まあ、それはともかくとしてどうぞ!
ところは移り変わり次元の狭間。
『死んだ、か……今更だが、殺すには少し惜しかったな』
最高出力とは言わずともそれなりの出力は出した。そして先ほどまでじゃれついていた人間の気配も感じなくなったのだ。死んだと見るのが妥当だろう。因みにそのブレスは世界の一つを貫いて破壊した。
如何なる術かは分からないが、何かが急速に広がり途端にその小僧ーーーー赤龍帝に変化が起きた。凄まじく速くなったり、聖槍を取り出しこちらに投げてきたり(しかも感じた事のない激痛を感じた)、雷に変化したりと……とても忙しなかった。まあ、それも最早死んだのだから如何でも良い事だ。そう思っていた矢先、後ろから赤龍帝の気配を感じた。
「おいおい、まだ終わってないぞ?何を何処かに行こうとしてるんだよ」
『なんだと……?貴様、何故生きている?確かに先ほど私の攻撃で葬った筈だ』
「女神の祝福を受けただけさ。まあ、今は俺がなんで生きているかなんて如何でもいい事だろ?……再戦と行こうじゃないか。世界最強の真龍、
覇を唱える赤龍帝らしく途方もない力を放出している。女神の祝福などという訳の分からない事を言っているが、今は如何でも良い。この瞬間は持て余している暇を潰す事の出来る相手がいる。それさえ分かっていれば何も問題はないだろう。たとえ
『吼えたな!この私と再戦だと?助かった命をみすみす捨てるとは愚かしい人間だ。精々私と戦うなどという愚かな選択をした事を、そして彼奴に簡単に協力するなどという選択をした事を後悔しながら滅ぶが良い!
「意味わかんねぇ事をほざいてんじゃねぇよ!最強なんて称号は何時か打倒される為にあるんだ!ここで俺が引導を渡してやるからくたばれ!」
赤龍帝の宝玉が七色に輝く。膨大な量の力が次元の狭間に溢れかえっている。世界の一つや二つ、簡単に破壊してしまえるのではないかと思えてしまう程の力だ。しかもそれですらただの余波。一体どれほどの力を持っているのか、皆目検討もつかない。
「我、目覚めるは──」
溢れ出す覇道を貫く為の力。同時に一誠を中心として嵐のような暴風が吹き荒び、その風の中を氷柱が飛び回り、広大な宇宙を照らす太陽の如き黄金の光が発せられる。
「輝ける七つの神龍と覇道を唱える二天の一角を司りし赤龍帝なり──」
暴風を切り裂くように紫電と業火が迸る。そしてそれらを纏め上げるように霧が発生し、そして敵対する者に威嚇するように轟音がグレートレッドを襲う。
「最強たる無限を打倒し、無敵たる夢幻を超える為に我らはただ手を繋ぐ──」
そしてまるでそれら全てを呑み込む結び合わせるかのように、赤い輝きが次元の狭間全体を照らしていく。本来相反する者同士を自分を中心に置く事で共存させる。そして全ての力を引き出す事で一誠の
「我、七つの天を統べし神なる天道を貫きし覇龍となりて──」
「「「「「「「「「「黎明が幻視した天道を突き抜け、黄昏へと繋がりし覇道の極地へと汝を導こう──ッ!!」」」」」」」」」」
『Jaguarnaut Extreme Crossover Drive!!!!!!!!』
莫大な力の波動が次元の狭間の全てを嘗め尽くした。そんな圧倒的過ぎる力を発したりすれば当たり前な事だが、世界中にその存在がバレる。七体の神龍と一体の天龍を統べし存在。そんな超常の存在を宿している存在が今まで放置され、尚且つ
世界中の神仏がその存在に恐怖し、無謬の平穏を求める世界最強の龍神がその存在に歓喜の視線を送った。勝てない、とはいかないまでも勝つのに自分ですら手を焼くに違いない力を持っているのだから仕方がないのだろうが。無敵の真龍はそのあり様に感動すら覚えていた。
(これが……人間の抱く渇望の力だと言うのか?素晴らしい……これ程の逸材が他にいる訳がない。……欲しい。この男が如何しようもなく、抗いたい程に欲しい!)
