立っていたのはーーーークラウスだった。俺の一撃はクラウスを確かに捉えた。だが、クラウスは左腕を代償に防ぎきり隙だらけだった俺の鳩尾目掛けて『覇王断空拳』を直撃させた。
「カハッ!……流石だ。流石だよクラウス。お前は俺に勝った。力の権化に勝ったんだ。これでお前はお前の望みを叶えに行けるーーーーが、そのまんまじゃ意味ないだろ」
残った塵みたいな魔力でクラウスの傷だらけの身体を治す。空気中に漂う魔力も使用して全快の状態に近づける。そしてその作業を終えると同時に、腕が落ちた。
「行けよ親友。俺にはその資格がない。それでも、お前は、お前にはまだオリヴィエを止める資格があるんだ。俺に成せなかった事をお前が成せよ」
「……分かったよ、親友。これが終わったらまた皆で語り合おう。それじゃあ、行ってくる」
クラウスはそう言うと、オリヴィエの下に駆けて行った。また、か……。本当にそれが出来ればどれだけ嬉しいだろうか。
「悪いな、親友。俺の身体はこれ以上は持たないんだよ」
時々満ちる刻の箱舟の使用者の肉体は本人の魔力によって保たれる。つまり魔力がもう欠片も残っちゃいないこの身体はこれ以上保つ事が出来ない。俺の身体が少しづつ粒子になっていくのを感じる。少しづつ自分が消えていく感触を味わっているところに現れたのはーーーーリッドだった。
「……よお、リッド。まさかお前が来るとは思わなかったよ。一体どういう心境の変化だ?」
「……どういう事?その死に方は普通の死に方じゃない。イッセー、あなたは一体……?」
「……お前だってさ、薄々気がついてたんじゃねえの?俺の考え方っつうか思考がさ、大凡この世界のこの時代の物じゃないってさ。それが答えだよ」
ーーーー俺はこの時代の、この世界の人間じゃない。そう言うのは憚られた。いや、そうじゃない。はっきりと答えを出すのが嫌だった。まるで今まで築き上げてきた何かが崩されてしまうようで、嫌だった。
リッドは黙って俺のそばに座りこんだ。少し視線を向けてみると、クラウスとオリヴィエが戦っていた。やはりと言うべきか、話し合いは決裂したようだな。まあ、これ以上は関われないからどうしようもないのだが。
「……ねえ、イッセー。あなたがどの時代の人だろうと構わない。そんな事よりも、聞かせて欲しいーーーーあなたはこの時代に来て良かったと思う?」
「…………」
「答えてよ。どうだったの?別にどんな答えでも怒ったりはしないから」
「……そうさな。初めてこの世界に来て、クラウスと出会って、その伝手でオリヴィエとお前と知り合って楽しかったよ。そして失う事も味わった。
ああ、これは断言できる。俺がこの世界で過ごした時間は決して無駄ではなかった。この絆は、この想いは、俺の糧になっているよ。ーーーー幸せだった、と。自信をもって言えるさ」
「そっか……。それならいいや」
そう言ったリッドの眼からは涙が流れていた。それを見た俺の心は震えた。まだ言ってないことがあるだろう。まだ、まだ言わなくちゃいけない事があるだろう。その俺自身、自覚していなかった感情が
「リッド、悪いんだがもう少し近付いてくれるか?今身体があんまり動かなくってな」
しょうがないな、という表情を浮かべながら近づいて来たリッドにキスをした。頬とかじゃなくて、マウストゥマウス。驚いて離れようとしたリッドに言葉を紡ぐ。
「お前には迷惑かもしれない。それでもやっぱりこれを言わなくちゃ、俺は行けない。だからつむがせてもらう。
ーーーーお前を愛している。過去でも未来でもなく、今この瞬間のヴィルフリッド・エレミアを愛している」
「ーーーーッ!」
顔が赤くなっていくのを感じる。リッドの顔も赤くなっているのが分かる。それでも偽りのないこの感情を、想いを紡がないと、俺は行けない。たとえそれがどんなに辛い事だと分かっていても。
「……ど、どうして今そんな事を言うの!どちらにしても、そんなの辛いだけじゃない……」
「分かってる。それでも言わずには行けない。この想いは本物なんだと、俺は自信をもって言えるんだから。お前がどう思ってるか分かんないけどな」
「……ハァ。しょうがないな。イッセーも覚悟をもって言ったんだから、私もそれに答えるとしましょう。
ーーーー私、ヴィルフリッド・エレミアは兵藤一誠の事を愛しています」
そうしてもう一度キスを交わし、それを境に俺の身体が消えていく速度が速くなった。俺たちは抱き締めあったまま、倒れこんだ。最後の瞬間までお互いを感じていたかったから。
「これは別れだけど、別れじゃない。魂は永遠だ。いずれお前ともクラウスとも、オリヴィエとだって再開出来るさ。それまでの別れだ」
「そうであればいいけど。私としては、この時間が永劫続けばいいのにと思うよ。死ねばそれまで。次なんかないんだから」
「それを実証するために、あの賭けがあるんだろ?だからこそ、今はこう告げよう」
「「
その言葉を区切りに、俺の身体はベルカの大地から完全に消え去った。微かな温もりと確かな愛情を、最愛の人に刻みながら。こうして赤龍帝兵藤一誠は消えた。だが、その残した跡は未来に結ばれる事になるが、それはまた別の話。