エレミアとの邂逅から数日後、俺とクラウスは未だ眠ったままのサクラのところを訪れていた。俺はデバイスに関してあまり知らないから王宮にいる専門家に任せていたんだが……
「何も分からない、か……」
「申し訳ありません。我々としても手を尽くしたのですが……我々の知らない技術で作られているようでして。そもそもユニゾンデバイスといえど、デバイスが眠り続けるなどといった事例はないのです」
「そう、か……。いや、尽力いただき本当にありがとうございます。感謝しています」
「力になれなかったのが残念でなりませんが……我々もこれにて失礼いたします」
伊達に神様が作った代物ではない、といったところか。人間程度の叡智ではまだまだ届きはしないという事か。しかしなんでこいつも眠ったままなんだ?何か欠陥、いや不足している物でもあるのか?思いつく物としては……魔力不足か?
「……?どうしたんだい、一誠」
「ユニゾンデバイスって一体何を動力して動いているんだ?やっぱり保持者の魔力か?」
「まあ、そもそもデバイスという物が魔法を使う上での補助道具だからね。一度魔力認証を行い、その魔力で稼働するようになっているんだ」
面倒なシステムではあるが、効果的ではあるな。誰かに盗まれたりしても、使えない……と言っても戦場で死んだらそれまでの代物だしな。やっぱり面倒だな。試しに俺の魔力を流し込んでみるか。無駄だと思うが、一応だ。
「……ううん」
「……え?マジで?俺の魔力で起きれんの?」
「起きた……?それじゃあ、今まで眠っていたのって単純に身体を動かす魔力が足りてなかっただけなのか?」
「ええ〜……何そのしょうもない理由。あんだけ頑張ってた人たちの努力がふいになったみたいじゃないか。正直不甲斐ない気持ちで一杯だぞ」
「まあ、故障していたというわけではないと分かっただけ良かったんじゃない?やっぱり何もないのが一番なんだし」
「そりゃまあ、そうなんだけどさ……やっぱり思うところはあるわけじゃん」
「マス、ター……?」
「うん?俺はお前のマスターじゃないぞ。どちらかといえば、お前のマスターだった奴を殺した人間だ」
「ふえ?で、でもマスターが私を起こしてくれたんだよね?そうじゃなきゃ私が起きている訳がないんだから……」
「ああ……一つ聞きたいんだけどさ。お前ってユニゾンデバイスとやらなんだろ?それだったらリンカーコアから放出された魔力でないとダメなんじゃないのか?」
「確かに私はユニゾンデバイスだけど、魔術師とユニゾンするために生みだされたデバイスだから必ずしもリンカーコアから放出された魔力である必要はないんだよ。確かにそっちでもいいけど、私を起こすのに必要なのは魔力の親和性なんだよ。その点でマスターはすごいんだよ。大まかに見積もっても90%以上、細かく見ると……93.6%。凄すぎなんだよ」
「んな事言われてもな……って、クラウス。お前はまたか、みたいな顔をするな。規格外みたいな事を言いたいんだろうけど、魔力の親和性なんて俺がどうこう出来る物じゃないんだからしょうがないだろ?」
「それは分かっているよ。でもさ、正直これはちょっと……出来すぎてるんじゃない?」
そこはあれだ、神様のご都合主義が発動してるんだ。大体、俺は魔力を流しただけなのになんでここまでいじめられねばならんのだ。理不尽に尽きるだろう。そもそもリンカーコアなしでユニゾン出来るデバイスってなんだよ。デバイスを作ってる奴が泣くぞ。
「と言っても、一応私は二つで一つのデバイスなんだよ。だから、現段階ではユニゾンしてもたいして旨みは無いんだよ。……前のマスターは魔力の操作が全然出来なかったから、私がいろんなサポートが出来たんだけどマスターはその心配はなさそうだし」
「二対で一個のデバイスね……カドゥケウスかお前は」
「カドゥケウス?なんなんだい?それは。まあ、今の言いようから少しはわかったけど」
「端的に言うなら、双頭の蛇。二つ首があってようやく一つの存在になれる。だからこそ、
「魔法の杖……まあ、私も神話の中でなら杖と呼ばれたりもするんだけど、私の対は杖じゃなくて剣なんだよ。それ単体じゃ危なすぎる代物」
「……お前の神話ってさ、やっぱり北欧神話なのか?
「うん、そうだよ。マスターは大分博識だね。ちなみに私の対は災厄の魔導砲と呼ばれた……」
「レーヴァテインか……またけったいな物を用意したもんだ。世界の全てを焼き尽くす力をもった武器。形には諸説あるがな」
「……ちょっと待ってくれ。今、レーヴァテインと言ったか?しかもその形状は剣だと言ったか?」
「言ったが……どうしたんだよ、クラウス。いきなり顔を青ざめさせて。そんなに調子が悪いなら早く戻った方が良いんじゃないのか?」
「……いや、その名前にすごく聞き覚えがあってな。『人喰らいの魔剣』という異名があるほどに凶暴な剣だ。その剣を持った者は、短命に終わるとか……」
俺とサクラが視線を合わせた後にもう一度クラウスの方を向くと、嘘ではないらしく力強く首を縦に振っていた。『人喰らいの魔剣』ね……けったいな名前だことだ。短命に終わるという点から見て、生命力でも吸ってんのか?