『流石は相棒だな。まさか
「負ける気なんてさらさらねぇよ。俺は、絶対に勝つ!」
『その息だ。私たちも力を貸しているんだ、負けるなんて事は絶対に許さないぞ?』
ああ、分かっているさ。だけど、まだだ。これじゃあ足りない。相手は夢幻の結晶。全ての生物の集合体ーーーー俺と同じく群を司る無敵なのだから、これだけではまだ届き得ない。だからこそ、もっと力を束ねよう。1で足りないなら2を、2で足りないなら3を、3で足りないなら4を……求め続けるのだ。
「輝きを求めて歩き続けてきた
Candor est enim quaerentis ambulabat
陽だまりを求めて進み続けてきた
Sunny semper nos quaerere
世界よ 今こそすべてを繋ぎ新たな輝きを示せ
Si consistant adversum me autem nova lux in mundum per iunctis
変わることなき絆をもって 私は世界に唱えよう
Et Tonaeyo in mundo, cum vincula defuncti sunt mutabiles,
その果てに如何なる物があろうとも 私は歩みを止めはしない
Et non erit aliquid prius ambulare finis
孤独を捨て去り 願いを紡ぎ 手を繋ぐ
Coniungere manus ad producere volumus abiiciant solitudine
故に汝よ 手を伸ばせ
Ergo et ego veniam ad te,
さすれば私はあらゆる孤独からあなたを救い出そう
Ego, ut erueret vos de omnibus, si sola
新世界へ紡げ 新たなる創成の物語
Historia Orbis texere ad novam creaturam」
再び発動した流出は天界、冥界などの人間界に連なる全ての世界を呑み込んだ。まるで虹色の波が広がっていくように世界全体を包み込んだ。たった数秒ではあっても様々な世界を呑み込んだそれは、一誠に様々な力を与えた。
一誠の流出は女神の流出と同じように覇道を共存させる事も出来るが、女神とは全く異なる。女神はただ覇道を、異なる渇望を共存させるだけだが一誠の場合は異なる渇望すらも取り込む。女神が未来の幸福に目を向けているのに対して、一誠は今の幸福にしか目を向けていないのだから当たり前だが。
一誠は隣人を守る為、どんな理不尽にも抗う力を欲する。女神は全ての者に未来の幸福を願う。他者を求めるという根幹は同じでも、方向性の違いによって出来た異なる覇道。疾く我が力になれ、とでも言うような傲慢さを持っているのは赤龍帝の覇道に感化されたが故なのか、それは誰にも分からない。
たとえ1人1人の力は小さくても、束ねる事が出来れば強大な力になる。まるでそれを立証しようとしているかのように、赤をベースとしているが様々な光を放つ翼を広げた。グレートレッドが瞬きをした次の瞬間には光速に近い速度で動き始めた。
「それじゃあまずは……初手だ。くらっとけ!」
『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!!』
『これは……』
翼と腕を広げると千はありそうな多種多様の魔法陣が展開された。そして右手を振るうとまるで流星のごとく降り注いだ。と言っても、一気に全部の魔法陣が発動した訳ではなくチャージしているかのようにウィンウィンと鳴っている物もある。咆哮で降り注いだ魔法群の大半を砕き、尻尾を振り回しさらにブレスで展開されている魔法陣を破壊していく。
「Deum colit qui novit.
神を知る者は、神を敬う。
Aurea mediocritas.
黄金の中庸」
それらを破壊している間に纏め上げたグランドクロスが破壊に集中していたグレートレッドの背中で炸裂した。吹き飛ばされつつもその激痛に耐えながらグレートレッドが振り返った先にはーーーー数百は下らないだろう流星がこちらに向かってきている姿だった。
「耐えてみせろよ、無敵の真龍。まだ俺たちの戦いは始まったばかりなんだぜ?」
数百の星を同時に星を操作する。そんな絶技をまるで手足のように使っている。本物の流星がグレートレッド目掛けて降り注ぐ。その流星を見ている時、一対の白い蛇を従えた何やらウザい表情の男の姿を幻視した。
「Disce libens.
