リリカルD×D~狩り人の戦記~   作:シュトレンベルク

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怒りの日シリーズ第三幕。ここに開幕!


来たれ、怒りの日〜終曲〜

 

眷属が守護天使の力を解放したのを認識した一誠は苛烈な攻撃をラインハルトに放っていく。眷属が力を解放する事はイコールで一誠の強化にも繋がる。

 

王冠(ケテル)』とはすべての座ーーーー智慧(コクマ)理解(ビナー)慈悲(ケセド)神力(ゲブラー)(ティフェレト)勝利(ネツァク)栄光(ホド)基礎(イェソド)王国(マルクト)知識(ダアト)ーーーーを統べる王である。

 

つまり一誠が眷属たちに天使の力(テレズマ)を供給する事で強化し、眷属たちは守護天使の力を解放する事で一誠は分け与えた守護天使の力を得る事が出来る。

 

現在解放されている力は王を守護せし最後の剣(サンダルフォン)座を守護する者(ザフキエル)神を癒す者(ラファエル)。攻守両方の力と治癒の力を得た事で、与えられた傷をすぐさま治癒して収束させた魔力弾をまるでマシンガンのように放った。急所を狙って放たれたそれらはラインハルトの手で瞬く間に弾かれた。

 

攻撃をする時や攻撃を終えた時、人は隙ができる。そこを突いたヴァーリが高速で動き拳を当てたことによって、ラインハルトはすんでで防御した槍ごと吹き飛ばされ壁に激突した。城の髑髏に受け止められていたので無傷に近いが。

 

「ふっふっふ……ははははは、はははははははははははははッ!いやはや、中々驚かせてくれるな赤龍帝!急に力が高まるから何かと思ったぞ」

 

「俺と眷属たちは繋がってるからな。あいつらが全力を出せば出すだけ、俺の出力も上がる。俺の本質は個ではなく群。貴様のように部下の命を喰らわなきゃ戦えない訳じゃないんだよ」

 

「ははははは。そう言うな。まあ、確かにそうしなければそもそもこんな舞台に立てていなかったのだから、気にする程でもない。私は卿ほど戦闘という面において適性があるわけではないのだ。卿は私にとって最も恐ろしい敵なのだ。私はここで卿らを打倒し、すべてを喰らおう。別に卿らを倒したとしてもすぐに消えるわけではないのだからな」

 

「ほう……?随分と気の早い事だ。貴様、俺たちをそう簡単に殺せると思っているのか。それは侮辱だぞ」

 

「簡単、ではないだろうな。しかし決して不可能ではない、とそう思っている。確かに赤龍帝の力の上昇には驚かされたが、白龍皇を喰らえば問題とする程ではなくなるだろうし赤龍帝を喰らえば話にならなくなる。

 

ひょっとすると赤龍帝を喰らえば存外消えずに済むかもしれんな。そしてこれが終われば次はミッドチルダのすべてを喰らおう。……ああ、確かこの街には『覇王』と『鉄腕』の末裔がいるとかいう話があったな」

 

「なに……?クラウスとリッドの末裔がいる?その話は本当なのか?」

 

「おや、急に顔色を変えて如何したのかね?気にする事はなかろう。すべて私と一つになるのだ。いずれ出会う事も出来るようになろう」

 

「はっははははは!……そうかそうか。あいつ等の末裔が。こりゃあ約定は簡単に果たされそうだ。これは負けられねえな。ああ、負けられねえよ。

 

お前に俺の娘を、息子を、女を、友を、仲間を。喰らわせる訳にはいかないんだよ!お前、マジでふざけんなよ?俺の娘を!俺の親友の末裔を!俺の初めて愛した女の末裔を!喰らおうだって?させねえ……んな事をさせるわけねえだろ!」

 

龍の力を最も引き出すのは純粋な感情。喜びや悲しみ、そして怒り。一誠から放たれる力がさらに強烈に、猛スピードで上昇していく。

 

渡せない。この地にある至高の温もりを、陽だまりを目の前にいる獣に渡すなどあり得ない。愛しき刹那を守り、再びあの陽だまりに戻る。あの陽だまりを手放すなど出来る訳がないのだから。

