流れはもう
怖いオーラを纏ってやがる。アバドンの方は気がついてないみたいだけど、殺意が溢れかえってやがる。情愛のグレモリーならではと言うべきか、仲間がやられていった事に憤懣やる方ないと言った感じだろう。今まで必死に耐えてきたのだろう。それが今、爆発する。
『禁手化《バランス・ブレイク》』
『Creation Dragon Balance Breaker!!!!』
『創生龍、全力で来なさい。英雄派との戦いで得た力を見せてみなさい。我が主、サイラオーグ様もそれを望んでいる』
『……分かりました。でも全力で防御してください。こちらとしても抑えられる気がまったくありませんから』
『良いでしょう。私はサイラオーグ様に報いてみせる』
『
人の……否悪魔としての認識速度を上回る速度で動き、拳には
『
『くっ!?申し訳ありません、サイラオーグ様……』
満を時して放たれた高神くんの攻撃はーーーー外れた。サイラオーグが自ら
『無茶な事をする。今のが直撃していれば間違いなくクイーシャは死んでいたぞ?』
『……すいません。でもあなたへの敵意を収める事ができないんですよ。戦友は俺に、俺たちに願いを託していった……それなら、俺はそれに応えなきゃいけない。だけどそれ以上に!俺は仲間を倒されてもヘラヘラ笑っているような奴じゃない!それを我慢できるたちでもないんですよ!』
『……ッ!なんという殺意だ。よくぞここまで耐えきった!運営の方々!この男をこれ以上ルールで押し留めておく事は余りにも不毛だ!故に俺は残りの眷属での総力戦を進言する!』
そう来たか。まあ、この申し出は間違いなく通るな。その方がゲームは映えるだろうし、今の高神くんに時間を与える事は得策じゃない。テンション的な意味でも、だが。結局、その申し出は受理されそれぞれの
サイラオーグ側の
「あれが
『さあ、高神創生。やり合おうじゃないか。これまで溜まったすべての物をこの俺にぶつけてみろ!』
『言われなくても!
「あの術式は……速度強化?」
なるほど、高神くんはそこそこ速いけれどサイラオーグと渡り合える程かと聞かれれば首を横に振るしかない。それを術式で補おうって訳か。だけど、そんな小手先の手で勝てるかな?
そう思っていたが、中々どうしてくらいついている。いや、むしろ若干押しているような……ああ、木場くんの攻撃が響いているのか。それに気がついた高神くんは右腕が伸びきった瞬間に強烈な一撃を叩き込み、ふらついたサイラオーグめがけて籠手を叩き込みーーーー同時に炸裂させた。ただでさえ強烈な光の攻撃がヒットした直後に炸裂されたサイラオーグは吹っ飛んだ。だが高神くんがそんな大きすぎる隙を見逃すはずもなく……
『
翼から出てきた二門の砲に魔力がチャージされ、瞬く間に放たれた。サイラオーグは片方を寸前で躱したものの、もう片方は躱しきれないと判断したのか闘気を纏う事で防いだ。……とはいえ、威力が威力だ。完全には防ぎきれなかったらしく、ダメージを負っていた。
そこで映像が代わり、
『サイラオーグ様!私を纏ってください!あの形態ならたとえあの創生龍と言えども、勝つ事ができるはずです!』
『黙れ!あれは冥界の危機の時にしか使わんと決めている!それに奴には俺自身の手で勝たねばならんのだ!』
『……ざけんな』
『……ぬ?』
『ソーセー……?』
『ふざけんなって、言ったんだよ!俺は、俺たちは今日!全力のあんたに勝ちに来てんだよ!全力も出さずに、手加減しているのと同義の状態のあんたに勝って嬉しいと思ってんのか!?リタイアしていった俺の仲間をーーーー木場を、ギャスパーを、子猫ちゃんを、朱乃さんを、ロスヴァイセさんを……馬鹿にするな!グレモリー眷属を見くびるな!
