映画 プリキュアオールスターズVS魔法少女まどか☆マギカ 悠久の絶望は永久の希望に   作:牢吏川波実

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外伝(みゆき編):心の中でよかったって思った

「マツリ……」

「あの時も、スズネちゃんにこう言ったんだよね私……」

 

 深い闇のなかにいた少女スズネはしかし、幻想と現実、二つの同じ声によってその意識が帰ってきた。

 マツリは言った、あの時もこう言ったと。その時、彼女の忘れさせられていた最後の記憶の鍵が開かれる。

 

「そうだ。スズネを殺して、塞ぎ混んで家からでなかった私に、貴女が会いに来てくれた」

「うん、マツリの魔法で探して……」

「なにそれ?私はそんなの聞いてないよ!マツリ!」

 

 カガリの叫びが響いた。マツリが一人でスズネに会いに行っていたなど初耳もいいところだ。

 

「たぶんその日だと思うカガリが私やスズネちゃんの記憶を消したのは」

「ッ!?」

「最初は、椿がどこに行ったのかスズネちゃんから聞こうと思った。でも、魔法で見つけたスズネちゃんはうつむいてて、悲しんでて、ひとりぼっちだった」

「なにもするきが起きなくて、このまま死んじゃってもいいって、そう思ってた。でも、マツリが……」

 

 その時、そして今、スズネの目の前にいるマツリは笑っていた。純粋に、そして優しく笑っていた。

 

「それで、椿の事聞いて……とても悲しかった。でも、スズネちゃんはもっと悲しいはずだから。そんなスズネちゃんを救いたいってそう思ったの」

 

 あの時、もしかしたら自分は彼女に殺されることを望んでいたのかもしれない。だから、正直にツバキと自分に何があって、そして椿の事を、椿が魔女となった存在を殺したことを白状した。もう自分なんて生きていても仕方がないから、だったら自分と同じように椿の事を好きだった彼女に殺されることが自分への罰なんじゃないかって、そうして椿の所に行けたらって、そう思った。

 だが、彼女はそれでも言ってくれた。

 

『だったら二人で、ううん……カガリと一緒に最後まで生きよう。椿の事を覚えてるのは、私たちだけなんだから』

『マツリ……』

「馬鹿じゃないの!?」

「ッ!」

 

 マツリの話を聞いたカガリは、鬼のような表情を浮かべて魔力を放出する。

 

「スズネにあった?椿の事を聞いた?椿が魔女になって、殺されたこと聞いて!何でマツリは笑ってられるの!?そいつに、私たちは椿を奪われたんだよ!?」

 

 いつも一緒に居てくれた椿を、略奪し、そして殺したスズネを許した。そんなマツリの言葉がカガリには信じられなかった。しかも、話を聞く限り彼女は自分たち魔法少女が魔女となってしまうと言うことまでスズネから教えられていたようだ。

 どうして、そこまでの絶望を与えられて、自分のように憎しみや怒りがわいてもおかしくない状況で友達になろうなんて言葉を出せたのかカガリには全く分からなかった。

 

「だからって、スズネちゃんを殺しても椿が帰ってくることはない。椿は、自分が救った子を殺しても、絶対に喜ばないから……確かに椿は死んじゃったけど、椿の思いを私たちが背負っている限り、椿は私たちの中で生きているもの」

「椿の思い?ハハッ何を言ってるの?マツリは椿の音しか知らないくせに!?」

「ッ……」

 

 カガリの言葉に顔を曇らせるマツリ。

 

「あの時も!その子を見つけた時だってマツリは椿の事音だって、あの鈴の音が椿だって言ってた!マツリは、椿のことを音だとしか思っていない、マツリは、椿の音があればそれだけでいいんじゃない!」

 

 もしかしたらそうなのかもしれない。確かに、目の見えなかった自分は、椿の髪飾りについていたあの鈴の音を聞いて椿という存在を認識していた。自分にとって、椿は音だった。だから、その椿の髪飾りを受け継ぐことになったスズネのことを、椿と同じと認識しているのかもしれない。カガリの言う通り、自分はその鈴の音が聞こえれば、それだけでいいのかもしれない。