 

陽だまりを守るという守護の意志と、自分にとって大切な娘を、親友と愛した女の末裔を喰らうと言ったこの男に対する怒りが力を跳ね上げさせていた。

 

兵藤一誠にとって最も恐れている事は死ぬ事ではない。自分が死ぬ事であの陽だまりが壊れてしまう事が1番恐ろしいのだ。些細な日常を愛するがゆえに、それを守る事に命を賭ける事ができる。

 

自分の命の価値が低すぎる一誠は自分の為に戦うという論理を納得できない。理解はしよう。だが、納得できない。

 

 

納得できない。

 

 

他者の渇望からなる創造や流出を使えるという万能に近い能力を持っている一誠だが、他の者の能力をまったく使わないのはこの感情に集約される。

 

二元論ーーーー善と悪が明確に分けられた世界。『座』を巡って繰り広げられる戦いに巻き込まれ、それに耐えきれなくなった女性が創りだした世界。

 

堕天奈落ーーーー善である者が獣を悪を宿す世界。善なる者どもが悪なる者どもに勝つ為に創りだした世界。

 

非想天ーーーー全ての悪を排除する事で完全なる善を体現した世界。憎み、恨み、戦い続ける人々を嘆き全ての闘争を排除する為に創りだした世界。

 

永劫回帰ーーーー何度も繰り返し続ける地獄のような世界。未知を求めた水銀の蛇が女神の抱擁に辿り着く為に創りだした世界。

 

修羅道・至高天ーーーー何度も蘇り戦い続ける修羅道のような世界。全霊の境地を求めた黄金の獣が回帰し続ける世界を破壊する為に創りだした世界。

 

無間大紅蓮地獄ーーーー刹那を永遠に留め続けるすべてが停止している世界。愛しき刹那を守りたいと願った永遠の刹那が黄昏を守る為に創りだした世界。

 

その渇望を否定などする気はない。それぞれが心の底から願った渇望を否定する気など一誠には毛頭ないのだから。しかし、納得できるのかと聞かれればかぶりをふるだろう。

 

自分がこんな世界に放り込まれたとして、反抗しないのかと訊かれれば否と答える。

 

善と悪しか存在しない物語のような世界。

闘争を繰り返し続ける人間のような世界。

逆に一切の闘争が排除される機械のような世界。

同じ時間を永遠に繰り返し続ける円環のような世界。

世界を永遠に破壊し続ける修羅のような世界。

時間が永遠に停止する刹那を体現したような世界。

 

そんな世界にいたい、などと決して思いはしないからだ。

 

完全に善悪がはっきりしている者など人ではなく、かと言って闘争を繰り返すだけでは安らぎがなく、だが闘争がないのでは成長がない。繰り返し続ける人生など人生ではなく、守りたい者がいるのに破壊したいなど思うはずもなく、刹那とは止まれないからこそ美しいのだ。全ての者が救われるべきだと思うが故に、そんな渇望に納得できない。

 

そんな自分がこの人ならば膝をついても構わないと断じた『座』ーーーー輪廻転生。救われない者など存在しない至高の世界。

 

理解などするまでもなく、納得などという次元をとうに超えてしまった、自分が自ら膝を屈してしまう程に素晴らしいと思えた『座』だった。

 

同じ孤独から救う物でも、俺と彼女ではまったく格が違う。何故なら一誠は死した先の事など考えていないが、彼女は那由多の果てに幸せを得られると信じているのだから。これ以上の『座』など考えられない。

 

「俺が至上と仰ぐ世界はお前の世界じゃない。だからーーーーお前はここでくたばれ!ここから先の未来にお前のような奴は必要ないんだ!」

 

そして一誠は創生龍の力を使い、12本の剣を生みだし高速で投げた。警戒して槍を構えたラインハルトの方には1本も行かず、それどころか見当違いも甚だしい場所に刺さっていた。

 

それを訝しげな表情で見つめていたラインハルトは驚愕の表情を浮かべ、一誠を睨んだ。

 

