リア充の皆さまもそうでない皆様も、この作品を楽しんでいただけると良いと思います。(まぁ、リア充の人は今日読んでないだろうけど)
それでは、フローエ・ヴァイナハテン!Dies iraeアニメ化、本当におめでとう!皆様の来年が良い年である事をお祈りしています!
時はクリスマス。サンタクロースから多くの子供たちにプレゼントを与えられる聖夜。家族と、恋人と、大切な人たちと共に過ごす一年でも有名な日。
巷ではイエス・キリストの誕生日と言われているそうだが、あんまり関係はないそうだ。そもそも、イエス・キリストの誕生日が12月25日という説にはまったく信憑性がないそうだからな。
「もう一年も残すところ僅か、か……時が経つのは早い物だ」
真界にある自分の家で、お祭り騒ぎになっている街を見下ろしながらそう呟いた。既に人としての括りにはいないとはいえ、あの戦い以降どうも時の流れが早いように感じる。
「本当だよね~。ついちょっと前にヴィヴィオたちの試合が終わったばっかりだっていうのにね」
「それはもう数か月も前です。一緒に文化祭を覗きに行ったでしょうに」
「でもさ、実際時が経つのは早いと思うよ。八舞さんもそう思わない?」
「それは……そうですね。確かに早いと思います」
時間の流れはとても穏やかに、けれど容赦なく過ぎ去ってゆく。刹那は一瞬だからこそ、美しい。この瞬間も、それは変わらない。今を懸命に生きているか弱き者たち。その姿はか弱く、けれどだからこそ力強い。
「さて、俺たちも準備を整えておくとしようか。迎えには誰が行ったんだ?」
「イリナと祐樹が。ゼノヴィアとアイリスが今、買い出しに行っています。もう少ししたら戻るでしょう」
「そうか。それならもう少し待つとしよう。今日はクリスマス。子供たちに笑顔を振りまく聖なる夜だ。精々、贅を凝らせるだけ凝らすとしようじゃないか」
「それもそうだね。って言っても、今年もクリスマスプレゼントは無しなんだ」
「当たり前だろう。事前に用意しても自分で作ったんじゃない?って疑われるんだぞ。それなら用意する意味なんて皆無じゃないか。大体、神という段階でサンタクロースを超越しているしな」
「そんな身も蓋もない……まぁ、その眷族である私が言ってもどうしようもないか」
基本的に人という規格から逸脱しているからな。怒りの日以来、俺は覇道ではなく求道として存在している。もちろん、流れ出そうと思えば流せるだろう。だが、それは今である必要はないのだ。それに今流れ出せば、何か厄介な事が起きそうな気がする。この平穏が壊れそうな、そんな気が――――
「……いや、考えるのは止そう」
「ところで実際問題さ、サンタクロースっているの?」
「唐突に何ですか?」
「いや、神様も悪魔も堕天使も天使もいるけどさ。サンタクロースって本当にいるのかな、って思っただけ。うちは最初に貰った段階でお父さんだって分かってたし。何せ最初に貰ったクリスマスプレゼント、魔導書だったからね」
「それは……なんというか……」
「まぁ、別に良いんだけどね。別口でお母さんがくれたから。それで神様、その辺りはどうなんですか~?」
「なんだ、その言い方。まぁ、良いけどさ。サンタクロースはいるというよりはいた、と言うべきだろうな。サンタクロースの元とされる人物、聖ニコラウスの影武者的な人物がやっていたんだ。そして彼が殉教して以降、天界が引き継ぐ事になったんだ」
元々はそんな行事はなかった。少なくとも、クリスマスに子供たちにプレゼントを与えるなんて事は誰もしてこなかった。だが、聖ニコラウスが影武者に子供たちにプレゼントを渡すように命じたのが始まりだ。最初はローマ周辺だけだったが、天界が引き継いだ後は世界中で子供たちにプレゼントが配られている。
「まぁ、この場所ではそんな行事はない。飲んで歌って騒いで。楽しく過ごせばいいのさ。今日だけでも、誰もが笑顔で終われる日でありたいよな」
暗い顔で今日を過ごしてほしくはない。この世界にいる者たちだけでも、楽しいと思ってほしい。俺にできる事なんてそんなに多くはないけれど、せめてそれだけは願っている。
「だから、今日は誰でも飲み食い自由にしているんでしょ?今日の被害は自分が負担する、なんて言っちゃってさ」
