あれから半年、俺は修行を終えて旅立とうとしていた。
「そろそろ行くかな」
「おや、もういいのかい?」
「ああ、修行も済んだからな」
俺がこの半年間でやっていたのは、力の制御だ。たとえ武器自体を使えても、竜具には通常とは全く異なった能力が宿っている。そうそう、修行で驚いたのは竜具が人間の形で実体化できることだった。
「そりゃあね。意思の疎通ができていた方が何かとやりやすいだろう?モデルは小説のバージョンにしたけど、問題はないかな?」
「問題なんてあろうはずがない。俺には全くもったいない位の相棒たちさ。こちらの方が良いのか?と訊きたいくらいさ」
「構わないよ。それよりも依頼の件、頼んだよ」
「ああ。ここまでしてもらった以上、必ず遂行するさ」
「頼んだよ。それじゃあ、ポチッとな」
パカッ。そんな気の抜けるような効果音と共に俺は……落ちた。
「なんでそんなことまで再現するんだ!?」
そして誰もいなくなったその場所で一人、ロキはつぶやいた。
「やれやれ、転生特典だけじゃ魂の容量が満たせないなんて初めてだよ。いつもなら魂の容量が足りなくて困るくらいなのに、今回のような事態は初めてだよ。一応、あの力を宿しておいたけど、それでも埋まったのは半分くらいか。はてさてこの先どうなることやら」
魂の容量ーーーーそれは人が持てる力の総量。異能の能力を持つ人間は大抵、この魂の容量というものが僅かながらだろうが空きが有る者のことを指す。どんな大魔術師であっても、精々一割〜二割程度の差しかない。しかしながら彼は半分近くの空きがある。これが一体どういう意味か。
彼は大魔術師などという言葉が生ぬるくなるほどの膨大な力を有することができる。もし彼が転生特典を望まなかったなら。彼は神に等しい、否それ以上の力を有していたかもしれない。それは神々にとって、好ましいものではない。
神は人々の信仰なくしては、生きていけない。それ程に神々にとって信仰という物は、重要な意味を持っている。されど人間が神々と同じ地平に立ち、それによって世間が彼を神の子として扱えば、信仰する者が極端に減るかもしれない上にたかが人間が自分達と同じ地平に立つ。その事が神々にとって、最も赦されざる行為だった。
だからこそ、彼は殺された。他でもない彼という存在を恐れた、神々の手によって。無論、誰もが彼を殺そうと思ったわけではない。彼を擁護し、彼に信者を増やしてもらおうと思った者、純粋な思いで彼を護ろうと思った者などはたくさん存在した。
されど、間に合わなかった。既に彼は殺された。ならばせめて、来世では思いのままに生きて欲しい、そう思ったのだ。であるがゆえに、冥府に赴き気付かれないように彼の魂を回収し、精神を再現させ、彼の望みを聞き届け、別の世界に送った。
無論、依頼が嘘であったわけではない。事実、彼の行く世界は複数の世界が混ざり合った場所。されど、そんな裏事情には関係なく普通に生きて欲しいと願わざるを得なかった。惨めで、悲しみで、憎しみで、負の感情に支配されるのではなく、夢や希望を見つけその為に頑張って生きて欲しい。
そう思っている神々の頼みを聞き届け、ロキは彼を転生させることにした。基本的に神が下界の事に関わるのはタブーとされている為、彼にこれ以上関わるのは実質的に不可能と言えるだろう。
「これで良いのかい?これを言うのは何なんだけど、貴女の手で転生させてあげれば良かったんじゃないですか?それに僕に任せる意味はないでしょう?」
「……我が大っぴらに関わるわけにはいかぬだろう。それに貴様は沢山の者を転生させておる。今回の一件とて貴様の所の者の所為じゃろうが。罰であろう」
「それを言われると辛いな……。まあ、いいさ。依頼はこれで完了、という事で良いよね?」
「ああ。感謝だけは述べておこう。……だが早急にここを立ち去った方が良い。我がここに他神話の神を招いたのも問題だが、それ以上に発見されれば貴様は問答無用で殺されるだろうからな」
「それだけは勘弁願いたいね。とはいえ、本当に彼に一体どんな価値があるというのか。貴女だけではなくギリシャのアテナやその他の神話の女神や英雄達が彼を助けようと動く。これって正直あり得ない事だよね?
「それ以上の詮索を続けるようなら、残念ながら我の手で貴様に引導を渡す必要が出てくるぞ?程々にするのだな、悪神よ」
ロキは肩をすくめると、スキップをしながら彼女の管理する世界――――高天原を後にした。それを見届けると、女性はまた物思いにふけった。
「そなたが我々の世界に変革をもたらしてから早数万年。そなたがその身を代償にして、この世界を救ってからこの場所もまた大きく変わったものだ。魂すらも粉々に砕け散った時は多くの者が嘆き悲しんだ物だ。
そんなそなたの魂の欠片達は気の遠くなるような日を経て、完全な形に戻った。それを見つけた時は嬉しさの余り涙が溢れたほどだ。だからこそ、それ以上に赦せなかったのだ。この世界の救世主に相応しい者たちを殺した者たちを。そしてそれを止められなかった己自身を。
こんな形になってしまった事は本当に申し訳ないと思う。そなたはまた戦乱の中に飛び込んでいくことだろう。ならせめて、そなたに幸多からん道を歩めることを祈っている」
女性――――