「やってくれたな、赤龍帝。良ければ種明かしをしてくれないかな?どうやって(・・・・・)団員たちの魂を見つけたんだ(・・・・・・・・・・・・・)?」

 

「単純だよ。何処にあるのか分からないなら、分かるまで探せばいい。全部見つけ出すのには苦労したけど……どうやら苦労に見合う代価は戴けたらしいな」

 

このグラズヘイムはラインハルトによって支えられ、12人の核となる魂によって強化されている。12名が取り込んだ魂で強化されているラインハルトは全員との結びつきを解除される事によって弱体化された。

 

これがただの剣であればそんな事にはならなかったが、一誠が投げて団員たちの魂を貫いた剣は破戒すべき全ての符(ルール・ブレイカー)……つまり契約破棄の概念を取り込んだ武装なのだ。これによってラインハルトと団員たちの繋がりは強制的に絶たれた。

 

そしてその効果は確かに発揮されていたのだった。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「ぐおっ……!?」

 

「ぬ……?」

 

「ガァッ……!」

 

大隊長たちの様子が変わった事に疑問を抱いた3人だったが、相手も混乱している今が攻め時だと判断したのかそれぞれが持っている最高の技で決着をつける事を決断した。

 

アイリスの放つ最強の技は『滅』の魔乖咒の第五咒法。普通会得できる最終は第四咒法とされているが、アイリスは仰いでいた師が普通ではない。そして傍には世界で最もおかしい実力の持ち主がいたのだ。むしろ会得できない方が無理だろう。

 

第四咒法の代名詞が『一撃必殺』なのに対して第五咒法の代名詞は『一撃必滅』。当てる事が出来れば絶対に勝てる無双の一撃だ。先ほどシエナから送られてきた情報に従えば当てる事ができる。

 

一誠が渡した宝石にはとある術式が込められていた。それの発動条件は一定以上の量の天使の力(テレズマ)を身につけている者が使う事。それは普通なら貯めようのない途方もなく巨大な量だった。

 

しかし、一誠はその術式を2年がかりで発動させようとしていた。アイリスが1番最初に発現させられた理由は単純に鍛錬の量が1番多かったからだ。守護天使の力を解放した事で全員が術式を発動させた。

 

アイリスの持っている宝石に込められた術式は『必中』。くしくも赤騎士(ルベド)と同じ力を宿していたのだから、セフィアに攻撃が当たったのも当然と言えるだろう。相手が混乱している内に決着をつける為に両手で術式を編み上げる。

 

『砕けし奈落の月夜』。肉体どころか魂すら残滓を残す事を赦さぬ程の圧倒的な破壊を強いる当たれば最後、絶対不可避の死を与える無双の力。

 

最高難度を誇る第五咒法を組み上げようとしている為、両手を使っても時間がかかる。獣の本能で何か危険な物を作ろうとしている事を理解したセフィアは突然の事態をとりあえず置いておき、ひとまず目の前にいるアイリス()を殺す事にした。

 

セフィアの猛攻に対して何もせずただ術式を編み上げる事に集中しているアイリス。それに焦るのを止められないセフィアは獣のような手でアイリスの眼を潰そうとした瞬間、第五咒法が編み上がり見事なストレートがセフィアに向かった。顔を狙ってきたそれを首を捻る事で回避した。

 

「僕の、勝ちだァァァァァァァァァァッ!」

 

 

「いいえ、あなたの負け。この勝負は私の勝ち」

 

 

「え?……!?」

 

左手が正中線ーーーー鳩尾に直撃していた。その左手はまるですべてを漆黒に染め上げるかのように何処までも深い黒色に染まっていた。対して、先ほどの拳は無色透明。元々、右手は囮であり肉体強化の術式で右手だけを極端に速くしただけなのだ。

 

動揺から抜けきれなかったセフィアは右手を回避した事で安心しきってしまった。そこを読みきったアイリスによって止めを刺された。第五咒法は第四咒法程派手ではない。しかしその絶大な効果はセフィアの身体を端から灰にしていったのだ。

 

第五咒法の毒とも言える物が肉体を貫き、魂を浸食し始める。それと同時に足から段々と灰になっていった。そして肉体が完全に灰になると魂を蝕み始め……果てに残る物は『無』。

