映画 プリキュアオールスターズVS魔法少女まどか☆マギカ 悠久の絶望は永久の希望に   作:牢吏川波実

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外伝(みゆき編):魔法少女になんか……なるんじゃなかったッ!

 完全に自分のミスだ。せめて休日まで待ってもらって、自分も彼女達と一緒に行くべきだったのかもしれない。

 

「お客さん、見たところ学生さんだよね、学校は?」

「えぇ、創立記念日なんです。それでせっかくだから入院している父のお見舞いに遠出してきたんです」

「そうなんだ……」

 

 月影ゆりは、タクシーの運転手に向かって息を吐くように嘘をついた。しかし、創立記念日という言葉はかなり有効な嘘である。国民の休日に指定されている体育の日や子供の日とは違って、創立記念日はその学校独自に作られたもの。そのため、ちょっと離れた場所でこの嘘をついても何ら不思議がられることはない。遠出をしてきたという文言も付ければさらに有効だ。ゆりは、知らない道を走るタクシーの外から見る知らない景色を見ながら今朝早くにあった電話の事を思い返す。

 学校への登校中の事であった。彼女の携帯にどこかから着信があったのだ。電話の画面にあったのは、『B.A.B.E.L.』という組織の名前。変に思いながらもそれに出た彼女に告げられたのは要約するとこうなる。

 

『スマイルプリキュアの五人が魔法少女の救助に失敗して、病院に運ばれた』

 

 何故自分は彼女たちを止めなかったのだろう。あの時、もしも自分が止めてさえいれば、彼女たちが傷つくことはなかったというのに。いや、それは全て結果論にすぎない。もし自分が止めていたにしても、彼女たちはこの街に来たことだろう。彼女たちは、優しすぎるから。こうも冷ややかな反応ができるということは、自分が大人になったということなのだろうか。もしもそうだったら嫌だ。誰かの不幸に対して何にも感じなくなるなんて、そんな人間になることだけは否定したかった。とにかく、一刻も早く彼女たちに会わなければならない。放課後に迎えに来るとは言った物の、それまで待っていられることができなかった彼女は、すぐに家に帰って着替え、そして電車に飛び乗った。幸い母親はすでに仕事に出かけていたし、学校についてはB.A.B.E.L.の方が何とかしてくれたらしい。そして、タクシーを拾ったゆりは一人、みゆきたちが運ばれた病院へと向かっている最中なのだ。

 

「こうなることは、分かっていたのに……」

 

 ゆりは、小袋に入れているソウルジェムの欠片を手の平に乗せてつぶやいた。思えば、彼女たちはこのソウルジェムの元の持ち主の少女を助けられなかったという罪悪感があったのだ。それに加え、今度は目の前で魔女になった魔法少女を助ける事にも失敗した。誰かの死に対して免疫を一切持たない彼女たちにとっては、とてつもなく苦しいことであることは容易に想像できる。無論免疫なんてものつかない方がいいのだ。しかし、助けられると信じていたのに、助けられたはずなのに助けられなかったという事実は、彼女たちの心を万力で押しつぶすかのように辛いことなのは間違いない。

 

「お客さん、着きましたよ」

「……え?あ、ありがとう」

 

 目的地の病院に着いたらしい。ゆりは、お金を払うとタクシーから降りる。ドアは自動で締まり、タクシーは次の客を探しに向かった。その病院はかなり大きく、平日の昼前であるというのに大勢の人間が行きかっていた。いざ病院に入ろうとしたゆりだが果たして、その前にあることを思いつき電話を取り出した。例え、自分が行ったとしても、特にあまりにも優しすぎるみゆきの心を取り戻すことは難しいかもしれない。だが、彼女たちを励ましくれうるだろう人物が一人いる。彼女ならもしかするとみゆき達を救ってくれるかもしれない。一縷の望みを託し、彼女はその人に繋がる人物に連絡をした。

 

 

 彼女はいつの間にか砂漠にいた。上から照らされる太陽の光は眩しく、手をかざしてそれを遮らなければ前が見えないほどだった。

 

「ここは……どこなの?」

 

 その時だ、誰かの影が突然現れた。

 

「あれは……誰?」

 

 見覚えがある。あの大きなリボン、後ろ姿、長い髪、見間違えるはずはない。彼女は、走り出す。

 

「ツバキ!」

 

 しかし、すずねの声が届いていないかのように無視して彼女は歩き続ける。すずねはそれを追った。

 

「待ってよ!ツバキ!ツバキなんでしょ!?」

 

 どれだけ走ろうとも追いつかない。どれだけ声をかけても振り向いてくれない。彼女は走り続けた。しかし、走っても、走っても、足の感覚がないように思う様に前に進まない。壊れてしまったのだろうか。その時、ツバキの足が止まった。

 

「ツバキ!」

 

 ついに、彼女はツバキの背中に追いついた。すずねはその肩に手を伸ばす。しかし、後一歩で彼女に触れられるというところで、足に何かが絡みついた。

 

「なっ……」

 

