アグスタの一件から数日、俺はヴァーリとこまめに連絡を取りながら六課の状態の確認をしていた。どうやら切り替えはちゃんと出来るらしく、ここ最近はヴァーリを見ても普通に対応しているらしい。だが、ティアナ・ランスターは自分の力が弱い事を悔いているらしく、猛烈な勢いで修行しているらしい。
あれは何を言っても聞きそうにない、とはヴァーリの弁だ。ここで弊害というか、まあ来るべき時が来たと言った所だろうな。なのはは昔に比べて退化している。昔ならまだ話をしようという姿勢があったが、大人になってそんな傾向もなくなった。
自分の思っている事を他人も理解している、なんていう事はあり得ない。周りの連中もなのはを窘めるような事をしない。間違っていると思っていない。このままだと碌な事にはならないだろう。一度ぶつかってみるのも吉かもしれないが、こんな場所で終わるとは思いたくないが……俺としても万全の体勢で望まなきゃならない。
しかし、何故仲間であり相棒とも言えるスバル・ナカジマはティアナ・ランスターを止めようとしない?考える事を放棄してるんじゃないだろうな。ヴァーリからも一言あったそうだが、態度が変わる事はなかったらしい。ヘリのパイロットをしているグラン・セニックという男性からの一言も効果がなかったらしい。
そして今日。フォワード陣の模擬戦があると聞いて六課にやってきた。俺の突然の訪問に驚いてはいたものの、フォワード陣の実力が見たいと言ったら見学を許可してくれた。むしろあの2人が矢鱈とやる気を出していた。空回りしなければ良いんだが……そう思いながら見学していると途中からフェイトがやってきた。
「……?ティアナの様子、おかしくない?」
「ああ……疲れでも溜まってるのか?」
「…………」
「…………」
黙して見続けていると、訓練内容とは違う危険な行動。本来のポジショニングとはまったく違うアクションを取ってしまった。ティアナ・ランスターのいるポジションはセンターガード、つまりは指揮官だ。指揮官が近接戦闘をするなんて事は通常あり得ない。アザゼルと言った例外もいる事にはいるが、あいつは歴戦の堕天使。強さに関しては折り紙付きだ。
「止めろ、ヴァーリ。これ以上の戦闘継続は無意味だ」
「分かっているさ。ーーーー
『Vanishing Dragon Balance Breaker!!!!』
白銀の鎧を纏ったヴァーリはスターズの模擬戦に介入した。それを止めようと動きだそうとしたヴィータ達の対処は俺の仕事だ。
「なんで……なんで邪魔すんだよ一誠!明らかにティアナのやった事は間違いだ!なのはは正しい筈だろ!?」
「……ああ。確かになのはの教導の方法とその目的は間違っていない。でも、あいつはそれをちゃんと新人たちに話したか?この教導にはどんな目的があって、最終的にどうなってもらいたいと思っているのか。きちんと言ったのか?」
「それは……でもそれぐらい!」
「甘ったれるなよ、ヴィータ!言葉は、意志は紡がなければ伝わらない!ティアナ・ランスターは焦っていた。この機動六課はSランク級の魔導士で固められている。通常そんな部隊は存在しない。でも訓練内容は基礎練ばかり。自分が成長しているかも分からない。そんな中でのアグスタだ。焦るのも無理はないさ。
彼女は自分の夢を、自分の意志を貫く為には強くあらねばならないと考えているんだから。だけど、それをたかが一年でやり通そうだなんていうのは間違いだ。だけどお前らはそれを言ったか?お前がやろうとしてる事はそんなに早く出来る訳ないんだって。その夢は長い時間をかけてやり通す物だって、お前らは言ったのか?」
「…………」
「……別にな。俺は一方的にお前らが悪いって言いたい訳じゃないんだ。だけどお前らは言葉を紡ぐ事を辞めてしまってはいけないんだ。俺とヴァーリはなんとなく分かってたんだ。いつの日かこういう日が来るんじゃないか、って」
「だったらその時に言えば良かったんじゃ……」
「少年。大人は他人言われて『はい、そうですね。以後気をつけます』なんて言えるような奴ばかりじゃないんだ。何を考えてるのか分からないけど、あいつはーーーー高町なのはは変わった。それが悪い事だとは言わないけれど……今回に限って言えば駄目だよ。あいつは。暴力によって黙らせるのではなく、言葉を持って理解させるべきなんだから」
