映画 プリキュアオールスターズVS魔法少女まどか☆マギカ 悠久の絶望は永久の希望に 作:牢吏川波実
ホオズキ市の上空。現在厳戒態勢が敷かれているホオズキ市の近くでは、航空機の往来も困難となり、その空にはヘリコプターも飛行機も一切飛んでいないはずだった。
だが、無限に続くかと思われていたその闇夜を切り裂くように、一つの飛行物体が猛スピードで過ぎ去っていく。
その飛行物体の名前はV-22。その愛称は『オスプレイ』。ヘリコプターのようなプロペラを両翼に持ち、同様に垂直離着能力を持ちながらも、ヘリを上回る高い航続性や速度能力を持つ機体である。
「では、ザ・ワイルドキャットとプリキュア、それに魔法少女の子たちは戦闘中なのですね!?」
『そうだ! だが、近くにいる警官隊とは連絡が付かず、谷崎君は戦闘の直前に遠くに飛ばされてしまって、現在の状況は一切不明だ!』
「ッ!」
オスプレイの中では、若い男性が通信機を使用してB.A.B.E.L.の局長である桐壺と通信を行っていた。
少し前に一つの任務を終えた男性は、ホオズキ市でB.A.B.E.L.の仲間の調査を手伝うこととなっていた。しかし、彼が現場に向かっている途中に今回の事件の元凶が見つかったと聞き、先行していたザ・ワイルドキャット、梅枝ナオミの元へと向かっていた。四人の少女たちと共に。
「もっとスピード出せないのかよ! こうなったら、私が直接飛んで!」
「よせ! さっきの任務で戦闘したばかりで、まだ疲れが取れていないんだ! 今は、体力を回復させることが大事だ!」
「けど!」
「焦ってもしゃあないって! それに、ナオミはんやったら大丈夫や」
「少なくとも、私たちが到着するまで持たせてくれるはずよ」
四人の内三人は、彼女たちが小学生だった頃から共に様々な任務をこなし、多くの事件を解決へと導いてき、数多くの人の命を救ってきた仲間だ。無論ナオミもまた、彼女たちにとっては仲間である。
「仲間のことを大切に思う気持ちは大切ですが、仲間のことを信頼するということも大切。それは、貴方がよくご存じなことなのでは?」
「そうだけど……」
仲間のことを心配する気持ちは痛いほど分かる。そうもう一人の女の子は薫を諌めようとする。
彼女は、先ほどまで行っていた任務の協力者として同行してくれていた人物である。その任務が終わった今、既に彼女の役割は終わったと言える。しかし、ホオズキ市での戦闘に彼女の知り合いがかかわっていると知り、危険を承知で来てくれたのである。
男性にとっては、B.A.B.E.L.の人間ではない一般人の女の子を巻き込むことになってしまい申し訳ない気持ちでいっぱいとなるのだが。彼女自身戦う力、自分を守れる力がないかと聞かれれば嘘となり、また今回の戦い、一人でも助けが多い方がいいだろうということとなり彼女の同行を許可したのだ。
「けど……なんか、こう……嫌な感じがするんだ……」
「嫌な感じ?」
「そう……エスパーが……私たちの仲間がたくさん、ピンチだっていう……」
「たくさん? だが、あの場所にいるエスパーは……」
赤い髪の少女のその言葉に、若い男性は不思議に思う。
現在戦闘が行われている場所にいるエスパーは梅枝ナオミただ一人のはず。同じ特務エスパーであるザ・ハウンドの犬神初音が現場付近で調査をしてるはずだが、彼女を含めてもあの現場にいるエスパーは二人だけ。しかし、彼女はたくさんのエスパーの仲間がピンチだと感じ取った。
彼女のソレは、別に能力のような物ではなく一種の勘に近しい物のためソレが外れていると言ってしまえばそれで終わる話だ。
「分かってる! でも、分かるんだ。一人や二人じゃない、もっとたくさんのエスパーがあそこで戦っているって……」
しかし、彼女は感じ取っている。今まさに現場で起こっている何かを。
「ッ! 一体、現場で何が起こっているんだ……」
もしかして、自分たちの知らないエスパーが現場にはいるのか。いや、それとも、自分たちは何か見落としているというのか。
一抹の不安はある物の、とにかく早く現場に向かわなければならない。この事件を終わらせるために、梅枝ナオミを助けるために、プリキュアやたくさんの魔法少女を助けるために。そして、彼女の言う多くのエスパーのピンチを救うために。