 すずねは恐る恐る足元を見る。髪の毛だ。長い髪の毛が彼女の足に絡みついて離れない。いや待てこれは……。

 

『ヒトゴロシ……』

 

 顔だ。無数の黒い顔が彼女に告げている。

 

『次ハダレ?ツギハ誰?』

 

 次に殺すのは誰。次に殺されるのは誰。貴方は私たちのように殺すの。誰かが私たちのように殺されるの。何人もの声が重なったその声にすずねは恐怖を抱く。

 

「何……これ……」

 

 汗が頬から垂れた。すずねはツバキに伸ばした手をめいいっぱいまで伸ばし、そして彼女の服を掴んで言う。いつもと同じように、いつもと同じだったように。知っていたはずだったのに。もうそのいつもは訪れないということを。

 

「ツバキ……!助けて……!!」

 

 ソシテ、振リ向ムイタ彼女ハ言ッタ。

 

『スズネ……ドウシテ私ヲ殺シタンデスカ……』

「……ッ!!」

 

 その瞬間、彼女の意識は覚醒した。

 

「夢……」

 

 嫌な夢だった。ツバキの目から墨汁のようなどす黒い血があふれ出し、見るも無残なもので、背筋が凍ってしまうほどに恐ろしい顔となっていた。ここは、ホオヅキのある廃ビルの屋上だ。昨晩の一件で、B.A.B.E.L.の人間に顔のみならず、名前まで漏れてしまった。もう自分が下宿している小さな新聞社に戻ることなんてできなかった。自分は、着々と追い詰められている。魔法少女のみならず、警察やエスパーたちの包囲網は自分に迫ってきている。こういった時には、多分逃げればいいのだが、自分に行く当てなんてあるわけがないことは分かり切っていることだ。彼女に残されているのは、ただ使命だけ。魔法少女を殺して、殺して、殺して、殺して、殺して……殺すだけしか残されていない、そんな自分を悲しむ余裕なんてあるわけなかった。とりあえず、もう少し休んだら行動を始めよう。ホオヅキから出て、後は野となれ山となれ、そんな作戦にもならない作戦を思い描いている彼女の事を、遠くから見るひとりの少女がいた。

 

「あーあ、どういうつもりなの?」

「マツリ達にビジョンを見せたことかい?」

「当たり前だよぉ、お呼ばれで見滝原に行っている間に余計なことしてくれちゃって」

「僕はヒントをあげただけさそれに、そろそろタイムリミットも近いからね」

「でもま……眺めてるのにも飽きたし、そろそろかな?待っててねスズネちゃん」

 

 QBに話しかける一人の少女。すずねがいるビルよりもさらに高いところから彼女の姿を見て奇妙な笑みを見せる少女。その顔は、マツリと瓜二つであった。

 

 

 チサトだったならなんて言うだろう。ハルカだったらなんて言っただろう。すでに死んだ人物が言うかもしれなかった言葉というのは、どう思ったとしてもそれは自分の言葉であるから、アリサに正解を投げかけるということは絶対になかった。

 アリサもまたすずねと同じく学校をさぼっていた。理由はすずねを探すため、そして自分自身の中でけじめをつけるため。QBから魔法少女の真実を知った後、彼女は家に帰って、翌朝早くに家から出た。今頃家族も心配しているかもしれない。ふと彼女が足を運んだのはある家の前。それは、彼女たちの仲間の一人、一番最初にすずねに殺されたチサトの家だった。どうしてそこに足を向けたのかは彼女自身にもよくわからなかったが、しかし彼女は立ち止まって家の外観を見ているだけであった。もしかすると、まだ家からチサトが出てくることを期待していたりするのかもしれない。馬鹿なことを考える。自分は彼女の葬式に出席したではないか。彼女の遺体もちゃんと見た。そう、結界と共に消えたハルカの遺体と違ってだ。自分は、彼女たちにハルカが殺されるのをだまって見過ごしてしまっただけでない。ハルカの遺体を持って帰る事すらも出来なかった。自分もいつか、そんな死に方をするのだろうか。そんな、空しい死に方を……。

 

「おや?お客さんかな?」

「え?」

 

 アリサに声をかける男性の声。アリサがそっちの方を見ると、そこには眼鏡をかけた四十台後半くらいの年齢の男性がいた。男性は、かぶっているフードの隙間から見えるアリサの顔を見ると言う。

 

「もしかしてチサトの……君、学校は、あっ!ちょっと君!!」

 

 男性は、平日であるというのに学校に行っていないアリサのことが気になったのだろう。学校の事について聞かれる前にアリサは、男性の制止する声も構わずに走り続ける。いくつかの角を曲がって、ふと後ろを向く。男性は追ってきていない様子、どうやら振り切れたようだ。

 

「チサトのパパ……あれがチサトの『願い』なのよね……」

 

