12/15 詠唱をラテン語に変更
VSグレートレッド
音も生物の姿も一切見当たらない『無』とでも称するべき世界ーーーー次元の狭間。元来、『真龍』と称される存在以外には生物など存在しない世界にとても小さな、小学生になりたてぐらいの子供がいた。
ただその子供は、子供というにはひどく異質だった。まずたった1人だった事、そして表情と言うべき物が一切としてなかった事、そして何よりもーーーー人間の、否
「……ドライグ。ここが次元の狭間なのか?聞いてはいたけど、本当に静かで何もないんだな」
『まあ、元々此処にあるのは聖書の神が捨てた残骸とグレートレッドかオーフィスぐらいのものだからな。何もなくても仕方が無い。それより相棒、今回はあくまでも観察するだけだぞ?今戦っても絶対に勝てんからな』
「分かってるよ。今の状態ならたとえ見つかっても一発ぐらいなら耐えきれるだろうし、そんなに急いでもいないんだ。挑むのはもっと後で良いよ、次元の狭間を守護する真龍様にはさ」
今回、少年ーーーー兵藤一誠が次元の狭間に来たのは『真なる赤龍神帝』と称されるグレートレッドという世界最強の存在を見るためだ。一誠の相棒である『赤龍帝』ドライグはあくまで止めたのだが、見るだけだと聞かなかった一誠に釘を刺し続けている。
そして次元の狭間には『無』という特性があるため、聖なる力を持っているかそれ専用の術式をあらかじめ掛けておかなければたちどころに死ぬ。そのため、一誠はとある術を使って肉体を魔力に変えたのだ。一切の物理攻撃を無効化し、唯一ダメージを与えられる魔力攻撃でもその防御力を突破できる威力を出せなければ無駄撃ちになる。確かにある意味で鉄壁と言えるだろう。
だが、はっきり言って一誠の見込みは甘すぎた。次元の狭間はひどく変化のない世界であるために何か強大な力を持つ者が現れれば、すぐさまばれてしまう。それでも
視界の端でチラッと
「……ガハッ!?この距離であんな威力を簡単に捻り出すだと?このクソッタレが!ドライグ!」
『Welsh Dragon Balance Breaker!!!!』
赤い龍のような姿をした鎧をすぐさま纏う事で『無』の侵食を防いだ一誠ははるか彼方ーーーーぎりぎり輪郭だけ見えるような場所にいるグレートレッドを見つけた。『夢幻』と称されるだけあって圧倒的なまでの力を有しているその姿を見てこれが最強か、と一誠は思った。またすぐさま攻撃してきたが。
『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!!』
「ウォォォォォォォォォォッ!」
紅い
故に使う。今の状態では傷一つつける事すら敵わないとわかってしまった。ならば奥の手だからと出し渋っている暇はない。全力を賭しても尚届くかすら分からない相手なのだから。
『我、目覚めるは──』
<吹き飛ばせッ!><吹き飛ばすよッ!>
鎧の各所にある宝玉から声高々に叫んでいる。歴代赤龍帝の魂たちが高揚しているのだ。最強への挑戦ーーーー願って止まなかった相手に今挑もうとしている一誠に力を貸そうとしている。その証拠に一誠から放出されている力によって次元の狭間が揺れていた。
『覇の理を神より奪いし二天龍なり──』
<全てを終わらせろッ!><全てを始めろッ!>
覇を説き、負の呪いをばら撒く。我らは力の塊と称された存在であり、二天龍の一角ーーーー赤龍帝なのだ。
『無限を嗤い、夢幻を憂う──』
<破壊しろッ!><全てを壊し尽くせッ!>
『世界最強』がなんだ。『夢幻』だからどうした。そんな称号はいずれ突破される為にあるのだ。この世に赤い龍を名乗る存在は2体もいらない。故にーーーー勝つ。
『我、赤き龍の覇王と成りて──』
「「「「「「「汝を紅蓮の煉獄へと沈めよう──ッ!」」」」」」」
『Juggernaut Drive!!!!!!!!!』
身体から
一誠が力の元となる存在を
『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!!!』
肉体を龍に変えた影響で普通であれば耐えられないであろう速度の倍加にも普通に耐えていた。最早光と称した方が良いのではないか?と思わせるほどの速度で接近し、
『グォォォォォォォォォォォォォォッ!!??』
グレートレッドが今まで同格と言われている『無限の龍神』オーフィス以外に食らった事のないような一撃に思わず悲鳴をあげる。
グレートレッドに慢心があったのも一つの要因だろう。だが、誰が責められようか?この次元の狭間において最強の存在として君臨し続け、さらに同格と呼べる存在はたった一体だけなのだ。さらにこんな年端もいかぬ幼子がこれだけの力を持っている、などとどうして予想出来るだろう?