夕方、本来ならばそこそこの人通りがあってもおかしくはない本通り。だが、現在そこは人っ子一人見当たらずまるでゴーストタウンかのような様相を呈していた。
何故このようになってしまったのか。後に、不発弾が近くで発見されたため現場近くを封鎖して住民は避難を促されたからと近くに住む住人は話す。
すべてを知っている物からすれば、それはまるっきりの嘘だ。しかし、そんな嘘でもつかなければその場から一般人を遠ざけて被害を抑えるなんてことはできなかった。
事実、彼女たちの戦いの場はすでに路地裏から大通りにまで差し迫っていた。正義なんてどこにも存在しない。この無慈悲なる戦いの様相はあまりにも異様な物だった。
「ッ! はぁ!!」
「ッ……」
「この!」
キュアサニー、ピース、マーチ、そしてナオミと海香は警官隊を無力化させるために戦いを繰り広げてている。本来の戦闘力から考えるに、警官隊を制圧するのには十分な戦力ではある。だが、それでもやや彼女たちの方が劣勢に傾いていた。
その理由は、やはり相手が人間だという事。しかもマツリに操られている一般人であるため、下手に致命傷を与えないように手加減をして戦わなければならなかったのだ。だがプリキュア三人が今まで戦ってきたのは怪物ばかり、人間サイズの敵と戦ったことはあったが、やはりそれも怪物と言っても差し支えない者たちばかりだった。だから手加減をして戦うなんてことをしてこなかったため力の制御が難しいのだ。
一方警官隊たちはそんな彼女たちの事情なんてお構いなしに手持ちの拳銃を発砲してくる。多少はプリキュアの聖なる力で痛みは抑えられるとはいえそれでもやはり当たると痛いもの。そのためこの場での戦いは人的制圧の経験者であるナオミと海香の二人が中心となり三人をサポートしながらの戦いとなった。
「今ですナオミさん!」
「これでぇぇ!!」
だが、人間と戦い慣れしているナオミと海香の指示は的確だった。
マーチやサニーがバラバラに散っている警官隊何名かを海香の指定した一か所に集めてそこに向けてナオミが念動能力で地面にクレーターを作るほどの圧力で押しつぶして警官隊を気絶させる。
「よっしゃ、これであと何人や!?」
「えっと、10人くらいかな?」
最初は手加減をしながら戦わなければならないためもう少し時間がかかるものと思っていた。だが、ふたを開けてみればナオミのかなり容赦のない戦い方も相まって鎮圧も時間の問題になっていた。果たしてナオミが押しつぶした警官隊はそもそも生きているのだろうかと疑問に思ったピースがナオミに聞いてみたところ。
「心配しないで、普通の人々と戦っていると、手加減のかけ方も身体が覚える物なの」
「普通の人々って……そこは一般人でいいんじゃ」
「あら? もしかして知らない普通の人々というのは……」
「ナオミさん!」
「ッ!」
海香の叫びに振り向いたナオミたちが見た物、それは……。
「へ?」
「え?」
「なにあの人たち?」
割烹着を着てロケット弾を装備するおばちゃんを先頭に黒いスーツにサングラスを着た何人もの武装した男たちであった。
「ってなんやシュールすぎへんか!?」
「割烹着にRPGって……」
あれもまた警官、のわけがあるまいが味方というわけでもない。その証拠に割烹着を着た先頭のおばちゃんはなんの躊躇いもなくロケット弾を発射した。
「まずい!」
それを見た瞬間、ナオミが警官隊の背後に降り立ち念動能力のバリアを形成し、爆炎と衝撃から警官隊を守り、大声でサニーたちに言う。
「皆気を付けて! あれは、反エスパー団体普通の人々……エスパーの追放と排除を目的とした反社会勢力よ!」
「「「どこが普通なの(なのよ)(なんや)!!?」」」
サニー、マーチ、そして海香の三人がナオミに対して突っ込んだ。いや、本当に一体どの辺が普通であるのか、それと普通の定義をどう考えているのか小一時間問いただしたいほどに普通じゃない人間たちの集まり、それが過激派テロリスト普通の人々なのである。
