映画 プリキュアオールスターズVS魔法少女まどか☆マギカ 悠久の絶望は永久の希望に   作:牢吏川波実

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外伝(みゆき編):戮力協心! 三つの力を一つに合わせて、切り開け未来!!

「さっきまで彼女のことを知りもしなかった君たちが、感情なんてものに左右されて、命を賭けてまでアリサのことを救おうとするなんて、どうかしてるよ」

 

 一見、誰かのことを救いたいと言う彼女たちの思いという物を理解していない言葉だ。しかし、残念なことに彼の言葉は正論でもある。

 確かに、彼女たちにとってアリサは、先ほど知ったばかりの相手であり、三人にとっては洗脳を受けているとはいえ敵である。それに、彼女たちが本来助けるべきエスパーの仲間というわけでもない。

 薫たちが彼女のことを助けたいという、人道的な気持ちは分かる。だからと言って命を賭けてでも、果ては自分たちのこれからの光り輝く人生を犠牲にしてもなお助けたい、守りたい相手であるというのか。そこまでして救うほどの人間であるのか。この彼の疑問も最もであろう。

 だが彼女の、いや彼女たちの答えは決まっていた。

 

「感情のないもんには、分かるわけないに決まっとるやろ!」

「なんだって?」

「確かに人は感情のせいで破滅することもある。取り返しのつかないことをして、それを後悔して立ち上がれないこともある。そしてドツボにハマった人間は、二度と正しいことが出来なくなるわ」

「でも、うちらにはそれを止めてくれる皆本はんが……B.A.B.E.L.の皆がいてくれたんや! まだ世の中の事をなんも知らへん子供のうちらに、正しい道が何なのかを教えてくれたんや!」

「なんにでもなれる、どこにだって行ける! けれど、まだ何も知らない。そんな子供たちを教え、正しい道へと導いていく。それが大人の役目だ! 知っている知らないにかかわらず!」

 

 感情は確かに悪い側面を持つ。だが、その悪いことを悪いと教えてくれるよい大人がいる。その良い大人が、子供たちの未来を導いてくれているのだ。

 だから何だ。そう言わんばかりにQBは言う。

 

「ただの詭弁だね。道を示すと言っておきながら、大人は子供たちの道を狭めて自由に選ぶ機会を消しているに過ぎないじゃないか。可能性を狭め、あったかもしれない未来を消す。僕たちと何ら変わらないよ」

 

 皆本はハッとする。そうだ。同じだったんだ。自分たち大人と彼、少女たちを地獄へと引き込んだ悪魔たるQBは紙一重で類似していたのだ。

 けど違う、自分たちとQBは。ほんの少しだけだが相違していた。その相反するものが大きな壁となって立ちふさがったのだ。だから、自分は彼のように外道にならずに済んだ。けど、それは一体なんなのだ。皆本は目を閉じる。

 

「そうだ……僕たち大人が三人の未来を……いや、大勢のエスパーの未来への道をいくつも閉ざしてきた。可能性を狭めたのかもしれない」

「皆本……」

「でも……それでも僕たちは決断した。正しい道と信じたそれが、自己満足だったとしても、それが大人による自分勝手でも……それでも人を傷つけず人を守る人間になってもらいたい……それは永遠に変わらない僕たちの願いだ!」

 

 それは自覚。自分勝手に彼彼女たちの未来への道を狭めつつ。自分たちが正しいと信じてやまない未来への道しるべを作ると言ってレールを敷く。緩慢な人間のやりそうなことだ。

 だが、それが緩慢であるということを自覚しているなら、それが自己満足であることを自覚しているなら。皆本は、決意を込めたように閉じていた眼を開いて言う。

 

「QB、確かに僕たち大人は君たちと同じなのかもしれない。子供たちの未来をつぶし、下手をすれば兵器として利用し、殺す。僕たちはそんな存在であるのかもしれない。けど、そうはならない! それは、感情があるからだ。誰かの思いも知ることが出来ないで閉ざされた心の中でプログラミングされた仕事をただただこなすことしかできないお前たちには、決して知りえない物だ!」

「その感情が人を殺すんだ。だから、日向カガリは今もこうして天乃スズネを殺そうとしているのだから」

「だから……」

「だから! あたしたちが助けるんだ!」

「薫……」

「命を失わせないために! 未来へとつなぐために! あたしたちがアリサを……カガリを助ける理由なんて一つしかない! 切り開くんだ!! 皆本が、あたしたちに道を作ってくれて、その道を歩けるようにしてくれたように……あたしたちが、皆の未来を切り開く!!!」