「おいおい、俺は神だぞ?曲がりなりにも神で、この世界にいる殆どの者の父親だ。子供に負担を強いるような父親が一体、どこにいるって言うんだ。皆に楽しみ、喜んで欲しいと思っているさ」
普段だって、大層な事をしてやれている訳ではない。だから、せめてこういう時は何かをしてやりたいと思う。とはいえ、してやれる事なんて限られている。精々、今日起こった負担を俺が背負うぐらいだろう。
「
「そもそも金などかかっておらんさ。食糧に関しては、基本的に神器で作ったからな。酒に関してはどうしようもなかったが、そこは俺が負うべき負担だ」
まぁ、神酒なんて物もあるが飲ませるには不安がある。なにせ神が飲むための酒だ。子供たちには衝撃が強すぎるだろう。俺からすればなんでもない酒だが、眷属ですら何本か飲んでいれば酔う一品だ。(普通に作られた酒では全く酔わない)
「今回はヴィヴィオの友人もいる。酒はなしだな」
「まぁ、しょうがないかな。強くても匂いだけで酔う場合もあるもんね」
「神酒ですからね。そもそも人が飲む物ではありません。彼女たちも見れば分かるんじゃないですか?」
文字通り、格が違うと。人が口にするべき物ではないというのが、一瞬で分かる。それぐらい途轍もない酒だ。まぁ、そんな事を言いだしたら料理の方も大概な物になっているだろうが。
「ただいま戻りました」
「帰ったぞ」
「おかえり、二人とも。ちゃんと買えたか?」
「売り切れになりかけているのも幾つかあったが、ちゃんと買えたぞ。街の方は凄いぞ。皆、ドンチャン騒ぎだ。一誠の名前を呼びながら酒を飲み交わしているのもいたな」
「もうか?まだクリスマス・イブにすらなっていないんだがな」
クリスマス・イブというのは前日、24日の日没後の事を指す。もう夕暮れ時ではあるものの、まだ日は沈んではいない。だから、まだクリスマス・イブではないのだが……別に良いか。
「あ、何もしなくても良いからね?用意の方は私たちの方でしておくから」
「分かっている。俺は外に出ているから、ここの事は任せておくぞ」
「分かりました。いってらっしゃいませ」
転移魔法で街の外に出る。この数年で幾らか開発が進んでいるとはいえ、それでもこの世界は未開の場所が多い。子供たちが生み出されたこの場所は、まだ子供たちにとっては広すぎる。
「まぁ、急ぐ必要もないか。ゆっくりとやっていけば良い。それだけの時間が俺たちにはあるんだから」
気持ちの良い風が吹き、太陽の輝きが包みこんでくる。その穏やかさはこれまで感じた時間の中でも、最も優美な物だった。だが、同時にこんな風に誰もいないと両親の事を思い出してしまう。
自分のせいで死んでしまったと言っても過言ではない。赤龍帝という存在が招く影響はそれだけ大きかった、と言われればそれまでだろう。だが、そんな言葉で片付けて良いはずがない。
「父さんや母さんに見せてやりたかったな。この光景を」
『……相棒、お前がそこまで気に病むことはない。相棒の両親が死んだのは相棒のせいではないだろう?』
「そうかもしれない。だけど、俺はそうは思えない。
『相棒……』
「女々しい後悔さ。失った物は戻らない。一度零れてしまった物が掌に戻る事はない。でもさ、戻ってきてほしいと思うのもまた事実なんだよ。それが許されない事だと理解しながらも、な」
『相棒は総ての思想の肯定者だ。矛盾しているのが当たり前なんだろう?』
「そうだ。俺は矛盾してる。渇望でもって神となった者としては、異端も良い所だ。ありとあらゆる思想を肯定し、それを愛おしく思いながら慈しむんだ。どの思想にも、平等に長所と短所があると思う。でも、それで良いんだよ。完璧な祈りなんて、この世のどこにもないんだから」
俺が唯一否定するとすれば、それは完璧な願いだけ。もちろん、俺の邪魔になるのならどんな願いでも排除する。だけど、どんな人間でも肯定できる願いなんてないと思っている。それは俺の敬愛する黄昏の女神でも同じ事だ。完璧な物なんてどこにもない。
だが、それでこそだろう。完璧じゃないから、その願いは美しい。揺らぎ変わるからこそ、その願いは存在するのだ。欠陥を抱えたまま、それでもその願いこそが絶対と信じられる。その強さにこそ焦がれるのだ。
