映画 プリキュアオールスターズVS魔法少女まどか☆マギカ 悠久の絶望は永久の希望に   作:牢吏川波実

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外伝(みゆき編):みゆきの笑顔は皆を笑顔にするクル

「ふむ……魔法少女か……」

『彼女たちが言うには……』

 

 B.A.B.E.L.局長、桐壺帝三は局長室にて梅枝ナオミのテレビ電話での報告を聞き、考え込むように机に両肘をついて、口元に手を持ってくる。ある町の連続通り魔事件を聞いて、特務エスパーを何人も送り込んだが、まさかそんなものを見つけてしまうとは。まるで、太古の昔の地層から携帯電話でも発掘したかのような感覚だ。そういえば、何年か前にECMの効果がない少年という物がテレビで取り上げられたことがある。確か、動物と話すことができると。ECMが作動している中でもそれを成した少年を、世の中は魔法使いだと一時期騒いで、その後ゆっくりと終息していった。もしやすると、あれも魔法少女が関係していたというのだろうか。

 

「それで、当事者の少女たちは今どこに?」

「はい、星空みゆき以下プリキュア5名は、現在昏睡状態、現地の病院に入院中。先ほど、星空さんだけは目覚めたと。彼女たちの親には、健康診断のために数日間B.A.B.E.L.で預かるとだけ連絡しました」

「うむ……本当の事も言えるはずないし、エスパー犯罪に巻き込まれたと言われれば心配なさるだろうからな……」

「また、彼女たちの妖精のキャンディと、魔法少女である日向マツリは星空さん達に付き添っています。それから、星空さんが所持していたソウルジェムは運ばれている最中でもうしばらくしたら届くかと。……あと、キャンディからの情報提供で、事情を知っているプリキュア一名に来てもらうことになりました。ただ放課後でもいいと連絡したら、すぐにホオヅキに向かうと。そのため、公欠の手続きをこちらでしておきました。またかずみ、海香、カオルの三名は事情を聴取した後に一度あすなろ市に戻ってもらう様に言いましたが、ホオヅキの方に向かったと連絡が……」

「うむ……やはり」

「成見亜理紗、天乃鈴音両名を探しに行ったと……」

「うぅむ……」

 

 秘書の柏木朧からの報告を受けて唸り声をあげて考え出す桐壺。あの、ハルカという少女が元となった魔女を倒した後、アリサとマツリ、そしてナオミの三名はスズネとその場に現れたQBという生き物から全てを知った。魔法少女の真実、魔女の正体。そして、スズネが魔法少女になった理由も。

 

「それで、美琴椿という女性については?」

 

 QBが見せたビジョンによると、天乃鈴音は幼い頃魔女に両親を殺された少女だった。スズネもまた魔女に殺されそうになったが、美琴椿という女性がスズネを助け、そしてスズネもまた魔法少女となった。スズネの能力である倒した魔女の力を吸収することができるという能力はかなりレアな能力のようで、QBもいたく感心していたようだ。そして、彼女たちは一緒に住み、共に魔法少女として魔女と戦い、そしてツバキは魔女となった。

 ソウルジェムの穢れ、それを取るグリーフシードを主にスズネにのみ使用していた彼女はついにその負荷に耐えられなくなり、その姿を醜い魔女と変えたのだ。スズネは彼女を、ずっと育ててくれた彼女を倒し、そして彼女はツバキの力を手に入れた。今でも使っているソレが、ツバキの能力であったもの。そこで、彼女は決心したらしい。魔法少女が魔女になる前に、殺すということを。この悲しみや憎しみを、自分自身の手で止めると。

 

「はい、数年前に捜索願が出されています……ただ」

「ただ、何だね?」

「……提出した人物の苗字が……日向という方で……」

「日向?……まさか……」

「はい……それと、もう一つ驚くべきことが……」

「驚くべきこと?」

「はい……日向マツリには……」

 

 