 

「僕は…不死身の……英雄(エインフェリア)なんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

「……いいえ、あなたは不死身なんかじゃありません。さようなら、セフィア・ノーベンゲルン。あなたの来世に幸せが訪れる事を祈っています」

 

ーーーーAuf Wiedersehen(さようなら)

 

アイリスは灰となって消えていく1人の女性の冥福を祈り、そして主の勝利を祈った。こんな事をする必要はないと分かっていても、それ以外にできる事がないのだから。

 

シエナもまたこの機会に決着をつけてしまおうと考えた。これを逃せばこのような機会に巡り合う事は二度とないと思ったからだ。

 

シエナの持っている宝石に込められた術式は『絶対防御』。如何なる攻撃であろうともシエナがダメージを受ける事はない。例えるなら一誠がほぼ常時発動している防御術式をさらに発展させたような代物だ。無敵の防御力を誇る盾はそのまま攻撃に転じる事も出来る。

 

普段なら絶対にやらない方法を選んだ。それはーーーー近接格闘。猛スピードで近づくと顔面を思いっきり殴った。シエナが此処についた時、絶対にやろうと思っていた事だ。その一撃は天使の力(テレズマ)によって強化された腕力での一撃だ。その威力は幾ら肉体が強化されているとはいえ、耐えきれる物では決してなかった。さらにそこから両手両足をバインドで縛りつけて蹴りを放った。

 

衝撃を逃す事が出来ず、踏ん張ろうにも足を地面につける事が出来ないので踏ん張れない。腹に力を込めようとしたが、そんな暇すらない程の速度で殴っていた。ラジェット・ファイラスはその余りの力量に驚いていた。シエナは遠距離戦闘を得意とする魔術師だと聞いていたからだ。

 

そもそもシエナは近接格闘を苦手としている訳ではない。単純にそんな戦闘になる事がないだけで、実力的には十分一流を名乗れるぐらいだ。だが周りには超一流を名乗れる程の猛者がいる為、シエナが近接格闘をする事になるような事態に陥る事がなかっただけなのだ。

 

「私を甘く見たでしょ?私だって最強と名高い赤龍帝眷属の一員だよ。私には一誠程の魔法技能はないんだ。だったら出来る限り差を埋められるように、格闘技能を習得しておくぐらい当たり前なんだよ」

 

これは一誠に自分から申し出た事だった。その時一誠は訝しげな表情を浮かべていた。その時点でさえシエナは客観的に見ても相当高位の魔術師と呼べる程の力量だったのだ。つまり、知能派。悪い言い方をすれば近接格闘に関しては眷属中最弱とも言える程だった。それならば魔法技能を高めた方が良いのではないか、と考えていたからだ。

 

しかし余りに真剣な様子で頼み込んできたので、ため息混じりに了承した。こういう顔をしている奴は何があっても退こうとしない事を知っていたからだ。それからたった2年でシエナは一流の格闘技能を身につけた。だが本人も一誠もこれ以上強くなる事はないだろうど考えていた。

 

何故なら肉体的に見てほぼ完成しているからだ。たとえこれから鍛えていったとしても、その力量が急激に増えるような事はまずないと言っていい。だが魔法技能は超一流、格闘技能は一流ともなれば戦術の幅は大きく広がっている。

 

今のシエナの戦闘スタイルはほぼ一誠と同じだ。魔法や魔術を駆使し、格闘術にもそれを混ぜ合わせた力を振るう事が出来る。実際、上手くやれば他の眷属を完封する事すら可能なレベルなのだ。戦闘能力だけ見れば眷属の三強の中で頂点に君臨している。

 

そんなシエナが編み出した究極にして絶技の一。この技はリアス・グレモリーがテロリスト対策に創り上げた完全に敵を殺す、という思想から編み出された技をシエナなりにアレンジした物。本質からすればアイリスの第五咒法と近い物だが、シエナの技は一瞬ですべてを消滅させる。

 