「俺は虹。万の、億の、兆の、京の、無料大数の可能性を。その総てを包み、愛そう。総てが人の輝きで、生命の在り方だ。強くても弱くても、その尊さは変わらない」
下劣な物でない限り、それはきっと美しい。その美しさを穢す者は一切として赦さない。己のためであろうと、他人のためであろうと、世界の事を一部でも考えているのなら。その願いは間違っていない。相容れるかどうかは別として、だが。
「さて、そろそろ戻るとしようかな。これ以上いても……ッ!?」
『相棒!』
そうしてその場を去ろうとした瞬間、後ろに何かが現れて俺を引っ張り始めた。しかもとんでもない力で。求道とはいえ神格である俺を無理矢理引っ張るとかどんな力だよ。そう思わずにはいられない程の強烈な力だった。しかも、結局最後はそれに呑みこまれた。
そして呑まれた先にあったのは――――駒王町だった。アザゼルの仕業かと思って周りを見渡してみたが、周りには誰もいなかった。どころか、そもそも人っ子一人としていなかった。
でもまぁ、久しぶりの駒王町だ。少し散策でもしてみるか、と歩き回っていたのだが……おかしかった。どこが、とは言わないが何か違和感があった。その違和感の正体も分からず、歩き回っていると――――俺の家があった。
「馬鹿な……そんな筈はない。だって、この家は……!」
燃えて無くなったのだから。想い出の物も何もかも、あの時捨ててきたのだから。この家が、残っている筈がない。寸分違わず残っているなど、あり得る筈がないのだ。だが、目の前にそれはある。だとすれば、考えられる事は一つしかない。
「時間跳躍でもしたと言うのか?」
あり得る筈がない。少なくとも魔法や魔術ではそんな事は出来ない。魂だけならまだしも、肉体ごと時間跳躍などできない。それが自然な事であり、当たり前なのだから。
だが、だがもし本当にそうであるとするならば。この家の中には今、幼い頃の俺と――――
「あの、どうかされたんですか?」
「っ!」
声をかけられ、呆然自失としていた俺はすぐさま後ろを振り返った。そこには、背中まで届くほどの長い茶色の髪をした女性と首に届くか届かないかレベルの黒髪の男性がいた。ああ、間違いない。この二人は俺の――――両親だ。
「あ……いえ、失礼しました。昔に住んでいた家によく似ていた物で、つい見つめてしまいました」
「あら、そうなんですか?それはなんというか凄い偶然ですね」
「ええ……本当に凄い偶然です」
こうして二人と逢えた事が。奇跡と言っても良い程に凄い偶然だ。だが、そんな奇跡にいつまでも浸っている訳にはいかない。だって、俺はここにあるべき存在ではないのだから。あるべき者はあるべき場所に帰らねばならない。それが当たり前な事なのだ。
奇跡はもう、十分目にできたのだから。
「あの、よろしければ今夜一緒に食事でもいかがですか?」
「え……?」
「おい、耀華。何を言ってるんだ。あちらさんに迷惑だろう?」
困惑している俺をさておき、父さんが母さんにそう言った。すると、母さんは父さんの言葉に頬を膨らませながらこう言った。
「だって、あなたがいっぱい買い過ぎちゃうからでしょ?こんな量、どうするのよ?余らせちゃっても仕方がないでしょう?」
「それはそうかもしれんが……」
「私たちじゃ食べきれないじゃない。食材を粗末にするな、って言ったのはあなたでしょ?」
「そ、それはそうだけど……」
「という訳で、どうかしら?」
「こちらとしては構いませんが……でも、良いんですか?俺みたいな奴がいて……家族水入らずで過ごした方が良いんじゃありませんか?」
「大丈夫ですよ。さっきも言ったとおり、寧ろ食材が余ってて困ってるレベルなんですから。気にしなくて良いんですよ」
「それじゃあ……ご相伴に預からせていただきます」
本当はさっさと戻った方が良いんだろう。だけど、できるのならもう少しこの時間に浸っていたい。この奇跡に、もう少しだけ。
そして入れてもらった家の中は薄らではあるが、思い出すことができる。物心つくよりも前の記憶だからあやふやだが、何も知らないよりはマシだろう。と言っても、何かをする訳ではないのだが。
そして居間に入ると、足に何かが当たりかけた。正確に言うと、当たる寸前に受け止めた。俺が下を向くと、相手も上を向き、目が合った。そして、その瞬間に理解した。