 

「違う……この鈴の音は、ただの音じゃない」

「え?」

 

 しかし、彼女は言う。傷ついた身体をおして、立ち上がって言った。

 

「このお守りの中には、たくさんの人の名前が書かれた紙が入っている……椿が大切だと思っていた人たち……そして私が殺した魔法少女の子たち、チサトやハルカ、そして椿の名前も、死んでしまった人たちの名前がここにある」

「チサトやハルカの……」

「もう会うことのできない人たちだけど、でもその人たちの名前をずっと忘れられずにいられるから……椿はそう言っていた。その鈴の音が私とマツリを引き合わせてくれた。……椿と大事な人たちをつないでくれた大事な音だから……」

「椿は死んでもマツリたちに大切な……友達っていうかけがえのない物を残してくれた。椿の託した想いが、ずっとスズネちゃんやマツリを見守っててくれたんだよ!」

 

 お守りは、椿の残した道しるべとして、椿が助けた少女を救うこととなった。肉体が亡び、その魂が魔女に変貌してもその思いが二人の見ず知らずの少女をめぐり合わせて友情を育んでくれた。

 だが、それは同時に一人の女の子を傷つけることになった。己のことを見捨てて、ほかの子供のところに行った彼女のことを、そして彼女のことを殺した少女のことも、許せない女の子がいた。

 同じ場所、同じ時間、同じ人生を送ってきた双子の姉妹。でも、ただ一つ、ただ一点の違いが彼女たちの心を枝分かれさせる結果となってしまった。

 

「なんで、そんなこと言えるかなぁ?その子は椿を奪っただけじゃない!マツリの仲間だって殺した!スズネちゃんさえいなければそもそも椿が死ぬこともなかったし、私たちのそばにずっといてくれてた!」

「それは違うよ!ツバキは……マツリ達を嫌いになったわけじゃないし……スズネちゃんだってああするしかなかった。それに……」

 

 その時聞こえるは歯ぎしりの音。それは、カガリのクセ。己がイライラしたときに無意識に出てしまう物。瞬間、カガリは手に持った武器のチャクラムを構えてマツリに向け走り出す。

 

「なんでわかんないの!いつも、いつも、いっつも!!」

「クッ!」

「マツリ!!」

 

 マツリを襲うカガリ、その攻撃をいなしながら後退りする彼女のことを支援するように動くスズネ。そんな中でも彼女の言葉は続いた。

 

「邪魔ばっかり!!なんでッ!?そんなに私が嫌い!?」

「そうじゃないよッ!!マツリは邪魔してるんじゃなくって!!みんなに……みんなに仲良くしてほしいだけなのに……」

「もういいッ!」

「ッ!!」

 

 どうして同じ双子なのに、どうして椿と一緒にいた時間は同じだったのに、どうして一緒に生きてきたのに、そんなに自分のことを否定する。どうして殺人鬼をかばおうとする。どうして、どうして、どうして。

 また奪われる。椿に続いてマツリまで、妹までも奪われてしまう。嫌だ、そんなのは嫌。マツリまで、自分に残った最後の止まり木さえもとられてしまう。嫌だ。嫌だ。嫌だ。

 

「本当はさ、スズネちゃんを魔女化させたらマツリだけは許してあげようと思ってたんだけど……やっぱりやーめた」

 

 いやだ。嫌ならば実力行使だけ。奪われるだけなら、私が奪ってやる。

 

「二人まとめて壊してあげる」

 

 この時、本当の意味で彼女の心も壊れてしまった。

 

「スズネちゃん、マツリちゃんッ!みんな、ここはお願い!」

「ハッピー!」

「私も!」

「かずみ!!」

 

 なにか嫌な感じがする。そう思ったキュアハッピーと昴かずみは、戦線をほかの仲間たちに任せてスズネとマツリの隣に飛び降りた。

 

「邪魔するの?だったらあなたたちも殺しちゃおうかな」

「……」

 

 ハッピーは、その狂気的な笑顔を前に動じることはなかった。決めたから、助けると。アリサとスズネを、そして……。

 

