映画 プリキュアオールスターズVS魔法少女まどか☆マギカ 悠久の絶望は永久の希望に   作:牢吏川波実

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 今回、アニメで彼女達がやっていたことを取り入れた結果、わかる人がいるのかわからないようなネタを書いてしまった。
 元ネタわかる人は感想欄にご一報ください。


外伝(みゆき編):特務エスパー『ザ・チルドレン』解禁!!

 地上で戦う少女たちは聞いた。頭上から響き渡った女の子の声を。そして、それと同時に見え上げた彼女たちの目に映ったのは、一人の黄色を基調とした衣装に身を包んだ女の子が地上に降りようとしている瞬間だった。

 

「カッチカチの、ロゼッタウォール!!」

「ッ!!」

 

 女の子は、手から四葉のクローバー型のシールドを出現させながら地面に着陸し、こちらに向かって突撃してきたアリサの攻撃を防ぐ。

 

「ッ! 重い……」

 

 だがリミッターの外れたアリサのパワーは想定外の強さを持っており、次第に少女は顔を曇らせて足が折れそうになる。

 

「させない! 念動(サイキック)!! 飛んでけ泥棒!!!!」

 

 少女のシールドにヒビが入り、崩壊も時間の問題となった瞬間。また別の女の子、赤髪のロングヘア―の女の子が空に現れる。

 少女は、空に浮かびながら掌をアリサの方へと向ける。すると、赤髪の少女の手のひらに赤いエネルギーのようなものが集中して、アリサの身体が大きく吹き飛ばされた。

 シールドを出していた少女は自らの身を守っていたソレを消失させると、後方にてその様子をうかがっていた魔法少女、そしてプリキュアの元に身を寄せる。

 

「皆さん、ご無事でしたか?」

「あ、あなたは!」

 

 そして、その時点でプリキュアの仲間たちは気が付く。本来であれば彼女がシールドを出した時点で気が付いていてもおかしくはないのだが、あまりにも唐突に彼女が現れたためにそのことに気が付かなかったのだ。

 

「ロゼッタ……」

「ムーンライト、知り合いなの?」

「えぇ、彼女はキュアロゼッタ。私たちと同じプリキュアよ」

 

 カオルの質問にキュアムーンライトはそう答える。そう、キュアロゼッタもまたプリキュアそしてここにいるスマイルプリキュアの面々とムーンライトとも共に戦ったことのある少女だ。

 何故彼女がここにいるのかは不明であるが、心強い仲間がまた増えた事には変わりない。しかし。

 

「よしッ!!」

「あ、あの子もプリキュア?」

「ううん、私たちは知らない」

 

 そう自分たちは赤髪の少女のことは知らない。もしかして自分たちの知らないプリキュアか。いや、しかしその衣装はいたって普通の、青を基調としたどちらかと言えばプリキュアのような服装ではなく、制服のようにきっちりとしている印象を持つ服だ。一体何者なのか。

 

「でも凄い、あの状態の彼女をああも簡単に……」

「でも、彼女アリサさんに触れてませんでしたが……」

 

 この時赤髪の少女はアリサに手を触れてもいない。だが、たかが外れたあのアリサを、あぁも簡単に吹き飛ばすなど、一体どれほどの力を持っているというのだろうか。

 一体、彼女は何者か。その疑問に答えたのは、ある意味では意外ともいえる人物であった。

 

「理由は簡単よ」

「え?」

 

 梅枝ナオミである。ナオミは、少女の方を見据えながら言う。

 

「あの子も、私と同じ超能力者だからよ」

「あの子も……」

 

 そう、赤髪の少女、彼女もまたナオミと同じ超能力、念動能力者であるのだ。だから、アリサに触れずともその身体を吹き飛ばすだけの力を持っていたのだ。

 

「私以上の……ね」

「え?」

 

