家に戻ると、八舞に小言を言われてからシエナに一発殴られた。障壁が勝手に防いだせいでむしろシエナの方が痛がっていたが。レイヴェルちゃんに純粋に心配されたりといろいろあったが、とにかく戻ってきた。
その日の晩は俺がいない間に何があったのか、という話だった。今度の休みの時にグレモリー眷属とバアル眷属が記者会見するらしいという話も聞いた。後、リアスさんの様子が若干変だという話も。いろいろあるんだろうと思ってその時は突っ込まなかったが、心配にもなっていた。
それからさらに数日後、ちょうど休みになったのでお詫びの意味も含めて菓子を作って持って行く事にした。徒歩だと流石に目立つから魔法陣で移動した。到着すると流石に驚かれたが、直ぐに別の場所に視線を動かした。そこにはフェニックス婦人がいた。
「おやおや、これはフェニックス婦人じゃないですか。一体どうしたんです?」
『レイヴェルがお世話になっていますから、その件でね。そう言えば一誠さん、京都で一悶着あったらしいですね?』
「お恥ずかしながらその通りですね。ですが俺は、いえ私はあの時の選択に後悔はありません。九尾の御大将をより安全な形で助ける事ができた。それは喜ぶべき事でしょう?それに交渉は上手くいったと聞きますし」
『まったく……貴方の影響力は並大抵の物ではないのですから、しっかりと考えてから行動してください。それとレイヴェルの事もありがとうございます』
「いえいえ。うちの眷属たちも妹が出来たみたいでしてね。可愛がってますし、優等生気質と言いますか真面目ですから問題なども起きませんのでこちらとしては楽をさせてもらっていますよ」
『そうですか?それならば良いのですが……レイヴェル。皆さんの言う事をよく聞くのですよ?それではリアスさん、一誠さん、レイヴェルの事をよろしくお願いします。高神さんもできる限りで良いので、よろしくお願いしますね」
「は、はい。お、俺じゃなくて自分も精一杯やってみます」
『ありがとうございます。それでは皆さん、ご機嫌よう』
そう告げると通信を切った。英雄派のあれこれでフェニックスの涙を作るのに忙しいからしょうがないな。
リアスさんの方を見てみると何やら険悪な雰囲気だった。どうやら高神くんから女としてではなく、主として、部長として接されていると思ったようだ。まさにそういう答えをしてしまった高神くんを見てリアスさんは何処かに行ってしまった。そしてアーシアさんを筆頭に高神くんを責めていた。高神くんが他の部屋に作業をしに行ったのを見計らって口を開いた。
「あのさ、君たちにそんな事言う資格ないんじゃないの?」
「……兵藤さんはあれを見てもなんとも思わないんですか!?」
「そりゃあなんとも思ってないわけじゃないさ。あの返答は高神くんが悪いと思う。でもな、彼を一方的に責めるのは良くない。もし口にもしないで想いが伝わると思っているならそれは甘い。黙ったままでも想いが伝わるなら口なんて要らないんだよ。
それに一体誰が思うんだい?主が眷属に対して好意を抱くなんてさ。そりゃあそう言う話もよくあるけど、それだってごく稀の話だ」
「それはそう、ですけど……」
「……忘れているかもしれないけど、彼は初のデートで殺されてるんだよ?受け入れられる喜びを知らず、拒絶される事の痛みを味わった事のある彼なら尚更そんな事を気付ける訳がないんだ。
リアスさんを擁護したい気持ちは分からないでもないけど、彼を一方的に責めたてるのは止めた方がいい。後でいらない軋轢を生み出す可能性もあるからね。……まあ、遅すぎたけどね。君たちがこれからどうするのかは君たち次第だ。これは京都でのお詫びみたいな物だから、ここに置いとくよ。それじゃあね」
魔法陣を使って家に戻った。そしてソファに寝っ転がって自分の行動について考えていた。自分でも何故あんな事を言ったのか分からない。元々、自分には一切関係のないことだ。他人の色恋沙汰に首を突っ込むなんて今まで一度だってした事はない。ならば何故、今回に限って首を突っ込んだりしたのか?そんな事を考えているとアイリスが話しかけて来た。
