敵を撃退しつつ本を読むのが日課となりつつあったとある日、クラウスが俺のところを訪ねてきた。クラウスも多忙だったから内心意外ではあったものの、別に阻む理由も無いから歓迎した。
「それでどうしたんだよ?お前が自分からくる分には何も言う気はないけど……お前もそこそこ多忙だろう」
「これから来てくれた友人に会いに行くんだが、君の事も紹介しようかと思ったんだが……大丈夫かい?」
「そりゃ構いはしないけど……相手は誰なんだ?お前の事だ。わりと高名な奴だと思うんだが……その辺どうなんだよ?」
「一誠の中で私が一体どういった位置づけになっているのか気になるところではあるけど……それは置いておくとして、相手の名前はヴィルフリッド・エレミア。私たちはリッド、と呼んでいるよ」
「エレミアって……あの?黒のエレミアか?」
黒のエレミアーーーー戦場において最強と名高い奴である、という情報しかないらしい。エレミアの鉄腕の前には命は価値をもたないという話も聞いたが、一体如何程の領域か気になるところではあるが……無理してまで知りたい情報じゃないな。
「あれ?君にその異名の事、話したっけ?……まあ、いいか。そう、そのエレミアだ。とはいえ、それは戦場の話だから普段は気にする必要はない」
「分かった。そこまで言われる人物に個人的に興味もあるし、俺個人としては構わないが……向こうは良いのかよ?こんな得体のしれない奴に会う事を了承したのか?」
「あははははは……正直、最初は渋ってたけど僕とオリヴィエの友人だから、という事で了承してくれたよ」
クラウスは苦笑を浮かべながら、そう言った。まあ、当然だわな。俺としても、もしそんな奴がいるなら会いたがらないだろう。それだけクラウスとオリヴィエ殿下が信用されているという事なんだろう。俺は話ながら読んでいた本を机に置き、立ち上がった。
「あまり先方を待たせても悪いな。案内してくれよ、クラウス」
「そうだね。ついて来てくれ。君はなんだかんだでここの貴族たちなんかに嫌われているみたいだからね」
「当たり前だろ。経歴不明の人間が好かれたりするわけがない。今は大人しくしてるけど、いつ自分たちに牙を向くか分からない。そんな奴を普通は放ってはおかないよ。まあ、しばらくしたら諦めるだろうがな」
これまででもう二桁は超えたからな、襲撃回数。しかもその全てが失敗に終わっているんだ。もう無理だと思って諦めるところだろ。暗殺者なんかを雇うのだってただじゃないんだから。
俺たちは中庭のところに向かうと、イスに座っているオリヴィエ殿下と何故か木の枝に座っているフードを深くかぶった女性を見つけた。しかしあの人は……
『人間にしては中々強そうじゃないか。というか、あれは本当に人なのか?』
久しぶりだな、ドライグ。だが、あまり失礼な事を言うもんじゃないぞ。たとえ相手が誰であろうとも、な。
『しかし、相棒も分かっているだろう。あの女の強さは。正直な話、悪魔だと言われても俺は驚かんぞ』
全く油断していないのが見て取れるほどに、研ぎ澄まされている神経。ああ、あれは強い。ランキング上位陣……まではいかなくてもそれに近いレベルとだって対等に渡り合えそうなくらい強い。初めてだ。人間でここまで強い存在とあったのは。
「待たせてしまったね。リッド、彼がさっき言っていた……」
「兵藤一誠だ。よろしく頼むよ、エレミア殿」
「……ヴィルフリッド・エレミア。よろしく」
握手を交わそうとしたら、とんでもない握力で握られた。テストのつもりなのかもしれないけど……全然痛くないな。いや、痛いんだけど悲鳴をあげるレベルではない、と言ったところかな?まあ、ともかく俺も対抗して同レベルの力を出した。
「…………ッ!」
「……リッド?どうかしたのですか?」
「一誠、君は一体何をしたんだい?私たちには分からなかったんだが……」
「なに、力比べがご所望だったようだからな。同じくらいの力を出しただけさ。しかし……そこまで痛かったか?それなら謝罪するが」
「……いや、必要ない。こちらもいきなり試すような真似をしてしまい、申し訳ない。お詫びに何かして欲しい事はあるか?私に出来る事ならやるが……」
「う〜ん……そうだね。貴女の顔が見たい。貴女がこちらの顔を知っているのに、俺が貴女の素顔を知らないというのは不公平だからな。……まあ、無理なら別に構わないから、無理と言ってもらっても全然構わない」
「そ、それは……分かった。分かったから、そんな期待しているような視線を向けないでくれ。分かってやっているだろう、特にオリヴィエ!」
「あら、何の事かしら?別に私は久しぶりにリッドの顔を見たいな〜なんて思ってませんよ?本当ですよ?」
「思ってるだろ!絶対思ってるだろ!おい、クラウス!
