クラウスと共に軍のところに行った俺を出迎えたのは、槍だった。まあ、届いた瞬間に穂先を全部破壊したからダメージとかは無かったんだけど、クラウスが私の友人に、我々の命の恩人に何をする!?と言ったら全員がガタガタと震えだした。
「まあまあ、落ち着いてよ。普通、得体の知れない奴が主君の隣を歩いていたら警戒するって。まあ、攻撃したのはやり過ぎだと思うけど……怪我はしてないし良いじゃん」
「そうやって適当にしてしまえば、次にまた誰がやってしまうか分からない。後顧の憂いは断っておくべきではないか」
「一度こうやって叱責されれば、誰も次はしないようにするさ。子供にだってできる事だ。誰だってできるだろ。なあ?」
兵士全員が首を縦に振っていた。しかも表情が必死めいているし、どれだけ怖いんだ。クラウスの事だから、殺すような真似はしないだろうに。何がそんなに恐ろしいんだ?
「今回はお咎め無しって事にしよう。次もやったら罰、という事にしよう。な?」
「……分かった。以後気をつけるように。次は無いからな。それでは戻るぞ!」
『ハッ!』
やれやれ、怒ってくれること自体は嬉しいんだがね。他人を巻き込むようなら止めざるを得ない。それにわざわざ
そのまま俺は城に行った。道中、兵士の連中と喋ったりもした。中々気さくな奴もいたから、色々な情勢とかを聞いたりもできた。一般レベルの話ではあるが、馬鹿にできない事もある。上の人間が知っていて下の者が知らない事があるように、そのまた逆も然り。噂というのは案外馬鹿にできない代物なのだ。そして城に着いた俺とクラウスは謁見の間にいた。
「父上、この者が我々を窮地から脱するのに協力してくれた……」
「お初にお目にかかります、国王陛下。兵藤一誠と申します」
「うむ。まずは礼を言わせてもらおう。……して、兵藤一誠よ。貴様は一体何を望む?」
「……このような問答は私は嫌いですので、はっきりと申させていただきます。私の望みは私のこの国の中での安全、及び魔法を主とした知識の収集です」
「……それだけか?地位や金とかは要らぬと申すのか?また欲のない男よな」
「そんな事を要求する気はございません。私がご子息を助けたのは偶然の産物に過ぎません。強いて言うなら、ご子息は助かったのではございません。勝手に助かっただけですので」
「ハハハハハッ!助けたのではない、助かっただけか。中々面白い事をぬかすではないか。気に入ったぞ」
「ご期待に添えたのであれば、真に恐悦至極でございます。……して、返答は如何に?」
「そう答えを急くでない。……よかろう。汝、兵藤一誠を客分として迎え入れようではないか。この城を拠点として動くが良かろう。書庫も解放しよう。見張りは……クラウス。お前がやりなさい」
「分かりました。その任、有難く頂戴いたします。それではこれにて失敬させていただきます」
こうして謁見を終え、謁見の間を出た俺たちは花の咲き誇るこの時代にしては見事と言わざるを得ない庭園にいた。そこで俺は出会ったんだ。初恋とも呼べる存在に。
華やかな金髪に赤と翠のオッドアイ。印象的なのはこの様な時代にもかかわらず、笑顔を忘れないその魂と言うべきか。とにかく、何故か俺は彼女に惹かれた。
「あら、クラウス。お帰りなさいませ。……そちらの方はどなたですか?」
「ああ、紹介しよう。こちらは今日、私の友となった兵藤一誠だ。一誠、こちらは……」
「オリヴィエ・ゼーゲブレヒトと申します。以後宜しくお願いしますね。イッセーさん」
「え、ああ、宜しく、お願いします。……イッセー?」
「渾名、でしたか?そのような物です。お気に召しませんでしたか?」
「いえ、呼び方自体には頓着していませんので何でも構いませんが……そのように渾名で呼ばれた事がない物で。新鮮なんですよ。……紹介に預かりました兵藤一誠です。力の権化と称される二天龍の赤龍帝をこの身に宿す者ですが、よろしくお願いします」
「二天龍、ですか?そのような存在は聞いた事が無いのですが……クラウスは知っていますか?」
「いや、正直な話、私も知らない。一体どういった存在なんだ?」
