映画 プリキュアオールスターズVS魔法少女まどか☆マギカ 悠久の絶望は永久の希望に   作:牢吏川波実

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 スズネについての伏線を別の子達に使うことになるなんてな。
 頭の片隅に確かにインプットはしてあったけど、まさか、彼女には伏線の必要もなかったなんて思わなんだ。


外伝(みゆき編):約束だよ

 ハッピーエンドは誰にでも訪れる物ではない。

 いや、訪れてはならないのだ。

 数多くの善行を重ねた人間に訪れるハッピーエンドは誰だって祝福してくれる。努力が報われる瞬間というのは、誰だって喜ばしい物だから。

 でも、その逆の人間はどうか。

 多くの悪行を重ねた人間に訪れるハッピーエンド。それに、一体誰が喜んでくれるというのか。 

 迫りくるのは憎しみ、非難、場美雑言。それを背にしてでも、それでもハッピーエンドだと喜べる人間は、恐らく誰かの苦しみも感じ取ることのできないサイコパス。

 自分は、そうじゃない。たくさんの人の悲しみ、憎しみを背負ってしまった自分は、とてもじゃないが一人で歩くこともままならないほどの罪悪感に襲われて、耐えきれなくなって、壊れてしまいそう。

 ソウルジェムは、今でこそ汚れを彼女たちが取り除いてくれたおかげで濁りなくきれいに見える。でも、やがて、いつの日にかは―――。

 そんな自分が、彼女の側にいてはいけない。ハッピーエンドになってはならない。ケジメを付けなければならない。自分のしでかした、全てに。

 

「貴方達は、特務エスパーですよね」

「あ、あぁ、そうだが……」

 

 スズネは、お守りの付いた髪飾りを外すと、皆本にソレを見せながら言う。

 

「私は、今まで大勢の魔法少女を殺害してきました。その子達の名前は、この御守りの中に入ってます……例え、記憶をいじられたからと言っても、それを言い訳にはしません……」

「スズネちゃん……!」

 

 そう。例え自分がカガリに操られていたとしても、それが言い訳になってはならない。

 自分は、大勢の魔法少女の、仲間たちの命を奪ってきた。その事実が消えることは無いから。

 もちろん彼女だって分かっている。もしここで自首をしたとしても、裁判で有利になるなんてことは無いという事。自分に待っているのは、大量猟奇殺人犯として裁判にかけられて、そして死刑の判決を受けるという事だけ。

 どれだけ大人の雰囲気を醸し出していたとしても、彼女はまだ子供。死刑を宣告されて、命を奪われてしまうのは辛いことだ。でも、それだけの罪を自分は犯してしまった。それが真実なのだから。

 

「……私たちも、本当に自分の罪に向き合う時なのかもしれないわね」

「……そうだね」

「海香、カオル?」

 

 そんなスズネの姿を見た海香とカオルの二人もまた、優しい笑みを浮かべながら皆本の元に向かう。かずみは、その背中に手を伸ばそうとした。けど、その手はまるで別世界の人間を掴もうとするかのように遮られてしまう。

 そう、自分と彼女たちは住む世界が違うのだ。それは生まれ方や、生き方なんて物じゃない。罪があるのか、ないのかの違い。

 

「私たちも、自分達の目的のために大勢の魔法少女の命を奪いました」

「え?」

「あっ……」

 

 その言葉を聞き、ようやくかずみにも二人が何をしようとしているのかが分かった。

 スズネと同じだ。彼女たちもまた、罪を償おうとしているのだ。かつて、自分たちが犯した過ちを。

 

「死体も全部消えて、証拠も何もないけど……私たちがした事は、絶対に許されない事だから……こうやって知り合ったのも何かの縁かもしれないからね」

 

 証拠は、何も残されていない。

 それに、厳密にいえば彼女たちが魔法少女の命を奪ったわけじゃない。でも、奪ったも同然だと、そう彼女たちは考えていた。

 彼女たちがしたのは、魔法少女を普通の人間に戻す方法が確立されるまで、その間だけ魔法少女の子たちのソウルジェムと、その肉体を保管しておくという事だけ。その先にあった想定外の事態、聖カンナという一人の女の子のしでかしたことまでは彼女たちの罪には入らない。