このゲームを、戦いを長い生涯で一度だけの物だと思って戦えよ!出し渋るなんて絶対に許さないからな!あんたはあんたを認めた兵藤さんの顔にも泥塗る気か!?』
「………………」
正直、意外だった。なんだかんだで修行を見たりしているけど、彼はその度に何かしらのいらない事を言っていたからだ。あんまり尊敬とかそう言った類の物は持っていないんだろうな、と思っていたんだが……まあ、全力という物を引き出すのに使えると言えば使えるんだろうが。
『……なるほど。確かにその通りだ。今までの俺の態度はお前の仲間たちに対してひどく失礼なものだったな。ならば俺も惜しむ事なく全力を出そう!ーーーーレグルスゥゥゥゥッ!』
『御意!』
『俺は今日この場を死戦と断定するッ!殺しても恨むなよ、高神創生!
我が獅子よッ!ネメアの王よッ!獅子王と呼ばれた汝よ!我が猛りに応じて、衣と化せェェェェッッ!』
『禁手化ッ!!』『
光が消え、そこに立っていたのはーーーー黄金の獅子を型どった全身鎧を纏ったサイラオーグの姿だった。
『これが
『
籠手が巨大化し、凄まじい一撃を放った。その攻撃は左手で受け止められたが、鎧の肘の部分にリボルバー式の噴射口があった。それをすぐさまフルロードした。左手の防御を突き破り、鎧に当たったその拳は防御を突き抜ける事は出来たが肝心の生身に当てる事が出来なかった。それに動揺していた高神くん目掛けてサイラオーグの拳は放たれ、強化されていた鎧を難なく打ち壊し高神くん本人の身体を破壊した。
そのままリアスさんのところまで吹き飛ばされたが、高神くんはピクリとも動かない。だがリタイアの光は出ていない所為か、審判も判定に困っていた。俺は魔法陣を展開して解説をしているアザゼルに繋いだ。本当はこういうの好きじゃないんだけど……まあ、良いか。
「よっす、アザゼル。それに久しぶりだな、
「兵藤か?一応今は試合中だから控えてもらいたいんだが……」
「だ〜か〜ら〜さ、彼に激励の一つでも送らせてくれよ。彼にはまだ可能性が、伸び代がある。それに……俺はもっとド派手な物が見たい。彼はあんなとこで終わるような奴じゃないからな」
「ハァ……もう好きにしろ。ほれ、これで良いんだろ?」
「サンキュ。……さて、高神くん。君は俺がサイラオーグを認めていると言った。確かにそれはその通りだ。サイラオーグの夢を、それにひたむきに努力し続けるそのあり様も、素晴らしい物だと思っている。でもなーーーー」
「俺はそれと同じくらいに君の事を認めている。大切な仲間に、惚れた女に、冥界中の子供達に。君は夢を与えてきた。俺はそれを素晴らしい事だと思っている。
だからこそ、こんなとこで終わってんじゃねえ!夢を叶えるんだろう!?止まらずにただ前を進み、主の願いを叶えるんだろうが!何時迄もそんな場所で寝てんじゃねえよ!」
『……ハハハッ、きっついなぁ。ごぷ……けほけほ……ああ、でもその通りだ。俺は皆と一緒に願いを叶える!部長を、レーディング・ゲームの覇者にする為に、勝ち続けなきゃいけないんだよ!こんな場所で、何時迄も寝てらんねえよなぁ……だから、力が欲しい!理不尽を覆す力が!部長の夢を叶えるための力が!』
『ソーセー……ありがとう。いいえ、あなただけじゃない。祐斗も子猫も朱乃もギャスパーもロスヴァイセもアーシアも。こんなに懸命になってくれた。それだけでもう私は幸せだわ』
『俺は部長を守り導く剣になりたいと思った。平凡な毎日ではなく、非日常に足を踏み入れてみたいと思った事もあった。でも、そうじゃない。俺は……部長や皆の隣を歩きたいんだ!』
高神くんの鎧から紅色の光が放たれた。そして鎧の色も徐々に変化し、紅に染まった銀ーーーー紅銀とも呼ぶべき色に染まっていった。そして、その光は瞬く間に彼の傷を癒した上に鎧を修復させた。
『これ、は……?』