「日向……カガリ……」

 

 マツリは、病院の屋上で一人その名前をつぶやいた。記憶にはない、自分の姉の名前を。いや、この名前を口ずさむと無性に頭がくすぐられる。くすぐられて、記憶の底にある棚から抜け出そうとしている感覚。だが、それを拒んでいる者がいるという感覚。先ほど、B.A.B.E.L.の職員である女性が言った。美琴椿は、かつて日向家で世話係として雇われていたらしいと。しかし、自分にも、そして離れて暮らしている父にもその記憶はなかった。それどころか、戸籍上自分には双子の姉がいるというのだ。それが、日向カガリ。それを聞いた瞬間、頭が痛んで、そして、自分の顔が浮かんだ。いや、あれは自分じゃない。あれがカガリなのだろうか。それと、一人の少女の、あれは……誰だっけ。どこかで見たことのあるような少女。私と同じような、心細そうにしている女の子。そう、あの懐かしい鈴の音を響かせている少女。確か、あれは……。

 

「ッ!」

 

 また、頭が痛みだす。どうしてこうも何かを思い出そうとするのを拒むのだ。どうして、どうして……こんなに、悲しいのだろう。

 

 

 

『どういうことなのでしょうか?』

 

 ナオミは、局長である桐壺に疑問をぶつける。美琴椿という女性が雇われていたという事実もあり、日向カガリという少女の戸籍まである。しかし日向マツリの記憶には、その女性の記憶も、双子の姉である日向カガリの記憶もない。これは……。

 

「エスパーであれば、ヒュプノによる記憶操作が考えられるが……」

 

 催眠能力であるヒュプノは、相手に幻覚を見せるなどの効果だけでなく記憶を操作することもできる。現に、少し前まで戦っていたある少女のヒュプノは高レベルエスパーである少女達も含めて数十人単位で記憶を操作し、自身がいたということを忘れさせていた。今回もそれなのか。いや、しかしそれが魔法少女としての能力という可能性もある。

 

「とにかく、今は一刻も早く天乃鈴音を探すことが先決だろう……。まだ、彼女にやり直すチャンスが残っているうちに……」

「はい。『ザ・ワイルドキャット』は、谷崎主任と合流後そのままスズネさんを探してください」

 

 主任の谷崎はあの後合流でき、ナオミが病院までみゆきたちの付き添い、谷崎は引き続きアリサとスズネを探すという話となっていたのだ。

 

『分かりました。ただその前に、みゆきちゃんたちに会っていいでしょうか』

「あぁ、もちろん……それから、『ザ・ハウンド』は宿木君が昏睡状態で目覚めていないため小鹿くんと初音くんに行って貰うこととなった。チルドレンの方は?」

「はい、現在は全員が見滝原に、今の任務が終わったらすぐに向かって貰う手はずになっています」

「うむ、とにかく事態は一刻を争う。それ以外の特務エスパーには他の魔法少女を捜索し、保護してもらおう」

「ですが……今までも見つからなかったのです。望み薄では?」

「彼女にこれ以上罪を犯させないためにも今はやるべきことをするだけだ」

 

 桐壺がそう命じたのは、スズネのターゲットを少しでも減らし、魔法少女たちを守るため、ひいては、これ以上スズネ自身の罪を増やさないための物だった。だが、今まで特務エスパーたちが全国各地を回って魔法少女というものを見つけることができず、名前どころか存在すらも知らなかったのだから、今更探し回っても朧の言う通り見つかる可能性はないに等しいだろう。桐壺は、沈痛な面持ちで言う。

 

「いざとなったら……」

「いざとなったら?」

「いや、何でもない……」

 

 桐壺の頭には、銀髪で学生服を着た男の顔が思い浮かんだ。正直あそこに頼むのだけは避けたいがしかし、いざとなったら協力を申し出なければならない。これは、魔法少女の問題だけではない、エスパーたちにも関わりをもたらす恐れのある事態なのだから。