喜んで学べ」
滞空していた流星が同時に降り注ぎ、グレートレッドを襲う。ブレスで破壊しようとした矢先に超高速で接近した一誠によって大質量の
『グ、オオオオォォォォォォォォォォっ!!』
間断なく流星は襲いかかってくる。オーラを吹き出しながら防ぎつつ隙を見て退避しようと考えていたグレートレッドは悪寒に襲われた。一体何が有るのかと思って見上げてみると、数百あった流星のうちの一つが急速に圧縮され始めたのだ。
「華々しく散れ!」
Spem metus sequitur
恐れは望みの後ろからついてくる
Disce libens
喜んで学べ
凄まじい重力異常によって発生する暗黒の超重力。暗黒天体創造。暗黒天体が流星ごとグレートレッドを呑み込んでいく。続く流星も暗黒天体に呑み込まれ連鎖的に暗黒天体が出来ていく。これ以上続けても無意味だと思った一誠は流星を停めた。様々な渇望が次元の狭間に流れ出していく。もはやこの空間にいて無事でいられる者は限られているだろう。
今流れ出しているのは停止と回帰の理。天然とは言えども、一誠はツァラトゥストラの力である複数の渇望を使う事の出来る力を持っている。つまり、
流星を停止させ、流星にした星々を回帰させて元の位置に戻した。今まで使ってきた力は占星を司る神格である水銀の蛇の力だ。星々の回帰と連動させて一誠は自身の傷を回帰させ続けている。と言うのも、このまま行けば自滅ルート一直線だからだ。
複合型
『おい、相棒。大丈夫か?』
「あんまり大丈夫じゃないが……まあ、何とかなるさ。それよりも準備は怠らないでくれよ?あいつの本気の攻撃なんてくらったらこっちは一撃でお陀仏なんだから」
『それは分かっているが……相棒の疲労具合は注意せざるを得ないだろう。……来るぞ!』
多重発生していた暗黒天体を食い破り、濃密な魔力の塊が一誠目掛けて飛んできた。それを一誠が回避するのと同時に、真紅の真龍が暗黒天体を破壊して飛び出してきた。身体中傷だらけではあったものの、数秒と経たずに回復していた。
「なんてデタラメな奴だ……。でもだからこそ、挑みがいがあるよな!」
『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!!』
次元の狭間を身体が霞んで見える程の速度で駆け抜け、力をぶつけていく。無論、ただ何もしない訳がないのでグレートレッドは一誠目掛けて
「黙示録に終焉を与え、天に召します我らが神にこの
世界に滅びをもたらすという逸話を持ちしグレートレッドにもたらされるのは断罪の閃光。
「
黙示録では『赤い龍』はミカエルに討たれ、『獣』もまた同じく討たれる事で神はこの世界に『生』という名の祝福をもたらす。この瞬間、誰よりも『生』を望んだからこそ断罪の閃光は焔を意図も簡単に穿ち、最大出力で
『甘いわ!この程度で敗れる私ではない!』
迎え撃つのは無敵の存在と称される夢幻の真龍こと赤龍神帝。人の夢や幻想から生まれ、次元の狭間を守る守護者。自分を呑み尽くさんと迫り来る閃光にも気負った様子もなく、莫大な質量の魔力が口元に収束されていく。真紅の閃光が自分に挑んだ事がそもそも間違いであったのだと言わんばかりに高まっていく。
虹のような輝きを放つ閃光と真紅の輝きを放つ閃光が激突する。何方も勝ちを譲らず、まるで本当に命を喰らいあっているかのようにぶつかり合う。やがて閃光は相克を起こし、全世界を揺さぶるような爆発と激震が奔り暫くの間次元の狭間を移動しようとする者はいなかったという。
咄嗟に防御用の魔法陣を張ったとはいえ、防ぎれるような物ではなくまるで紙切れか何かのように簡単に吹き飛ばされた。何とか負傷する事は避けられたものの、幼児の身体である事も災いして体勢を元に戻す事ができない。
そしてそんな大きすぎる隙が見逃される筈もなくーーーー
『これで終わりだ……墜ちろ!』
「くっ……ガハッ!?」
尻尾の一振りでまるでパチンコ玉のような勢いで吹き飛ばされた。重要な箇所を除いた身体中の骨がほぼ粉砕されたが、粉砕された瞬間に永劫回帰が機能した事で一瞬死んだ方がまだマシだろうと思える激痛に襲われたが、ギリギリ意識が飛ぶような事態は回避した。
だが、身動きの取れない今の状況を見逃す事はなくグレートレッドが追撃を仕掛けようとした途端、次元の狭間に歌が響き渡った。
「Die dahingeschiedene Izanami wurde auf dem Berg Hiba
かれその神避りたまひし伊耶那美は
an der Grenze zu den Landern Izumo und Hahaki zu Grabe getragen.
