映画 プリキュアオールスターズVS魔法少女まどか☆マギカ 悠久の絶望は永久の希望に 作:牢吏川波実
振り下ろされた鎌。その先にあったのは衝撃によってえぐれたレンガの道路のみ。そこに、キャンディはいなかった。
「ッ!」
「キャンディ!」
「スズネちゃん!」
みゆきたちの方へと転がり出たのは、アリサが鎌を頭上に挙げた瞬間に動いたスズネだ。キャンディは今、スズネの腕の中にいる。
「クル、ありがとうスズネ」
「お礼はいいわ、それより……」
キャンディを道路に下して立ち上がったスズネは、アリサへと目線を映した。そこにいたのは先ほどまでのアリサとはまったく違う。まるで理性を失った眼をした野獣。先ほどまでの純粋な心をもっていた少女はもういなかった。
「あはッ!!死んじゃえ!!」
その目を見た一瞬の隙、アリサはスズネにとびかかり、彼女の首を刈ろうとする。だが、スズネは冷静にそれを剣で防ぐと、その腹を蹴った。
「スズネちゃん!」
「大丈夫、獣と戦うのは初めてじゃないわ」
スズネは数日前に特務エスパー『ザ・ハウンド』の初音と戦闘している。その時のことを思い返しながら言った。とはいえ、彼女はまだアリサよりも人間味のある女性だったが。
「どうしたのアリサは……」
「日向カガリ!あなたが何かしたのね!」
「お姉ちゃん……」
日向カガリは、唇を細めての微笑みで返して言う。
「えへへ、元気だったぁ?マツリ」
「お姉ちゃん、アリサちゃんに何をしたの?」
「何って、消してあげたんだよ、記憶を」
「え……」
「あ、でもでもお友達の記憶を消しちゃうとこの子がスズネちゃんを殺す原因がなくなるし、まだ魔女になってもらっても困るからスズネちゃんみたいにしたげたんだよ……まぁ、洗脳とおなじかなぁ?」
「私……みたいに?」
「ひどい……」
「そんな怖い顔しないでよ、本当は殺すつもりだったところを多勢に無勢だからこうしてげたのにねぇ」
「ッ!」
この少女、危険だ。今まで出会ってきたどの犯罪者よりも、魔法少女を何人も殺してきたスズネよりも危険な少女だ。損得勘定で人の生き死にを決めようとするなんて、常軌を逸している。
それよりもスズネが気になったのが、彼女がアリサを自分のようにしたという発言。これは、彼女が自分の記憶を操作したという事実に他ならない。なら、彼女はいったい自分の記憶のどれを消したというのだろうか。いや、彼女の言葉が正しいというのならば、自分はその記憶が消えてしまったという事実、その先にある消えてしまった記憶のことなど完全に忘れてしまっているのだから、考えるだけ無駄なのであろう。
「ハハハハハッ!!!!」
「ッ!」
「こっちにも!?」
アリサはスズネだけではなくみゆきたちのほうにも襲い掛かかる。どうやら、見境なく人を襲うように記憶を操作されてしまったらしい。これでは、本当にただの獣、それも凶悪なという言葉が付くほどの野獣だ。
「クッ!!」
「ナオミ!」
アリサがみゆきにかみつこうとした瞬間、前に出たナオミが超能力を使ってアリサの動きを空中で封じる。だが、それもいつまでもつのかわからない。魔力で中和でもされているのか、徐々に彼女の身体が動きを取り戻していくのが見てわかる。この状態が長くは続かないことは明白だった。
「谷崎主任!リミッターを!」
「わ、わかった!特務エスパー『ザ・ワイルドキャット』解!禁!」
ナオミにそう命令された谷崎が(というかいたのかお前)自分のパソコンを操作すると、梅枝ナオミの能力を縛っていたリミッターが解除され、ナオミの能力が一気に超度3から超度6へと戻った。
「ハァッ!!」
「ッ!!」