『無月』。それがこの技の名前。一切形は見えないけれど、それでも確かにある脅威。姿なき滅び。すべてを消滅させる無慈悲なる一撃。相手をした一誠に『死』を覚悟させる代物であり、これを防ぐ方法はほぼ皆無だろう。

 

「くっ……申し訳ありません、ハーデン卿……」

 

「……さようなら。あなたの来世に幸がある事を祈っています。『無月』」

 

すべてを無に帰せしめんとする一撃は赤騎士(ルベド)を捉え……その肉体を灰すら残さず消し飛ばしたのだった。それと同時に創造が解け、シエナは地面に座りこんだ。あの技は負担が大きすぎる為、一回放てば少なくとも一年は休息を置かねばならない程なのだからどれほどの負担かは推して然るべしだろう。

 

「……こっちは約束通り勝ったんだから、そっちも絶対に負けないでよね。あ、アイリスさん!腰抜けちゃったからちょっと手伝って!」

 

ある意味であまりぶれないシエナなのでした。

 

それはさておき、少し時間を遡り八舞はというと……他2人の例に漏れず、一撃で決着をつけてしまおうと考えていた。しかし力の性質上、一撃必殺とも呼べる技が八舞にはなかった。ならばどうするのか?答えは簡単ーーーー力を最大まで解放し、一撃必殺と呼ぶのが容易い威力で屠れば良い。

 

神の火(ウリエル)の力と神を癒す者(ラファエル)の力を最大まで解放し、自らの霊装である槍ーーーー天を駆けるもの(エル・カナフ)に纏わせていく。

 

その力の高まりに反応した黒騎士(ニグレド)ラグリス・ヨルム・ミューヘンは一度効果が失われてしまった創造を再活性する事で創りなおし、幕引きの鉄拳を振るった。

 

当たれば最後、どんな物であろうとも終焉を与える鉄拳は確かに八舞を捉えたーーーーように見えた。しかし拳は空振り、周りを見渡すと数メートル離れた場所に八舞は立っていた。

 

ラグリスは理解できなかった。自分の拳は確かに八舞を完全に捉えた筈なのに、外れた。八舞は槍に力を注ぎこむのに集中しているため、躱すなどという芸当が出来たとは考えにくい。しかも拳との距離が数ミリ程度しかなかったともなればなおさら考えられない。まるで肌をなぞる風のように躱された。

 

「……知らないようなので言っておきますが、私は()を統べる精霊です。まあ、今回避する事が出来たのはまったく別のようですが……それは説明しなくても良いでしょう」

 

八舞の持っている宝石に込められた術式は『絶対回避』。まるで世界に流れる風のように捉える事が出来ない。ラグリスが八舞を捉えきれないのは当然なのだ。形なき存在を捉える事など誰にも出来るはずがないのだから。

 

では何故、白騎士(アルベド)赤騎士(ルベド)黒騎士(ニグレド)も押されているのか。それは一誠が術式を刻んだ際に、魂の力を刻み込んだからだ。分かりやすく言うと、この術式が発動している際のシエナたちは一誠程ではないがあと一歩の領域にまで力を押し上げられているのだ。

 

たかが自分やその周りを改変する程度しか出来ない創造(ルール)が世界そのものを塗り替える流出(ルール)に勝てないように、魂のある領域に圧倒的な差がある以上、押し負けるのも道理と言えるだろう。だが、今はあくまでもブーストをかけられているだけなので流出を使う事は出来ない。……そもそも一誠から天使の力(テレズマ)を供給される事で相対せるようになっているだけなので、形成は疎か活動すら使えないのだが。

 

「俺はこの戦いに勝利し、自由を手に入れる!それを阻まれてたまるものか!」

 

この3人はラインハルトの大隊長であるのと同時に、(ロキ)から与えられた臣下だ。そしてラインハルトはこの3人に怒りの日を勝ち残れたならば、各々の望みを叶えると約束していたのだ。

 

ラグリスが望む物は自由。この戦いの為に生みだされ、命令に従って動いてきた。まるで人形のようではないか。この世に生まれる事が出来たのだから、人が当たり前のように持っている物ーーーー自由を欲するのは当然と言えるだろう。

