映画 プリキュアオールスターズVS魔法少女まどか☆マギカ 悠久の絶望は永久の希望に   作:牢吏川波実

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外伝(みゆき編):やっぱりマツリなんて、大っ嫌い

 今、物語は再びこの二組を出会わせた。

 

「ハッピー!」

「そんな……」

 

 プリキュア組は目の前の状況を信じる事ができなかった。自分達の友達が、いつも笑顔を絶やすことのなかった友達が、凍りついたように顔を動かすことなく血の海の中心にいる。その目は固く閉じられ、身体からは正気を感じることも何もない。

 

「撃たれたんか!」

 

 現場の状況から察するに、カガリによって洗脳された小鹿に銃で撃たれたであろうことが想像できる。そしてこの血の量。生命維持にかかわる箇所へと着弾したのだろうか。と、するのならば一刻の猶予もない。

 

「クッ! 紫穂!」

「わかってるわ!」

 

 皆本は、すぐに紫穂にハッピーの身体に対して超能力を使用するように指示を出した。紫穂は、寄り添っていたマツリと入れ替わるようにハッピーのすぐ横に片膝を立てて座ると、すぐにハッピーの身体を診る。

 そして、その顔に緊張の色が走った。

 

「ッ! 弾は貫通してるけど、動脈を損傷してる! 早く止血しないと危険だわ!」

「え!?」

「そんな……」

 

 それは、とても奇跡的な不運であるといえる。ハッピーの身体を撃ち抜いた銃弾は、彼女の体内を抉り、多くの骨や臓器を避けて腹部大動脈の一部を傷つけた。

 その損傷した動脈から血が次々と溢れ出し、今まさに彼女の命を奪おうとしていたのだ。

 

「クソ! 薫! 急いで止血するんだ!」

「分かった!」

 

 薫は、自らの超能力により、彼女の身体から溢れ出ようとしている血を堰き止め、これ以上血が流れないよう破れた血管の穴を塞いだ。これで、少しは彼女の血が流れるのは遅くなるであろう。しかし、これは単なる応急処置、いや延命手段にすぎないと言ってもいい。

 

「ハッピーは、ハッピーは大丈夫クル!?」

「いや、早く病院に連れて行かないと彼女の命が危ない!」

「そんな……」

 

 そう、出血を抑えていると言っても、血管の操作はとてもデリケートな作業で、非常に集中力を必要とする。こんな方法が長続きするとは到底思えない。それに、すでに流れ出た血に関しては、戻す手段は存在しない。早く大きな病院に連れて行って緊急手術と輸血をしなければならない。それまで、彼女の命は風前の灯であるといえるだろう。

 

「ッ! 私の魔法で回復するわ! 魔法少女でもない子相手じゃ限界があるかもしれないけど……」

 

 もしも相手が魔法少女だった場合、これくらいの傷だったら自らの治癒能力によって治す事は容易い。他人から回復魔法による援護を受ければもっと早く回復する事はできる。ただ、空っぽの肉体を治すだけだから。

 しかし、相手が魂のこもっている肉体であるのならば話は別。ただの肉体とは違い、心のこもった、生きている肉体の回復はとても難しく、回復を専門とする魔法少女であっても、完全回復は厳しくなるのだ。

 こんな時に限って、ゾンビのような魔法少女の身体じゃないということがデメリットとなるなんて、夢にも思わなかった海香はしかし、やれるだけはやってみようと彼女に魔法をかけ始めた。

 が、しかし。やはり回復は遅い。このままだと、彼女が死ぬか、それとも自分のソウルジェムが濁り切るのが先かのデスレースとなってしまう。どうすればいい。どうすれば。

 そんな必死な表情の彼女達の様子を、笑ってみている少女がいる。

 

「アハハッ! また一人死んじゃうね、スズネちゃんのせいで!」

「カガリィッ!」

 

 日向カガリである。

 

