あいつはほぼ無尽蔵に近い魔力を持って相手を圧倒するような戦いを主にしているようだ。もちろんそういう奴は……総じて近接戦闘が弱い。遠距離で魔力弾を撃っていれば大概はどうとでもなるからだ。だがーーーー
「くそったれが!何で魔力が効かないんだよ!?」
ほぼ全ての魔力弾が俺の鎧に当たっても弾かれるから意味がないんだ。さらにさっき倍加した所為でさらに防御能力も跳ね上がり、俺にはまったくダメージが通っていない。ある時は魔力弾を弾き、ある時は防ぎ、ある時は迎撃する。
そして完全にミドルレンジに至った時、クラウスは俺の背後から飛び出て拳を振るう。しかしその攻撃は防がれる。とは言っても、だんだん罅が入っていき今回の一撃で完全に砕けた。そして顔面に攻撃が入った。
「ガハッ!……殺す!テメエらはここで惨たらしく殺してやる!」
「やれるもんならやってみろよ。魔力頼りのお前が俺の鎧の防御力を突破できるもんならな!」
「お前を私は許しはしない。己の道楽の為に人を殺した貴様だけは!私たちの手で倒す!」
「ハッ!そこの赤いのに頼ってるような奴が吠えたてんじゃねえよ!……何?」
目の前にいる奴の身体から、一体の妖精?みたいなのが出てきた。なるほど、あれがユニゾンデバイスとやらか。相当酷使されたらしく、疲弊具合も半端じゃない。一体どれだけの間休んでないんだ?
「おい、サクラ!立て!まだ俺らの敵は消えちゃいない!俺の剣であり盾なんだろ?こんなとこで勝手に止めてんじゃねえ!おら、立てよ!」
ユニゾンデバイスーーーーサクラが貶されながら蹴られながら、立ち上がろうとしている所を見た俺の顔には……はっきり言って表情なんて物は抜け落ちた人形みたいな顔だった。
その姿を見て思い出したからだ。弱者は虐げられる物だと言わんばかりに、俺の両親を殺したくそ野郎の事を。気付いた時には、目の前のくそ野郎を蹴り飛ばして倒れているサクラを抱き上げた。
「……え?」
「もういい。もういいんだ。今はゆっくりとお休み。次に目が覚めたら、悪夢はきっと終わっているから」
「あ……ありが、とう……」
それだけ告げると、サクラは意識を失って倒れた。俺はその華奢な身体をそっと抱き上げ、クラウスに預けた。そしてくそ野郎の方を向くと、青筋を浮かべながらこっちを睨みつけている。
「テメエ……どういうつもりだ?っていうかサクラを返せよ。そいつは俺の『物』なんだからな」
「お前みたいなくそ野郎に渡すわけないだろ。大体、俺にとってサクラは『人間』だ。舐めてんじゃねえよ。思考があって、人間らしく生きようとしているなら。そいつは『人間』なんだ。『物』なんかじゃねえんだよ」
「ハ……ハハハハハッ!お前、何言ってんだ?あいつはデバイスーーーーつまり『物』だろうが。それを『人間』だと?笑わせんじゃねえよーーーーあっ?」
もはや聞くに耐えなくなったあいつの言い分に、俺は右腕を掬い上げるように振るった。すると、あいつの右腕が斬られた上に吹き飛んだ。さらに魔力で念入りに消し飛ばした。
分類で言うと、射出型斬撃と言うべきだろう。手刀の形にした手を見える速度の十数倍の速度で振るい、さらに身体から流れる魔力を右腕一本に収束させる事でこれ一本で下位の竜種なら一撃で分断できる程の威力を持つ。正直な話、これを放つ意味は無いんだがこの攻撃は複数の斬撃をまったく同じ軌道で振るうので、すごく痛いのだ。例えるならば、ノコギリで腕を切断されるような物だ。
「ぐあっ……
「もうお前と話す事なんてないんだよ。だからーーーーこのまま圧倒的な力を持って、消し飛ばしてやるよ。さあ、無様に、惨めに、滑稽に。その死に様を曝せよ。なに、安心しろ。ちゃんと死体の処理はしてやるからな」
「はっ。ほざいてろ!俺はまだ倒れちゃいない。それなら俺はまだ戦える。拳を握れんだ。それで十分だろうが!」
「普通の奴が相手ならな。でも俺は普通じゃない。サクラの助けなしには魔力を十二分に使えない奴が、その程度で勝てると思ってんのか?」
「…………」
剣であり盾ーーーーこれがキーワードだった。剣とはつまり、あいつの使っていた魔力攻撃。盾とはあいつを守っていた魔力障壁の事だろう。ちなみに魔力障壁と魔術障壁の違いは瞬発的な硬度では魔力障壁の方が高く、持続的に一定の硬度が保てるのが魔術障壁だ。
閑話休題。
さっきからこいつから垂れ流しにされている魔力を利用して、魔力障壁を張っていたんだろう。手動の即時防御、確かにこいつはユニゾンが必要だろう。さらに言うなら、こいつは魔力の運用が下手くそだ。はっきり言って、さっきの魔力収束パンチ並の収束が出来ているなら、こんなに簡単に防いだり弾いたりする事はできない。もっと苦労しているだろう。
「ゲーム気分で戦ってる奴に、俺が倒されるわけないだろ。……さて、試してみようか。一体お前が何発の魔力弾をくらえば死ぬのか、さ」
収束させた魔力弾を連続で放つ。目の前のくそ野郎は能力を発動して放つ前まで戻し続けているようだけど……そんなもんじゃいつまでも耐えられる訳がない。案の定、魔力が切れて四肢が吹き飛んでいく。四肢が吹き飛んだ瞬間に心臓と脳を吹き飛ばした。念入りに、な。
「……ハァ。これであんたの言う仇は取れただろう?クラウス殿下。さっさと戻りなよ。他の兵士も心配しているだろうしな」
「あ、ああ。……協力して貰ってもらったのに、何の礼もないと言うのは困るから、私の城まで来て貰えないだろうか?お礼もしたいしな」
「お礼と言われる程の事をした覚えはないけど……差し出された手を無碍にする方が失礼だな。分かりました。同行しましょう」
「ありがとう。それでは私について来てくれ。それと……はい」
「え?」
クラウスは俺にサクラを差し出した。俺はそれを両手で優しく受け取りながら、クラウスを見ていた。クラウスは苦笑しながら、馬に乗った。
「その子は君が守ったんだ。ならば最後まで責任を取りたまえ。私では役不足という物だよ」
「そう、ですね……。ありがとうございました」
「それと、二人だけの時は敬語を止めるように。私たちは共に肩を並べて戦った戦友だ。それなら私たちの間に敬語はいらない。そうだろう?」
あまりの言い分に呆けてしまった。まさかそんな事を言ってくる奴がいるなんて露にも思わなかったからだ。俺は生まれてこの方、偉い奴を、否偉ぶっている奴をたくさん見てきた。その中にはこんな事を言ってくる奴はいなかった。
「くっくっく……俺の友人をするっていうのは大分大変な事だと思いますよ?龍ってのはそれだけで恐れられるもんなんですから。それでも尚、ですか?」
「無論だよ。そんな友人がいるなんて露にも思わないだろう?……それに誰が何と言おうとも、私は君が友人である事を後悔だけはしない。それは絶対に言える」
「ハハハハハッ!まったく面白いお方だ。あい、分かった。俺とお前は今から友人だ。よろしく頼むぜ?クラウス・G・S・イングヴァルド」
「それはこちらのセリフだよ。これからもよろしく頼むよ。兵藤一誠」