翌日、聖王家から送られてきた人たちと共に向かっているとたくさんの軍勢がこちらに向かってきた。シュトゥラ国の者もちらほらと見える。
そうだ。俺は賭けに勝った。そうだよ、お前が来ないと意味がないんだからさっさとこの場所に来いよ、クラウス。ヒーローがいなきゃ意味がないんだ。
「……お願いしますね、イッセー。私も契約は確かに守りますので」
「分かってますって。……さてと、
馬車から出た俺の足元から数千度の焔が姿を現し、前方に放射状に広がっていく。靴に仕込んでおいた大規模殲滅魔術を発動しただけだが、とんでもない威力だな。
「此処に、灼熱の世界は姿を現し全てを燃やし尽くすーーーー
一瞬で世界は戦場に変わる。死体を残すなどという事はしない。せめてもの慈悲だ。一瞬で全てを焼き尽くし、痛みも苦しみもなく殺し尽くしてやる。心が痛まないのかと聞かれれば、否と答えるだろう。あの中には顔見知りの者もいたんだ。でも、なさねばならない。そのために容赦はしない。徹底的に……潰す。
「この程度で足踏みしているようなら、その程度だという事だ。さあ、お前はどうするんだ?」
焔など気にも止めずに突っ込んできたのは、なんと2人だった。クラウスと……あれは誰だ?どうやら2人は知り合いらしく、要所要所に設置した魔術をかわしてくる。
「一誠!これは一体どういう事なんだ!君はオリヴィエを止めるのに賛成じゃなかったのか!?」
「……お前は動くのが遅い。今の俺はオリヴィエの味方だ。それで……そこのお嬢さんはどなたか教えてくれないか?クラウス」
「……イクスヴェリアだよ。名前ぐらいは聞き覚えがあるだろう?それと、そこをどいてくれ。僕たちはオリヴィエに話があるんだ」
「ふぅん。君があの……まあ、それはいいか。それとクラウス、どけだって?今の俺はオリヴィエの味方だと言っただろうが。……話がしたければ、俺を倒していくんだな」
「一誠!僕は君と敵対したい訳じゃない!ただオリヴィエを止めたいだけなんだ!それなのに僕たちが争う理由なんてないだろう!?」
「初めまして、ですね?赤龍帝兵藤一誠殿。……クラウス、これ以上は無意味です。兵藤殿はここから先は自分に勝って進めと言っているんです。ならば、その言葉に従う他ありません」
「おやおや、イクスヴェリア様の方が現実を認識しているようだ。……確かにその通り。ここから先に進みたければ、俺を倒せ。
クラウス。お前には
「そのために、そんな事のためだけに、あれだけの数の人々を殺したのか?たった、それだけのために……!」
「……いつまでもあまちゃんな寝言をほざいてんじゃねえよ。元々、俺はお前以外に用はなかった。イクスヴェリア様がここまで来られたのは、少々驚いたがまだ誤差の範囲内だ。
必要以上の人間にいてもらっては困るんだよ。お前の相手をしながら他の奴らの相手を出来るほど、俺は万能じゃないからな」
「マスター……もうこれ以上は堂々巡りなんだよ。それにちょっとマスターには似合わないんだよ」
「お前、何気にひどいな。……まあ、その通りだな。これ以上は拳で語り合おうじゃないか。2人同時に相手をしてやるよ。来な」
サクラとユニゾンし、天使の力で創り上げた手甲・脚甲をまとい戦闘準備を整えた。クラウスもイクスヴェリアも構えた。そして、どちらからともなく戦闘は始まった。
拳を交わし、魔法が飛び交う。イクスヴェリアはてっきり後衛型なのかと思っていたら、前衛でも思いっきり動けていた。これは思っても見なかった誤算だな。まだ何とかなるが、長引くとキツイな。
この当時、俺は
「チィッ!侮っていた訳じゃないんだが……これは中々にまずい状況だな。短期決戦は必須か」
脚甲のテレズマを炸裂させ、爆発的な速度でイクスヴェリアに近づくと今まで以上に身体強化させて拳と蹴りを叩き込んでいく。気絶したのを認識すると直ぐに止めたが、身体はやはり傷だらけだったので回復術式で傷だけを治す。
「……このフェミニストめ」
「やかましいぞ。しっかし、お前も粘るな。さっさと倒されて楽になれよ!」
「冗談言わないでくれ。僕はこの想いを、オリヴィエに伝えなくてはならない。だからこそーーーー勝つのは僕だ!君はそれを後ろから見ていればいい!」
「はっ。何を言ってんだか。俺はオリヴィエとの契約を守るって決めてんだよ。だからこそーーーー勝つのは俺だ!遅すぎる自分に後悔でもしていろ!」
この瞬間、俺たちは確かな生を実感していた。焼けるような熱さが、全身に刻まれている痛みが、悪態をつく相手がいる事が、その全てがこの身体に生きている事を実感させる。されど、そんな時も永遠に続くわけではない。
双方ともに拳を喰らい、一度距離をとった。おそらく両方とも攻撃できる回数は後一度きりだろう。それはクラウスも理解している事だろう。だからこそ取る選択肢は立った一つだけーーーー全力での一撃必殺!
「行くぞ、クラウス。俺はこの一撃に全てを賭ける。こいつを耐えきれればお前の勝ちだろうが……お前もそんな事は考えてないだろ?」
「当然だ。僕だってそんな真似はしない。この一撃に全てを賭けるとしようじゃないか。文字通り、全身全霊の全力でね」
唇の端が上がってくる。ああ、楽しい。ここまで激しく接戦な戦いなんて何時以来だろうか?間違いなく今まで戦ってきた中でも、五指に入るレベルの戦いだな。
「そう言えば、クラウス知ってるか?ここは、俺とお前が最初に出会った場所なんだぜ?」
「ああ、そう言えば……懐かしいね。ここで出会ったのはそう昔の事じゃないのに、とても懐かしく感じるよ」
「最初で最後の場所だ。せいぜい力を尽くそうじゃないか。この命ある限り、力を振り絞って勝ってやるよ!」
身体からまだこんなにあったのかと思えるくらいの魔力が溢れてくる。ただこの一撃に全てを賭けて相手を打倒する。それだけを支えにして力を集め続ける。クラウスもまるでそれに応えるかのように魔力を右腕に収束させ続ける。
「「行くぞォォォォォォォォォッ!」」
俺は一撃に速度を求めた。速く、もっともっともっと速くなれ。全てを置き去ってなお足らず、自分が全ての頂点にいるかのように、全てを蹴散らす。
クラウスは一撃に威力を求めた。強く、もっともっともっと強くなれ。ありとあらゆる全ての者を打倒しうる力をここに。今出せないのなら、意味などない。全てを振り絞り我が敵を打倒しろ。
それぞれの想いを込められた拳は確かに当たった。そして幾ばくかの時が過ぎた時、そこに立っていたのはーーーー