「まあ、いいか。クラウス、それがおいてある場所に案内してくれよ」
「……人の話を聞いていたか?あんな危険物の塊のような物の所為で友が死んだとあっては、私は自分を許せなくなる。頼むから、ここは私の顔を立ててくれ」
「んーっと……らしいが、それでもお前は欲しいのか?正直な話、俺は確かに剣を使いこなせるしクラウスが挙げていた問題も何とかできる。でも俺は友の頼みを断わりたくないんだが」
「それでも、だよマスター。いつまでもこの状態のままでいたくないんだよ。支えきれずにいざという時があったらと思うと……もう嫌なんだよ!」
「……しょうがない、か。悪いな、クラウス。俺はどうやら今回ばかりはお前の頼みを聞けないみたいだ」
「なっ!待ってくれ、一誠!」
そのレーヴァテインとやらが何処にあるのか、それはサクラを通じて逆探知すれば分かる。後は魔法を邪魔されなければいい。魔術師が詠唱するのは、魔法をより強固な形で発動する為だ。無詠唱でも不可能ではないのだ。着地点が多少ずれはするが。サクラの体を掴んで一気に跳んだ。
「さて、と……。ここは、宝物庫か。まあ、封印指定されそうな代物だしな。仕方ないんだろう。……あれか?」
「え?何処?全然見えないんだよ。って言うか、どうしてマスターは見えてるの?こんなに真っ暗なのに」
宝物庫の中は閉めきっているから真っ暗なのだが、俺の目では特に問題はない。空気中に滞在する魔力から大まかな広さを把握し、そして一際大きな魔力をしている物を指差しただけだ。まあ、龍の眼に変えれば暗くても関係ないし。
「本当にあった……一体マスターの眼ってどうなってるの?というか、マスターは魔術師なの?この世界には魔術体系の存在はないはずなのに……」
「いちいち質問が多いな。そんな事は後回しで良いだろうが。それで?この後どうするんだよ」
「それじゃあまずは
「短命に終わる、ね……。まあ、いいか。あい分かった。っと?」
寿命などとは縁遠い存在である俺に言われてもな、とは思うが無理に心配をかける必要はないだろ。そう思いながら、鎖に触ると急に動きだし身体中を縛りだした。別段苦しくはないんだが……こそばゆいな。
「なるほどな。これでその剣を縛りつけるという事か。問題があるとしたらこそばゆい所ぐらいだな。後ちょっと動きにくい」
「……え?マスター、息苦しくなったりはしないの?
「この程度の枷が?そうそう騒ぐ必要も感じないよ。元々、手加減しながら動いてたんだ。それから少し自主的な手加減が減っただけだろう」
「マスターってどれだけ規格外なの?というか、マスターが本当に人間が怪しくなってきたよ」
「……そりゃそうさ。なんたって俺は……化け物なんだから」
「え?」
「……なんでもない。次はこの剣を持てばいいのか?それとも他にまだ何か手順が必要なのか?」
「え、あ、ううん。その剣にーーーーレーヴァテインを持てば、儀式は終了だよ。と言っても、マスターを試したりするかもしれないけど」
「え、なにそれ。おもいっきり初耳なんだけど。……気にするほどでもないか、その程度なら」
一切の躊躇いなく、迷いもなく、考え込む事もなく、俺が剣を抜きはなった瞬間とほぼ同時だった。クラウスとオリヴィエ殿下、それにリッドがが入ってきたのは。そして剣を抜いた瞬間、レーヴァテインから超高熱ーーーー大体2、3000度程度だろうか?の炎が俺の身を包んだ。熱くはあるが問題にするほどじゃないな。
「おい、魔剣。こんなもんが試練かよ?くっだらないにもほどがあるぞ。この程度で世界を焼き尽くすだって?無理だよ。俺すらも焼き尽くせないお前に何ができる?」
魔剣から何か驚いたような気配を感じながら、内部で作られ続けている天使の力を叩きつけ炎を一気に沈静化させ、さらに部屋の炎も丸ごと吹き飛ばした。
「……サクラ、試練ってこんなもんか?まあ、確かに恐れるほどでもなかったがあんな風になるなら先に言っておけよ」
「え、あ、その……」
「お前が俺に心を許してないのは分かっているさ。でもな、それなら俺をマスターと呼ぶんじゃない。憎いなら憎み通せ。俺はそんなお前の事だって受け入れるから。な?」
「う、うう……ごめんなさい、マスター。ごめんなさい」
「もう良いよ。……悪いな、クラウス。お前を騙すみたいな真似しちまって」
「それもあるが、言いたい事がまだあるからさっさとこっちに来い」
サクラを抱きしめながら、近づくと殴られた。おそらく全力で。避けることも出来たけど、甘んじて受けた。少し唇を切ったみたいだけど問題ないだろ。
「お前には私がそんなに不甲斐ないのか!?私はお前の友だ。できる限り力になりたいと思っている!そんな私の心を無視するな!本当に困っているなら、こんな無理矢理じゃなくてちゃんと相談しろ!」
そう言われて正直、雷が迸った気分だった。だって俺にとって他人とは頼る対象ではなかったから。俺にとって他人とは、ただ畏敬や畏怖の念を抱き俺を忌み嫌う者だったから。
「ああ……済まなかった。これからは気をつけるよ」
「ああ、ぜひそうしてくれ。それと、その剣をさっさとしまえ!危ないだろう!」
最後は締まりが無かったけど、まあこれもご愛嬌ということで。