 そのナオミの言葉に対して、一部の少女たちの頭に疑問と驚きが生じる。自分以上の力を持つとはどういうことかと。

 確か、この場所に来る際に聞いたナオミの超度は7段階あるうちの6。上から二つ目の力を持つということだ。それ以上の力を持つとなると彼女の超度は7ということになってしまうのだが。確か、現在日本には超度7のエスパーは3人しかいないハズ。

 いや、ナオミは日本が誇る超能力支援研究局B.A.B.E.L.に所属しているエスパーだ。日本にたった三人しかいないと言われている超度7のエスパーにも会っている可能性は十分にある。と、いうことは。

 

「そう、彼女が日本に3人しかいない超度7……念動能力者(サイコキノ)で特務エスパー『ザ・チルドレン』の……」

「お待たせ! ナオミちゃん!」

「明石薫ちゃんよ!」

 

 明石薫。日本に3人しか確認されていない超度7のエスパー。能力はナオミと同じく念動能力である。

 因みに彼女の名前を聞いていち早く反応したのはーーー。

 

「薫ちゃんって……」

「私と同じ名前?」

 

 牧『カオル』であった。

 それはともかく、である。

 

「遅れてすまない! ナオミちゃん!」

 

 一人の男性と二人の女性がまるで突然その場に現れたかのようにいきなりその場に出現した。ナオミは、その眼鏡をかけた男性の顔を見ると言う。

 

「皆本さん! 皆!」

「あの子は、うちらが止めるで!」

「あなたたちは、少し休んでて」

 

 ダメ押しと言わんばかりに現れたのは、明石薫と同じ超度7の瞬間移動能力者(テレポーター)である野上葵。

 同じく超度7の、接触感応能力者(サイコメトラー)の三宮紫穂。

 そして薫を含めたその三人の運用主任である皆本光一。

 

「皆本!」

「あぁ!」

 

 彼と、彼女たち三人。四人はチームを組んで共に犯罪に立ち向かっている。ある時は同じエスパー、ある時は普通人(ノーマル)の犯罪者、ある時はテロを起こす悪人たち。ある時は裏社会で生きる者たち。これまで数々の強敵と戦ってきた日本最強の四人組。特務機関B.A.B.E.L.の最強、最高、そして最後の切り札。人呼んで。

 

♪かなりキテる 無敵のパワー! マジでいいカンジ♪

「特務エスパー! 『ザ・チルドレン』! 解! 禁!!」

「よっしゃ!!」

 

 リミッターが解除された。これでナオミと同じく彼女達の力が解き放たれるのだ。

 

♪絶対可憐!♪

「マジカル! トランス!」

♪だから負けない! ♪

「パンプル! ピンプル! パムポップン!」

♪明日へさあ行こう!♪

「リリカルマジカルレナナーレ!」

「「「絶対可憐! チルドレン!!」」」

♪Yeah! 絶対! 大胆!♪

 

 特務エスパー、『ザ・チルドレン』は日本で初めて出現した超度7の三人を集め、B.A.B.E.L.で保護し、将来に向けてサポートしていくために結成されたチームである。

 当初はあまりにもわがままで、子供故に生意気な態度を取ることが多かった三人だったが、しかし皆本との出会い、そして皆本と共に歩んできたこの数年間で大きく成長したチームである。

 現在中学三年生。一年程前にあったある裏組織との壮絶なる戦いを終えた彼女たちはその後も様々な任務をその持ち前のチームワークでこなしてきた。今回もまたある政治的な問題を解決に導いた後に遅ればせながらはせ参じたのだ。

 

「アァァァァァ!!」

♪Yeah! 最大! 大胆!♪

 

 アリサはそんな彼女たちに向けて突撃する。それは、まさしく腹をすかせた獰猛な獣のようだ。

 だが、そんなアリサに対しても薫は笑みを崩さずに言った。

 

♪ただ待っているだけの 昨日を脱ぎ捨てて♪

「獣の扱いは、初音で慣れてんだ! 念動(サイキック)……メガトンパーーーーンチ!!」

♪WAKU WAKU できる今日を手にしたい♪

 

