約束してしまった手前、技を教える事になった俺は休日になるとアキトに無理矢理叩き起こされる。ぶっちゃけ休みが休みではなくなっている。そして今日も欠伸を噛み殺しながら鍛錬に励むアキトを見ている。
「どうだ、親父!ちゃんと出来てるだろ!?」
「前より出来てるのは認めるんだがな……まだまだ精進の必要ありだな。前にも教えたが、兵藤流において最も重きを置いているのは足捌きだ。こと地上戦においてはな」
「分かってるって。それで兵藤流っていうのには段階があるって訊いたんだけど、そうなのか?」
「誰から訊いたか知らないけど、まあそうだな。第一段階は技。第二段階は奥義。そして第三段階は絶技。だがすべての主軸になる物が技である以上、基礎は固めておかなきゃいけないんだ。お前が奥義を習えるようになるまでは……今の流れなら4年後かな」
「……絶対にそれまでに奥義の一つを習得してやるからな!そうだ、親父。祐樹母さんから聞いたんだけどさ、兵藤流には剣を躱す技があるんだろ?」
「ああ……『神幻』の事か?確かにあの技は剣戟を回避する為の技だけど、習得するのすごい難しいぞ。それこそ今やってる『四重蓮華』よりもな」
兵藤流の内の一つ、『華』の技を今は練習中だ。『華』・『乱』・『天』・『神』の四技を習得する事で漸く奥義を習得出来るようになる。しかし段を重ねる毎に技の数は減ってくる。無論、習得難度も上がってくるがこれを継げるならアキトは最強になれるかもしれないな。
まあ、暫くの間は『華』と『乱』を習得するのに時間がかかるだろう。ちなみに四重蓮華というのは
一旦休憩の為に日陰に入ってスポーツドリンクを飲んでいた。言い忘れていたが、今俺たちは新界に設置された広場で修行している。此処なら周りを気にせずに力を使えるからだ。
「……なあ、親父。親父ってさ、まだ19なのにこんなに技を生み出してきたんだろ?一体何時から戦ってたんだよ」
「……5歳ぐらいから鍛え始めて7歳ぐらいで世界最強だったかな。俺は両親を目の前で失った時、心底思ったよ。ーーーー力が欲しいって。俺の目の前で死んでしまった父さんと母さん。そしてそんな2人を殺した存在を心底殺したいと願ったよ」
「それで……殺したのか?」
「……ある時誰かが言った。願えば通じるのだと。想いは叶うのだと。それを夢物語だと思いながらも、俺は焦がれたんだ。この血に塗れた手で俺が掴み、俺の手を掴んでくれる存在が現れるのを。お前が力を持って何を願うのかは分からない。
でもな、今よりももっともっともっと強くなったその時に自分の歩んだ道を振り返ってみろ。その道はお前が本当に望んだ道か如何かを確かめろ。もし違っていたのならーーーーやり直せ。お前にはそれをする事が出来るんだからな」
やり直すなどという選択肢は自分にはなかった。赤龍帝は白龍皇と争う運命であるが故に、戦いに生き残る為に力を捨てる事は出来ないし、たとえそうでなくても龍という存在は力を、争いを招く。ならば生き残る為に、足掻く為には力が必要だった。諦めるなどという選択をする気など毛頭ない。それは俺が背負うと決めた者たちに対する侮辱であるがゆえに。
「親父は諦めちまったのかよ。自分の歩んだ道が間違ってるとは思わなかったのか?」
「……思わない訳がないだろう。それでも今はまだ振り返る時じゃないのさ。懺悔したり、後悔したりする事なんざ何時でも出来る。俺は来るべき戦いの場で生き残る事を、この陽だまりに戻ってくる事だけを考えているんだ。それ以外は考えないよ。
血に塗れた、戦いばかりを繰り返す人生の中でお前たちは俺が見つけた希望であり光だ。失いたくないと思える者たちを守れる事。それは俺にとって幸せな事だ。誰かを殺める事しか出来ないこの手が誰かを守る事が出来る。その素晴らしさを俺は知ってるんだよ」
「……親父がどんな事を経験してきたのか、俺には分からない。それでも親父がやってきた事は絶対に無意味なんかじゃなかったと思うんだ。少なくとも俺は、あの時親父に助けてもらって本当に良かったと思ってるんだから」
「ありがとな。……さて、休憩は終わりだ。鍛錬に戻るぞ」
「おう!」
この光を、この温もりをなくしたくはない。それは偽らざる俺の気持ち。ここまで疾走し続けてきた俺の本当の願い。手を繋ぎ温もりを感じたい、それこそが俺の願いであるが故に。だからこそ、今できる事をやろう。それが俺に必要な事であり、大切な事だと思うから。