殺伐とした荒野。血で溢れる大地。目につく物は死体。そんな状態でなお争い続ける生者たち。そんな場所で戦っている二人の人間がいた。片方は剣を。もう片方は槍を持って戦っている。
「……なあ、兵藤」
「なんだよ。戦っている真っ最中に話しかけるとは余裕だな、夜天」
「この戦いは一体いつ終わるのだろうか?いつまでも争いあい、次々と人は死んでいく。だがまったく決着はつかない。こんな不毛な争いは一体いつになったら終わるのだ?」
「さあねぇ……。選択肢は二つしかないだろうな。全てを滅ぼすか、皆が手を取り合うかだ」
「成る程。……どちらでも険しい事に変わりはないか。なら、やり甲斐のある方にしたいな」
「なんだ?戦うのに疲れちまったのか?……まあ、どちらを選んでも象徴がいる。ついて行きたいとそう思えるほどの存在が必要なんだよ」
言葉を交わしながら、剣と槍をぶつけ合う。どちらにしてもこの会話に意味などない夜天は己を道具としてしか見ていないし、もう片方の男にしても自分にはそんな力はないと思っているのだから。
「……戦った先にある物、か。そんな事、考えすらしなかった。戦いの先にはさらなる戦いがあるだけなんだから」
「悲しい人生だな。戦う道具としてしか生きていけない。……まあ、私が言えた義理ではないのだろうがな」
「こうやって戦っている時点でそんな物さ。……こいつで終わりにしようぜ、夜天。これ以上長引かせてもまったく意味ない、どころか被害が増えるだけだからな」
「それもそう、だなーーーー!」
二人の身体から莫大な量の魔力が吹き出し、己の持つ武具にその魔力を収束させてゆく。そして臨界まで達した時、二人は同時に動き己の得物をぶつけ閃光によって世界は包まれーーーー
「夢、か……」
懐かしい古代ベルカの頃の夢、だけど戦うところかよ。まあ、よく考えたら俺、あいつとは戦う以外した事ないわ。基本的に敵同士だったからな。それだけに最後に見たあいつの顔は印象的だったんだよな。
「悲しそうな顔、してたんだよな……。約束を守りきれず当時の主を死なせてしまった俺に」
普通なら怒りをぶつけられるとか、何か呪詛を吐かれても何もおかしくないのに。そりゃあ俺の考えは甘っちょろいだろうさ。わざわざ敵と交わした約束を守る奴なんていないだろうけど、それでも俺にとって約束っていうのは絶対だった。
「ああ、もう……思考がどんどんネガティブな方向に流れていく。サッサと飯にして街を散歩でもしていよう」
もはや完全なニート状態。金だけなら腐る程ある所為だろうが、仕事をしない主夫みたいになってるし。昔じゃ考えられない光景だな。自嘲ぎみな笑みを浮かべながら、朝食を作り始めた。
それから朝食を済ませた俺は、街中を歩き回った。何人かの大人に話しかけられたが、何とか振り切った。学校がどうとか面倒な人ばかりだ。なんで行かなくても良い場所に行かねばならないのか、理解に苦しむ。
『相棒も大概捻くれてるな。集団で生きる者たちだからだ、と前に言っていたじゃないか』
「それでも面倒な物は面倒なんだよ。……そういえば『
『正直、相棒に勝てるとは思えないからな。せめて楽しませてくれればいいんだが』
「それはしょうがないだろ。修行を始めた期間と内包しているスペックに大きすぎる程の違いがあるんだからさ。せめて10年くらいは待たないとどうしようもないぞ」
河原に寝転びながら、冬に変わりつつある雲一つない青空を見上げている。あの時では、古代ベルカでは到底見られないような光景だな。爽やかな風、温かい日差し、そして咲き誇る、とまではいかないが咲いている花々。まさにベルカからすれば
目を閉じながら、それらを堪能していると急に暗くなった。雲でも出てきたのか?と思って目を開けてみるとーーーー
「こんなところにいたのか。探したぞ、兵藤」
「……夜天?どうしてここに……」
「私がここにいてはおかしいのか?まあいい、隣、失礼するぞ」
そう言いながら、夜天は隣に座りこんだ。相変わらず人形みたいに綺麗な女だ。まあ、最初に痛い目にあったのは良い思いでだ。人は見かけによらないという言葉を実感した時でもあったからな。