出雲の国と伯伎の国、その堺なる比婆の山に葬めまつりき
Bei dieser Begebenheit zog Izanagi sein Schwert,
ここに
das er mit sich fuhrte und die Lange von zehn nebeneinander gelegten
Fausten besas, und enthauptete ihr Kind, Kagutsuchi.
その子迦具土の
それは自分の願いの為に人を殺し続けた少女が願った渇望。自分の願いを忘れない為に、この胸にある炎を燃やし続けていたい。そう願った少女の力。この命の炎の輝きを持って自分は手に入れると誓ったのだ。あの優しい陽だまりに帰る事を誓った。なればこそ我が内に眠る炎よ、獅子の如く猛るのだ。
「Briah―
創造
Man sollte nach den Gesetzen der Gotter leben.
爾天神之命以布斗麻邇爾ト相而詔之」
それこそが彼女の誓いであり、彼女の想いの真実。
『……分からんな。何故貴様はそこまでして戦うのだ。貴様は強い。十分すぎる程だよ。私を相手にしてここまで生き延びた者はそういない。ならば何故、最強などという物を目指すのだ?』
「下らないか?……まあ、しょうがないだろうがな。だけどな、俺は力が欲しくて欲しくてしょうがないんだ。俺は手を繋げたい。俺の側にいてくれる大切な人たちと手を繋げたい。その為には、そんな大切な人たちを守る為には力が必要なんだよ。ああ、もしかしたらそんな心配をしなくても良いのかもしれないな」
ああ、確かに最強なんて称号は必要ないのかもしれない。でも、それが有るだけで世界に対する影響力は段違いな物になるだろう。それがあれば無駄な諍いの幾つかを潰す事すら容易になる。黄昏の女神のように祈るのは自分の望むところではないのだ。
「だけどな。何も成さずに手に入る平穏なんて、泣いて祈れば叶う奇跡なんて、要らないんだよ!何時だって自分の欲しい物、成したい事は自分の手で成し遂げる!そう決めたんだ!だからこそ、俺はお前に勝つ。自分の欲しい物を手に入れる為の第一歩としてな!」
自分の願いを押し通す為なのだ。それぐらい成さずしてどうすると言うのだ。まだたった七年しか生きていないが、それでも理不尽な事なんて幾らでもあったのだ。これからの人生においてもっとひどい事がない、とどうして言えるだろう?言えるわけがない。だからこそ、力を欲しているのだ。それが如何に無謀なことであっても、成し遂げるという決断を下したのだからーーーー
「一度言った事を曲げる気なんてさらさらない。苦しくても悲しくても辛くても!この決意だけは曲げるわけにはいかないんだよ!」
故にこの意志を、歩みを道半ばで止めたくない。我が誓いに偽りはなく我が想いに揺らぎはない。曲げたくない、この決断を貫き通したいのだ。何処までも炎のように鮮烈に、そして何処までも閃光の如き尊い輝きを放つことのできる刹那になりたい。この平穏を壊されたくないと、この一瞬を穢されたくないと、この刹那を永遠にしたいとそう願った
「俺は負けない!」
どんな過程を経ようとも、最後には勝つ。自分は1人ではあっても決して独りではないのだから。自分と共にいてくれる相棒たちがいる。そして何時か、共にいてくれる者がいるのだと信じている。だからこそ、諦めずにいられる。まだ立ち続けていられるのだ。
『……なるほどな。だが、こちらもただで負けてやる気などさらさらない。貴様がどう吠えようがそれは貴様の自由だが、私は私の意志を貫くだけだ』