 

 それは、薫の誓い。確かに、今自分たちがしていることは、B.A.B.E.L.の任務は己から率先してやると言い出したものじゃない。

 B.A.B.E.L.の元で保護されてからという物、必然的に自分たちの能力を使っての人助けという物が多くなっていた。自分で選んだことじゃない。誰かから頼まれたこと。望まれたこと。自分で望んで始めたことではない。でも、その道を進むことに後悔は決してないだろう。

 この道を選んだからこそ多くの人間に出会うことが出来た。エスパーを敵視するノーマルの人たち。ノーマルだけど、エスパーを守りたいと願う人たち。エスパーの力は危険だからと言ってそれを抑圧しようとする人間たち。ノーマルを、人間を恨んでエスパーを守ると言う目的で結成された犯罪組織。だけど、その組織の人間のおかげで守られたエスパーたち。自分の力が人を、愛する人を傷つけてしまうのが怖くて、怖くて、こんな力なんてなくなってしまえばいいと願った人間も、それを受け入れたいけどどうしようもできなかった人間も、けどどうしようもなくなった中でもどうにかしようとしてくれた人間も、最悪な未来を変えたいと願った人間たちを、知っている。

 全部、全部B.A.B.E.L.にいたからこそ出会えた人たち。人間の正の面も、負の面もそこで教えてもらった。どちらも正しくて、でもどちらも悪くて、どっちかしか選べないかもしれない、だがどちらも選べるかもしれない。B.A.B.E.L.は、エスパーの力は、確かに自分たちの中のたくさんの未来を消したのかもしれない。でも、B.A.B.E.L.にいたからこそ、見えてきた未来があるのかもしれない。希望が生まれたのかもしれない。未来が楽しみになったのかもしれない。

 そして、なにより、エスパーだったからこそ、自分は、自分たちは皆本に会うことが出来た。それは紛れもない事実だから。

 

「これは、誰かに選ばされたものじゃない……」

 

 この道を進むことに後悔はない。この道が正しいものではないのかもしれない、でも未来は変えることが出来る。ほんの少しの絆と友情とあと気合で変えられるかもしれない。そう自分たちは教えてもらった。

 だから彼女たちは突き進む。自分が持てうる可能性で、未来へとつながるその道を。

 

「「「私たちが選んだ道(や)!!」」」

 

 白紙の未来を色とりどりの未来にするために。

 三人のその思いに呼応するように光は強さを増してアリサの身体を包み込む。

 

「また、出力が上がった! けど……」

「クッ! うぅぅ……」

 

 もう、限界だ。

 見ると、薫の背中に生えた翼も徐々にその輪郭がぼやけ、散ろうとしている。もう彼女たちの中に力は残されていないのだ。

 皆本は、懐から対エスパー銃を取り出す。今ブーストを解除すれば、危険なのはチルドレンの三人だ。もし、アリサが三人の元に向かおうとするのならば、自分は仲間を守るために……。

 例えプリキュアや他の魔法少女に彼女と戦う力があったとしても、このまま戦いが継続すれば不利なのは魔力を使えば使うほどソウルジェムが汚れて魔女となる可能性のあるカオルや海香だ。

 魔法少女の二人を救うためにも、チルドレンの三人を救うためにも、そして、アリサのことを救ってやるためにも、もうこの手しか残されていない。そんな汚れた事、子供たちにさせるわけにはいかない。そう、こういう時のために大人である自分がいるのであれば。自分は、大人としてその役目を果たすべきなのだ。

 皆本が、ブーストの解除ボタンに指をかけようとしたその瞬間。彼の目の前を一人の少女が飛んだ。

 

「ッ! ナオミちゃん!?」

「私の力も吸って!! 超度7じゃなくても、少しくらいなら!」

 

 梅枝ナオミは、自分の力も使ってチルドレンの三人を支援しようというのだ。確かに、ナオミの力を合わせればまだ少しは時間を稼ぐことが出来るかもしれない。それに、このトリプルブーストは他のエスパーも力に加わることが出来る。それは、本来皆本が想定していた機能ではなかったが薫の持つ潜在的な力によって機能が変わった結果他のエスパーが参加することが可能になっているのだ。