「だったら!今、ヴァーリがやってる事はなんなんだよ!あれこそお前の言ってる暴力じゃねえのかよ!……あたしはなのはが間違ってるなんて言えない。なのはは確かに正しい教導をしてるんだから!」
「頭に血が昇っている今のあいつじゃ言葉は届かない。かと言ってあまり六課に関わりのない俺が口を出すべきじゃない。ヴィータの言うとおり、あいつは確かに間違ってない。だけど言ってしまえばそれだけなんだよ。間違ってないだけで、正しくない。人は将来如何なるのか分かっていなければ不安になる。誰も彼もがお前らみたいに才能があって、力を持っている訳じゃないんだからな」
かつて俺がまだ幼く戦場を転々としていた頃。とある傭兵が酒の場で俺に言った事だ。自分には才能がなかった。努力し続けて漸く一端の傭兵になれたんだって。傭兵は力量次第では貰う金の額も変わってくる。その金で家族を助けるんだって言ってた心優しい人だった。
その人が師からいろいろと学んでいた時に言われたらしい。他人に想いを伝えられない者は如何しようもないんだって。幾ら才能があっても、幾ら強くっても。そいつは何時か独善的な人間になるんだって。何かをするのなら、それに一体どんな意味があるのか話さなきゃならないんだ、と。
「今こそが初心を取り戻すべき時だと、俺は思うんだよ」
兵藤一誠Side out
ヴァーリ・ルシファーSide
「そこまでだ。模擬戦をそこで中断して一旦戻れ」
「まだお仕置きが終わってないんだから邪魔しないでよ、ヴァーリくん。私は間違った事は言ってない。ティアナにそんな風に教導した覚えはないんだから、それをきちんと」
「君が今やろうとしている事は、お仕置きじゃない。ただの八つ当たりだよ。……君の経歴は見せてもらったよ。仕事のしすぎによる疲労によって一度堕ちた事があるらしいね」
「……そうだよ。だからこそ、皆にはそんな風になってほしくなくて」
「だが君は、それを言葉で紡いだ事がない。自分の意志をハッキリと口にしていない。君の教導とその目的は確かに正しい。間違ってない。……だがそれは、外側から見ている者にしか分からない。実際に訓練しているフォワード達には、その思想が伝わっていないんだ」
高町なのはは確かに正しい。自分の経験があるが故に、他の者たちに自分の教え子達にはそんな目にあってほしくないと願う。だからこそ、まずは基礎力を上げる事を選択し個人の特訓に入ってもなんとか夢に向かって手伝えるように頑張ってきた。その心意気は素晴らしい。その為の努力も凄まじい物だった事だろう。
でも想いは言葉にしなければ伝わらない。魔導士には念話という手段があるが、それだって言葉にするという行為をして初めて想いが伝わるという事なのだ。
「これ以上続けると言うならーーーー俺が相手になろう。覚えておけ。高町なのは、ティアナ・ランスター。力を使って敵を倒すという事は、自分も倒される覚悟を持たねばならないという事をな」
「……クロスファイア・シュート」
『DividDividDividDividDividDividDividDividDividDividDividDivid!!』
スフィアは瞬く間に半減され、なのはの魔力も半減されていった。ヴァーリの、白龍皇の力は継戦能力の高さと敵を鎮圧させるという面に関しては圧倒的だ。一誠が己の力を増大化させる事で相手の戦意を折るのに対して、ヴァーリは力を奪う事でそもそも相手を戦えないようにするのだ。
「ディバイン……バスターッ!」
「だから無駄だと言っているだろうに……」
『DividDividDividDividDividDividDividDividDividDividDividDividDividDividDividDivid!!』
「これで……終わりだ」
ヴァーリはなのはの後ろに回り込み、首筋に手刀を叩き込む事で気絶させてスバル・ナカジマとティアナ・ランスター両名を下がらせたのだった。
ヴァーリSide out