その力により、アリサはなすすべもなく吹き飛ばされる。昨晩は自分の超度がリミッターによって下がっていたため、そして今までに見たことのない怪物であった魔女相手に防戦一方だったが、相手が人間で、そして自らの力をフルで使える今ならばなんとかなる。
「ナオミさん!」
「みゆきちゃん変身して!ここからは、油断なんてできないわ!」
「はい!」
ナオミにそう促されたみゆき以下五名のスマイルプリキュアはスマイルパクトを、ゆりはココロポットを、さらにマツリもソウルジェムをもって並び立った。
≪≪≪≪≪Ready?≫≫≫≫≫
「「「「「プリキュア!スマイルチャージ!!」」」」」
「プリキュア!オープンマイハート!!」
「え?えっと……へ、変身!」
≪≪≪≪≪go!gogo!let'go≫≫≫≫≫
≪happy!≫
≪sunny!≫
≪piece!≫
≪merch!≫
≪beauty!≫
「キラキラ輝く未来の光!キュアハッピー!」
「太陽サンサン熱血パワー!キュアサニー!」
「ピカピカぴかりんじゃんけんぽん♪キュアピース!」(グー)
「勇気リンリン直球勝負!キュアマーチ!」
「しんしんと降り積もる清き心!キュアビューティー!」
「「「「「5つの光が導く未来!輝け!スマイルプリキュア!!」」」」」
「月光に冴える一輪の花……キュアムーーーンライト!!」
「え、これも?えっとえっと……ひ、日向マツリ!」
「別に無理せんでええねんでマツリ」
こうして変身したプリキュア六人と、場の流れで変身の掛け声と名乗りまで行った一人の魔法少女。
今ここには六人のプリキュアと五人の魔法少女、そして一人の特務エスパーが味方でいる。だが、この多勢に無勢な状況でカガリが何もしてこないわけがない。仲間がいるのか、それとも先ほどのように誰かを洗脳するつもりか。
「ふぅん、それがプリキュアなんだ、ほむらも言ってたけど魔法少女と瓜二つだね」
「ほむら?」
「こっちの話……さて、と。それじゃこっちもみんな出しちゃおうかな」
やはり、まだだれかを操っているのか。身構える少女たち。その瞬間、上空から殺気を感じ取ったムーンライトが叫んだ。
「上ッ!?避けて!!」
「ッ!!」
その言葉に、少女たちは散開した。瞬間、カガリとマツリ、スズネの三人とほかの少女たちの間に土煙が舞う。ムーンライトの言葉から察するに、建物の屋根の上から現れたのだろうが、果たして本当に人間がそこに入るのだろうか。どちらかといえば先ほどのアリサと同じ、いやそれ以上に獣のような気配を感じる。果たしてアレは何なのだろう。
「え?あれって……」
「オオカミ?」
瞬間的に舞い上がった土煙が収まったころに現れた者、それはまさしくオオカミだった。四足で歩行し、その身に毛の鎧をまとい、うめき声のような鳴き声を上げている野獣。しかし、その野獣の正体を知っている者が四人いた。
「いえ、あれは……いやあの子は!」
「あれって、あの時の?」
「ハッピー知ってるの?」
「うん、前にスズネちゃんに襲われたときに助けてくれたエスパーの……」
「そう、彼女は『ザ・ハウンド』の犬神初音、確か天乃スズネを探すために再びこの街に来ていたはず」
「それではあの方も……」
「操られたってこと?」
「そんな……」
自分を助けてくれた命の恩人でもある初音もまた洗脳されて自分と敵対する。その事実に複雑な気持ちとなるハッピーだが、敵は彼女だけではない。
「ッ!みんな!飛んで!」
「ッ!」
「な、ナオミィィィィィ……」
カガリの向こう側からこちらを見ていたかずみがそう叫んだ瞬間、全員が飛び上がった。言葉の真意はわからないが、しかし何かがある、そう感じた。あとこの面子の中で唯一なんの力も持たない一般人である谷崎はナオミの超能力によって吹き飛んでいった。