 しかし。

 

「ダメだ! 今の彼女たちに他のエスパーが触れれば!」

 

 皆本には懸案事項があった。それは、三人があまりにも力を消費していた事だ。恐らく、今の彼女たちにナオミが触れた場合、その消費した力を補うために―――。

 

「ッ! こ、こんなに急激に……!?」

「やはり! 出力を維持するためにナオミちゃんの力を急激な速度で吸っているんだ! このままだと!」

「ッ! うあぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 皆本が懸念したのは、能力の暴走。今まで幾度となく三人でやってきたトリプルブースト。その中で三人以外のエスパーが参加してでのトリプルブーストは確かにあった。しかし、ここまで極限状態でエスパーが参加してきたことは今までない。

 そして、やはり皆本が懸念していたことが起こった。急激に吸ったナオミの力をコントロールできず、薫が自らの力を安定して維持することが出来なくなったのだ。

 結果、前方への出力自体は確かに増している物の、その代わりに足元で踏ん張る力の方に気を向けることが出来なくなり、自分の力に押される形で薫は後ろへと下がらざるを得なくなった。

 

「薫! 葵! 紫穂! ナオミちゃん!!」

 

 このままでは4人の身体が吹き飛ぶ。もう選ぶ理由が無くなった皆本は、すぐさまブーストを解除しようとした。

 ここまでなのか。本当に。未来の自分たちは最悪の未来を閉じ、自分たちの新しい未来への道を作ってくれた。でも、自分たちは女の子一人の未来への道をも作ることが出来ないのか。

 いやだ。いやや。嫌だ。いや。

 助けたいんだ。

 

「え?」

 

 そんな四人の、いや五人の思いに答えるかのように、薫の足は止まった。それどころか、力が安定して、先ほどまでの疲れが嘘のように身体が軽くなっていく。先ほどまであった頭痛もまた、まるで幾日間も寝続けていたかのようにスッキリと引いて、今日一日の疲れが無くなったかのようだ。

 だが、何故だ。一体、自分に何が起こったのだ。薫は困惑した。

 

「力が……戻っていく?」

「でもなんで?」

「後ろは私達に任せて、貴方は前にだけ目を向けなさい!」

「え?」

 

 その声に反応した薫が後ろを向く。そこには、先ほどまで戦っていたキュアムーンライトの姿。いや、彼女だけではない、キュアロゼッタ、サニー、ピース、マーチ、ビューティ。それに、魔法少女のカオルと海香もまた、自分の身体を支えていた。

 

「貴方達!」

「エスパーじゃなくても、身体を支える事ならできますから!」

「私が足を硬化させて地面に楔を打ったから、もう後ろに下がる事はないはず!」

「私の能力で貴方達を回復させるわ! 超能力にどれだけ影響を与えられるか分からないけど、やらないよりもマシよ!」

「みんな……」

 

 ナオミから聞いた。彼女たちのトリプルブーストは、他のエスパーのパワーを注ぎ込むことによってその力を増すのだと。そのため、エスパーではないプリキュアや魔法少女たちが、薫のトリプルブーストに参加してパワーを分け与えることはできない。

 しかし、それでもこうやって支えになることくらいはできるはずだ。身体を安定させて補助をすることくらいはできる。海香もまた、自分の能力によってコピーした魔法でどのくらい4人の力を回復させることが出来るか分からない。だが、それでも彼女たちもまた自分たちができうることをしようと決心したのだ。

 何故か。理由は簡単。

 

「貴方なら、アリサちゃんを助けることができるんでしょ!?」

「今のうちらにできるのは、これくらいやけど!」

「迷わずに直球勝負、ただ突き進むのみ!」

「お願いします。アリサさんを……マツリさんのお友達を、救ってあげてください!」

 

 彼女たちも助けたいんだ。もうこれ以上、マツリから友達を奪わないために、アリサの未来を救うために、命の重みを知っていた彼女達は、ただ未来だけを夢見ていた。

 

「……みんなの気持ち、確かに受け取った!! 行くよ! これが、私の……私たちの全力全開!!!」

♪強く 凛々しく 羽ばたいて♪

 

 