 そのはずだ。でも、もしも自分たちが魔法少女システムへの否定を考えなかったら、彼女たちのソウルジェムを回収するなんてことせず、きっと、彼女たちはいまでも魔法少女として、あるいは魔女となっていたかもしれない。

 彼女たちの死期を早めてしまったのは結果的に自分たちだ。だから、自分たちにも十分罪はある。そう、考えていた。

 

「海香、カオル! それなら、私もッ!」

 

 もとはと言えば、自分のオリジナルである和沙ミチルが魔女となって死んだこと、それが原因。元凶だ。

 だから、突き詰めていけば一番悪いのは自分だ。そう、言おうとしたかずみ。でも。

 

「かずみ、貴方は何も悪くない」

「ッ!」

 

 そう、何も悪くない。なぜならば、彼女はミチルじゃないのだから。例え、和沙ミチルのクローン体であったとしても、本人ではないのだから。むしろ、彼女は被害者なのだ。彼女たち、プレイアデス聖団が和沙ミチルを生き返らせたいと願って、身勝手に作られた元化け物、現人間。だから、彼女自身には罪は何もない。

 それが、とても悲しかった。

 

「私たちが、勝手にやって自分勝手に殺した、ただそれだけ……。かずみの歩いてく未来を、邪魔したくないんだ」

「だから、ここでケジメを付けないと……プレイアデス聖団の生き残りである私たちが……」

「そんな……」

 

 自分たちが罪を告白したところで、死んでしまった魔法少女が帰ってくるわけじゃない。でも、ここで自分たちが罪を告白することによって、かずみは自分たちの罪には無関係だったという事によって、彼女の未来が作れるのなら、それなら自分たちの未来への道が閉ざされることくらいなんてことはなかった。

 それに、カオルはともかく海香はもう小説家として十分楽しい人生を送らせてもらったと思っていた。十分、充実した人生を送らせてもらったと思っていた。もう、これ以上何も望むことなんてない。

 一度は閉ざされるはずだった輝かしい未来を、再びその手に引き寄せることが出来たばかりか、生涯の友とも言える仲間にあうことができたのだから。

 カオルは、あかねやなおと交わした再びサッカーを始めるという約束をやぶるかたちになって、少し心苦しいが、しかしそれもまた罰なのだと覚悟していた。

 元々、自分たちは幸せになってはならない人間だったのだ。どうせ遠くない未来バッドエンドに終わるのだと吸うのなら、今ここでソレにたどり着いても悪くない。

 それが、自分たちが殺してしまった魔法少女たちのハッピーエンドになると、信じて。

 

「残念だけど、君たちを法律で裁くことはできない」

「え?」

「いや、正確にはスズネちゃんは刑事事件で裁くことはできないんだ」

「どうして……」

 

 スズネは、唖然とした。どうして、自分をさばくことが出来ないと、皆本はそう断言するのか。だって、自分の犯した罪、彼だってソレを分かっているはず時なのに、裁くべき絶対悪であると分かっているはずなのに。

 

「スズネちゃんは、確か十三歳のはずだね」

「え、えぇ……」

 

 そう、忘れている人間もいるかもしれないが、彼女はまだ中学一年生の十三歳。他クラスメイトのマツリやマツリの双子の姉であるカガリも十三歳である。けど、それがなんであるというのか。そんな疑問が沸いてきたスズネをよそに、小説家として多種の分野の情報を頭の中にいれていた海香が気が付いた。

 

「なるほど、刑法第41条ね」

「なにそれ?」

「刑法では、14歳未満の少年は罰しないって言う規定があるのよ」

「え、そうなの!?」

 

 そうなのである。刑法第41条、それは責任年齢についての規定であり、それによって十四歳未満の者は刑法上責任能力がない物として扱われ、罰することはできないのだ。つまり、現在十三歳であるスズネ、さらに彼女を操って殺人を強要させていたカガリは、罪に問われることは無いのだ。

 

「だったら、小学生の時もっと暴れとけば良かったな……」

 

 なお、その話を聞いたザ・チルドレンの薫の反応がこれである。

 

「薫……」

「じょ冗談だって!!」

 

 その反応に呆れた葵にそう反論した薫。しかし、小学生時代からかなりの物を壊していたり喧嘩等での傷害事件もどきをしていた彼女にとっては今更なような気もするのだが。

 