「何言っとるんや! 元はと言えばあんたが子鹿はんを洗脳したんが悪いんやろ!!」

 

 葵の言う通りだ。ハッピーが死にかけているのは、彼女が子鹿を洗脳して銃を撃たせたことが何よりの原因ではないか。

 しかし、そんな彼女の反論も一笑にふしたカガリは不敵な笑みを浮かべて言う。

 

「けど、その子がスズネちゃんを庇おうとしなかったらそんな傷を負うことなかったんだよ?」

「ッ!」

 

 スズネは、その言葉にハッとした。

 そうだ。もしも彼女が自分の事を庇う真似なんてしなかったら、彼女は撃たれる事はなかった。大怪我を負う事はなかった。彼女の言う通り、これは変えることのなき事実である。

 

「スズネちゃん、貴方のせいでまた誰かが死ぬんだよ、貴方は生きてる限り誰かを不幸にする。誰かを殺す。殺さないといけない! もう、誰かの死から逃げることなんて出来ないんだよ?」

「私が、私のせいでみゆきが……」

 

 私が、狙われたから。私が撃たれなかったから。彼女が、みゆきが死んでしまう。

 私のせいで、また誰かが不幸になる。

 私が生きている限り、こうして誰かが死んでいってしまう。

 私のせいで。

 私のーーー。

 

「もうやめて……こんなの、もう嫌だよ」

 

 そう、つぶやいた少女がいた。

 

「かずみ……」

 

 昴かずみだ。彼女は、目に涙を浮かべながら、しかし首を振って涙を払い除けながら言った。

 

「こんなことしても誰も喜びなんてしない。ただ誰かが傷つくだけ……もう、こんなこと、こんな悲劇の連鎖、終わりにしようよ……カガリ」

 

 もう、こんな悲劇の連鎖は終わりにした。もう、これ以上誰かが傷つく醜い争いは見たくない。それは、彼女の心のそこからの願いだった。

 

「終わらないよ、永遠に……スズネちゃんが死ぬまで、スズネちゃんへの復讐は、椿への復讐は!」

「椿への復讐?」

 

 カガリは、唇を噛み締めながら言う。

 

「そうだよ、椿は、私とマツリを捨てて行った。私だって椿とずっとずっと一緒にいたかった! 椿と、マツリがいればソレでよかったのに!」

 

 彼女は寂しがり屋だったのかもしれない。誰かに側にいてもらいたいという願望があったのかもしれない。

 側にいて、頼りになる女性。それが、彼女が求めていた物。それが、椿だったのかもしれない。

 彼女は椿のことが好きだった。椿さえいれば、マツリさえいれば、あとはなにもいらない。二人と過ごす平凡で、なにも変わらない日常があれば、それだけでよかった。なのに、なのに。

 

「なのに、椿は私たちよりスズネちゃんを選んだんだ!」

 

 嫉妬だった。どうして、何年も一緒にすごした自分達より、こんなに彼女の事を好きな自分達より、当時出会ったばかりのスズネを選んだのか。何故、三人の日常を破壊してでもスズネの元に向かったのか。

 それが、彼女にとっては何よりも許せない事だったのだ。

 

「許せるわけないでしょ! 私たちから椿を奪ったスズネちゃんも、私たちを捨てた椿も!」

 

 カガリは、その手にレイピアを出現させた。狙いは、ただ一人。

 

「許せるわけないでしょッ!!!?」

 

 スズネを刺し殺そうとするカガリ。だが、その攻撃は彼女に留む前にかずみによって防がれた。

 

「ッ!」

「かずみ!」

 

 かずみの杖によって攻撃の軌道を少しだけ外れたレイピアは、かずみの肩を貫いた。

 痛い。痛い。

 でも、伝わってくる。彼女の思い、彼女の椿を思う気持ちが。そして、裏切られたという悲しみが、それがひしひしと伝わってくる。椿が好きだったのは間違いない。だって、そうじゃなかったらこんなにカガリが悲しむことなんてないもの。裏切られた辛さで、自らをおかしくすることなんてないもの。