「ってか、よく見たら警官よりも多いんじゃ……」
「百人ほどいる?」
「ってか今更やけどほんまにここ路地裏か? めっちゃ広いで」
本当に今更であるが、事実今彼女たちがいる場所は路地裏ではない。戦闘に気を取られ、また別に戦っている仲間たちのところに警官隊を行かせまいとの一心で少しづつ離れていた彼女たちは、いつの間にか本通りの方に足を踏み入れてしまっていたのだ。
そのことに気が付いたナオミたちだが、しかしこれは好都合。ロケット弾のような危険な爆発物を使用する者たちと狭い路地裏で戦っていればどれだけうまく避けていたとしてもいつかは追い立てられ、当たってしまえば直撃ならば即死、例え破片であったとしても致命傷になりかねない。
なおかつ、仲間たちから敵の集団を離すことには成功したのだ。ならばちょうどいい。
後はここにいる普通の人々を倒せばよく、あわよくばテロ組織普通の人々のホオズキ支部を壊滅させることが出来るかもしれない。
「ホオズキ支部ってなんだか凄く限定的すぎない?」
「『我々は何処にでもいる』それが、彼らのスローガンなのよ。だから、潰しても潰しても壊滅させることのできない組織、普通の人々。きっとあすなろ市にも七色ヶ丘にも普通の人々はいるわ」
「なんや、ゴキブリみたいやな」
「ある意味ゴキブリよりしぶといかもしれないわね」
とにかく、どれだけ大きな組織なのか見当もつかないが、しかしここその一端でも倒しておかなければならない。サニー、マーチ、海香、そしてナオミの四人は改めて気を引き締めて普通の人々との戦闘に向かった。
一方、改めて路地裏に視点を戻すと、そこでは二人の獣のような少女たちと、ビューティ、ムーンライト、そしてカオルの三人が激闘を繰り広げていた。
「グルルルルルル……」
「アハハハハハッ!!!!!」
「ッ! 強い……」
上空から振り下ろされた鎌を何とか避けて後ろに下がったカオルは、目の前の獣たちを見ながらつぶやいた。今まで自分たちは何人もの魔法少女と戦ってきた。中には一対一、いや一対複数であったとしてもようやく勝つことが出来たという強敵も多かった。
だが、目の前の獣はそれらの魔法少女とは違う。相手は理性も何もない。いや、アリサに至っては人間性ですら残されていないかもしれない。もしかしたら初音もか。
「どうする? どうすれば……」
カオルもまた、魔法少女として、魔法少女との戦いを何度となく行ってきた。いや、殺し合いをしてきた。だが、そのほとんどで共通する点がある。
それは、相手が恐怖心という感情を持ったまま戦っていたということ。どうして同じ魔法少女なのに戦うのか、何故自分は襲われるのか、自分もまた戦わなければならないのか、戦って同じ魔法少女を傷つけなければならないのか、そんな困惑、不安、疑心を持った相手はどうなるか。動きも思考もいつもより半減し、恐怖はいつもより何倍も高まっていたことだろう。対してカオルたちは最初から覚悟を持って戦っていた。同じ魔法少女と戦う覚悟、殺す覚悟、そして仲間の魔法少女を助けるという覚悟。
最初からアドバンテージはカオルたちにあったのだ。はっきり言ってしまえばカオルたちが負ける要素などほとんどなかったと言ってもよいだろう。むろん、何らかの突発的な要因での危機などはあったが、それでも多くの魔法少女を倒せてきたのは覚悟の差という、ともすればあまりにも理不尽な要因であったともいえよう。
今戦っている二人の少女はそれまでの魔法少女と比較してどうだろう。二人ともカガリによって人としての心を、感情を殺されているも同然。なら、恐怖心や不安、覚悟なんてものは関係のない物となる。ただ目の前にいる相手を殺せばいいだけなのだから。対するカオルは、今までとは違い今戦っている二人を助けるための戦いをしなければならず本気では戦えていない。これではまるで昔の逆ではないか。自分たちが他の魔法少女たちに仕掛けていたあの戦いとまるっきり一緒。相手をあまり傷つけてはいけないという前提条件がどれだけ重い足枷だったことだろう。ことここにおいて、今まで自分が傷つけてきた魔法少女の仲間たちの心を理解してしまうとは、なんたる皮肉なのだろか。
