このフィールドについた時から、懐かしい波動がすると思って来てみたら案の定だったぜ。こいつがこんな下手くそと言うか稚拙なテロに興味を示す訳がない。ということは……あいつが来るのか?
「こんな女の子が……テロリスト集団の親玉の無限の龍神なんですか?正直信じられないのですが」
「本質は変わらない。俺も龍神としての姿は一度しか見たことないけど、それさえ一緒なら性別や姿形なんてオーフィスにとってはどれでも良いんだよ。この姿に騙されて倒そうとか考えるなよ。俺は仇討ちなんざしたくないからな」
一誠は言外に『お前では勝てない』と告げていた。元々そんな事をするつもりはなかったが、こんな少女にすら勝てないと言われた事に若干ではあるものの、腹が立った。この言葉は八舞も言われた事がある。しかし挑みかかってもたったの一撃で決着がついた。力の総量と出力が違いすぎるのだ。しかも手加減された上で。……本気を出されたら今頃ここにはいないだろうが。
かつて誰かが言った。『超常の存在であればあるほど、それを形容する言葉は稚拙な物になる』と。何故そこまで強いのか?その答えは『強いから強い』という物になる。理由などないのだ。オーフィスもグレートレッドも一誠のように最強とあらんとして最強の座についていた訳ではない。彼らは存在自体が最強だからこそ最強なのだ。そこには理由などなく、絶対的な事実が存在するだけなのだ。
美しい光景を見て何故美しいのかと考える人間はそんなにいないだろう。『美しいからこそ美しい』と表現する他ないからだ。そんな極地に立っている者に対して、未だはるか高みを目指して駆け上がっている途中である自分たちではそもそも相手にすらならない。相手をしきれるのは対存在であるグレートレッドと一誠だけなのだから。
アザゼルとがこちらに向かって飛んで来ているのを確認した。大方ファーブニルの宝玉が反応したのだろう、とは後の一誠の弁である。
「まさかお前が出張ってきてるとは思わなかったぜ」
「アザゼル、久しい」
「以前は老人の姿だった気がするんだが今度はの姿は美少女か?何を考えている?オーフィス」
「見物、それだけ」
「高みの見物ね……それにしても、ボスがひょっこり現れるとは思わなかった。お前を倒せば世界は平和か?」
光の槍を振ってオーフィスに問うが、気にした様子も無く首を振って否定した。
「無理。アザゼルでは我は倒せない」
「結果が分かりきってるような事を言うなよ、アザゼル。心配しなくたってこいつは今回の戦闘に手を出さない。元々、この戦闘には興味ないみたいだからな」
「兵藤、お前もどうして見ているだけで何もしないんだよ。オーフィスがどれだけ迷惑をかけているか、お前も知ってるだろ!」
「オーフィスを倒そうと思えば、俺は
「少し身勝手がすぎるんじゃないか?兵藤」
上から翼を羽ばたかせながら現れたのは、最上級悪魔『
「折角若手悪魔が未来をかけて戦場に赴いているというのにな。貴様が茶々を入れるのが気に喰わん!あれほど世界に興味を抱かなかった貴様が、何故今更テロリストの親玉になっている!一体何が貴様をそうさせた!」
「暇潰し──なんて、今時はやらない理由は止めてくれよな。お前の行為で既に被害が各地で出てるんだ」
オーフィスからすればそれがどうした、と言った感じだろう。フィールドを眺めつつ、ただ一言だけ呟いた。
「ーーーー静寂な世界」
「は?」
「故郷である次元の狭間に戻り、静寂を得たい。ただそれだけ」
次元の狭間とは、簡単に言えば「人間界」、「冥界」、「天界」を始めとした世界の間にある壁の様な物だ。世界と世界を分け隔てる世界であり、其処には何も無い。故に「無の世界」とも言われている場所。そしてすべての次元世界を繋ぐ通路としての役割も有している。
「……普通ならホームシックかよと笑ってやる所だが、なるほど。確か、今あそこには──」
「そう、グレートレッドがいる」
グレートレッドは図らずして狭間の守護者としての役割をこなしている。何故管理局が未だにグレートレッドの存在を認識していないのか疑問ではあるが……それは別に今は構わないだろう。それでは何故、グレートレッドは良くてもオーフィスが次元の狭間に留まることを良しとしないか。それはオーフィスの性質が良くも悪くも変質してしまったから。
次元の狭間を統べる者は無関心である方が良い。それは次元の狭間から向けられる感情がダイレクトに影響するからだ。興味を抱く者はこと次元の狭間の守護者としては不釣り合いなのだ。……まあ、たとえ変質していなかったとしてもグレートレッドはオーフィスの事を毛嫌いしているが。魔法陣が現れたのでそちらに視線を向けてみると、貴族然とした格好の青年が現れた。……悪魔か。
「お初に、堕天使の総督殿。俺は真のアスモデウスの血を引く者。クルゼレイ・アスモデウス。『禍の団』真なる魔王派として、貴殿に決闘を申し込む」
「……旧魔王派のアスモデウスが出てきたか」
ドンッ!と黒い魔力を迸らせながら、クルゼレイは憤怒の表情に歪めつつ告げる。
「旧では無い!真なる魔王だ!カテレア・レヴィアタンの敵討ちをさせて貰うッ!」
カテレア・レヴィアタンも思想こそ愚かとしか言いようがないが、それでもそのあり様は素晴らしい物だった。もはや亡き魔王のことを真に悼んでいた。そして僻地に追いやられた自分たちの無様さも同時に悔しがっていた。それでも個人的な復讐の為に戦おうとはしていなかった。本当の意味で魔王という血を絶やさない為に、彼女は戦っていたのだ。
彼女は俺が認めた数少ない悪魔だ。プライドが高かったのは否めないが、それでも下の者を案じる事の出来る優しさを有していた。しかしこいつ等の視線には侮蔑と蔑みの感情しか感じない。プライドにばかり執着するから、旧魔王派などと呼ばれることにまだ気がつかないのだろうか?
アザゼルが懐からファーブニルの宝玉を取り出し、例の人工
そしてサーゼクスさんはクルゼレイ・アスモデウスとオーフィスに対して交渉しようとしたが、クルゼレイはそもそも相手にすらならない上に、オーフィスに至っては欲しい物が次元の狭間の支配権だ。魔王という身分では到底渡すことのできない物だ。結果はもちろん交渉決裂。だがオーフィスの蛇を飲もうが所詮は前魔王クラス。素の状態で前魔王の数倍の魔力を有しているサーゼクスさんに勝てはしないし、伊達に実力主義社会である悪魔の世界において最強と言ってもいい魔王という座についていた訳ではない。
元々、クルゼレイ・アスモデウスが勝てる確立は限りなく零に等しかった。技術も魔力量も何一つとっても届いていない。俺が認めたサーゼクス・ルシファーという存在に対して、クルゼレイ・アスモデウスという存在は矮小だった。
サーゼクスさんが振るう絶大なまでの滅びの力を収束させ、まるで手足のように操る必殺技。それが『