 薫は『ザ・ハウンド』所属の犬神初音と、年下ながらも姐さんと慕われるぐらいに仲がいい。そのため、よく訓練ということで彼女と戦うことが多かった。だからこそ、このように獰猛な生物のようになった少女との戦いは大得意であるといえる。

 薫が力を込めた全身全霊のパンチと、アリサの大鎌がぶつかりあう。強大なパワー同士のぶつかり合いは、彼女たちを中心として衝撃波を生み出して周囲の建物すべてにヒビが入った。また、それまでの戦闘でもろくなっていたことも災いし、一部の建物の壁は大きながれきを作って倒壊する。

 

♪触れあうだけでわかる 心のリミッター♪

「こんのぉぉぉぉぉぉ!!」

「薫! 無茶するな!! 後退しろ!!」

「! 了、解!!」

 

 このまま力を出し続けていれば薫の身体が持たない。そう考えた皆本はいったん薫に後ろに下がるように指示を出した。かつての彼女だったらそのような命令を無視して戦いを継続していただろうが。皆本への絶大なる信頼、そしてこれまでの戦闘経験から考えこれ以上の追撃を抑えていったん後ろへと飛んで避ける。

 

♪解き放たれたらホラ♪

「ウラァァァァァ!!!」

 

 だがアリサは、薫を追撃するためにさらに突撃を敢行する。しかし、そのようなことを彼女たちが許すわけがなかった。

 

♪Yes! Change the world!♪

「葵!」

「足止めやな! まかしとき!!」

 

 葵は、そういうと手に青色の光を纏う。瞬間、先ほどの二人のぶつかり合いで崩壊した建物のがれきがアリサの目の前に次々と出現する。これが、野上葵の能力である瞬間移動能力だ。

 

♪熱いバトル 何度もトライ!♪

「ぐあぁぁぁ!!」

 

 だが、そのような物知ったことじゃないと言わんばかりにアリサは次々と空中に出現したがれきを砕いて徐々に徐々に彼女たちに近づいていく。

 

♪リアルをつらぬいて 絶対可憐!♪

「えらいパワーやな……けど、足元がお留守やで!」

♪だから負けない! スリルがサイコー!♪

 

 ガレキを目の前に出現させても止まらないアリサを見て、ならばと葵はアリサすぐ足元に意識を向けた。そう、自己意識のないアリサはただ目の前しか見ていないため足元に完全に隙が出来ていたのだ。

 そのため、葵はすぐ近くにあった巨大なガレキをアリサの足元に出現させた。一瞬のうちに瞬間移動してきたそれを避けることが出来ずに毛躓き、転倒するアリサ。

 

「どうや!」

「薫!」

「分かってる! ハァッ!!」

 

 アリサが転倒したその刹那。皆本は薫に指示を出す。指示、といってもただ一言名前を呼んだだけではあるが、しかしその一言で十分だった。

 

♪勇気が世界の闇を照らし始める♪

念動(サイキック)! 岩石封じ!!」

♪あなたがくれた奇跡あふれる♪

 

 薫は、アリサが粉々にしたがれきの屑を念動能力で集めていき、アリサの両手足の上に次々と重石のように積み上げていく。アリサの手足をつぶさないように巨大ながれきを使うことは避けた薫ではあったが、チリも積もれば山となるということわざにもある通り、集めて言った小さなガレキは、ただそれだけでも十分アリサの動きを止めるのに十分であった。

 アリサの動きが止まったのを見た薫は、がれきに使っている念動能力を少し緩めようとした。だが、それを制したのは紫穂である。

 

♪誰にも似てない笑顔 誇りにしたら♪

「力を抜かないで! そのままキープして!」

「紫穂?」

 

 そういった紫穂は片膝をつき、うつぶせになっているアリサの頭に手を触れる。接触感応能力者である彼女は、こうすることによって相手の考えていることや、人生などの様々な情報を得ることが出来るのだ。