 

「……貴方が何を欲しているのか知った事ではありませんが、私にだって欲しい物ぐらいはありますよ。誰よりも、何よりも、私は一誠にすべてを捧げたい。あの人が守りたいと思う物を私も守りたい。私もまた、当たり前の光景を欲しているんです。だからーーーー貴方は邪魔なんですよ。ここで打倒させて貰います!」

 

「……俺の目的は俺自身の手で完遂させる!その為に、俺はこの戦いに勝たねばならんのだ!」

 

「これ以上は平行線ですね。私の意志はこの槍が今から語ってくれます。……おそらくこれが長きに渡る生の中でも至大至高の一撃となるでしょう。これを持って、貴方の生に幕を降ろしてあげましょう」

 

ここから先に言葉など要らない。ただ必要なのは相手を殺す事の出来る力。自分の願いを叶える為に相手を打倒する。自分の願いが上か相手の願いが上か、ただそれだけを競う。

 

「人世界・終焉変生」

 

赤き断罪の烈槍(シェキド・ラグナート・ラファエル)

 

自由を得るために自分の役割の終焉を望む者と愛しき日常に帰る為に勝利を望む者の戦いはーーーー後者の勝利となった。ラグリスとしては最大級の攻撃をした。当たれば八舞とてやられていたであろう一撃だった。だが、八舞は地面に思いっきり足を叩きつける事で振動させラグリスの体勢を(ほんの数秒程だが)崩し、拳をすんでで躱して放った槍はラグリスの肉体を貫いた。こめられた力が炸裂し、ラグリスの肉体を焼き尽くした。

 

八舞はその光景を見て数秒ほど黙祷した後、シエナとアイリスの2人と合流して先にこのグラズヘイムから脱出することを選択した。自分たちがここで出来ることはもうないのだから、と。それに2人とも賛同し、外壁を破壊して脱出した。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「これは……そうか、我が爪牙は負けてしまったか。やはり卿の眷属は優秀だな、赤龍帝。まさか私としても自慢だった大隊長が全員敗北するとは思わなかった」

 

「当たり前だ。俺の家族がお前らみたいな奴らに負ける訳ないだろうが。……ヴァーリ、こっから先は俺がやらせてもらうが構わないよな?」

 

「……俺としては彼ともう少し戦いたいのだが、君がそう言うなら仕方がない。だが、後の戦いに差し支えのないようにしてくれよ?力を使いすぎて全力が出せなかった、なんて言ったら許さんぞ」

 

「それぐらい分かってるさ。……俺という存在のためにこの世界に転生する事になったお前をここで終わらせてやる。さあ、終曲(フィナーレ)だ」

 

「確かに私だけになったことで弱体化はしたが、それはあくまで攻撃力の話だからな。速度では卿に負けはせぬよ」

 

「そうかい。それじゃあ……始めようか」

 

ラインハルトの槍が煌めき、一誠の拳が閃光の如き速度で放たれる。爆発的な速度で衝突し続ける一誠の拳とラインハルトの槍。蹴りを放ち、一誠はラインハルトと距離を取った。するとラインハルトと一誠は急に笑い始めた。

 

「くっくっく……はーはっはっはっは!楽しい、実に楽しいぞ!前世からずっと続いてきた飢えが満たされていく……このような感覚を今まで抱いた事もない。ああ、今ならこの言葉を言える!私は今ーーーー」

 

「ははははははっ!面白い、まったく持って本当に面白いな!思い出した……対等な相手に全力を振るう満足感。敗北と勝利という狭間に揺れるこの感覚!これこそが勝負という物だ!ああ、俺は今ーーーー」

 

「「生きている!」」

 

生という物の充足感。今まで飢え続けてきたがゆえにそれを満たされていくこの刹那が、とても麗しい。黄金の獣ーーーーラインハルト・アルゾフ・ハーデンは己が役割を聞いた時、全力の境地に至れると喜んだ。今まで自分が至れていない場所にたどり着く事が出来るのだと。

 