「この世界とは別の世界の龍さ。その世界には神話で語られるような存在がいる。そしてその中でも頂点にほど近い位置に立つ存在、それが二天龍と称される『赤龍帝』とその対をなす『白龍皇』なんだ」
「神様、ですか……。途方もない話ですね。……神様がいればこのような戦争は起きずに済んだのでしょうか」
「それは関係がないと思いますよ?神々からすれば、自分たちに関わりのない事には興味がないのですから。それに世界の行く末を神などに頼ってはいけないのですよ」
「それはまた何故?神といえば万能な存在だろう?それならこの世界を平定する事だってできるだろう?」
「出来るか出来ないかで言えば出来るだろうさ。でも、それで作られた世界は神にとって都合のいい世界。けして神様が全員が慈愛を振りまく存在じゃないんだ」
「何故、神様が争うのですか?争いが無益な事である事は知っているでしょう?それなのに何故……?」
「……神という存在は信仰を糧にして生きています。信仰がなければ生きてはいけない。ただひっそりと滅ぶしか道は残されていないのですよ。信徒を得るために、争うのです」
「世知辛いとはまさにこの事だね……。それで一誠、その龍を見に宿すと言うのはどういう意味なんだい?」
「俺の世界には三大宗教と呼ばれる物があってな?その一角にキリスト教という物があって、その神は聖書の神と呼ばれているんだ。その神様が作った人間だけが宿す事のできる物、それを『
「それでどうやってその赤龍帝を神器にしたんだい?」
「ちょっとは自分で考えろよ……。神器の中に赤龍帝と白龍皇の魂を封じたのさ。元々、この赤龍帝と白龍皇は相性が悪かった。対をなす存在なんだから当たり前だが……とにかくこの二体がいるところは喧嘩ばかりだった。
まあ、タイミングも悪かったんだろうな。その時、ちょうど三つ巴の戦争をやっている真っ最中だったんだ」
「三つ巴……ですか?」
「ええ。天使と堕天使と悪魔……この三つの種族が起こした戦争の事を三つ巴の戦争と呼んだのですよ。善と悪は相入れない。同時に種族の違う者では差別も偏見あるんですよ。この戦争は必要だったと思います。というよりはいつかは起きざるを得なかった、とも」
「そういう事を言っているから、争いが無くならないのでしょう?長い時を生きる存在なら何故……」
「長い時を生きるが故、でしょうね。進歩が遅いんですよ。だからこそ、その程度の事も分からないんですよ。……話が逸れましたね。この戦争は三大勢力が結集し、この二天龍を討伐する事で終結を迎えました。
皮肉と言うべきでしょうか、強力な外敵が現れてようやく三大勢力は結集し、戦争も終わったんです。しかし、三大勢力の全勢力を結集させても完全な討伐には至らなかった。だからこそ、聖書の神はこの二体を神器に封印した。それがーーーーこの
俺の人生について回る物であり、俺の相棒と言える存在。今まで色々な事を共に過ごし、そしてこれからも過ごすであろう者。
「綺麗な籠手ですね。それに力強さを感じます。これが龍の気配という物なのでしょうね」
「こんな話を聞いても、しょうがないのでしょうが如何でしたか?満足いただけたでしょうか?」
「ええ。ありがとうございました。ところで、何を考えこんでいるんですか?クラウス」
「いや……一誠、君は鎧を着こんでいただろう?あれもこの神器の一種なのか?」
「う〜ん……悪いけど、これ以上は話せないかな。俺は立場的に非常に危ういからね。情報開示もここまでにさせてもらうよ」
「そうか……分かった。これ以上は聞かないよ。言いにくい事を聞いて悪かったね」
「気にしなくても良いよ。俺たちは友人だろう?そんな小さい事は気にせずにいこう」
「……ありがとう。随分と話しこんだね。それじゃあ、ここでお開きにしよう。もうすぐ夕餉の時間だ」
「それでは失礼しますね、オリヴィエ殿下。またの機会を心待ちにしております」
「はい。それでは失礼しますね、クラウス、イッセー」
そこで話し合いには相応しくはない時間も終わり、俺たちはそれぞれの場所に戻っていった。殺意と敵意を感じながら。