「構いやしないさ。異なる意志同士がぶつかり合えばそこに争いが生まれるのは必定。弱き意志は負け犬の遠吠えと何も変わらない。そもそも手加減なんてこっちから願い下げだ!」
『クククッ……よく吠える。気に入ったぞ。私が勝った暁には貴様を私の幻想の一部にしてやろう』
「ほざいたな。こっちだって負ける心算なんて欠片もありやしないんだがな?」
一誠の身体からとんでもない量の嵐の如き魔力が吹き荒れる。そしてそれは先ほどグレートレッドが一誠を倒したと確信したブレスとほぼ同等の魔力量だった。そこにさらに加速する形で倍加していくのだ。身体が無事で済むわけがない。吹き荒れるている魔力の色が赤色だから分かりにくいが、所々で肉が裂け吹き出した血が混じっていた。
『もう止めろ、相棒!これ以上は相棒の肉体が持たないぞ!たとえこの戦いに勝ち残っても相棒に待っているのは自滅だけなんだぞ?それで良いのか!?』
「……まあ、良くはないだろう。これが他の、それこそどっかの神格だったなら俺は逃げてるよ。でもな……この戦いだけは退けないんだよ。俺は自分の意志を曲げたくないんだ。だから、これだけはこの戦いだけは逃げない」
『死んでしまったら元も子もないではないか!……いや、これ以上は不毛か。仕方がないな、相棒は頑固者だしな。せめてこの戦い、全力でサポートするぞ!』
「……ありがとな。さあ、いっちょ大きな花火をあげようじゃないか!」
紅蓮の炎を纏った一誠とグレートレッドが激突する。同時に
次元の狭間に火花や花火と呼ぶには些か大きすぎる火の玉とも呼べるような華が咲き乱れる。流石に人の渇望から生まれた炎と神の名を持った爆炎、それらを二天龍の一角によって極大と言えるレベルまで倍加されればさしものグレートレッドと言えども応えるのだろう。回復速度が落ちてきた……ような気がする。
分かりきっていた結果ではあるが、他人の創造をそこまで長時間持たせられる訳がない。変生が薄れたのを感じたグレートレッドはこの隙を逃しはしないとばかりに急接近してきた。
「確かに他人の創造だからな。長持ちはしねえよ。そう相性が良いと言う訳でもないしな。……だがな、そんな事分かりきってんだから対策しないわけないだろ!」
『ッ!?』
そう言った途端に莫大な量の魔力を放出し、超巨大な魔力球を生み出す。北欧の主神の名を冠せし男が作り出した破壊という概念に特化した死の宇宙とでも称すべきそれは射程圏内に入れば最後、圧倒的な破壊を撒き散らす広範囲殲滅型の魔術の中でも最高峰に属する神話魔術。自らを囮とする事でグレートレッドを射程圏内におびき寄せ、その魔術を発動する。
「『
圧倒的な破壊がグレートレッドを呑み込む。再生する端から破壊されていくという生き地獄。無論、自分を囮にして放ったのだ。一誠もまた同時に射程圏内にいるのだから、同時にその猛威に晒される事となった。残された魔力とごく小規模に永劫回帰を発動させ、何とかかろうじて生き延びた。
魔力は完全に尽き、肉体は何とか無事だがそれも芯の部分がボロボロで限界に近い。文字通り指一本動かす事すらままならない状態になっていた。これだけやってまだ生きてたら俺は確実に死ぬ、と思いながら身体をなけなしの
「……なっ!?おいおい、冗談だろ?」
グレートレッドはほぼ無傷の状態で現れた。疲弊はしているのだろうが、それでもまだ戦う事は出来るようだ。やはり全ての夢や幻想の象徴たる夢幻の真龍を殺しきる事は出来なかったのだ。一誠がため息をつくと、永劫回帰で無理矢理支え続けていた反動が来た。
「ああ……限界か。俺はこれ以上戦えない。喰うなら今の内だぞ。もう一分もすれば俺の身体は粉々に砕け散るからな」
『……お前は死ぬのが怖くないのか?こんな状態になった殆どの人間は死にたくないと言うと思ったのだが』