 きっと、その辛さが、悲しみが彼女の目を曇らせた。何故、椿が二人の元から去ったのか、どうして、こんなにも悔しいのか。彼女は分かっていない。いや、知らないのだ。椿の、本当の愛情の事を。

 教えてあげないと、大事なことを。彼女が、目を逸らし続けた事実に。

 

「カガリには、マツリがいたからだよ!」

「え?」

 

 かずみは、カガリのレイピアを掴むと彼女にさらに顔を近づかせて言う。そんなことすれば、さらに深くレイピアが刺さって、より痛みも増していくと言うのに、そんなことお構いなしのようだ。

 

「カガリにはマツリがいて、マツリにはカガリがいる。お父さんがいる。だから、自分一人が居なくなっても二人は大丈夫だって思ったから、椿は安心して二人から離れることができたんだよ」

 

 そうカガリには母親はいなかった。しかし、マツリがいた。父親がいた。暖かい家庭が存在した。そして何より、笑顔が存在した。

 だから、彼女は安心して二人から離れることができたのだ。

 でも、それでも長年一緒に過ごした。それこそ、自分の子供のように愛情深く接していた二人から離れることは、辛かったはずだ。

 

「椿さんだって悲しかったはずだよ! 辛かったはずだよ! ずっとずっと一緒に暮らしてきた二人と離れることが、怖くて仕方なかったはずだよ! でも、スズネちゃんは、本当にひとりぼっちで、誰も助けてくれる人がいなくて、孤独の渦の中にいた。そんなスズネちゃんを助けられるのは、自分だけなんだって。そう思ったから!」

 

 そう思ったから、椿は意を決して二人の元から去っていったのだ。そう、論じるかずみにしかし、カガリは怒りを込めて言った。

 

「だから何!?」

「ッ!」

「だったら、私たちと、スズネちゃんも、一緒に暮らせば良かったじゃない! そしたら、私だって……スズネちゃんだって、幸せになれてたかもしれないじゃない!!」

 

 子供の理想だ。そう、上手くいくはずがない。

 だが、実のところ彼女の言うように椿が、というよりもマツリとカガリの父親がスズネの事を引き取って一緒に暮らすという未来の可能性も確かに存在していた。二人の父親が、椿が家から離れる際にそう言って説得していたのだ。でも、それでも椿は断固として一人旅立つ事を決めた。

 その理由は何か。考えられるのは、たった一つしかない。

 

「もし、椿さんが魔法少女の秘密を知ってたら……」

「え?」

「もし自分が魔女になったら、二人を殺しちゃうかもしれない! それが、どれだけ恐ろしかったか、カガリちゃんにもわかるはずだよ!」

 

 そう、椿が魔法少女となって何年だったのか、また魔法少女の真実を知っていたのかどうかは不明だ。

 しかし、日向家で働いていたと言うことから、成人していた事は考えられる。その年まで、魔法少女として戦っているのは、長命であると言えるだろう。勿論、年老いたみゆきの祖母のような例外は除けばの話ではあるが。

 そのくらいの年齢になれば、いつかは魔法少女が魔女となるという話を聞いたり、また自分自身が魔女になってしまうという危険性について考えなかったことがあるだろうか。その結果、周りの人間を、カガリやマツリを殺す可能性なんてもの考えていないわけあるだろうか。

 その時、スズネは気がついた。

 椿は、いざという時に自分のことを殺してくれる魔法少女を探していたのかもしれない。そして、魔女によって両親が殺されるという同じ境遇のもちぬしであった自分にシンパシーを感じていたのかもしれない。

 もしも、スズネだったら、自分の事を殺してくれると、そう信じていたのかもしれない。

 でも、それはあまりにも残酷だ。もしそうだとするのなら、椿は最初から自分のことを救うために同居を始めたわけではなく、自分に恩人殺しをさせるために、自分を育てていたと言うことになるのだから。