だが事ここに至っては認識を改めよう。目の前にいるこの幼子は自分が力を振るうに足る存在だと。
一誠は鎧に身を包んでいるので分からないが、ダラダラと冷や汗を流していた。これだけ強烈な一撃を食らわせたにも関わらず、総量の一割も削れなかったからだ。つけた傷も既に完治し、減ったであろう力の総量も徐々に元に戻り始めようとしている。これが夢幻を司る『真龍』。全ての生命体の頂点に君臨し続けている唯一無二の存在。
だがここで諦める気はさらさらない。一誠はさらに高濃度の
「……マジで命の危機だな。こんなに早く世界最強に挑む事になるとは、どうなるか分かったもんじゃないな」
『だがここまで来てしまった以上は致し方ない。抗えるだけ抗ってみようじゃないか、相棒!』
「当たり前だ!ただで死ぬなんざあり得ないし認めない。俺は赤龍帝だ!力の塊と称され二天龍の一角にいる存在だ!覇を唱える者として、この戦いに絶対に勝つ!」
『良いぞ!それでこそ赤龍帝だ!このまま世界最強の座に立ってしまえ!相棒にはそれができる!俺たちも全力でサポートしようじゃないか!』
『ああ、自らの覇道を貫け』
『頑張って、後輩くん。私たちの誰にも成せなかった事を君が成すのよ。今の私たちの想いは一つーーーー目の前にいる存在に勝つ。それだけを目指してただ駆け抜けなさい』
「ここまで期待されたらやらざるを得ないな……それじゃあ世界最強に一手死合ってもらおうか!」
『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!!』
宙空にキープさせている大量の魔力弾をマシンガンのように掃射する。それの大半を魔力が込められている咆哮で消し尽くし、ついでのように一誠にダメージを与えようとしてくる。その余りに広範囲すぎる攻撃に対して魔力弾で穴を開ける事で回避する。
回避した瞬間を見計らって接近して来たグレートレッドは思いっきり腕を振り回し、一誠を近くに浮遊している大地に吹き飛ばした。吹き飛ばされた一誠はゴロゴロと転がりながら受け身を取りつつ、地面を思いっきり殴って体勢を立て直した。その際に地面を思いっきり殴った右腕が折れたのだが、仙術と
お返しのように放たれた蹴撃はグレートレッドをくの字にして数メートル程吹き飛ばした。そこに追撃しようとした瞬間にチャージなしで放たれたブレスに撃ち抜かれた。堅牢な筈の鎧が簡単に打ち砕かれはしたものの、ダメージはそこまで深くはない。身体の表面に刻まれている防御術式をなんとかぎりぎりのところで発動出来たからだ。
「づぉ……クソッタレが!舐めんじゃねぇ!」
一誠は懸命に攻撃を繰り返す。歴代赤龍帝の残滓たちも必死になって一誠に力を貸している。ーーーーだが、それだけでは『夢幻』には届かないのだ。いくら力を倍加させようとも。いくら強大な一撃を放とうとも。いくら龍にとって強力な
世界に生きる者たちの夢や幻想によって創り出されたグレートレッドを打倒するまでには至らない。そもそも、一つの惑星すら破壊できない者にグレートレッドに効果的な一撃を与えるのは不可能なのだ。圧縮された魔力弾に撃ち抜かれ、近くに浮遊している大地に倒れた。もうここで終わってしまうのだろうか?という考えが浮かんだ頃に心の中に
『輝きを求めて歩き続けてきた
Candor est enim quaerentis ambulabat
陽だまりを求めて進み続けてきた
Sunny semper nos quaerere
世界よ 今こそすべてを繋ぎ新たな輝きを示せ
Si consistant adversum me autem nova lux in mundum per iunctis
変わることなき絆をもって 私は世界に唱えよう
Et Tonaeyo in mundo, cum vincula defuncti sunt mutabiles,
その果てに如何なる物があろうとも 私は歩みを止めはしない
Et non erit aliquid prius ambulare finis
孤独を捨て去り 願いを紡ぎ 手を繋ぐ
Coniungere manus ad producere volumus abiiciant solitudine
故に汝よ 手を伸ばせ
Ergo et ego veniam ad te,
さすれば私はあらゆる孤独からあなたを救い出そう
Ego, ut erueret vos de omnibus, si sola』