 現在の彼女、それまでの彼女のことを知らなかった紫穂ではあったものの、自分の目で見た彼女はあまりにも人間としては凶暴すぎて、かつあまりにも考え成しすぎる。まるで、何者かに操られているかのよう。だから、一体彼女の身体に何があったのかということを知るために能力を使用した。

 だが、今回に限り彼女の頭に流れてきたのはあまりにも異常な情報だった。

 

♪未来を今超えよう♪

「なにこれッ! これだけ人間らしい情報がないのは初めてだわ……いえ、これはまさか!」

 

 あるのは憎しみ、恨み、後悔といった負の感情だけ。いや、それだけならまだしも彼女の心が読めないのだ。普段であれば知らなくても済むような不必要な情報ですらも伝わってくるはずなのだが、今回に限っては彼女の負の感情だけしか読み取ることはできない。いや、それもまた何か異質。まるで、DVDに焼き増しされたB級パニックホラー映画を見させられているかのようだ。

 なにかがおかしい。そう考えた紫穂ではあったが、しかしその答えを探っている時間などなかった。

 

♪We can try over the future world!!♪

「紫穂!」

「ッ!!」

 

 薫が紫穂に向けて叫んだ瞬間である。アリサの身体から膨大な魔力が放出し、彼女の身動きを封じていたがれきが吹き飛んだ。

 

「しばらくそこに埋まっとき!!」

 

 一部のがれきは紫穂に当たりそうになるが、その直前、機転を効かした葵がテレポーテーションを駆使して紫穂を逃し、さらにその後にアリサ自身を地面の下半身だけだが埋め込む。

 これで、しばらくの時間は稼げるはずだ。

 

「大丈夫か、紫穂!」

「えぇ、なんとか……」

 

 だが、少し頬を掠ったようだ。紫穂の顔に少しだけ傷が出来ている。これくらいであれば跡は残らないだろうがしかし、彼女はそのようなこと、気にしている時間すらも惜しいと思っている。

 何故アリサの心を読むことが出来なかった。完全に読めなくなるというのであればECMを使用した可能性もある。しかし、不完全ながらも彼女の感情と思わしきものが読み取れたということは、そのような物使用されていないという何よりもの証拠である。

 となれば、一体何故。紫穂は、これまでに獲得してきた数々の情報を頭の中で整理する。そういえば、まだ重要なことを知らないでいた。

 

「ナオミちゃん、少しいいかしら?」

「え?」

 

 そう言った紫穂は、梅枝ナオミの身体に触れ、能力を使用する。同じ超能力者であったとしても、相手が精神感応系の超能力者でないのであれば、十分に相手の思考を読むことが出来るのだ。

 彼女が能力を使い始めて数秒後、閉じていた眼を開けた紫穂は、ゆっくりと手を下す。

 

「どうした、紫穂?」

「皆本さん。日向華々莉の魔法は記憶と意識の操作よ。彼女は、成見亜里紗の記憶を改変し、彼女から憎しみや殺意といった負の感情以外を消したのよ」

「な、本当か!?」

 

 この紫穂の言葉に驚いたのはナオミ以外の面々である。ナオミは、そんな仲間たちに、紫穂は接触感応能力を持っているため、先ほど自分の思考を読み取ったことによって情報を獲得したのだと説明する。

 それはともかくとして、記憶の改変となれば厄介だ。ここに来たばかりの皆本は当初、彼女が一言もはっきりとした言葉を発声せず獣もかくやというばかりの叫び声ばかりであること、それからあまりにも猪突猛進と言わんばかりに力任せな戦闘から考えて彼女が洗脳、あるいは催眠状態にかかっているのであろうと考えていた。しかし、記憶の改変を受けているというのはかなり厄介だ。