 

(いや、違う。もし私が椿を殺して落ち込んでも、大丈夫だと信じていた。それが、あの鈴……)

 

 もしかしたら、彼女は自分がスズネのことを救うことはできないと考えていたのかもしれない。スズネを本当に救ってくれるのは、自分のようなシンパシーを感じるような人間じゃない。心の底から友達と思える優しい子供だと。そう思っていたのかもしれない。

 あのお守りは、鈴のついたお守りは、椿が魔女となる直前にスズネに渡された物だった。

 彼女は信じていたのだ。スズネが悲しみを堪えて自分を殺してくてれる強い女の子であったと言うことを。

 そして、自分が育て、一緒に暮らしてきた心の優しいマツリと、カガリであったのならば、そんなスズネの事を助けてくれると、友達になってくれると。そう、信じていたのかもしれない。

 これは、ここにいる者たちの勝手な想像だ。実際に椿が何を考えて行動をしていたかなど定かではない。

 しかし、これだけは、この真実だけは言える。

 

「確かに椿さんはもういない、でも椿さんの鈴の音は、マツリちゃんとスズネちゃんと、カガリを出会わせてくれた。椿さんが残した思いが三人を繋げてくれたんだよ!」

 

 椿の音色は新たな悲劇を生んだ。しかし、かけがえのない出会いを一緒に生んだ。

 世界がどうであれ、真相がどうであれ、椿の残した思いが産んでくれた結果を無碍にしてはならない。かずみの、心の底からの必死の叫びだった。

 

「うるさい!」

「カガリ!」

 

 けど、もう手遅れなのだ。

 カガリは、かずみの事を蹴り出すと、下を向き、顔を彼女達に見せないままで言った。

 

「もういいよ、聞きたくない……聞きたくない!!」

「ッ!」

 

 もっと早くその事に気がついていれば、もっと早くに教えてもらえれば、自分もこんなことせずに済んだ。誰も苦しむことはなかった。マツリを、悲しませることはなかった。

 そんなこと言われてももう遅いのだ。何もかもが、後の祭り。後手後手に回った結果、己は復讐のためだけに自分の身体を化け物と同じにした。そう、復讐のためだけ。

 それが終われば、途中で止めれば自分に何が残る。何も残らない。あるのは、化け物のような身体と、そして、孤独に耐えなければならない人生。

 愛する妹が、復習相手と仲良く暮らす、そんな最悪で、でも暖かい未来。

 そんな世界で、生きたくなんてない。

 

「……あーあ、折角の計画が全部台無しになっちゃったじゃない……でも、まだ終わりじゃないよ?」

「え?」

「私の魔法、スズネちゃん達にやったみたいに自分の記憶も弄れるの……だから自分にとってサイアクなお話を作って流し込めば……」

 

 ゆっくりと、絶望感に突き動かされた指は、彼女の意思を伝達していないかのように頭のすぐそばで止まった。

 

「なっ、まさか!!」

「ッ! やめなさい!!」

 

 この行動の意味をすぐに察知した者たちは、カガリを止めるべく動いた。

 けど。

 

「こうやれば……ね」

「ッ!」

「待って!! カガリ! ダメッ!」

「うっ……」

 

 全部、手遅れなのだ。

 指先から現れた魔法陣は、淡い光を放って彼女の頭を襲う。

 まるで、獣のように、彼女は自分自身の頭を蝕んでいった。

 

「皆本!」

「くっ、トリプルブースト、間に合うか!?」

 

 カガリは今、自分の頭の中に自分にとって最悪な情報を魔法によって流し込んでいる。彼女がやろうとしている事。その意味、全員が理解をしていた。

 皆本はすぐに携帯を取り出す。トリプルブーストなら、先程の奇跡をもう一度起こせばカガリを助けられる。

 だが、皆本は感じていた。間に合わないだろうと。

 先ほどとはまた打って違い、カガリは現在進行形で魔法を流し込んでいる。この状態の彼女の洗脳を止めるなんて、できない。できっこない。そう、皆本は感じていた。

 