「……懐かしいな。こうやって二人だけでいるのは。また会えるとは嬉しいな」
「俺たちの間に言葉はなく、あったのは剣とお前の槍ーーーーナハトヴァールの応酬だけだったがな。結局、決着が着く事はなかったしな」
「私が別の主に宿った時には、お前はもうすでに死んでいたからな。お前が敗れたと聞いた時にはとても驚いたよ。誰にも負けない力を持っていたお前が、死んだと聞いた時にはとても悲しくなったがな」
「悲しむ?お前が?俺の死を?……はははっ。そんな事を思われるとは驚いたな。良くも悪くもあの時代の者は死が身近すぎて悲しむ心を忘れていたからな」
「笑う事はないだろう。確かに敵同士ではあったが、お前は私の確かな友だった。知っている者に二度と会えなくなるかもしれないと思うと、苦しいだろう?」
「見解の相違だな。俺にとって、魂は永遠だ。途切れるなんてあり得ない。だからまたいつか会える。たとえそれが自分の知っている姿ではなかったとしても、な」
「そういう考えはわかないな。死んだらそれまで。もう二度と会う事は叶わないという物だろう?何故お前がそんな状態なのかは知らないが……」
「俺は身体の大きさを自由に操れるからな。成人男性レベルになる事も、はたまた小さくなる事も、自由自在さ。なんせ俺は世界最強の『化け物』だからな」
「……今、なんと言った?」
「うん?いきなりどうした?」
「お前が『化け物』だと?そんな訳がないだろう!助けられなかった者たちの事をいつまでも考え、悔いているようなお前が!それでも未だ誰かのために行動しているような優しいお前が!化け物である筈がない!そんな事を私は絶対に認めない!」
「ちょ、ちょっと落ち着けって。いきなり怒るなよ……。そこまで荒れる事はないだろう?人が自分の理解の及ばない存在の事を、化け物と呼ぶ事は別におかしい事じゃない。分かるだろ?」
「……だが、それでも。それでも私は認められない」
やっぱり優しい奴だよな。こいつ、こんな俺のためにここまで怒りを露わにしてくれる。俺の心はほとんどそれを許容しているんだけど……こいつはそれが許せないと言う。たとえ俺が認めようとも自分は認めはしないと、きっと言い続けるんだろう。
俺は身を起こして、夜天を俺の膝の上に押し倒した。そして驚いた顔をしている夜天の涼しげな銀髪を撫でながら言った。
「俺はさ、誰も到達できない頂に立った。きっと皆を救えると信じてな。でも、本当は違ったんだ。俺の掌からは大切な物が次々と零れ落ちていった。
俺は思ったよ。何故掴めない、何故留めておく事が出来ないんだ、ってな。でもさ、それが人間なんだ。完璧ではない、完全ではないからこそ人の作る世界は脆い。だけど、人であるが故にーーーーこの世界は美しいんだってな」
「……それが一体なんだと言うんだ?今を懸命に生きようとしている者を化け物と蔑むような者たちがいる世界であっていい筈がないだろう」
「それはさすがに綺麗事の類に入っちまうぜ?夜天、お前は優しいよ。抱きしめたくなるくらいだ。でも綺麗事と現実の区別ぐらいは付けろ。俺は人外だよ。少なくとも、普通の人間なんてカテゴリーには入らない。それでも、俺といたいと思ってくれる人がいる限り俺は人間だ。違うか?夜天が言ってくれた事はそういう事だろ?」
「……ふふっ。やはりお前はお前なのだな。変わりがないようで安心したよ。あの時から、古代ベルカの時代から何も変わっていない。きっとお前は幾星霜の月日が過ぎようともそのままなんだろうな」
「俺はきっとこの考えを変えないよ。俺の事を人だと読んでくれる者がいる限り、俺は人であり続ける。誓ったっていいよ」
夢幻の象徴であるが故に、幸いを望む。俺の事を人間だと言ってくれる者がいる限り、俺は人であり続けよう。温かい日差しを浴びながら、ふと頭に浮かんだ言葉を呟いていた。
「時よ、止まれ。ーーーーお前は誰よりも美しい」
願わくば、この幸よ永遠に続け。そう思いながら、俺と夜天はのどかな一日を過ごした。