 洗脳や催眠といった精神的な改変であるのならば、何かしらのショックを与えることによって彼女の意識を復活させることはできるかもしれないが、記憶の改変となるとどちらかと言えば物理的な改変。物理的な改変は、今この場で何とかできる物じゃない。いや、もしかすると失われた記憶は二度と戻ってこない可能性だってある。

 なら、負の感情以外が失われた彼女はいったいどうなってしまうのだろうか。

 

「けど、おかしいわね」

「え?」

 

 紫穂は、そう言って顎に手を当て考えそぶりを見せながら言う。

 

「魔法少女は、負の感情が溜まるとソウルジェムが汚れて、魔女になるのよね」

「え、そうだけど?」

「今、彼女は完全に負の感情に支配されている。なのに、どうして彼女は魔女になっていないのかしら……」

「そういえば……」

 

 言われてみれば確かにそうだ。

 魔法少女のソウルジェムが負の感情によって汚れてしまうのであれば、負の感情のみになってしまったアリサのソウルジェムは既に完全に汚れてしまっててもいいはずだ。だが、アリサのソウルジェムは確かに汚れは見える物の、まだ色は保っており余裕がありそうに見える。これは、どういうことだ。

 

「どういうことだ……」

 

 皆本は考える。カガリの能力は記憶改変。その記憶改変の力でアリサの記憶の中から嬉しいことや楽しいことといった正の記憶を消し、負の感情である憎しみだけを残した。であるのならば、アリサは魔女になっていてしかるべきということ。しかし、そうはならなかった。

 考えろ、自分が持ち合わせているすべての情報を精査しろ。考えを発展させろ。逆転させろ。ひらめきを見いだせ。

 魔法少女。魔女。ソウルジェム。魂の宝石化。グリーフシード。負の感情。カガリの魔法。記憶と意識の改変。プレイアデス聖団のしたこと。

 

「まてよ?」

 

 そして、皆本の頭の中に一つのある仮設が浮かび上がった。もしかして、これが答えなのではないか。いや、それしか考えられないという物だ。正直ここから先はもはや科学的な結論や現実的な計算を飛び越えた非科学的領域に入る。だが、それでも考え得ることはこれしか思いつかない。

 

「ソウルジェムが彼女の魂、ならば彼女の意識がそこにあるとして、そこにある意識に対してカガリが魔法を使ったのではなく、彼女の脳の電気信号に対してだけ魔法を使ったとしたらどうだ?」

「え?」

「両方を改変するのではなく、脳の電気信号を変換させるだけであれば……パソコンのメモリを書き換えるより、パソコン内部にあるデータを書き換える方が簡単だっていうのと同じことだ」

「意味が分かんねぇよ皆本! つまり、なにが言いたいんだよ!」

「彼女の魂に宿っている記憶と、彼女の身体に宿っている記憶は違うということだ。恐らく、カガリが改変したのは身体に宿る記憶だけ、つまり脳から伝わる電気信号だ。それに改変を加えて彼女の身体を動かして、逆に魂に宿る記憶には手を出していないんじゃないか?」

「けど、魂の記憶と身体の記憶だったら、どっちかって言うと魂の記憶の方が強い気がするんだけど……」

「僕もそう思う……というか、もうここから先は完全に科学では説明がつかない事象に入っているから、もう推測に推測を重ねるしかないんだが……紫穂、カガリは意識の操作の魔法も持っているとさっき言ったな」

「えぇ……」

「こうは考えられないか? カガリは魔法でアリサの魂の記憶から意識をそらし、身体の記憶のみで活動するようにした。そして、その身体の記憶だけを改変させる。そうすれば、彼女の身体の記憶にだけ負の感情を埋め込み、ソウルジェムが汚れるのを遅くさせることが出来るんじゃないか?」

 

 これが皆本の立てた仮説。身体の記憶と魂の記憶は全くの別物であるという説だ。これならば、魂の記憶に操作が加えられているということがないためソウルジェムが汚れるということは抑えられる。のだろうと思うのだが、しかしそれではまだいくつも問題がある。