どうすればいい。どうすれば、彼女たちを傷つけることなく助けることができる。どうすれば、あの時のような悲劇を繰り返さずに済む。どうすればこの悪しき循環を断ち切ることができる。どうすれば……。
「カオル、悩んでいては自分も相手も殺してしまうわ。私たちができるのは、ただ二人を止めることだけ」
「はい。私たちなら、それができます!」
「ムーンライト、ビューティ……」
二人のプリキュアは、そうカオルに声をかけた。
そうだ。傷つけないように手加減なんてしていて勝てる相手ではないことは明らかだ。ならば、気絶でもなんでも二人の動きを止めなければならないのだ。
迷いは人を殺す。迷っていてはいけないのだ。ならば、もう彼女は迷わない。
「助けましょう。お二人を」
「……あぁ!」
カオルは行く。自分自身の罪ともう一度向き合っていくために。その道が、例え地獄へと続いていたとしても、彼女は戦うことを決して辞めることはない。それが、彼女の犯してきた罪の重さなのだから。
そして、一方のカガリと戦っているみゆきたち。こちらは、仲間たちとは違い、相手はたった一人。対してこちらは四人と人数的にもかなりの優位に立っていた。しかし、その優位性を覆すほどに、四人は劣勢に陥っていた。
「はぁぁぁぁ!!!」
ハッピーは、カガリに向けて拳を振るう。だが、その攻撃は彼女に当たるコトなく空を切った。
「え?」
いや違う。消えたのだ。カガリの姿が、彼女の目の前でスッという音がするほどに一瞬にして。まるで、そこには誰もいなかったかのように。
「ハッピー後ろ! ハッ!! あれ?」
かずみは見た。カガリがハッピーの背後に回るのを。かずみはすぐに自らの得物でカガリを攻撃する。しかし、その攻撃はやはりハッピーと同じように何もない空間を横切るだけであった。
「あはははッ! どうしたの? ちゃんと狙ってよ二人とも!」
そういうカガリは、空中にいた。飛んで避けたのか。いや、それにしてはあまりにも早すぎる。一体自分たちに何が起きているのか。ハッピーとかずみは混乱していた。
おかしい。何かがおかしい。どうしてハッピーとかずみは≪誰もいない場所≫を攻撃している。
二人の行動は、まるでそこにカガリがいたかのように見えた。しかし、スズネにはカガリの姿なんて見えなかった。それは、隣にいるマツリも同じである。
カガリが何かをしたのか。なら、いったい何を。
「炎舞!」
スズネは、自らの周囲に炎の剣を何本も出現させ、それをカガリに向けて放つ。
放ったつもりだった
「ッ!」
「あっ……」
だが、そこにはカガリの姿などなかった。気が付いたら、スズネの目にはカガリの姿ではなく、マツリの姿が映っていた。
「くッ!」
スズネは、咄嗟に炎の剣を方向転換させ空中、何もない箇所へと誘導する。そのおかげでマツリに魔法が当たることは無かった物の、やはり先ほどから異常な何かが起こっているということにスズネは気が付いた。
自分が攻撃を放つまではカガリの姿だった。もちろん、双子だから間違えたというわけではない。確かにそこにカガリがいたのだ。あの、不敵な笑みを浮かべた悪魔が確かにそこに。
「あれぇ? あんなに仲良さそうだったのに、もう仲間割れなんかしてるの?」
刹那、スズネは声のした方向へ剣を振るう。だが、そこにはやはり誰もいない。
「だからぁ、そっちじゃないってば」
「くそっ!」
背後からの声。それは本物なのか、偽物なのか。いや、例え本物でも偽物でもその場所は自分に致命傷を与えるには絶好の場所だ。ならば、自分の身を守るという行動をとらない理由なんてない。
スズネは、振り向きざまに剣を振った。カガリは、その攻撃をレイピアでいなす。
間違いない。この感覚は本物だ。だが、いつまで彼女が本物でいるのかわからない。ここで畳みかけないと。
「いつまでっ、戦えるのかな!」
「ッ!」
カガリのレイピアと、スズネの剣のぶつかり合いは続く。そのたびに双方の剣からは火花が散り、二人の狂ってしまった罪人の顔を映し出していた。
「変だよさっきから!」
「うん、カガリを狙ったはずの攻撃が、全部外れてく!」
「どうしよう、このままじゃ……」