「私は、あなたのことも助けたい。カガリちゃん」

「……私を助ける?何をいってるのかなぁ?そういうんなら、そこにいるスズネちゃんを殺してよ。聞いてるよ、あなたもスズネちゃんに殺されかけたって」

「ハッピー……」

「確かにそう、でもそれはあなたに操られたから、それに私は死んでない」

「でも、スズネちゃんがたくさんの人を殺したのは事実だよね?」

「ッ……」

 

 その言葉に、再びスズネは、そしてマツリもまた顔を曇らせる。そう、いくら自分が洗脳されていたからといっても多くの魔法少女の命、そして元魔法少女だった魔女たちの命を奪ったことは紛れもない事実だからだ。どれだけの綺麗事を並べようともそれは変えることのできない真実。マツリもまた友達を殺されたことに関しては眼を背けてスズネとの友情を主張していた。それは、まぎれもなく彼女たちの死を肯定することができないから。彼女たちが殺されたこと、魔女となってしまって倒さざるを得なかったハルカはともかく、チサトはただ魔法少女という理不尽な理由で殺されてしまった、そのことを肯定してしまうともうスズネとは純粋な友達として接することができなくなってしまうから。

 

「そうかもしれない、それに私にとってのハッピーエンドとカガリちゃんのハッピーエンドは全然違うものだから、絶対に交わることがない……でも、それでも私はカガリちゃんも!スズネちゃんも助けたい!もう誰も死なせたりしない!!それが、私のハッピーエンドだから!」

「へぇ……プリキュアは残酷な殺人鬼も助けるんだ……ずいぶん独善的なんだね、プリキュアって」

「……私、スズネちゃんが操られてたって聞いた時、心の中でよかったって思った」

「え?」

「ハッピー?」

「……」

 

 ハッピーの口から飛び出したある意味での衝撃発言に、カガリを含めて四人ともに唖然となった。そんな彼女たちを尻目にハッピーの話は続く。

 

「スズネちゃんが、人が死んだことに何も感じないんじゃなくて、人が死んだことに傷つけて、悲しんで、そして落ち込んじゃう本当に心が純粋な女の子なんだって……カガリちゃんもそうだよ」

「私も?」

「うん、だってカガリちゃんだってツバキさんを取られて、殺されて、すごく傷ついて、悲しんで、そしてこわれちゃった……本当に純粋な女の子なんだよ」

 

 スズネとカガリは似ている。どちらも同じ一人の女性の死によって大きくその人生を変えてしまった二人の女の子。一人は絶望に耐えきれなくなり孤独へと落ち、そしてもう一人は復讐を誓った。二人とも、あまりにも純粋な女の子だったから、そしてあまりにも幼かったからその悲劇的な出来事に耐えきれなくなって心が壊れてしまった。本来共有し受け入れるべきであった悲劇を歪んだ形で取り込んでしまったそんな二人の事を助けたい。それがキュアハッピーにとっての救済、そしてハッピーエンド。ここにいる全員が本当の笑顔を見せてくれる時を目指す。それが彼女の目指している目標。

 しかし、当然ながら彼女はそれを簡単に受け入れるはずもなかった。

 

「勝手に私のことを語らないで、いい迷惑、よッ!」

 

 カガリの投げたチャクラムは、ハッピーのすぐそばをかすめる。ハッピーは、せめて話し合いで解決することを望んでいた。しかし、それはもはや不可能のようだ。ならば、戦って、彼女の動きを止めるしかない。

 

「行くよ、みんな!」

「えぇ!」

 

 マツリのその声を合図として、四人の少女が自らの手に戻したチャクラムとレイピアを手にして立っているカガリに向かって駆けた。この全ての狂った人間たちの闘いの火蓋が切られたこの時、まだこの場所には到着していない希望の光となる三人の少女たちがむかっていることなど彼女たちは知る由もなかった。




 因みにカガリと戦う四人のなかでかずみにはセリフがありませんでしたが、後々ちゃんとある言葉をカガリにかけてもらう予定です。この話の中でその話をさせようかと思いましたが、タイミング悪くできませんでした。
 そして次回、影も形もなかったあの三人組が……。
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