 

 

『ねぇ、どうして助けてくれなかったの?』

 

やめて、私は助けようとした……。

 

『ねぇ、貴方は元に戻せるって言ったじゃない』

 

言った。それに、前は元に戻せた。元に戻せたのに。

 

『不公平だよね、その子たちが生き残って、私だけが死んじゃうなんて』

 

ちがっ、違う……。違うはず……なのに。

 

『どうして、貴方は私を殺したのに生きてるの?』

 

どうしてって……。だって、私……。

 

『どうして笑顔なの?』

 

どうして……私、生きてたらダメなの?

 

『うん』

 

私は、笑顔を見せたらだめなの?

 

『うん』

 

 

 

 

 

『人殺しが、笑顔なんて見せていいはずないでしょ?』

 

ッ……。

 

『私にも夢があったのに』

 

ごめんなさい

 

『私にも未来があったのに』

 

ごめんなさい

 

『私にも友達がいたのに』

 

ごめんなさい

 

『それを守れなかったあなたがどうして笑うの?』

 

ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい

ごめんなさいごめんなさいごめんなさい

ごめんなさいごめんなさい

……ごめんなさい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『絶対に許さない』

 

 

「ッ……」

 

 星空みゆきは耳をふさぐ。しかし、その声は止まることなく彼女の耳を容赦なく貫いて止まることはない。マツリが病室を出た直後からなりだした耳鳴りのような不快な声、しかしそれらは全て自分の事を救わなかった自分への非難の声。助けられるはずだった。なのに助けられなかった。慢心していたのでもなく、自意識過剰になっていたのでもない。本当に、助けられるはずだった。あの子の友達を助けられるはずだった。それなのに自分は助けることができなかった。

 

「みゆき、大丈夫クル?」

「キャンディ……」

 

 自分の横にいるキャンディが、自分の事を心配して声をかけてきてくれた。しかし、彼女にはその優しさをうれしく思う余裕なんてなかった。

 

「みゆき、悲しい顔はしないでクル。キャンディは、みゆきに笑顔でいて欲しいクル……」

 

 笑う、笑顔、スマイル。でも、自分が笑っていいのか。あの女の子の笑顔を救えなかったのに、今だってあの子は私に笑顔を見せる理由があるのかって言っている。絶え間なく、ただただ自分に対して恨み事を言っている。でも、それが当然なのだ。自分は彼女を救えなかったのだから。だから……。

 

「……ごめんね、キャンディ」

 

 自分は、もう笑顔になってはいけないのだ。だが、それをキャンディは受け入れない。

 

「どうして、みゆきが謝らないといけないクル……」

「キャンディ……」

「みゆきは頑張ったクル!最後まで、あの子を救おうとしたクル、それなのに……キャンディは、みんなに笑顔でいて欲しいクル……どうして……悲しい顔をするクル……」

「……」

 

 確かに、自分は頑張った方だとは思う。しかし、過程はどうであれ結局自分は彼女を救うことができなかった。彼女の笑顔を取り戻すことはできなかった。だから……。

 

「ごめんね、私笑顔になっちゃダメなの……」

「そう思っているのはみゆきだけクル!みゆきは……みゆきの笑顔は皆を笑顔にするクル……だから、みゆきが笑顔にならないと……」

「キャンディ……」

 

 キャンディは、みゆきの胸で泣き始めた。キャンディを泣かせたのは自分だ。自分は一体何人の笑顔を失えば気が済むのだろうか。すでに、自分は少女二人の笑顔を奪った。その家族の笑顔も、友達の笑顔も、仲間たちの笑顔も奪ってしまった。みゆきは、立ち上がれる気が一切しなかった。

 飛ぶことに恐れを抱いた鳥は、二度と大空を羽ばたくことができない。それと同じだ。一度笑顔になることに恐怖を抱いた少女は、また笑顔になることはできないのだ。


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