「君たちは肝心な事を忘れていないかい?」
「あ……」
「この声って……」
「誰?」
突然脳内に響いてきた声。少年のような、少女のような、そんな聞き覚えのない声に戸惑うハッピー。脳内に直接声を掛けられるという今までにない、まるで頭をくすぐられる感覚もするからなのかもしれないが、少しだけ不気味に感じる。
だが、他の二人には分かった。その声の主を。自分たちの人生をかき乱し、多くの悲劇と絶望を産んだ生物。自分たち魔法少女の一番身近にいながらも、最も遠くから少女たちのことを観察していた生物。忘れろと言っても忘れられない生物が、マツリの足元にやってくる。
「やぁマツリ、かずみ。それから、初めましてキュアハッピー」
「キュウちゃん……」
「QB……」
「あれが、QB……」
マツリ達を魔法少女にした妖精。見た目は、自分たちの知っている妖精とよく極似している。が、その裏でやっていることはほとんど真逆を行く存在である。だが、そんなことを言われても到底信じられないだろう。
「肝心な事って、どういう事?」
「カガリの能力さ。彼女は相手の記憶や意識を操ることが出来る」
「それって……」
「簡単に言うと、彼女はリアルタイムで君たちの意識を塗り替えているんだ」
例えば、実際の彼女が背後にいたとしても、自分たちの意識を塗り替えることで、前にいるように思わせることが出来る。一対一の戦いでも厄介な能力ではあるが、人数が多くなればなるほど有利に立つことができる能力だ。
「で、でも私はハッピーはカガリに操られたことなんて!」
「スズネの記憶を書き換えたような複雑な行使には多少時間と魔力がいるさ。けど、この程度なら戦闘への応用も難しくはない。今の君たちは……彼女の操り人形だ」
「そんな……じゃあどうすれば!」
「あ、そうだ! 外から記憶を書き換えられていない人が攻撃すればいいんじゃ!」
「でも、私たち遠距離系の技なんて……」
「あっ……」
ハッピーの必殺技プリキュアハッピーシャワーも、遠距離攻撃ではあるが威力がありすぎで狭い路地裏で使うには被害が大きすぎる。かずみの必殺技リーミティ・エステールニも攻撃範囲としてはハッピーの技よりは狭い物の、戦闘中のスズネに当たる危険性が高い。四人の中で最も安全な遠距離攻撃を持つのはスズネではあるが、彼女は現在カガリとの戦いに手いっぱいで外にでる余裕なんてない。
「外から……そうだ、その手なら」
「え?」
そういうと、マツリは眼を閉じて祈るように手を目の前で合わせる。目が間違った情報を脳に送り込むというのならば、その目を遮断してしまえばいい。そして、気配を追う。あの時のように、あの時自分がスズネの事を見つけて上げれたように。今度は、姉のことを見つけてあげる。狂気に囚われた姉の姿を……。
マツリは帰ってきた。自らが元いた場所に。ずっとずっと、永遠に続くと自分でも思っていた暗い場所。
日常生活の半分が、できなかった。絵本や漫画なんてものも、誰かに読んでもらわないと読むことが出来ず、テレビ番組も音しか聞こえないからいったいどんな人がどんなふうに動いているのかもわからない。
姉という存在がいて、父という存在がいてくれて、でもそれでも彼女には光は見えなかった。
でも、視力という能力がない代わりに、彼女は音に敏感だった。目が見えない代わりに、その音と、触れた時の触感で、それがどんな形をしているのか、他の人たちからどういう風に見られているのか、それを想像するのがとても楽しかった。
そんな時聞こえたのだ。あの鈴の音が。
それから、マツリは鈴の音とカガリとほとんど一緒にいた。
「目で追うんじゃない。気配を……」
あの鈴の音を聞いた時の安心。温かさ。絶対に忘れることが出来ない大切な思い出。大切な音。
その時、彼女は聞いた。あの音を。自分に大切な思い出を作って、友達を作ってくれたあの音を。自分のことを導いてくれたあの音を。今度は、自分の番だ。
「鈴音ちゃん! 後ろ!!」
「ッ!」
彼女の声は闇を切り裂く光。光明を見出す最高にして、最大の狼煙であった。
彼女によってもたらされた光によって、戦いは佳境へと向かっていった。