 

「でも待って。それじゃアリサが魔法を使えることの説明がつかないわ」

「せやな、アリサが身体だけで動いているって言うんなら、ソウルジェムから出ている魔法も、使えへんってことにならへんか?」

 

 そう、もし皆本の言う通りの改変をカガリが行ったとしたらアリサの意識のみならずソウルジェムから身体に流れているはずの魔力まで途切れてしまうのではないだろうか。

 皆本の話をかろうじて理解できる紫穂やサニーはそう反論する。因みに皆本の話をあまりよく理解できなかったのはピースと薫であったと残しておく。

 この疑問に対して答えとなりそうな物を見出したのは、意外なことに海香である。

 

「いえ、意識ならともかく、魔力のラインは途切れることはないのかも……」

「へ?」

「どういう事?」

 

 かつて、自分たちプレイアデス聖団は、幾多の魔法少女の身体とソウルジェムとの意識のラインを断絶させてソウルジェムが汚れないようにその機能を停止させていた。それは、意識とソウルジェムを分断させることによってソウルジェムが負の感情を取り込んで汚れるということを抑えるためだ。

 もしもカガリが皆本の言う通りにソウルジェムと意識を分断させていたとしたら、アリサのソウルジェムの汚れの速度が自分たちが思っていたよりも遅い理由に説明が付く。

 それに、魔力まで途切れないだろうかということ彼女たちが考えた疑問に関しても、一つコレという考えた海香にはあった。自分たちは経験していないためにそれが真の事であるのかは分からないが、しかしもしかすると。

 そこまで考えた海香はあるモノを呼ぶ。自分たち、普通の女の子だった者たちを魔法少女という存在に変換し、恐怖と絶望の中に投じたあの存在を。

 

「QB!!」

「呼んだかい?」

「!」

「こいつがQBって奴か!」

「へぇ……これがね」

 

 それは、先ほどビューティやカオルの前に現れたQBだった。

 チルドレンの三人は事前に彼の存在についての情報を入手していたため、目の前に現れた不思議生命体に応対してもさほど動揺することは無い。しかし、そんな彼女たちをみて頭に疑問符を浮かべる者が二人いた。

 

「なんだ、君たちには何が見えているんだ?」

「もしかして、いるの? 女の子たちを魔法少女にした元凶であるQBが……」

 

 そう、皆本とナオミである。

 

「そうか、男の皆本さんや大学生のナオミちゃんには……」

「でも、姿を見せることならできるよ」

「!」

「これが、QBなの……」

 

 QBはたとえ相手が魔法少女としての素質を持っていなかったとしても自分の姿を任意で相手に見せることができる能力を持っている。恐らく場合によって素質を持っていない者の前に現れて魔法少女の契約をスムーズに行ってもらうための根回しのためにそのような機能がつけられているのだろうが、今はそんなこと関係はない。

 

「QB確認させて」

「なんだい?」

「魔法少女はソウルジェムが破壊されない限り死なない。例えバラバラにされたとしてもソウルジェムが存在している限りくっつけたり修復することが出来る。でも頭と胴体が離されてしまえば?」

「えっと……頭と胴体が離れれば……身体を動かすのは脳から発生する電気信号だから……あ、動かない……ううん、考えることもできないハズ!」

 

 ピースはなんとか海香の話を理解することが出来た。そうだ。そもそも考える脳から発せられる筋肉を動かす電気信号が途絶されている状態で、どうやって身体を動かすというのか。

 

「そう、でも違うわよね……QB」

「その通りだよ。実際隣街の見滝原にいる魔法少女が昨晩首と胴体が離れることがあったけど、それでも生きていたし、動いて考えることもできていたからね」

 

 皆本は、このQBの話の一端に反応を示した後、考え直すように首を振って言う。それはまるで自分の考えを反復し、正確性をより高めるために。

 