「勿論、14歳未満でも、犯罪を犯せば触法少年として家庭裁判所の審判の対象になったり、その結果如何によっては少年院への入院を義務付けられる事になるけど、少なくとも、刑事裁判にかけられることはない」

 

 要は、スズネが死刑になる可能性は限りになくゼロに近いということなのだ。それを聞いて安堵するマツリ。だが、その横で海香は反論する。

 

「でも待って、私とカオルは14歳。私たちは、刑法第41条の対象外。少なくとも少年法適用……いえ、適用されても私たちの罪は……」

「けど、君達が魔法少女の子達を殺した証拠はないんだろ?」

「え?」

 

 真剣な顔つきで皆本は言う。コレは、最高の形で終わった雰囲気を崩したくないから、そんな理由で自分たちの罪を帳消しにしようとする事なかれ主義の大人の目じゃない。あるがままの真実を受け入れ、それでもその中にある真実を突きつけるための顔だ。

 

「それは……襲った子達はみんなレイトウコに入れて……その後魔女の結界とかで全部消えちゃったけどさ……」

「え、私?」

 

 カオルと海香は、薫の隣にいる紫穂の顔を見た。

 

「確かに、死体や物的証拠がなくて逮捕することが出来ないなんてミステリーもたまにあるけど……接触感応能力

(サイコメトラー)なら、私たちの記憶を証拠にすることもできるはず」

 

 そう、彼女は日本最高の接触感応能力者(サイコメトラー)。例え証拠や死体がなかったとしても自分たちの記憶を覗かれてしまえば、例えば自分たちが魔法少女を襲っている映像や、監禁している映像などが読み取られるはず。それがあれば、十分証拠に。

 

「……無理ね」

「え?」

 

 ならない、そう彼女はハッキリと言った。紫穂は、自分の手をじっくりと見ながら言う。

 

「さっき、成見亜里紗の記憶を調べた時、もやにかかったように上手く記憶を見る事ができなかった。きっと、画像処理も効果はないわね」

 

 これが、アリサを助けた後皆本が言い放った『立件は難しい』という言葉の真実だ。

 そもそも魔法少女を相手として接触感応能力の効果が薄いという事実は、ザ・ハウンドのメンバーの記憶からスズネの顔写真を出そうとして失敗した時から分かり切っていたことだった。もしかしたら超度7の紫穂であればと思ったのだが、それも不可能だった様子。

 原因は不明だ。しかし、結果的にそのおかげで二人の少女が犯罪を犯したという確固たる証拠が無くなってしまった。彼女たち自身の証言という証拠はあるにはあるが、魔法少女関連の話も一緒に盛って来れられると信憑性に欠けると判断される可能性が高い。故に、彼女たちを逮捕することが不可能になってしまったのだ。

 もちろん、それが完全に良いことであるとは言い切れない。あすなろ市で発生した少女失踪事件の真相は闇の中に消えようとしてしまっているのだから。死んでしまった少女たちの家族は、永遠に帰ってくることのない子供たちを待ち続ける道に迷い込むことになるかもしれないのだから。

 

「つまりだ、君達が殺人を犯したと言う事実も、証拠もどこにもない。君たちの罪は、君たちの中だけにしかないんだ」

「私たちの……中にしか……」

「それこそ、生き地獄ってもんだね」

 

 つまり、自分たちは永遠に、生涯人殺しをしたという罪を抱えて生きろと、そういうのか。それこそ残酷じゃないか。二度と外すことのできない思い鉄球を抱えたまま、これからの人生を殺した仲間たちの怨念のこもった声を聴きながら生きろと、そう言うのか。

 自分たちは、罪を償うチャンスすらも与えられず、野放しのまま、どうやって生きろと言うのか。それならば、逮捕されて、それ相応の罰を受けたほうがまだましなのではないか。

 

「大丈夫だよ海香、カオル……」

「かずみ……」

 

 その時だ。かずみは、二人の手を取った。

 

「私たちは三人一緒だよ。三人で……プレイアデスの皆や、私達のせいで死んじゃった人達の分まで生きて、罪を償おう……だから、離れ離れになろうとしないで……逃げないで……私、二人がいない未来なんて、歩きたくない」