「う〜ん……無理。そんな状態のオリヴィエを止めるなんて僕には到底出来そうにないよ。……もう諦めたら?なんでそんなに顔を晒すのが嫌なのかは知らないけど、事ここまで至ったら諦めも肝心だよ」
「うっ……くっ、分かった。やるよ、やってやるよ!顔を見せれば良いんだろう!なんでどいつもこいつもそこまで気にするんだ!」
「そんなフードをかぶっているからだろう?それに見せなくったって構わないんだぜ?オリヴィエ殿下は……まあ、後でなんかすれば良いだろうし」
「いや、やる。ここまで言ったんだ。私としても二言はない。それにあなたとしても気になるのだろう?それなら構わない」
フードを外した先にいたのは、長い艶やかな黒髪にいわゆる美人に分類されるであろう女性だった。一体何が問題なんだろうか?ひょっとして照れ屋さんとか?ちやほやされるのが嫌いな人なのかな?
「……何か問題でもあるわけ?むしろ美人だし、何かあるわけでもないみたいだけど」
「黒髪は凶兆の証と言われているんだよ。とはいえ、そんなものは迷信だと僕は思うけどね」
「凶兆?たかが髪の色で左右される運命なんざいらねえよ。迷信なんてくだらない事を信じるなんてアホらしいの一言だな」
「怖く……ないのか?誰もがこの髪を見て私を恐れた。こんな物、ない方がいいと思えるくらいだ」
「俺のいた地域じゃ、黒髪なんてザラですよ。……まあ、そこまで艶やかな色は珍しいですけどね。何か思うほどではありませんよ」
「……あんまり想像つかないね。でもまあ、確かにいちいち髪の色で差別なんかされてもね。困ったものだとしか言えないね」
そんなあっけからんとした態度をとっていた俺たちに、エレミアはたいそう驚いていた。オリヴィエ殿下はニコニコと笑っていたが。っていうか、クラウスも知らなかったのかよ。
「まあ、僕と最初にあった時からずっとフードかぶってたし、リッドはいろんなところに行くからね。まるで猫みたいだよ」
「人に対してその表現もどうかと思うが……まあ、ともかくだ。俺たちは貴女がどんな見てくれしてたってその程度で拒んだりするような、小さい性根の持ち主じゃないですから安心してください」
俺が微笑を浮かべながら、そう言うとエレミアの顔がだんだん赤くなってきた。一体どうしたんだろ?急に体調が悪くなった訳でもあるまいに。
「う、うん……それで兵藤くん、私は敬語でなくても構わない。それと、私の事はリッドと呼んでくれ」
「それなら俺も一誠でもはたまたイッセーでも構わないよ。今後ともよろしく、
「……よろしく、イッセー」
そう言うとエレミア、いやリッドはまた深くフードをかぶった。なんでこんなに綺麗なのに隠すんだろうか?全くもって謎だ」
「僕はそんな事を堂々と言う君の方がはるかに謎だよ……恥ずかしくないのかい?一誠」
「ん?あ、口出てた?すまんすまん。ちょっと緩んでたかもしれん……っと!?ちょっといきなり何するんだよ、リッド!」
「うるさい、黙れ、今直ぐにそのおしゃべりな口を閉じさせてやるから動くな……!」
「やなこった!」
そのままクラウスとオリヴィエ殿下が仲裁に入るまで、俺とリッドは戦っていた。お互い本気は出さなかったけど、それでもリッドは強かったな。
じゃじゃーん!エレミア登場!彼女はこのベルカ編のヒロイン!全く口調が分からないので、ちょっと大変でした。旅人という設定だったのでイメージ的に標準語ですが。
一誠とユーリが知り合い設定が欲しいという案がありましたので、考えてみたのですが……難しい!紫天の書のマスターがイメージ出来ない……あとユーリを戦場に出す事をマテリアルズが許さないだろうから、戦場で会う可能性も低い。まあ、頑張って書いていこうと思います。それではまた次回、お楽しみに