しかし初めて一誠と顔を合わせた時、表面上は平気そうな顔をしていたが内心では冷や汗をかいていた。眼を見るだけで理解する事が出来たのだ。今の自分と彼の立っている場所の違いを。そして別の意味で喜んだ。自分はまだまだ強くなる事が出来るのだと。まだまだ高みに向かって駆け上がる事が出来るのだと。

 

そして今。2年前、敵と呼ぶことすらおこがましかった自分は目標としていた男と対等に戦う事が出来ている。全霊の境地に至る事が出来ている。全力を出して尚、倒しきれない相手が目の前にいる。ならばもっと。もっともっともっと……力を高めろ。相手を打倒できるまで高みを目指し続けるのをやめない。自分が目指す物は名実ともに最強という名の頂きなのだから。

 

「楽しいな、赤龍帝。卿は私の望みを叶えてくれた。全霊の境地に至る事ーーーーこれほどの充足感は今まで味わったことがない。至高の快楽だ」

 

「そうかい。俺もこんな感覚に浸るのは10年ぶりだ。勝ち負けに揺れるなんて久しく味わっていなかった。今この刹那がとても楽しい。人生は一度きり。故に輝くんだ」

 

「二度と体験する事のないからこそ輝く。さあ、もっと私を楽しませてくれ!このグラズヘイムで私は最強へと至りたい!」

 

「良いだろう。ならば俺も、隠し球を使うとするかな」

 

ーーーー形成(イェツラー)聖天・奇跡の聖槍(ロンギヌスザント・クファールゲイン)

 

「ロンギヌス……だと?はははははははははははっ!なんともはや何も言えんな。卿はいい意味で私の想像の上をいってくれる。

 

良かろう。卿のロンギヌスと私のロンギヌス。どちらが上か、力くらべといこうではないか!」

 

ラインハルトの魂の高揚に反応して力も跳ね上がる。2つの金色の槍が衝突し同時に弾かれる。体勢が崩れ、そこに喰らいつかんと無理な体勢のまま槍を振るう。まるで千日手のようだ。どれだけやっても弾かれるばかりで決着がつかない。

 

ラインハルトは焦れたのか槍において最も特徴的とも言える突きを繰り出した。それを好機と見た一誠は紙一重で躱し、右手に持っていたロンギヌスでラインハルトの槍を持っている左腕の付け根を貫いた。

 

「くっ!だがこの程度で……!」

 

 

「海は幅広く 無限に広がって流れ出すもの

Es schaeumt das Meer in breiten Fluessen

 

水底の輝きこそが永久不変

Am tiefen Grund der Felsen auf,

 

永劫たる星の速さと共に 今こそ疾走して駆け抜けよう

Und Fels und Meer wird fortgerissen In ewig schnellem Sphaerenlauf.

 

どうか聞き届けてほしい

Doch deine Boten,

 

世界は穏やかに安らげる日々を願っている

Herr,verehren Das sanfte Wandeln deines Tags.

 

自由な民と自由な世界で

Auf freiem Grund mit freiem Volke stehn.

 

どうかこの瞬間に言わせてほしい

Zum Augenblicke duerft ich sagen

 

時よ止まれ 君は誰よりも美しいから

Verweile doch du bist so schon―

 

永遠の君に願う 俺を高みへと導いてくれ

Das Ewig-Weibliche Zieht uns hinan.

 

流出

Atziluth―

 

新世界へ 語れ 超越の物語

Res novae―Also sprach Zarathustra」

 

 

「ぐあっ……赤龍帝、貴様!」

 

発動したのは相手を停滞させ自分は加速する無間大紅蓮地獄。超越する(ツァラトゥストラ・)人の理(ユーバーメンシュ)と称された聖遺物(エイヴィヒカイト)ーーーー藤井蓮が望んだ刹那の停止。

 

「本来の出力の60%程度しか出ない俺の力を確実にお前に通すためには『穴』が必要だった。弱体化し聖槍(ロンギヌス)で傷ついた今のお前なら通ると信じていたよ」

 

今まで一誠が力を使わない理由の一つ。それは使っても効果がないからだった。こと流出位階にまで至った者たちに60%程度の出力では意味がない。もう一つの理由は使うほど余裕がなかったから。