それはかつて自らなくす事を決意した自分の一部。■■■■であった頃にあった自分の渇望。ただ自分が望んだ物。ただ自分がそれを欲し、その為だけに力を欲した。今になってもきっとその根幹は変わっていないのだろう。名前が変わっても、場所が変わっても、共にいる者が変わっても、自分という本質は変わらないのだから。
「
新世界へと紡げ 新たなる創成の物語
Historia Orbis texerx ad novam creaturam」
だが、そんな得体の知れない状態になった敵をグレートレッドが見逃す筈はなくーーーー
『余所見とは余裕だな!小僧!』
『おい、相棒!?早く動かないと今度こそやられてしまうぞ!』
「……
一誠がそう呟いた瞬間、目の前に迫ってきていたグレートレッドのブレスの速度が遅くーーーー停滞し始めた。そんな異質な光景にドライグは口が塞がらなかった。しかし、一誠は
『な、なんだこれは……急にグレートレッドの攻撃が遅く、いやグレートレッドだけではなく全てが停滞し始めた?一体、これはどういう事なんだ』
一誠にはそれに答える事が出来る程余裕がなかった。絶え間なく降り注ぐ情報とそれを整理する方向で思考を動かしている為、受け答えする事すら難しいのだ。実は一誠は先程から
『座』という物は『座』の主の渇望を流し込む器だ。『座』という
数多の覇道神とそれに準ずる者たちの力が記載されている『座』に接触する事で
とはいえ、本人ではないので引き出せたとしても六割〜八割程度。それでも他者の創造を使用できるというのは驚異的な事だ。そんな事が出来るのは一誠が『無色透明な水』だからだ。如何なる物にも染まり、如何なる物も染め上げる存在。隣人に手を差し伸べ守る事が望みであるが故に、力に対する渇望も貪欲なのだ。
しかし、その利便性を理解しそれをすぐさま活用できるほどの余裕は一誠の中にはなかった。絶え間なく降り注ぐまったく関係のない情報をも同時に処理しなければならないが故に、そこまで考えられる程余裕がない。意識は保っていられず、ほぼ本能的に動いている。
「すべてを愛する黄金の獣よ!汝の
ーーーー
現れた黄金の槍を握った瞬間に握った右手の部分の籠手が溶け、右手が焼けた鉄板でも押しつけられたかのように煙をあげる。その激痛に微かに眉を顰めるがそのまま黄金の槍をグレートレッド目掛けて思いっきり力を込めて投げた。一瞬で最高速度に至った
そしてこんな絶好の機会を見逃す筈はなくーーーー
「後に続く者のために常に前を照らし輝き続ける戦乙女よ!汝の雷光を持って我が勝利への道へと繋げてくれ!」
ーーーー
まず身体が雷に変わり、ついで鎧も雷に変わった。その移動速度は先程とは比較にならず、相手が動き出す頃には攻撃が何度も当たっていた。速すぎるのだ。生物は脳から発せられた電気信号がそれぞれの部位に命令を下し、その電気信号に従って動いている。そこには若干の……本当に微細なタイムラグが存在する。しかし、身体を雷に変えた一誠はそのタイムラグがほぼ無しの状態になり、いつも以上の速度で動く事が出来る。
この創造はバランスが良い。しかし、バランスが良いという事は強力な一撃を放てないという事だ。だが、一誠には
しかし、いくら攻撃を繰り返してもまったく消費しているようには見えない。受ける傍から回復しているからだ。無限ループになりつつあり、そうなれば一誠が先に負けるのは見えている。他者の創造の使用に
そんなチャンスをグレートレッドが見逃さない。一誠が今までまるで蠅蚊のようにやってきた所為で苛立っていたグレートレッドはこれまでで最大の力を溜め込んだ。それに負けじと一誠は倍加させていく。ーーーー身体が膨大すぎる力に耐えきれずにぼろぼろになっていくのを実感しながら。もはや今の一誠にはどんな声も届かないのだ。そしてそんな無茶無謀な事をやらかした代償に一誠は無量大数を、無限を超えた。
「
超空間内の重力異常が発生させ銀河吸収面体の大激突を引き起こす。俗に言うグレートアトラクター。ただでさえ膨大な力であるにも関わらず、さらに一誠が全生命力をかけた事で途方もない威力になった。これを浴びればオーフィスと言えども致命傷になってしまうだろう一撃だった。しかしーーーー
『残念だったな。ありとあらゆる生物の夢や幻想によって創り出された私には届かない。これを手向けとして……消えていけ!』
受ける傍から傷が回復していく。次元世界という概念がある以上、分かりきっていた結果でもあるだろう。すべてを出し切り、今まさに死のうとしている。自分を死に導こうとしているブレスを見ながらある言葉が一誠の脳裏をよぎった。
この生と死の狭間でーーーー
そう一誠が呟いた次の瞬間、グレートレッドのブレスが一誠の身体を包み込んだ。