その瞬間である。多数の銃弾の雨が彼女たちの下を通り過ぎて行った。
「あれは!?」
「やっぱり……」
飛ばなかったカガリ、アリサ、そして初音のことを見るにこれはカガリに洗脳された者たちによるものであることは間違いない。そして、それだけの武器を用意できる者たちなど限られている。ナオミは、その弾が発射された方向を見る。そして、やはりといった 感情と共に言った。
「この街には、天乃スズネを探すために地元警察が武装して巡回していたの」
「それじゃ!」
そこにいたのは青色の制服に身を包んだ警察官たち。見た限りでも三十人は確実にいる。なるほど、魔法少女のアリサとエスパーである初音、そして武装した警察官たち。これがカガリの戦力というわけである。
「ハァァァァ!!」
「ッ!!」
確かに総合的な力を見るとまだハッピーやスズネたちに分がある。しかし相手は全員が本来は味方側の人間たち、警察官たちに至っては何の力も持たない一般人である。
「手加減しないと戦えないって大変だねぇ、ねっスズネちゃん」
「日向カガリ……」
ほかの者たちが戦いに向かう中カガリ、そしてまるで図ったかのようにスズネとマツリの二人が取り残された。
「さて戦う前に……スズネちゃん」
「なに?」
「私のことは覚えていないの?」
「……あいにく、あったこともないわ」
「ふ~ん……ツバキのことは、覚えているのにねぇ?」
「ッ!」
「スズネちゃん!!」
瞬間、スズネの剣が彼女のソウルジェムを捉える。
「なぜあなたがツバキを知ってるの!?QBから聞いたのね!?」
「違うよスズネちゃん!ツバキは……私も記憶がないけど、昔私の家で私とカガリを世話してくれていたらしいの……」
「な……!?」
スズネは、その言葉に驚愕する。ツバキが、昔にマツリや目の前にいるカガリと一緒に暮らしていたとはどういうことなのか。
「あはっホントにおぼえてないんだぁ……ま、当たり前なんだけど」
「カガリ、私に……私とスズネちゃんに何をしたの?」
「教えてあげるよ……私の記憶も一緒に見せてね」
『え~!そんなのヒドイよ!魔女は何も悪くないのに!』
『また一人ぼっちになっちゃうなんて……かわいそう……』
『そうですね、一人ぼっちは……とってもさびしいですから。でもこのお話は……』
「あれは、ツバキ?」
「あれが……それに、私と、カガリ?そうだ思い出した。私は確かに、ツバキとカガリと一緒に住んでた。それで……」
『パパは嘘ついているんだ……!だって……だって……ツバキが私たちをおいてっちゃうわけないもん!!』
『でも……』
『でもじゃない!なんかへんだよッ!!マツリだってそう思うでしょ!?ケーサツの人だって来てたし……きっと……きっと何かあったんだよ……』
『何かって……?』
「ツバキが私たちの家から出た後、パパもなにも教えてくれなくて……いつ帰ってくるってきいても、何も……」
「その時、ツバキは私のところに来てくれて、そして魔女になった……」
『ま、マツリも!マツリもついていく!ツバキに会いたい!』
『ダメだよ、マツリは目が見えないし危ないもん』
「目?」
「あ、そう……私は生まれた時から目が見えなくて……そうだ、その後だ……」
「あれは……」
『やぁどうしたんだい?』
『!』
『何か……困ってるみたいだね』
「QB……」
「そう、私QBに目が見えるようにって願って、それで魔法少女に……」
「私が魔法少女になってから、まだ日が立っていない時期に……」
「そうだ、それで街中を探したけど、ツバキは見つからなくて……そして……」
リィン……
「!」
『!』
『マツリ、今の……』
『うん!ツバキの音!』
『行こ!こっちだよ!!』
(ツバキ……やっぱりいたんだ!)