「ふふ……また嘘ついた。やっぱりマツリなんて、大っ嫌い……」

 

 彼女の頭の中には椿の思い出と、マツリの思い出でいっぱいだった。

 椿が読んでくれた絵本や、マツリと一緒に遊んだ記憶、

 全部が全部、いい思い出だった。

 その記憶があるから、こうして自分は頑張れるんだと、そう思えるくらいに。大切で、大事で、そしてかけがえのない記憶。

 その全てが消えていく。自分が消している。

 大好きな椿が、大好きなマツリが彼女の中から消えていく。

 そして残ったのは最悪な記憶。いや、さらにそこから記憶を足していく。

 椿に拒絶される記憶。マツリに大嫌いと言われる記憶。

 スズネにマツリを殺される記憶。マツリが、自分の事を殺そうとする記憶。

 椿が、自分の事を殺そうとする記憶。

 自分が正しいことを言っているのに、正しいことをしているのに、皆に非難されている記憶。

 そして、自分が、椿を、魔女になった椿を倒そうとする記憶。

 

「カガリィィィィィ!!!!」

 

 マツリは、精一杯の力を込めて腕を伸ばした。カガリに、伸ばした手。彼女の事を救いたかった手。自分の、たった一人の姉を救いたかった。守りたかった。そばにいたかった。

 でも―――。

 

「バイバイッ……」

 

 それはもう、叶わない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

思い出なんて、所詮幻想

 

記憶なんて、所詮はただの出来事

 

そんな物があって何になる

 

そんな物があって誰が得をする

 

世界は理不尽なことばかりなのにそれに目もくれずに楽しかった思い出に逃避して何になる

 

目を逸らすな苦しかった記憶に

 

顔を背けるな辛い思い出に

 

どれだけ楽しいメモリーがあろうとも、悲しいメモリーに書き換えられる

 

汚され、塗りつぶされ、人には哀しい思い出しか残らなくなる

 

一緒に食べたご飯の味

 

思い出せない

 

一人で食べたご飯の味

 

冷たくて、心細かった

 

一緒に遊んだ公園のブランコ

 

思い出せない

 

一人で漕いだシーソー

 

動かない、誰もいない、寂しかった

 

私は孤独、私は一人、私は独りぼっち

 

私には何もない、誰も助けてくれない

 

所詮人間、一人ボッチ

 

誰かの記憶に残りたかった

 

誰かに覚えてもらいたかった

 

楽しい記憶じゃなく、悲しい記憶の中に

 

そうすれば、私は永遠に生きられるから

 

誰かの記憶の中で

 

そうすれば、私は一人じゃなくなるから

 

ホラ、私を記憶して

 

私の記録の中にいて

 

ずっとずっと、一緒だよ

 

 

 

 

 

 

 

 

 まるで、爆心地の中心にいるようだった。突然、言いようのない視界を奪われるほどの膨大な光が自分たちの事を襲い、瞼を閉じても光が入り込んできそうで、とてもとっても嫌だった。

 そんな光も長続きしない。というよりも今度は、まるでそんな物は最初からなかったかのような暗闇がその場にいた物たちを包み込んだ。

 皆本はゆっくりと眼を開けると周囲を見渡しながら言った。

 

「皆、無事か!」

「大丈夫や、けど……」

 

 どうやら、あの場所にいた人間は全員がその場にいるようだ。チルドレンの三人も、プリキュアの七人も、QBも、そして、カガリ以外の魔法少女の面々も。

 カガリがいたであろう場所。そこに人なんていない。いたのは、開かれた本の中央から現れる、巨大な真っ黒い道化師だけ。間違いはずもない。あれは、魔女だ。日向カガリのソウルジェムから誕生してしまった魔女だ。

 