 

「だが……それがどうした!この程度ならまだ私を完全に停止させるまでには至らん!卿が最大の一撃を放つまでに私は卿を攻撃できる」

 

「そうだな。お前の言うとおりだよ、ラインハルト。でも、俺の隠し球が一つだけだなんて俺は言ったか?」

 

「なん、だと……?その剣は」

 

 

「世界を焼き尽くす聖剣よ、汝が劫火をもって全てを焼き尽くせ!ーーーー全てを呑み尽くす聖剣(レーヴァテイン)!」

 

 

古代ベルカの思い出の結晶。『覇王』クラウス・G・S・イングヴァルドと『聖王』オリヴィエ・ゼーゲブレヒトと『鉄腕』ヴィルフリッド・エレミアと共に生きた懐かしきあの頃を思い出しながら、万感の思いをこめて剣を振り抜いた。

 

抜刀の構えをした瞬間に6発のブレイズ・カートリッジをロードした事で、神話の再現とも言うべき劫火がラインハルトめがけて放たれた。それがただのカートリッジなら耐えきれただろうが、通常のカートリッジの数倍の魔力がこめられているこの一撃を耐えきる事はさすがにできなかった。正確に言うなら魂の残量を使い果たして寿命を迎えたような物だ。

 

「くっくっく……はーはっはっはっは!……私の負けか。ああ、何故だろう。負けたというのにとても清々しい気分だ。これも満たされたが故か。ああ、しかし歴代最強の赤龍帝と白龍皇の戦いを見られないのは少々残念だな」

 

「……何か言い残す事はあるか?介錯程度ならしてやるが」

 

「要らんよ。せめてこの細やかな余韻に浸らせてくれ。……全霊の境地を夢見て歩いてきた。まずはその願いを果たさせてくれた事に感謝しよう」

 

「いや、こちらも楽しませてもらった。お前ほどの強者と戦えた事を誇りに思う」

 

「お前との決着をつけると約束した。俺はその約束を守っただけだから、お前が感謝する必要はないんだよ。大体、お前はヴィヴィオを攫ったんだ。感謝じゃなくて反省しろ」

 

「くっくっく……ああ、そうだったな。あの少女には悪い事をしたな。後で謝っておいてくれ。怒りの日(ディエス・イレ)最終幕(グランドフィナーレ)を生き残った方がな」

 

 

『中々感動的な話し合いをしている所悪いんだけど、そろそろこの城は消えちゃうよ?』

 

 

まるで頭に響くように声が聞こえてきた。一誠とラインハルトにとっては聞き覚えのある声であり、ヴァーリにとっては得体の知れない……まるで悪戯好きの子供のような雰囲気を感じさせる声だった。

 

「……ロキ、か。わざわざこんなところまで何のようだ?」

 

「ロキだと?だが声がまったく違うぞ。大体、あの男はヴァルハラに閉じ込められているのではなかったか?」

 

『いやいや、それはこの世界のロキの話だろう?僕のいる世界は原初(ルート)……つまり始まりの世界なんだよね』

 

原初(ルート)、だと……?」

 

「それでお前は一体何のようだ?この恐怖劇(グランギニョル)の脚本家さんがよ!」

 

『あはははははっ、そう怒らないでよ。最後の歌劇の幕開けを知らせにきたのと、彼の魂の回収に来たのさ。君たちのおもうがままに存分に乱れ、狂い、暴れてくれ。君たちの戦いはこれまで僕が見てきた中でも1番面白いんだ。最後まで歌劇を演じきってくれよ?役者たち』

 

「上等だ。そもそも赤龍帝と白龍皇の決着はつけなきゃならん。長きに渡る戦いに終焉を」

 

「望むところだ。俺は負けない。君に勝ち、名実ともに最強という存在に至る。そのために俺は君に勝つ」

 

『うんうん、いいね。そんな感じで頑張ってくれよ。ーーーーそれでは、この歌劇の最後の幕を今こそ開こう』

 

 

ーーーーさあ、最後の恐怖劇(グランギニョル)最終幕(グランドフィナーレ)を始めよう。

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