リン
(聞こえる……そこにいるんでしょ?ツバキ!会いたかっ……)
『え……?』
「私……」
「スズネちゃん?それじゃ、私とカガリは、スズネちゃんに会っていたってことなの?」
『じゃあ……あの子がツバキを殺したの?』
「カガリとQB……」
『あぁ、だが……魔法少女はいずれ魔女になりそこからエネルギーが生まれる。そして魔法少女の役目はその魔女を倒すことだ。スズネはただその役目を全うしただけに過ぎない』
『ツバキはあの子を選んだの?私たちよりもあの子を……』
『僕のデータによればそのようだね。彼女はスズネの面倒を見るためにこの家での仕事を辞めるつもりだったと記録されているよ』
『ツバキもスズネと同じように魔女によって孤独の身となった子だったんだ。そして一度だけ……力を使って他人を傷つけてしまったことがある』
『スズネに同じことをさせないようにそして君たち二人を巻き込まないように彼女なりに気を使ったうえでの選択だったようだけどね』
『……だから何なの?私たちを……巻き込まないようにぃ……?』
『ふっ……』
『あっははははっ!!バッカみたい!!結局あの子を選んだってことでしょ!?』
『そんなこと聞いたって……意味ないよ……ツバキはもういないんだもん。もう……帰ってこないもん……』
「……」
「お姉ちゃん……」
『話って何だい?カガリ』
『願い……なんでもかなえてくれるって言ったよね?』
『あぁ』
『あの子に……』
『復讐したい』
「復讐?カガリ、なにを……」
『もっと具体的に言ってくれないか』
『ツバキが味わったのと同じ苦しいを与えたい』
『それは……つまり魔女にさせるってことかい?このまま放っておいても魔女になる可能性はあるよ。といっても今の彼女は心を閉ざしているし自ら死を選ぶことも否定できないけどね』
「え、なに……それ……私、ツバキを殺してからすぐ……」
「まさか、カガリ……」
『ううんそんなんじゃ全然足りないよもっと、もっと……もっと……苦しんで魔女になってもらうんだ……一人ぼっちの絵本の魔女みたいに』
「ッ……」
「スズネちゃん!マツリちゃん!」
今、スズネとマツリの意識が現実へと引き戻された。彼女たちにとっては、まるで何時間もどこかに飛んでいたような感覚ではあったが、しかし実際の時間ではまだ1分も経っていない。
「なに、今の……」
「何が……どうなって……」
QBの話では、自分はツバキを殺してから心を閉ざして、それは自殺を選んでしまうほどだったそうだ。しかし、自分は確かツバキを殺してからすぐに魔法少女狩りを決心していたはず。落ち込んでいる時間も、記憶もないはずだ。だったらQBが嘘を教えていたいのか。いや、QBが嘘をつかないというのはすでに身に染みて知っていること。であるのなら、ならば、まさか……。
「スズネちゃんはさ、マツリや私にあったことがないわけじゃない。忘れてただけなんだよ」
「嘘よ……こんな……」
「嘘じゃないよ。私がツバキを殺したスズネちゃんと、スズネちゃんを選んだツバキに復讐するために契約してさ……」
「お姉ちゃん!まさか!!」
「あはっ!イジちゃったんだぁ、スズネちゃんのアタマの中」
「……!!」
「ま、記憶を消すだけならほかにもやったりしたけどねもちろんマツリも……でもスズネちゃんは特別」
「やめて……」
「QBも言ってたけどさ、スズネちゃん。ずっと閉じこもってたんだよ?」
「やめて……」
「それじゃつまんないじゃん。だからね……イイコト思いついちゃったの」
「やめてッ!」
「ダメだよ。自分のやってきたことから目を背けちゃ……最後までちゃんと」
「スズネちゃん!」
「うらぁぁぁあぁ!!!」
「クッ!!」
止めようとしたプリキュアたちを、カガリに操られたアリサが止める。そのせいで彼女に近づくこともできなかった。
「思い出さないと」
これって、私の記憶?
そうだ、私はツバキを殺したショックで、魔女を倒すこともできずふさぎ込んでいた……
もう、誰も傷つけたくないって……そう思ってたはずなのに……あの日……
「やめて!!」
スズネは思い出してしまった。すべての記憶を、すべての始まりを、そして本当の己を。そこにいたのは魔法少女狩りをしていた冷酷な天野スズネの姿はなかった。ただの、純粋な女の子であった。
「ぷっあはははっ!その顔!それがみたかったの!!その顔!」
「ッ!」
「思い出したでしょ!?ツバキを殺して!もう戦うのも嫌がってたクセにさぁ!!ニセモノの記憶なんかに騙されて人殺しになっちゃって!」
「うるさいッ!!もう……やめて……嫌……聞きたくない……!!」
スズネは耳をふさぐ。しかし、彼女の言葉は止まらない。スズネの心を折るためのその言葉は堰を切るように次々と流れ込み、彼女の心を壊そうとしていた。
「辛いでしょ?痛いでしょ?ずっと待てたんだからこの時を、スズネちゃんがいーっぱい罪を犯してここに戻ってくるのを!」
「うぅ……」
もう誰も傷つけたくなっていって……そう思っていたはずなのに……なのに私は『作られた』正義を振りかざして……
「何人の命を……」
踏みにじってきたんだろう
「ううぅ……ッ!!うわあああぁぁああああああああ!!!!」
『あ……やっと見つけた!』
『あなた……誰?』
『マツリはね日向マツリっていうんだ!』
『天乃スズネちゃんだよね、あのさ……』
『「友達になろうよ!」』