 アリサを助けるため。今ここに、本当の意味でプリキュアが、魔法少女が、エスパーが共に手を取り合った瞬間であった。

 彼女たちからあふれ出ていた力、それは力を使い果たしそうになっていた先ほどまではあまりにも極小の物であった。だが、ナオミとプリキュアと魔法少女、このすべての要素が合わさった結果ザ・チルドレンの三人の力は全快時のそれと同等になり、薫の背中から生える翼もまた元通りに綺麗な翼へと戻った。

 いや、同等どころではない。それは彼女たちの様子を見れば分かる。

 

「こ、これって!?」

♪あなたとこうして♪

「魔力が吸われていく……?」

♪出会えたのは♪

「私たちもなんか……」

♪ただいきてくため♪

「力が……抜けてッ! クッ!!」

♪なんかじゃない♪

 

 プリキュアも、魔法少女も、双方ともに力が抜けていくような感覚がする。まるで薫に吸われているかのよう。それはまさしく、トリプルブーストに参加したエスパーが感じるソレと同じものだ。

 しかし、エスパーではないはずのプリキュアや魔法少女の力が、何故吸われていくというのだろう。皆本もまた、外側でこのトリプルブーストには参加していない物の、所持している端末に送られてくる情報から、この異常事態に気が付いていた。

 

♪小さな誓いは♪

「なんだ! 何が起こっている!!」

「ありえない……」

♪時を超えて♪

 

 そして、この異常事態に皆本以上に驚愕している者がいた。だが、彼が驚愕していること自体皆本には驚愕するべきことであった。

 そう、彼以上にこの状況に驚いている存在、それはQBである。QBは、皆本の困惑をよそにして、まるで自分の考えを何も考え成しに述べる人間かのようにつらつらと述べていく。

 

♪未来を必ず変えるよ リミッター(changing myself) 解き放てば(changing yourself)♪

「明石薫、野上葵、三宮紫穂の三人が身に着けている物からソウルジェムに似た反応を感じる。けど魂は宿っていない……ただ魔力を集めて増幅して自分たちの力にしているんだ!」

♪ほとばしる 天使のシャイニング 世界を救う「翼」 今 私が選んだ道♪

「御崎海香と牧カオルの魔力を使って自分たちの身体の自己修復を行っている。けど、これだけの魔力をつぎ込めば二人のソウルジェムはすぐに汚れて魔女となるはず。なのに、どうして二人のソウルジェムは綺麗のままなんだ?」

♪幻想(ゆめ)を掴みたい だけど(止まらない) 与えられたチカラが 天空(そら)へかけ立てるよ 強く 凛々しく 羽ばたいて♪

「そうか! プリキュアか!! プリキュアの持つあの不思議な力が……花咲つぼみや来海えりかがやったように汚れを浄化しているんだ! プリキュアの力と魔法少女の魔力、その二つを組み合わせることによって無限動力を実現しているのか!」

♪絶対可憐 my wings♪

「花咲つぼみに、来海えりか? 確か、それはプリキュアの……」

 

 QBの話を聞いた皆本は、すぐさま脳内で彼の言葉を整理し、理解しようとする。結果、考えられた考察が、これである。

 ザ・チルドレンの三人が身に着けている物。恐らく、それは皆本が開発し、彼女たちに送った新型のリミッターのことだろう。通常のリミッターがただ使用者の能力を制限させることが目的であるのに対し、彼女たちが装着している腕時計型、イヤリング型、指輪型のリミッターは能力を抑えることではなくパワーアップさせることを目的とした物。皆本が取り付けたレアメタル結晶がその力を集め、増幅させる、つまりブーストを作動させる役割を持っている。それが本来の仕様である。

 だが、ここに超度7の薫たち三人の力が加わることによってレアメタル結晶の構造が変化を起こし、本来は三人だけでしかブーストが出来ないところを、他のエスパーが連携し、力を増幅させることが可能となっているのだ。

 恐らく、そのリミッターが今度は薫たちの力だけではなく魔法少女の魔力、そしてプリキュアの力も混ざったことによりリミッターのレアメタルの構造をさらに変化させたのだ。QBのいうところのソウルジェムに似た構造へと。

 そして、三人のリミッターは、葵と紫穂が薫に力を与える時のように、二人の魔法少女の魔力を半強制的に吸い、力を増幅させ、その魔力が魔法少女の身体を修復する時のようにチルドレンの三人の脳にあるエスパー中枢を回復させているのだろう。