────ああ、これは『俺』だと。
まだ物心もついていなくて、神器にも目覚めていなくて、自分の未来という物を欠片も考えていなかった頃の『俺』だ。こんな平和な時間がいつまでも続くと無条件で信じていた。それが当然だと思っていた。そんな純真無垢な頃の『俺』だ。
「ママー。この人、だぁれ?」
まだ舌足らずな口調に、思わず笑みが浮かんでしまう。今までこういう相手に会ったことがなかったからな。『俺』相手に子供の可愛さを知るのもどうかと思うが。
「その人はね、私たちのお客さんよ。今日は一緒にご飯を食べることになったの。よろしくしてあげてね」
「はーい!初めまして、お兄さん!僕は兵藤一誠!五歳です」
「ああ……初めまして。俺は海斗。河道海斗だ。よろしくな、一誠君」
それからしばらくの間、『俺』と共に遊んでいた。まだ純真無垢な『俺』と遊んでいる間に、俺はとある既視感に襲われていた。
頭に残る鮮やかな紅色に同じく紅と金の瞳。そんな人物と俺は顔を合わせた事がある。今、はっきりと思いだす事ができた。そして俺は、その人物に
その時、その人物が俺に一体何をしたのかは覚えていない。だが、それが何だったのか今分かった。当然だ。今から俺がするのだから。こうして見て分かった事があった。
だからこそ、封印を緩めた。少なくとも、普通レベルに。それと同時に、禁手に至るために必要なプロセスを埋めて行く。あの時の感情の昂りであれば、問題なく至れるように。おそらく、これがなければ俺は死んでいた可能性が高い。
もちろん、この世界が俺の生きていた世界ではない可能性は高い。だが、できる事もせずにこの『俺』を放置するのは忍びない。生きられる命なら、生きるべきなのだから。
「君はきっと強くなる。誰よりも、何者よりも、遥か高い頂に立てるだろう。だが、それは一人ではいけない。共にあれる人が、君には必要なんだから」
「……どういう意味?」
「ただの大人の戯言さ。さぁ、次は何をして遊ぼうか?」
この子は強くなる。たとえ、俺という末路ではなくとも兵藤一誠という人間は強くなる事を強いられている。誰でもなく、世界から強くなる事を運命づけられている。ちっぽけな人間でしかない『俺』はきっとその運命に抗いきれない。
「ねぇ、お兄さんは外国に行った事はあるの?」
「あるよ。いろんな所を見て回った。北欧もヨーロッパも中東もアフリカもアメリカも。見たことがない場所の方が少ないんじゃないかな?」
「そうなんだ。じゃあ、一番楽しかった場所はどこなの?」
「一番楽しかった場所か……今生活している場所かな。家族と一緒に暮らしているんだ。君より幾つか年上の娘と息子、あと嫁と一緒に暮らしているよ」
「そうなんだぁ……ねぇ、お兄さん」
「なんだい?」
「――――お兄さんは今、幸せ?」
その言葉に、俺が返すべき言葉は一つしかなかった。
「ああ、幸せだよ。誰よりも幸せだと言える。俺の手には入らないと思っていた物が、今は俺の手の中にある。今の俺の環境が幸せではないなんて、誰にだって言わせない。これが俺がようやくつかむ事が出来た物なんだから」
そうだ、誰にだって言わせない。どこにでもある物かもしれない。誰だって持っている物なのかもしれない。でも、これは俺が欲してやまない物だったから。求めてやまなかった物だから。それを持つことができた今の俺が幸せではない、なんてありえない。
「君はどうだい?今の君は、幸せかい?」
「うん!パパもママもいて、イリナちゃんもいるし、おばあちゃんも偶に遊んでくれるもん!」
「そうか……それは良かったな」
「うん!」
その笑顔はどこまでも眩しくて。その笑顔が曇ってしまう日がそう遠くはないかもしれないと思うと、心が苦しい。しかし、それをどうこうするために俺が動いてはいけない。それはこの『俺』の運命なのだから。
それから共に食事を楽しみ、帰ろうかと思うと雪が降っていて出られなくなっていた。そこでどういう理論を辿ったのか、一泊する事になった。ちなみに『俺』はホワイトクリスマスだー!とはしゃいで疲れて眠っていた。