『まったく世話が焼けますね。……これはあなたの渇望が生み出した物。アジュカ・ベルゼブブが施した術式の最終形態。さあ唱えなさい。あなたの胸の中にある言葉を』
高神くんは胸の上に手を当てて、天にすら響かせるように高らかとその声を響かせた。その言葉は、新たな可能性を導く者の創生の詩だった。
『我、目覚めるは定められし盟約を覆す創生龍なり!』
『永久の輝きを創造し、夢幻の願いを奏でる!』
『輝ける未来を紡ぎし絆を生みだす創生龍となりて!』
『汝らに輝ける希望の未来を見せつけよう!!!』
『Scalet Twinkle Full Drive!!!!』
「輝ける真紅の創生を奏でる、か……ハハハッ!面白い、面白すぎるぞ!それが君の真
その形態による破壊力は計り知れない。下手をすれば俺の鎧と防御術式を超えてダメージを与えてくるかもしれない。
そこから高神くんは剣を生み出し、籠手を生み出しサイラオーグに向かっていった。剣がサイラオーグの防御を突破する。激烈な拳が高神くんに直撃する。回避などという思考は捨て、防御など考えない。ただひたすらに攻撃する。
たったそれだけの事で空は割れ、地面はひび割れ、空間は裂けた。その単純な事に観客は沸いた。サイラオーグを、高神くんを必死に応援した。客観的に見ても、これはどちらが勝ってもおかしくはない試合だ。こんなに単純で、されどスケールのでかい物を見るのは久しぶりだ。グレートレッドと戦った時以来だ。
サイラオーグはこれまでの戦いの疲労の所為か、闘気の質も薄まり足も震えていた。そんな隙を見逃すわけもなく、高神くんはサイラオーグにラッシュを叩き込み砲撃でノックダウンした。これで終わりか……と思ったその瞬間、1人の女性の姿が見えた。あれは確か……ミスラ・バアル。ウァプラ家出身でサイラオーグの母親、だったかな?
その母親がサイラオーグに送る言葉はこれまで頑張ってきた息子に対する激励ーーーーではなく獅子のように厳しく、誇り高く、気丈な叱咤の声。その言葉と共に、サイラオーグの身体が動き始めた。聞こえているかは分からない。けれど息子に対するその想いは、きっとサイラオーグの中にも届いている。最後には自慢の息子を誇るように優しげな表情を浮かべていた。
その声が消えると同時に放たれた咆哮は雄々しく、されども悲哀に満ちている確かに獅子王の威厳を感じる素晴らしい物だった。
『俺は……負けん!俺には叶えなければならないものがあるのだからッ!』
『俺だって負けられねぇんだよォォォォォォォォォッ!』
剣は粉々に砕け、もはや完全な肉弾戦。ただ夢に殉ずる覚悟を持った男だからこそ、放つ事のできる拳。退くなどという選択肢はあり得ない。前へ、ただ前へ……勝利を掴むために前へと進み続けるその意思こそがサイラオーグ・バアルというものを形作っているのだ。そして最後に放たれた高神くんの拳は確かにサイラオーグの中に響くほどの一撃だった。
ただこの一瞬に全力を出す。負けぬために、勝利し続けるために前へと進み続けるその覚悟がたとえ意識を途切れさせてもサイラオーグを前へと進ませた。サイラオーグ、確かに君は獅子を司るウァプラの血を引く獅子王だよ。
俺はテレビを消すと、おもむろに立ちあがった。シエナは振り向きもしない状態で俺に話しかけてきた。
「師匠〜……行くの?」
「行くさ。今宵のゲームは誠に素晴らしかった。文字通り血湧き肉躍る戦いだった。たとえ負けたとしても、彼のそのあり様は褒め称えられるべき物だ。そんな彼に贈り物の一つや二つ、あっても良いだろ?」
「ん〜……まあ、そうだね。いってらっしゃい。奇跡を起こしに」
「ああ、行ってくるさ。奇跡を起こしに、な」
魔法陣を起動させて俺は1人、とある場所に向かったのだった。今まで頑張ってきた猛き獅子王に奇跡をプレゼントする為に。