 だが、魔法少女のように魂の籠っていない身体ではなく、魂がこもった生きた身体を修復するのは本来の魔力の使い方とは異なる。そのため、いつも以上に多くの魔力を消費している、恐らく本来であればソウルジェムがすぐに黒く汚れてしまうほどの魔力を使っているのだ。だが、QBの言う通りここから見る限りでは二人のソウルジェムは汚れているどころか、自分たちが来た時よりもさらに綺麗な色になっているように感じ取れる。

 何故ソウルジェムが汚れないのか。その答えもQBは説明してくれた。プリキュアだ。プリキュアの持つ不思議な力、邪悪な心を浄化するプリキュアの力がソウルジェムの汚れをまた浄化してくれている。

 主としてアリサの洗脳を解こうとしているチルドレン、その身体を修復する魔力を送る魔法少女、魔法少女のソウルジェムの汚れを浄化するプリキュアの不思議な力。まさしくQBが無限動力と評する意味も分かる。

 だが、不思議だ。何故QBが驚愕しているというのだろう。もちろん、本来知っていた情報を知らなかったからということで不思議に思っているわけじゃない。感情がないはずのQBが、驚くという感情を示したということが不思議なのだ。QBには感情という物がないと事前には聞いていたのだが、本当にそうなのか。もしかして、QB自身にも分からないことがあるのではないだろうか。それに、彼の言葉の中に見過ごせない物があったのも気にかかる。一体―――。

 

♪あなたと過ごした♪

「わけが分からないよ……」

「……」

♪必然の日々 絆はまぼろし なんかじゃない♪

「魔法少女の力を利用して、自分たちの力に変換するなんて……人類が僕たちの力を借りずにここまで進化することが出来るなんて……」

 

 利用する、か。確かにそうなのかもしれない。自分たちは魔法少女の二人の魔力という彼女たちにとって生命力に等しい物を吸って力に変えているのだから、利用するという表現はあながち間違いじゃない。それに、プリキュアが魔法少女のソウルジェムの汚れを浄化しているということは、もしもプリキュアがいなかったらただただ魔法少女を利用するだけ利用して魔女にしてしまう残酷な装置に過ぎない。

 だが、そうはさせない。彼女たちが、彼女たちの可能性が、未来を切り開く可能性がそうはさせないのだ。

 

♪小さな勇気は♪

「QB、それが人の可能性だ」

「え?」

♪愛に育ち 未来を優しく導く♪

「与えられたものだけで生きることは望まず、未来のために進化を続ける。それが人間の持つ可能性の力だ」

♪泣かないで(start out myserf) あやまちさえ(start out yourself) 包みこむ 無限の サイキック♪

「そんなバカな。人類は、僕たちが来なければ今でも洞穴で生活を続けていたほど知的能力がない生命体だったはず。それが……」

 

♪奇蹟を起こす「翼」 もう逃げない 孤独からも いつも あなたといるから(いつまでも) 与えられた運命 疾風(かぜ)もミカタにして♪

「確かに、それも人間の持つ一つの可能性だったのかもしれない。だが、それは無限にある可能性のただ一つに過ぎない! 人間は進化をし続ける。前を向き続ける。例え洞穴の中にいた人間たちでも、彼らが望みさえすればいくらでも進化をすることが出来たはずだ! 君たちが、いなかったとしても」

「……」

♪強く 凛々しく 羽ばたいて 絶対可憐 my wings♪

「だが、君たちが人間に与えた魔法少女の力が結果的に人類の進化に貢献したのは事実なら、それも折り込んでさらに進化し続ける! それが人間だ! 今目の前にあるこの光景が、その証だ!」

 

 過去がどうであった等関係ない。

 未来がどうなるのかなんて尚更分からない。

 だが、人類はその分かることのない未来のために生き続ける不思議な生き物だ。

 不鮮明な未来を夢に見る幻想の中に生きる生き物だ。

 それまでの人生が今の自分を形作っていたとして、だから未来が決定づけられているとは限らない。

 これから出会う者たち、これまでに出逢った者たち。そしてその者たちから得た数々の経験。それら全てがまじりあうことは無い。

 何故なら、可能性は無限大だからだ。無限であるのならばすべての可能性がまじりあう可能性なんて存在しない。

 だから人は生き続ける。いくつもの可能性を混じり合わせてより良い未来を創造するために生き続ける。

 命ある限り、命が透明という目に見えない形である限り。その命を背負って人は生き続ける。自分勝手でも、自己満足であっても自己欺瞞であっても。

 未来を切り開けるのは自分だけ。ならば、他人の未来などどうでもいいものなのか。

 否、断じて否。

 未来は誰かに与えられるものじゃない。ならば、他人の未来はどうでもいいことなのか。

 否、断じて否。

 共に歩む未来があるのならば共に歩いていけばいい。共に切り開ける未来があるのなら共に切り開けばいい。大切な物を守るため、大切な人の未来を守るため、大切な自分たちの未来を見に行くために。