時刻はもう夜。俺の力を使えば、雪を避けるぐらいは容易い。俺はもう十分ここの空気を堪能した。力あるところに災厄は訪れる物だ。なればこそ、俺はもうここにいるべきじゃない。客間に置かれた布団を畳み、この家を出ようとした。
「……どうかされましたか?」
「耀華さん、それに一真さんも……いえ、これ以上ここにお世話になるのも心苦しくなっていましたので、お暇させて戴こうかと思いまして。起こしてしまったのなら申し訳ない」
「ゆっくりしていかれれば良いのに……せっかくの
「……え?」
今、この人は何と言った?実家、と言わなかったか。いや、そんな筈はない。自分の子供がそこにいるのに、こんな明らかに変わった風貌の相手にそんな事を言うはずが……
「もう、分からないと思うの?確かに、姿も存在も変わってしまったみたいだけど……親が子供の姿を見間違える筈がないでしょう?」
「あ……」
分かっていたんだ。この人たちは最初から、俺が兵藤一誠だという事を分かっていた。だから、俺の事を警戒する事もなく家に招き入れたのか?だが、そんな筈はないと最初に否定するはずだ。
「私も最初は半信半疑だった。耀華はよく一発で信じられた物だと思うよ。でも、過ごしていれば分かるよ。お前は私たちの息子――――兵藤一誠だ」
その言葉に、俺は涙を流した。もう会える筈もないと思っていた相手に会う事ができた。大人になった姿を見せる事ができた。様々な想いや感情が濁流のように流れ、涙という形で具現化される。
止めようとしても止まらないソレを必死で止めようとしている俺に、父さんと母さんは抱きしめてくれた。それが最後の楔だった。大人だとは思えない程に泣いた。心の底から、涙を流していた。
それからしばらくして。ようやく落ち着いた俺は、両親と話をした。今までのどんな暮らしをしてきたのか、今どんな暮らしをしているのか。父さんと母さんもそれを嬉しそうに聞いていた。
「……父さん、母さん。これは純粋な忠告だ。この街を離れた方が良い。俺という存在のせいかもしれないけど、ここは争いの中心になる。父さんと母さんが死ぬ可能性が高い」
「ありがとう、一誠。でもね、私たちはここを離れないわ。お父さんの仕事の事もあるけれど……せめて一誠が成人するまでこの家で過ごさせてあげたいの」
「そんな……それで死んでしまったら何の意味もないじゃないか!」
「心配してくれているのは、本当にありがたいと思う。それでも、もう私たちに心配なんてないんだ」
「なんで!」
「だって、こうして大きくなった一誠に会う事ができたんだ。私たちが犠牲になったとしても、一誠が生きてくれたなら私たちに心配なんてないんだ」
「そんな……でも、俺は二人に生きて欲しい。今眠っている『俺』だってそう思っている筈だ。たとえ俺が生き残っても、二人が死んでしまうんじゃ意味ないじゃないか……」
そう、生きていて欲しい。今の俺が二人の死によって成立したのだとしても、それでも俺は生きて欲しいと願う。だって、そうだろう?――――一度は死んだ肉親が生きているのなら、誰だって生きて欲しいと願うはずだ。
「泣かないで、一誠。私たちも別に死にたい訳ではないの。ただ、私たちが死ぬことよりも、あなたを失う事の方が怖い。それだけの事なのよ」
「それは……」
分かる。俺だって、今の家族を失うぐらいなら自分が死ぬことなんて何とも思わない。でも、それは助かるかもしれない命を見捨てることとは別だろう。そう言おうとした、瞬間の事だった。俺の足元にここに来た時と同じ魔法陣が現れ、またも俺を引っ張り始めた。
「クソッ、またか!まだ俺には言い足りない事があるのに……」
「一誠、もう良いの。あなたの想いも心も十分に伝わったわ。だから、あなたは自分の幸せを掴みなさい。それだけが私たちの願い」
「そうだな。それが一番だ。そして、この奇跡に感謝しよう。一誠の将来を心配する必要はない、事が分かったんだから」
「母さん……父さん……」
「あなたの事を、愛しているわ。それだけは覚えておいてね」
「そんなの……俺だって一緒だ。俺だって、父さんと母さんの事を愛しているよ」
「ありがとう。それじゃあな、一誠。達者で暮らすんだぞ」
父さんの言葉を最後に、俺は飛ばされた。その場所は俺が飛ばされた場所と同じ場所だった。
『相棒、大丈夫か!?』