「どうかしたんですか?帰ってきたと思ったらいきなり考えこんだりして……もしかして何か言われました?」
「いや、そういう事じゃないんだけど……ちょっとリアスさんと高神くんの間でちょっと一悶着あってね。それになんでか首を突っ込んじまったんだよ。それが分からないんだよ。なんで俺はそんな事をしたのか、ってな」
「……彼らを気に入ってるからじゃないですか?何かは分かりませんけど、一誠は彼らに期待している。そんな彼らがほんの些細な事で仲違いしたのが気に入らなかった、という事では?」
俺の隣に座って膝枕をしつつ、そう答えた。俺が彼らに何かを期待している?確かにここ最近は成長も著しいし、全員が素晴らしい才覚を持っている。しかし彼ら以上の才覚を持っている奴なら沢山いた。それこそ、数えるのが面倒になるくらいに。なら俺は何を……?考えこんでも一向に答えが出ないので一先ず寝る事にした。逃げではない。これはけして逃げではない。
兵藤一誠side out
アイリスside
「すぅ……」
主であり一応婚約者でもある一誠が寝入ったようだ。つい数ヶ月前ならあり得ない光景ですね。あの頃ならこんな風になるのを絶対に断っていました。こうやって頼ってくれるようになって嬉しい限りです。それを為したのが自分でないのが残念ではあるが、それを悔いたところで詮無い事だ。
それよりは今の幸せを感じていたい。だからその場所代われと言わんばかりの視線で睨んでくる八舞さんなど見えない、否幻覚に違いない。若干というか完全に殺意がこもっている気がするが気のせいだ。そうだと思おう。
視線を落としてみると起きる時とはまるで違う安心しきった顔で寝ている一誠がいた。ちなみに私が一誠と呼んでいるのはついこの間帰ってきた時に訊いてみたらOKが出たからだ。
閑話休題。ロキと戦う前は寝ている時でさえ、若干警戒していた。この人にとって安らげる時はなかったのである。今は起きている時はまだしも寝ている時は完全に警戒心を解いていた。そんな変化を起こさせたあの女性ーーーー天照大御神様はあの時一誠が寝入ったのを見て私たちにこう言った。
『この子は一度溜め込んだら滅多な事では話さない子です。だからこの子を支えてあげてください』と。
今の私はこの人を支えられているだろうか?むしろ心配をかけさせてはいないだろうか?どうしてもそう思ってしまう。京都での一件を聞いた時は特にそう思ってしまった。そしてそんな考えに囚われた私を見てこの人は苦笑混じりにこう言った。
『俺にとってお前らは光だ。どれだけ闇の中でもがいていても、戻ろうと思える光。どれだけ辛くても苦しくてもお前らがいると思えば帰ることができる。だから俺を支える光になってくれ。それだけで十分お前らは俺の助けになってるんだからさ』
温もりを欲しながらも覇道という名の孤独な道を歩き続けてきた我が主。ああ、あなたが望むのなら永劫あなたを照らし続ける輝きとなりましょう。その代わり、というのもなんですが私はあなたからの愛が欲しい。私は愛が何かを知らない。幼少の頃から両親などいなかった。叔母の家で虐げられる日々。そして我が師の元で続いた修行の日々。
そんな不遇とも呼べる人生をあなたは圧倒的な鮮烈さと輝きによって変えてみせた。あなたと出会ったあの時、私は理解しその上で思ったのだ。この方こそが私が仕えるべき主だと。私がこの力を捧げるに足る者だと。そしてこの人を愛し、この人に愛されたいと。すべてを犠牲にしたとしても失いたくない物がここにはある。どうでもよく扱われるなど決して耐えられない。
目蓋を閉じながらそう思っていると、不意に何か暖かい物が頬に触れた。驚いて目を開けてみると、一誠が微笑を浮かべながら私の頬を触れていた。
「今、お前はここにいる。この温もりは嘘ではない。お前が感じている充足感も決して嘘じゃない。だから悩むな……とは言わない。迷っても良い、悩んでも良い、でも最後はきちんと戻ってこい。お前に座を与えた事を後悔などさせてくれるなよ?お前は
「……はい!」
一誠曰く、その時のアイリスの笑顔はどんな花々にも負けない、それどころかどんな美しい光景であっても負けはしないと思えるぐらいに美しかったと言う。