「事ここまで至っちまうとな……もうどうしようもないんだって分かるんだよ」
『生きたいとは思わんのか?』
グレートレッドはこの瞬間、失望していた。全身全霊で自分に挑んだ人間はこの時、確かに諦めていた。自分に先はないのだと、勝てなかったから、諦めているように感じられた。数多の力を集め、自分に挑んだ人間はオーフィスとすら並び立てる程の力を持っていたのだ。
グレートレッドは夢幻を代弁する存在であるが故に、有限だ。だが無限を代弁する存在であるオーフィスが未だに次元の狭間を奪い返せていない事から見るに、無限を凌駕する量の力を有している事に違いはないのだ。そんな存在が期待すらしていた者の最後がこれではあんまりだろう。
「あ……?生きたいと思わないのか、だと?ーーーー生きたいに決まってるだろうが!だがな、今更何が出来ると言うんだ!俺の身体はもう限界だ。これ以上戦う事は出来ないんだよ!」
一誠とてむざむざと一生を終えたいわけではない。まだやりたい事がある、知りたい事がある。だが、それをなす為の力が今の一誠には残されていないのだ。一誠の諦観の感情に染まっていた瞳に覇気が宿ったのが分かったグレートレッドは問いを重ねていく。
『ならば戦える身体が、力があれば戦うと言うのか?あれだけの力を発揮した貴様ですら、結局私を倒す事は出来なかった。そんな結果を見せつけられても尚、戦うと言うのか?』
「過程がどうだったかなんてどうでも良いんだよ。俺は勝ちたい。幾多の敗戦を重ねようとも最後には絶対に勝つ!」
そう吠えた一誠の瞳には諦観の念など欠片も残ってはいなかった。求める物は平穏を守る為の勝利。それが手に入るなら他には何も必要ない。その為に力が欲しい。幾多の戦場を駆け抜ける事が出来る肉体が、力が。
それを感じとったグレートレッドは人型になった。その姿はまさに紅蓮の女神。まるで全てを焼き尽くす炎のようであり、鮮血のように鮮烈な紅玉のような色の髪と瞳を持つ超越存在。何者も抗う事能わず、何者も穢す事能わずとでも言えそうな人間では成立しそうにない美しさを持っていた。
『なるほど……ああ、礼を言おう。お前は最後には私の期待にきちんと応えてくれた。ああ、それでこそだ。夢幻の名を冠する私がお前の願いを叶えてやろう。なに、私の期待に応えてくれた礼だと思って黙って受け取れ』
授けられるのは紅蓮の女神の祝福であり、夢幻への変生。一誠の望みである幾多の戦場を駆け抜ける力を与える。幾ら傷つこうとも、幾ら死に瀕していようとも、身体を癒し戦場へと向かう事を可能とした肉体。ある意味で最も奇跡に近い存在へと肉体が作り変えられていく。
人間の肉体がどんどん変わっていき、身体中が激痛に襲われる。生存本能によって意識が遮断されていくのを感じた一誠が最後に見たのは、久しぶりの他人の慈しみの笑顔だった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「……また懐かしい夢を見たもんだな。あれからかれこれ10年以上経ってるのか。早いもんだ」
ベッドの上で懐かしい夢を見た一誠は何とか自力で身を起こして窓の外を見つめた。一応、世界最強の名を襲名する事になった戦い。あの時発動した複合型
ラインハルトとヴァーリとの決戦からかれこれ4年の月日が経とうとしていた。その間も新界はまだまだ発展を続けていた。天界や冥界を始めとした神話勢力とも関わり合い、様々な事をしている。と言っても、俺は殆ど何もしていないのだが。
「……ん?おや、あいつ来たのか。ちょうど良いし、色々と話すとしようかな」
グレートレッドの気配を感じ取り、何か楽しげな表情を浮かべる一誠なのだった。