「かずみ……」

「そう、だね……」

 

 そして、マツリもまた。スズネの身体を抱きしめた。椿が、そうしてくれと頼んだかのように。

 

「スズネちゃん。スズネちゃんの罪、私も背負う。どれだけ重い罪でも、スズネちゃんと一緒なら背負っていける。だから、もうどこにも行かないで……ずっと、ずっと一緒にいて……スズネちゃん……」

「マツリ……」

 

 人は多くの罪を背負って生きる生き物だ。その罪の大きさは、一人一人違う。他人が罪とは思わないことも罪として思う人間、他人が罪であると思う事を罪であるとは思わないような人間、多種多様な罪を持つ人間がいる。 

 決して許されることのない罪、決して償いきれない罪。そんな罪も背負って、人は生きていかなければならない。

 たった一人で、背負いきれなくて、潰されて、もう嫌だと叫んで、逃げ出して、また新しい罪を作って、そして罪を作ることに抵抗がなくなることもあるのかもしれない。けど、それが罪を犯したという事なのだ。罪は決して消えることは無く、いつまでもいつまでも残り続ける。だから、逃げても無駄だ。隠れても無駄だ。罪は、絶対にあなたを見つけ、そして蝕み続ける。

 その罪を他人と共有することによって自分を助けようとする人間がいる。

 でも、そんなことしても新しい罪が増えるだけ。罪は、決して消えない。

 それを知ってでも、罪を共有≪したい≫人間がいる。

 それは、スリルを楽しみたいから、共有することによって愛は深まるから、そんな馬鹿げた考えを持った人間もたまに入る。でも、そんな軽々しい物じゃないのだ。罪は。

 彼女達は罪を共有したいと願った。それは、憐れみのためでも慈悲のためでもない。ましてや、愛情のためでもない。

 ずっとずっと、友達でいたいからだ。

 生涯の友として、一緒にいたいからだ。

 いつかは離れる時が来る。それを知っていてもなお、無期限の友情であると信じて、罪を一緒に背負う。それが、罪を犯していない人間の人生を歪めてしまうとしても、それでもいいと覚悟を決めて共に歩むと決めた道。

 もう一人ボッチで泣かなくてもいい。押しつぶされなくてもいい。大丈夫。貴方は一人じゃない。そう言ってくれる人が一人でもいるだけで元気になることが出来る。

 そんな単純なことで歩みを続けることが出来るのが人間だから。

 だから彼女たちもその手を取った。もう、悲しみで哀しみを塗り替えるのは、嫌だから。

 

「本当に、いいの……私は、マツリと、一緒にいて……」

「当たり前だよ、スズネちゃん」

 

 そう、自分が決めたから。どんな許されざる罪を背負っていても、それでもなお友達でいようと自分が決めたから。もう、そんな自分に後悔はない。

 

「だって、スズネちゃんは、大事な大事なおともだちだから」

「マツリ……」

 

 絶望の未来、悲劇的な未来。それを超えた先、ついに彼女たちの道が開かれた。

 もう、自分たちが奪った命におびえなくてもいい。

 彼女たちにはいつでも、その辛さを共有してくれる友達がいるのだから。

 もう、絶望するつもりはない。

 彼女たちには、その絶望を打ち消してくれる希望があるのだから。

 もう、人を殺さなくてもいい。

 彼女たちは、罪という鎖に繋がれながらも、自由であるのだから。

 

「今度、一緒に椿のお墓作ろう……それに、ハルカのお墓も……」

「うん、約束だよ」

 

 世間を騒がせた殺人鬼、キリサキさんはここに完全に消滅した。

 いたのは、一つの使命から解放された一人の女の子と、友達であると決意をした一人の女の子。

 それと同時に、魔法少女を襲い続け、人の道から外れた行いをし続けてきた少女たちもまた、本当の意味で区切りをつけることが出来た。

 未来を繋ぎとめようとした女の子から生まれた怪物だった女の子の優しさによって。

 彼女たちはもう。

 一人ぼっちではない。

 まるで、椿の読んでくれた絵本の最後のような。

 そんなハッピーエンド。

 今は噛みしめよう。この奇跡がもたらしてくれた感動を。

 すぐに、楽しんでいる余裕なんて無くなるのだから。

 

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