「そう……つまり、魔法少女の身体を動かしているのは脳じゃない、ソウルジェムから身体中に流れている魔力ということだ。恐らく、カガリはソウルジェムから身体に流れる彼女の意識を魔法で阻害して魔力だけが流れるようにして、アリサの脳に偽りの記憶を流し込み、かつ脳で作られたイメージ通りに誤った電気信号を身体に届けるように改変した! これがカガリの魔法の真相なんじゃないか!?」

 

 皆本の言葉、それから数秒の時が、しかし心理的な時間としては何十分にも感じられるほどに重たい時が流れた。

 そして、開くことのないQBがテレパシーを使用して送ってきた情報、それは。

 

「正解だよ。ただの地球人が魔法についての推論を展開し、かつ正解ににたどり着くなんて、今までになかったことだよ」

 

 肯定だ。それも恐らくではあるがQBにとっては最大級の賛辞に当たるであろう言葉で、である。

 

「でも分かったところで何も……」

「変わるさ!」

「え!?」

 

 皆本は手に持った携帯電話を操作しながら言う。

 日本にはこんな諺が存在する。幽霊の正体見たり枯れ尾花。魔法という不可思議現象の理論が全く分からないでいた先ほどまでならともかく、QBによって確証を得た後なら、どうすることもできないと思っていた事象であったとしても解決方法を見出すことが出来る。

 

「脳のイメージを変化させて暗示をかける、それは正しくエスパーのヒュブノと同じだ! なら……」

 

 かつて、彼ら特務エスパーは、黒い幽霊と呼ばれる組織と対立していた。

 彼らは、エスパーを催眠能力によって洗脳し、殺し屋に仕立てて世界中で暗躍していた。その洗脳は非常に強力で、催眠を解こうとして失敗しうることがあり、さらに生半可に催眠を解いたとしても自滅プログラムという物が作動して自死してしまうという恐ろしい物だった。

 そんな黒い幽霊の催眠能力に対抗できたのは、ただ一組。

 

「まさか、皆本!」

「そうだ……三人とも、行けるな!」

「……あぁ!」

「モチのロンや!」

「えぇ!」

 

 ここにいる特務エスパー『ザ・チルドレン』の四人だけだ。

 

「ザ・チルドレン! トリプルブースト!! 完全解禁!!」

 

 瞬間、ザ・チルドレンの三人を中心として突風が周囲を襲う。これは、皆本の開発したリミッターを通じて他の二人が薫に自らの力を上乗せさせたことによって薫のESP能力が増幅されたのだ。

 薫の使っている念動能力は不安定ながらも一番強力な力を有するといっても過言ではない。おまけに薫は超度7。そこに同じく超度7である葵と紫穂の二人のパワーを上乗せすれば、莫大な力になることは想像に難くない。

 

「す、すごい……」

「これが、超度7……日本最強のエスパーの本当の力なのですね!」

 

 そして、このトリプルブーストにはさらにもう一つ、皆本も想定していなかったある力がある。それが、彼女たちの本当の切り札であるのだ。

 

「ッアァァァ!!!!」

 

 魔力を放出させて地面を砕いたアリサは、再び真っすぐチルドレンの方へと走る。

 しかし、それはむしろ好都合であると言ってもよい。

 

「もう、これ以上暴れさせたりはしない!!」

「ッ!!?」

 

 それは、まるで天使のようであった。

 薫の背中から生えてきたのは、純白の白い羽を持った翼。当然、彼女の背中に本当に翼が生えているわけじゃない。それはいうなればイメージ。彼女の超能力が作り出した幻影。そして、それは薫の絶対に仲間を救いたいという思いが生み出したものだったのかもしれない。

 すべてのエスパーを導く存在。率いる存在。そして、救う女王、女神、女帝。そう形容されてもよいであろう。

 

念動(サイキック)ーーー 強制解放(フォース・オブ・アブソリューション)!!」

 