 アリサは、以前チサトに聞いたことがあった。チサトの父親は、絵本作家だった。子供たちに夢を与えられるような話を書くことを目標にして、希望に満ちていた男性だったらしい。しかし、チサトの父親の絵本は最初は注目されることはあった物の次第に周りの興味も薄れ、新しく絵本が出版されるたびに部数はどんどんと落ちていき、最後には彼の絵本を出版してくれるところはなくなってしまったらしい。それから彼の生活は、チサトの家族の生活は変わってしまった。毎日毎日酒を飲んでは、母親に当たり散らし、それでも夫の事を信じて一人で働いていたが、そのせいで体を壊して亡くなってしまった。それ以来、父の怒りの矛先は一人娘のチサトに向かってしまった。

 我慢して、我慢して、でもどうしても耐えられなくなったその時、QBが彼女の前に現れたのだ。そして彼女は願った。父を、優しくて立派な理想の父親に更生させてほしいと。それ以来、彼は絵本を書くことは無くなってしまった。父親が変わってしまった原因の根本に絵本があったからなのかもしれない。あの時のチサトとの会話を、アリサははっきりと覚えていた。

 

『父さんは、もう絵本を書くことはなくなった。ひどいでしょ?自分の父親を魔法の力で変えちゃうなんて……』

『……そんなことない』

『え?』

『だってチサトは何も悪くないじゃん。アンタのママだって子供を傷つけてまで本を書いて欲しいなんて……思わないわよ』

『……ありがと』

 

 あの時、チサトは泣いていた。あの涙の意味は、今でもよく分からないが、少なくともチサトは父親を変えてしまった罪という、重い物をずっと背負ってきたということは分かる。そう、自分なんかよりもだ。

 自分は、元々いじめられっ子だった。今の自分だけを知っている人間からは想像できないほどに弱気だった自分は、ある日QBに出会った。その日も机の上に花瓶と花を置かれたり、机の中に大量のごみを入れられたりして周りは、そんな自分を見て見ぬふりをして、彼女は正真正銘一人ぼっちだった。そして、机の中のゴミをまとめて袋に入れてゴミ捨て場に持っていく。その途中の事であった。誰もいないゴミ捨て場で、彼に出会ったのは。最初は、ぬいぐるみか何かかと思った。しかし、彼はそれを否定した。

 

『心外だな、僕はぬいぐるみじゃない。QBさ』

『じゃあ……妖精……さん?』

『まぁ、そう捉えてもらっても構わないよ。見たところ、君は問題を抱えているようだ』

 

 見透かされている。アリサはそう思った。QBは続けて言う。

 

『僕ならば、それを解決できるかもしれない』

『え……どうやって……?本当にそんな事出来るの……!?』

 

 普通なら疑ってしまうようなこと。しかし、心が疲れ切っていた、そして純粋でもあったありさは、そんな彼の言葉に乗せられてしまった。彼は、自分の目線に合わせるように渡り廊下の手すりに乗ると言った。

 

『もちろん君の気持次第だけどね。アリサ、僕と契約して、魔法少女にならないかい?っそして、悪い魔女と戦うんだ』

『悪い‥…魔女と戦う?』

『そう、つまり僕が君の願いをかなえてあげる代わりに君にその≪魔女≫を倒してほしいってことさ。叶えたいことがあるのなら、言ってごらん?』

 

 その魔女、という物が何なのか彼女にはよくわからなかった。しかし、叶えてもらいたい願い、というより変えたいものはあった。もうイジメられたくない。イジメられるのは、きっと自分が弱いから。そう考えていた彼女は、その場でQBに言った。言ってしまった。

 

『私……私もっと強くなりたい!皆を見返したい!!』

『分かった、契約は成立だ』

 

 結局、強さを求めた先には悲劇しか残らないというのに。そのすぐ後に自分は、いじめっ子たちに仕返しをして、果てには別の中学の不良まで倒して調子に乗って……。でもそれも全部QBに頼んだから、自分の力なんかじゃない。なのに、それをあたかも自分のものだと思って、それで、それで……大切な人達を殺されて……。

 

「力が……欲しい?皆を見返したい?……それだけ……たったそれだけのために抜け殻にされて……化け物になるっていうの?」

 

 アリサはふと自分の手を見た。震えている。ちゃんと動いている。でも、この身体は自分の心が動貸しているのではない。自分の指にはまっているその指輪が、ソウルジェムが動かしている操り人形。遊ぶだけ遊ばれて、古くなったら処分されて化け物へと変えられて、また別の遊び道具として魂をもてあそばれて、そして何も知らない純粋無垢な自分よりもきれいな子供たちに壊されてしまう。そんな哀れで醜い人形。

 

「そんな、そんなの嫌……こんな事なら」

 

 途端に、体中が凍るような感覚が彼女を襲った。いや、それが当たり前なのかもしれない。人形が、温かみを持ってはいけない。そんなの、人間が持っていていいものなのだから。自分はもう、人形以上の存在になることはできない。なのに何故、こうも目から水が流れ出すのだ。どうしてこうも、苦しいのだ。なんで、どうして自分は……。

 殺したい。あの時のいじめっ子を、殺したい自分を魔法少女にしたQBを、殺したい自分を友達と言ってくれた人たちを殺したすずねを……。

 

「魔法少女になんか……なるんじゃなかったッ!」

 

 あの時の、人形になる前の自分を……。

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