「あれが、魔女……」

「この結界……話には聞いてたけど、とんでもない量の負の感情ね……」

 

 紫穂は、チェック柄の地面に触れながらそう言った。事前に賢木から、魔女の結界が保有する負の感情の情報量に関しては聞いていた。しかし、自分の想像をはるかに超えた感情の渦に、猟奇殺人事件等を頻繁に視ている紫穂であっても、つい怪訝な顔を隠し切れなかった。

 

「それが、この魔女の……カガリを包み込んでいる、という事ね」

 

 カガリだった魔女を見つめながらムーンライトは言った。

 結局、自分たちはカガリを憎しみから救い出すことが出来なかった。彼女の心がそう簡単に変わるとは思ってもいなかった。それは分かっている。でも、それでも何とかして彼女の事を救いたかった。

 ムーンライトは、悔しそうに左手を握りしめようとする。だが、その直前にある人物の姿が目に入ったため、左手は力を失ったように開かれていった。

 そう、自分なんかよりももっと悔しくて、そして絶望している女の子の姿。

 

「お姉ちゃん……」

 

 日向マツリは、座り込むと、その巨大な手で顔を覆いこんでつぶやいた。

 

「どうして、お姉ちゃん……どうすれば良かったの……」

 

 私はどうすればよかったの。どうすれば、貴方を救えたの。そう、自問自答しているようにも、自責の念に押しつぶされそうになっているようにも見える少女。

 目の前で起こった悲劇は、ただ一人の少女が受け止めることのできる許容量をはるかに超えていた。それこそ、今ここで魔女になってもおかしくはないほどの、悲しみだ。

 まるで、あの時の自分を見ているようだ。スズネはそう思った。椿が、目の前で魔女になった時の自分そのものだ。あの時の自分はなんとか立ち上がって、ギリギリの精神状態で椿であった魔女を倒すことに成功した。

 でも、言えない。既に自分が通った道だからと言って、彼女にも親しい人間だった魔女を倒せなんて、戦えなんて、言えない。

 言えるわけがない。

 だから、自分が倒す。自分が、殺す。自分が、この悲しみの連鎖に終止符を打つ。

 その後は―――。

 

「アアアアア!!!」

「来るよ!」

 

 雄叫びを上げた魔女は、黒い触手のような物を本の中から出現させて彼女たちに向けて伸ばした。少女たちはそれぞれに動いて攻撃を避けていく。皆本や紫穂も、薫の超能力によって空へと飛んで逃げた。

 ただ一人、マツリを除いて。

 

「マツリさん!!」

「しまった!」

「ッ!」

 

 姉の魔女化にショックを受けていたマツリは、動くのが少し遅れてしまったのだ。結果、マツリは黒い触手に飲み込まれていく。マツリも当然抵抗した。けど、全ては無駄なことだった。

 

「マツリ!」

 

 嫌、ヤメテ。マツリを連れて行かないで。スズネは、黒い触手の中に消えようとしているマツリに向けて精いっぱいに手を伸ばした。

 

「スズネちゃ」

 

 マツリもまた、スズネに向けて手を伸ばす。

 でも、その手を彼女が掴むことは永遠にない。マツリはついに、黒い触手に飲み込まれてしまった。

 触手はやがてその本質を変えて、あたかも水滴かのような液体へと変化してマツリの事を離さない。触手を生み出した本は、マツリを捕らえた水の所まで移動し、その大きな口を開く。そして―――。

 

「やめ……てッ!」

 

 スズネの懇願もむなしく、マツリは本の中に飲み込まれた。

 二度と出ることは叶わない。決してカガリが放そうとしない。思い出の絵本の中へと。

 

「マツリィィィィィ!!」

 

 またスズネは、大事なモノを奪われた。

 自分に罰が下るのならまだいい。でも、その罰に誰かが、大切な女の子が、友達になった女の子が巻き込まれた。

 スズネの慟哭が、結界の中に響き渡る。その叫びは、とても残酷な調であったという。

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