 神々しいまでの光がアリサの身体を包み込む。これが、これまで黒い幽霊(ブラック・ファントム)が催眠をかけてきた多くのエスパーを救ってきた彼女たちの、いわゆる必殺技である。

 しかし。

 

「ッ! アァァァ!!!」

「洗脳が解かれへん!?」

「どうして!」

 

 通常であればすでに相手の洗脳は解けているはず。だが、いまだにアリサの洗脳が解かれるということは無い。

 

「そんな!?」

「当然のことだね。例え原理が同じといっても、エスパーと魔法少女じゃ雲泥の差があるんだ。魔法少女の洗脳をエスパーが解くなんて、不可能に近い」

「ッ!」

 

 確かに皆本も考えていたことだ。原理としてはエスパーの洗脳に近いとはいえ、対エスパー専用ともいえるトリプルブーストで洗脳を解除できるのかと。しかし、一か八かの賭けであったとしても可能性が残されているのであれば。彼には、いや彼らには試さないという選択肢はなかった。

 

「アッ、アァァ……」

 

 アリサの反応が弱くなっている。もしかして効いているのか。原理が多少違っていたとしても、効果はあったのかもしれない。このまま長時間この技を続ければ、いずれは彼女の洗脳を解くことも可能になるのかもしれない。

 だが、そんな悠長な時間は彼らに残されていなかった。

 

「ッ……うぅ……」

「み、皆本はん……」

「くそッ! 例え効果があったとしても、これ以上ブーストを続けたら……」

 

 この技は諸刃の剣である。三人の力を極限まで引き出すこのトリプルブーストは長時間続けると彼女たちの身体に大きな負担をもたらしてしまうのだ。例え成長した彼女たちであったとしても、これ以上の連続的なブーストの使用は身を滅ぼしかねない。

 残念だが、ここまでだ。皆本はブーストを解除するボタンを押そうとする。

 

「待って! 皆本!!」

「ッ!」

 

 だが、薫はそれを止める。二人の超度7の力を一身に受けている彼女が一番辛いはずなのに、それでもなお彼女は皆本を止めた。

 

「だが薫! これ以上は!!」

「あと少しなんだ! あと少しで……」

「薫……」

「薫ちゃん……」

「薫ッ!」

「絶対に……助ける!!」

 

 薫のその言葉に同調するかのように、薫の念動能力はさらに増幅する。もう、そんな力残っていないはずなのに、一体どこからそれほどの力を出しているのだろうか。

 そんな彼女の気合に答えるように、葵と紫穂が言う。

 

「もう、こうなったらやるだけやってみ薫!」

「私たちの力……最後の一滴まで使って!」

「葵! 紫穂!」

「……くそッ! 三人の体力を考えれば、残り2分が限界だ! 分かったな! 薫!!」

「皆本……あぁ!!」

 

 皆本もまた、三人のアリサを救いたいという思いをくみ取り時間制限をかけてブーストの継続を了承する。

 本来なら、すでにブーストを終えなければならない時間はとうの昔に過ぎている。というより、普通のエスパーであれば限界を超えて気絶していてもおかしくはない程の力を継続して出しているのだ。まぁ、普通のエスパーがブーストを使用することなどできないわけなのだが。

 とかく、この皆本の決断ははたから見れば感情に流されて仲間たちを危険にさらす愚策のようにしか見えない。だが、彼は何んの考えなしに制限時間2分を出したわけじゃない。

 これまでの経験則、そして彼女たちの持てる力すべてを計算に入れた結果算出された制限時間という物がわずか2分。だが、これは皆本にとっても苦肉の策。この一分が今後の彼女たちの人生にどのような悪影響をもたらすことになるのか分からない。だが、彼にも分かるのだ。彼女たちが救いたい、アリサという一人の女の子の人生も、自分たちの人生と同じくらい価値があるのだと判断したのだと。

 

「分からないな」

 

 だが、当然ながら彼にはその彼女たちの思いは分からなかった。

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