 まじりあう可能性がない、だがまじりあう可能性だってあるはずだ。

 可能性が無限大であるなら、人ひとりに未来が必ず待っているのだとしたら。

 人間はある能力を持っている。それはエスパーであっても、普通人であっても、魔法少女であっても、プリキュアや他の全ての人種であったとしても同じもの。

 

♪突き抜ける(changing myself) この思いは(changing yourself)♪

「「「「「「「「「「「「ハァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!」」」」」」」」」」」」

♪守りたい 明日があるから♪

「これが、真のトリプルブースト。プリキュアと魔法少女とエスパーの三つの力が融合した。人類の可能性の一つだ!!」

 

 未来を切り開く可能性。どこにでも行ける。何にだってなれる。それが、人が持つほんの少しの可能性であるのならば。

 今ここに三つの可能性が交じり合った。交じり合った三つの力はそれぞれに翼を作り少女の背中に出現する。

 

♪世界を救う「翼」 今 私が選んだ道 幻想(ゆめ)を掴みたい だけど(止まらない)♪

 

 二対三つの華麗なる翼。それぞれの羽は同じように見えて、よく見るとどれもが違う形をしている。それは、まるで彼女たち全員の未来がそれぞれに違うように、まるでそれぞれに多くの可能性が存在しているかのように。

 可能性の中心にいるはエスパー明石薫。その周囲に存在するすべてのエスパーの、魔法少女の、プリキュアの可能性を吸って一人の少女の可能性を助けようとする。その姿は、まさしく≪女王≫。エスパーを、魔法少女を、プリキュアを束ねる力。だが、それは征服、支配する力じゃない。共に未来を守ろうとする力。共に未来へと歩もうとする力。共に生きようと願う力。

 魔法少女だけじゃ無理だった。

 プリキュアだけじゃ限界だった。

 エスパーじゃ力になることが出来なかった。

 だが、この三つの力が合わさった時、誰にもできなかった奇跡を引き起こす。

 

♪与えられたチカラが 天空(そら)へ駆け立てるよ♪

≪プリキュア! 念動(サイキック)―――強制(フォース・オブ)魔法解放(マギカ・アブソリューション)!!!≫

「ッ!!!!」

♪強く 凛々しく 羽ばたいて♪

 

 その光が最大になった瞬間、アリサの身体にとりついていた悪魔のような存在が砕け散った。そこに、本当に悪魔が存在していたわけじゃないため、それは彼女たちが視認したイメージに近い者。

 そして、アリサもまた同じように薫たちの後ろに何かを見ていた。

 あれは―――。

 

♪絶対可憐 my wings♪

「天、使……」

 

 そして、アリサの身体は、ゆっくりと地面に力なく背中から降りる。まるで、天使に身体を抱かれたかのように優しく、ゆっくりと。

 薫たちもまたトリプルブーストを終えて地面にゆっくりと降り立つ。薫の背後にあった翼は、地に足が付いたと同時に拡散して消失した。

 

「アリサは?」

「私が見てくるわ」

 

 遠目からでは、アリサがどうなっているのか分からない。だが、どれだけ待っていても動く気配はない。気絶しているのか、それとも―――。ともかく、彼女をカガリの洗脳から解放することが出来たのか、それが問題だ。

 紫穂は、アリサにゆっくりと近づくと、能力を発動させる。普段トリプルブーストを行った後はその反動で超能力は上手く使うことが出来ないのであるが、今回は本人も不思議がるほどに好調だ。

 

「紫穂、慎重に……何かあったら直後ろに下がるんだ」

「分かってるわ」

 

 もしも洗脳が解けていなかった場合に備え、皆本もまた彼女と共にアリサへと歩み寄る。そして、ついに目と鼻の先の距離までやってきた。

 外見上は先ほどまでとはあまり大差はない。いや、どちらかと言えばソウルジェムの汚れが無くなっているようだ。確かに先ほどまでは彼女のソウルジェムも汚れていたはずなのだが、やはりこれもまたプリキュアの浄化作用が関係しているのだろうか。

