんな残忍な行いを積極的にやるような人間ではないという事を彼女は知っていた。だから、多分事故のようなものでほむらの首を刎ねてしまったのだろう。だが、事故とは言えどもほむらをこのようにしたことは事実としてさやかの心に残ることだろう。

 杏子はゆまの両親に行った時と同じように胸の前で十字に切って、ほむらの身体、魂があるソウルジェムに向けて死者のための祈りを奉げながら目をつぶった。

 そのようなことをしている杏子は見えなかった。銃を持ったほむらの左手が動き、銃口を杏子のほうに向けた。そして……。

 

「下手な芝居は……」

 

 その指が引き金を引こうとした瞬間であった。地面から突然伸びた槍がほむらの銃を吹き飛ばした。そして、杏子はそのまま立ち上がるとその槍をとって先端をほむらの身体に向ける。

 

「そこまでだ……ほむら」

「……」

「さやかの方はなんとかだまくらかしたらしいけど……あんたの身体と首が魔力で繋がってんのはみえみえなんだよ」

 

 そう、これが杏子がさやかを追わなかった理由の一つ。杏子は、さやかの周囲にあった異様な魔力の正体について当たりを付けていたのだ。恐らくほむらは首を刎ねられる直前に痛覚を完全に消して首と身体の間を魔力で繋いで、生命を維持しているのだろうと。もちろんそれは、近づくまではただの想像に過ぎなかった。しかし、実際に近づき、ソウルジェムの様子を見たらすぐにわかった。ソウルジェムとはつまり、魂その物である。そのため、もしも死んでしまい、魂が抜けたソウルジェムからは輝きが失われるはず。それに、もしも死んでしまっていたら魔法少女の服装だって解けるはずだ。だが、ほむらの恰好は十中八九魔法少女の姿であると言っても過言ではない物だった。だから、杏子はほむらが死んだふりを決行しているのだという確信を得たのだ。

 

「まっ、殺しはしねぇけど……縛らせてもらうよ」

 

 杏子はそう言うと地面から大量の槍を出した。これを多節棍の形態にして地面に結わえ付けておこうという考えだ。杏子からしたら、自分の目的のためにつぼみを殺そうとしたことについては解せなかったが、実際の所つぼみはまだ生きているし、今までのほむらの時間逆行の件を知っているため、どうしてもほむらを憎むことができない。というかむしろ同情すらしてしまっている。そのため、説得を続ければなんとか改心してくれ

るのではないかという淡い期待を持っていた。この世に本当の悪人等いない、それもまた父の教えの中の一つだったから。だが、その時杏子は感じた。上空から迫ってくる殺気を。

 

「ッ!」

 

 杏子は、それを感じた瞬間に後ろへと跳んだ。その瞬間、目の前に一人の少女が現れた。その少女の顔に見覚えがあった。自分がこの見滝原に始めてきた時に対峙した少女だ。

 

「チッ、どうやら外したみたいだね……」

「たくっ、久しぶりにあったと思ったら随分と手洗い歓迎だな……確かキリカって言ったか?」

 

 呉キリカだ。そして、杏子が離れたその隙に、キリカの後ろに現れたのはもう一人の魔法少女、その身に纏っている白いドレスのような服装からして、恐らくマミたちの言っていた美国織莉子であろうことは容易に想像することができた。織莉子は、血だまりの中にあるほむらの頭を持ち上げると、そのままほむらの身体の、切断面とくっつけた。その瞬間、切断面を紫色の光が覆い、その光が収まったその時、ほむらの頭と身体は繋がっていた。

 

「来るのが少し遅すぎるんじゃないのかしら?」

「あら、私は一番のグッドタイミングに登場したと考えているわよ」

「ほむらは、織莉子の作戦に文句を言うつもり?」

「そう言うわけじゃないわ……ただ、ちょっと遅すぎるわよ。おかげで身体の中の血がほとんど出て……」

 

 そう言いながら、ほむらは立ち上がろうとしたが、まるで生まれたての小鹿のように支えていた腕が震え始めて、結局立ち上がることができず自分の血だまりに頭から突っ込む形になった。恐らくは、身体から致死量に相当する血が抜けたことによる貧血症状であろう。もしも彼女の身体がいわゆるゾンビでなかったら、確実に失血死しているほどの血が出ているのだ、起き上がれないのは当たり前である。

 

「仕方がありませんわ。先ほどまで美樹さやかさんがいて、すぐに佐倉杏子さんが来て私たちが出て行く暇がなかったのですもの」

「それに、首を刎ねられるってことはほむらも分かってた事だろ?」

「……なるほどな、だからそこまで手際が良かったのか……」

 