「ああ……ドライグ、どれぐらい時間が経った?」
『それほど経ってはいない。おそらく数秒ほどだと思うが……本当に大丈夫なのか?急に相棒の魂だけどこかに飛ばされたからどうしたのかと思ったぞ』
「心配をかけたな。もう戻ろう。これ以上、ここにいてもしょうがないからな」
『それは別に良いんだが……本当に大丈夫なのか?』
「心配性だな。大丈夫だよ。ただ……ちょっと奇跡を目にしていただけだからな」
俺はそう呟くと、転移魔法で家に戻った。そこでは眷属たちが全員そろっており、騒いでいた。まぁ、俺と繋がっているドライグがあんなに騒いでいたんだから、これも必然か。
「どうして一人にしたんですか!ゼノヴィアだけでも付いていれば良かったではありませんか!」
「仕方がないだろう!誰だってこんな事になるなんて思っていなかったのだから!」
「って言うか、そんな事はどうでも良いよ!はやく探しに行かなきゃ!」
「その必要はないけどな」
「あ、パパ!」
俺が姿を現すと、ヴィヴィオが抱きついてきた。それを抱き留め、頭を撫でながら笑みを浮かべる。それだけで眷属たちも落ち着きを取り戻していた。皆一様に胸を撫で下ろし、近付いてきた。
「心配をかけたな。だが、俺はこうして五体満足だから安心しろ」
「まったくもう、一体どこに行ってたの?」
「ちょっと、な。それより準備を始めるとしよう。パーティーの時間までそんなにある訳じゃないからな」
「分かってるよ……まったく、こっちの気も知らないで」
「そう怒るな。俺としても不可抗力だったんだから」
「そりゃあ、それ以外にあんな事態が起きるなんて思わないけどさ。でも、心配したんだよ?」
「ああ、分かっている。その事自体は申し訳ないと思っているよ」
「じゃあさ……くれる物があるんじゃない?」
「こんな場所で、か?」
「こういう時だから、だよ」
「しょうがない奴だな……」
抱き上げていたヴィヴィオを下ろすと、シエナの頬を優しく掴み――――額にキスをした。そして離れると、シエナは不満そうな顔をしていた。
「……ずるい」
「これ以上は駄目だ。まだクリスマスは始まってもいないんだからな」
「っていうか、見ているこっちが恥ずかしくなるような事すんなよ」
アキトがそう文句を言っていたのを聞き流しつつ、パーティー会場に向かう。そこには既にいくつかの料理と酒、そして談笑している面子がいた。
「あら、一誠様。お久しぶりです」
「確かに久しぶりだね。元気にやっているかい、レイヴェルちゃん」
「流石にもうちゃん付けは止めてください……」
最初に話しかけてきたのは、学生時代からぐっと大人らしくなったレイヴェルちゃんだ。オレンジ色のドレスを纏ったその姿は、明らかに成長していた。肉体的な意味だけではなく、精神的な意味でも。
「お元気そうで何よりですね、兵頭君」
「そちらも元気そうですね、ロスヴァイセさん。冥界の学校生活はどうですか?」
「順調ですよ。生徒の数もだんだん増えてますから。まぁ、それに応じて忙しくなっているんですけど」
「あはは……まぁ、頑張ってください」
「ええ、頑張りますよ。遣り甲斐は感じていますから」
ロスヴァイセさんは紫色のドレスを着ていた。彼女はグレモリー眷属から独立した後、シトリーさんが創設した学校で教師として赴任している。彼女の授業はそれなりに人気があるらしい。
それからも複数の人物と言葉を交わした。そして一緒に日没を眺め、俺は壇上に立った。
「まずは集まってくれた事に感謝を述べさせてもらう。年の瀬、しかもクリスマスなんて忙しいだろう時期に良く集まってくれた。今年が良い年であったかどうかは分からないが、来年が良い年である事を祈らせてもらう。
さて、長い挨拶は嫌われる物と相場が決まっている。だが、ここで一つの話をする事を許してもらいたい。これは俺にとって、大事な話だから。と言っても、緊張する事はない。話半分で聞いてくれればそれで良い」
語るのは聖夜に舞い降りた奇跡のお話。ありえない事だが、それでも起きた奇跡のようなお話だ。幸せであるかは分からないが、せめてこの話を聞いて胸が温かくなってくれれば嬉しいと思う。
母さん、父さん。今、俺はやっぱり幸せだよ。一緒に今日という日を祝ってくれる人がこんなにいるんだから。