 紫穂は、片膝をついてゆっくりとアリサの頭に手を置いた。

 

「見れるのは……やっぱりこの身体の情報だけね……彼女の記憶や思いも、感情も伝わってこない……」

「ッ! じゃあ!」

「落ち着いて薫ちゃん。感情も伝わってこない……つまり、さっきまであった負の感情もないって事よ。魔法少女はソウルジェムが身体を操り人形のように動かしているから、身体の方には心理的な情報がないだけで……」

 

 そういうと、紫穂はアリサのソウルジェムに触れる。

 数十秒後、立ち上がった彼女は笑みを浮かべて言った。

 

「大丈夫。彼女の意識は無事よ。もう、問題はないと思うわ」

「本当!?」

「よかったぁ……」

「これで、マツリの友達を救うことが出来たわね」

「えぇ……」

 

 身体に触れた時、負の感情が感じ取れなかったことから、薄々はそうだろうと思っていたが、彼女の身体とソウルジェムとの間の意識のラインは繋がっていた。もう、カガリの魔法による洗脳から完全に解き放たれたということの証拠だ。今は、疲れで眠っているだけで、少し休めば彼女も目覚めることだろう。

 喜ぶプリキュアや魔法少女、そして友達を見る紫穂は、皆本に近づいて言う。

 

「皆本さん。私の能力でも魔法少女に変身している時の彼女の記憶はぼやけていたわ」

「そうか……紫穂なら何とかできると思ったが……」

 

 二人が話しているのは、アリサが魔法少女に変身して戦っている時の記憶のことだ。

 ザ・ハウンドの小鹿の記憶を見ても魔法少女であるスズネの姿がぼやけてしか見えなかったという話を事前に聞いていた皆本は、超度7である紫穂であれば鮮明に記憶を読み取ることが出来るかと期待したのだが、どうやら同じで、主観視点で他の魔法少女の姿を見てもフィルターがかかったかのようにぼやけたまま。それだけでなく、魔法少女に変身している状態では全体的にぼやけたようにしか見えない。

 それはつまり、魔法少女に関連することはその全てを秘匿するかのようにフィルターをかけているということ。そして、そのフィルターは日本最高の接触感応能力者(サイコメトラー)である紫穂をもってしてもみることが出来ないということが分かった。

 

「と、いうことは立件するのは難しいな……」

「え?」

 

 皆本につぶやきに対して、その意味を問おうとした紫穂。

 だが、その疑問の声は彼女の口から放たれることは無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜に向かおうとする空に、花火のような破裂音が響く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 銃声だ。それも、皆本が聞いたことのある物である。

 

「今のは!?」

「どこ? どこから聞こえたの!?」

 

 少女たちは、念のために身をかがめて周囲を見る。どうやら、先ほどの銃声は自分たちを狙ったものではないようだ。なら、一体だれを狙ったものだったのか。

 

「銃声が聞こえたの……確か、向こうの方だったわね……」

「あ、あっちって確か!?」

「ハッピーやスズネたちがカガリと戦っている方向や!」

 

 彼女たちの仲間が戦っている方向から銃声が聞こえてきた。この情報に、嫌な予感を覚えたナオミ以外の少女たち、そして皆本はすぐ立ち上がり向かう。

 ナオミは、眠っているアリサを介抱するために残る。

 あの銃声、もしかして壊滅させたはずの普通の人々がまだ残っていたのか。だが、皆本はある別の可能性を考えていた。

 先ほどの銃声、聞き覚えがある。あれは確かB.A.B.E.L.から支給されている銃。今自分が持っている銃と同じものだ。

 まさか、『彼女』が―――。

 

「ッ!」

「あっ……」

 

 そして、銃声が聞こえてきたであろう場所にたどり着いた皆本たちが見た物。それは―――。

 

 狂ったような笑みを浮かべるカガリ。

 

 それを見つめて武器を構えるスズネとかずみ。

 

 銃を持って気絶している小鹿。

 

 必死で一人の少女の名前を呼び続けて寄り添うマツリ。

 

 そして―――。

 

「ねぇ、目を開けてよ、ハッピィッ……みゆきちゃん!!!」

 

 血溜まりの中に沈んでいるキュアハッピーであった。


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