 ほむらの行った行動、杏子もできない事ではないが、もしも失敗すれば斬首された時の激痛がそのまま心を蝕む上、動けないままに魔女になってしまうことは間違いない。そもそも、ソウルジェムに魂が入っているとはいえ、実際に体動かしているのは魂ではなく脳である。そのため、もしも魔力で頭と身体の間にラインを引くのに失敗してれば、そのまま身動きができずに魔女になる恐れもある。つまりは失敗が許されない一か八かの手段なのだ。確か織莉子は未来を見ることができると聞いた。事前にこうなることが分かっているのであれば、ほむらにそのことを伝えて、事前にその行動をとる覚悟と準備を進めていたと考えるのは難しくない。

 

「何をしたかったのかはわかんねぇが、ほむらがそんな様子じゃ、ニ対一……まだ戦いようはあるってことだ」

 

 とにかく、ほむらが戦えないのであれば何とか立ち回るチャンスが出てくる。杏子は自分の得物を構えて臨戦態勢へと入った。しかし、織莉子はそれに対して身動きせずに言った。

 

「残念ですけれど、あなたが私たちに勝つ未来はありません」

「なに?……ッ!」

「四人いるんだよ、本当は」

「しまッ!」

 

 その声に杏子が振り向こうとした瞬間であった。頭に激痛が走り、杏子は跪いた。

 

「杏子さんッ……」

 

 仁美は、その様子を陰ながら見る事しかできなかった。そして数分後、立ち上がった杏子はフラフラとした様子で仁美が隠れている建物のすぐそばまでやってきた。

 

「帰らないと……家に……帰らないと……父さん……母さん……モモ……」

 

 仁美は、声をかけることができなかった。いや、正確に言えばかけなかった。杏子から物音を立てるなと言われていたからである。恐らく、杏子はこのようなことになる可能性も想像していたのだろう。敵が潜んでいるという可能性、そして敵によって自分に何らかの工作をされること、もしくわ自分が殺される可能性だろうか。いづれにしても何らかの障害を予想していたのだろう。だから声もかけず、またどこにもいこうとしなかった。と言っても杏子の作った結界のためにどこにも行けなかったというのが正しいだろうが。

 

「それじゃキリカ、暁美ほむらさんをお願い」

「織莉子の頼みじゃしょうがない。ほら、行くよ」

「礼なんて言わないから」

「はいはい」

 

 どうやら、キリカと言われた少女とほむらはその場から去ったようだ。あと残るのは織莉子ともう一人の少女のみ。その時、四人目の少女の声がした。

 

「で、どうするの?建物の影にいるのの記憶も変える?」

「!」

 

 仁美は、声に出さないで驚いた。すでに自分の存在がばれている。それい、おそらくは杏子に生じた異変はそれが原因なのだろうが、どうやら彼女は記憶を書き換えることができるらしい。このままでは自分もまた杏子のように……。そう思った矢先、織莉子は少女に対して言う。

 

「必要ないわ。私の目的のためには彼女の存在が必要なピースだから」

「アンタの救済って奴?全くよくやるね……」

 

 見逃してくれるようだ。しかし、見逃す代わりに自分は知らず知らずのうちに彼女の言う救済の一つのピースにされているらしい。救済とは何なのだろうか。自分のどの行動がピースであるというのだろうか。魔法少女の事についてはよくわかっていない仁美にとって、それを考えるのは難しいことであった。

 

「それで、貴方はこれからどうするの?」

「それがさ……QBがマツリに全部ばらしちゃったらしくて、おまけにB.A.B.E.Lに私の存在がばれっちゃったみたいだから、一度ホオヅキに帰って……少し早いかも知んないけど、アタシのやりたいことをやらせてもらうから」

「そう……だからあなたはいなかったのね」

「なに?」

「いいえ、何でもないわ……さようなら、日向カガリさん」

「えぇ、それじゃ」

 

 カガリと言われた少女は去っていった。そして、一人残った織莉子のあるつぶやきを仁美は聞いた。

 

「また明日……カガリさん。……天国……いえ、地獄でまた会いましょう……」

 

 仁美は、なにやら不穏な空気を感じ取る。そして、織莉子もまた帰ったところを見計らい、仁美は携帯電話を取り出すとまどかと連絡を取ったのであった。

 そしてついに訪れることとなる。少女達にとって運命の分かれ道となった日。後にすべての始まりであると全世界の少女達に永遠に語り継がれることとなった三つの事件。一見してそれらは別々のなんらつながりのない事件であったと言えよう。だが、その事件を繋ぐキーワードがあった。それが、プリキュア、そして女の子の可能性。時刻はもうすぐ運命の日に入ろうとしていた。未来を生きる女の子たちすべてにまで影響を与え続ける大事件の日は、こんなにも簡単に訪れたのだった。

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