翌日、俺はまた月村邸を訪れた。今は一月なのでまだ冬休みという物らしい。学校に行っていない俺にはどうでも良い事だが、長期休みの中でも極端に短いらしい。
まあ、そんな事はどうでも良いんだが。当主である月村忍さんに頼まれ、妹の月村すずかに魔法を教えに来たわけだが……
「なんでこんなにいるんだよ……話が違うんじゃありませんか?忍さん」
「あら?別に出来ない訳じゃないんでしょう?それなら多少数が増えたって問題じゃないでしょ?」
「ほほう……。あれを多少と仰いますか?明らかに増えてますよね?魔導士組もいるし、意味が分からないんですが?此処で明かされた技術を彼女たちが任務中に使うなら、俺は帰らせていただきますが」
そう、来てみた月村邸には月村すずか以外に高町なのは、フェイト・テスタロッサ、八神はやて、シエナ・K・ティエト、アリサ・バニングス、アリシア・テスタロッサがいた。増えすぎだろう、何処からどう見ても。
まあ、多分話した時に彼女たちが近くにいただけだろう。そりゃあ教えても減るもんじゃないが、面倒なんだよな……。まあ、2人を先導して教えさせれば良いか。
「はい、本日の講師役の兵藤一誠です。なんでこんなにいるのかは知りませんが……皆さんに確約していただきたい事があります」
「はい、質問です!確約して欲しい事ってなんですか?」
「それを今から言うから黙っていてください。それはーーーー自衛以外での行使と情報の開示を禁じます。もし、これらが守れなかった場合貴女たちの記憶から魔法に関する物を消します」
「どうやって消すんですか?やっぱりそれも魔法なんですか?」
「まあ、魔法でも出来ますけど……強烈なトラウマとか、行為とか、やれる方法はたくさんありますよ?どれを取るのかは、俺次第ですけど」
「……行為って、その、なんですか?」
「味わってみたいですか?とんでもない事になるのはほぼ間違いないと言っても、まったく過言ではありませんが」
まあ、そもそも弟子を取ったことがないからそんな事態には至ったことはないし。この年ごろの子供が味わうにはとんでもないものであることに間違いはないだろうが、ね。
「……まあ、今はそんな事はどうでもいいでしょうね。それで、何故はやてとティエトさんがいるのか聞きましょうか?」
「うちは前やってた授業の続きをしてもらおうと思っただけやで?一誠くん、途中で終わっとること忘れとるやろ?」
「お父さん以外の話を聞いてみるのも悪くはないと思って来ました。何か問題があるようなら帰りますけど……?」
「問題云々の話ではないです。はやては……まあいいか。それじゃあ、2人は少なくとも残り5人よりは知ってるから教える側にまわってもらう。疑問などその他は後で受けつける」
「は〜い、分かったわ」
「分かりました。よろしくお願いします」
「それで魔導士組に聞きたいんだけど……そっちの魔力収束ってどうなってんの?空気中の魔力素を集めてる、って聞いたんだけど本当なのか?」
「そ、そうですけど……何か問題でもあるんですか?」
「まあ、問題と言えば問題だろうな。お前らのやり方はとある1を別の1に変えているだけだ。負担もあるし、何より俺としては面倒なんだよな……」
魔法使い、というよりも俺は術式に空気中の魔力と己の魔力を掛け算方式で使う。1を別の1に変えるだけというのは非効率だし、時間がかかる。俺の戦闘は早さが大事だから、そんな面倒くさい事はしていられない。
「まあ、君のバトルスタイルなら問題はないか。……使いすぎなければ、の話だがな」
「使いすぎたらどうなるって言うんですか?」
「さっきも言っただろう?負担がある、と。あんな収束魔法を連発していれば、負担があるに決まってる。特に成長段階の今はな。まあ、下手を打てば敵の不意打ちをくらって良ければ重傷、悪くて死亡だろうな」
まあ、そこまでの段階になった奴を俺は見たことがないが。と言っておいたが。こうやって釘を刺しておかないと、高町は絶対にそうなる事は間違いない。他人のために自分の身を顧みないタイプだろうからな、こいつは。俺が言えた義理ではないが。
「話が逸れすぎたな。授業に戻るとしよう。と言っても、この授業ではまず魔力の流れを把握してもらう事から始めてもらう。それがないと……」
「あ、それならもう皆出せるようになっとるで?」
「なんだと?……ああ、お前がやっておいたのか。そして出してもらったところ悪いが、高町、テスタロッサ妹。お前らのそれは俺が言うところの魔力ではない」
「「え!?」」
「お前らのそれはリンカーコアから出している物であって、身体から流れているオーラから集めた物ではない。……というか、こんなに短時間で出せる他の連中がおかしいだけだから、そんなに落ち込むな。どれだけ才能があっても普通、この作業だけで半日は潰れると思ってたから」
「そら、昨日から練習しとったからなぁ〜。出来るようにもなっとるやろ」
「……昨日から?そんな早くからやってたのか?俺が教えるって言ったって、俺は特に大した事はしないぞ。精々魔力弾の作り方と魔法の術式の作り方ぐらいだよ」
「それは大した事やと思うんやけど……何でそんなにやる気無くなっとるん?」
「この段階で諦めてくれたら楽だったのにな。魔法使いなんて碌な奴いないってのに、なんでそんなに熱心になるのかね。殺し殺されなんてよくある話だぜ?」
「あの……ちょっと良いですか?」
「うん?なんですか?月村さん。何か問題でもありましたか?」
「はやてちゃんと随分仲が良いみたいですけど……2人の関係ってなんなんですか?」
「何って……良い友人だと思っていますが、それがどうかしましたか?」
「それじゃあ、私は?」
「……教師と生徒では?と言うより、これは一体何の質問なんですか?」
俺がそう言うと、心なしか月村さんがしょぼくれていた。何か問題でもあったんだろうか?友人という定義が曖昧な俺にとって、友人なんてそんなにいないんだが……もしかして。
「それなら月村さんが俺の友人になってくださいますか?俺は全然構いませんが」
「え?……良いんですか?」
「この程度で怒るような程度の低い甲斐性は持っていないつもりなんですがね。それとも俺では不満でしょうか?」
「い、いえ!決してそんな事は!ないですよ?本当ですよ?」
「くっくっく……それで俺はなんと呼べばいいんですかね?すずかさんと呼べば良いんですか?なにぶんそんなに友達がいないものでね。その辺はよく分かってないんですよ」
誰かが慌てふためく姿っていうのは、中々どうして可愛いものじゃないか。まあ、誰も彼もが美少女しかいないしな。此処には。その所為も有るのかもしれないけど。はやても意地悪く何も言わないしな。
「お兄〜さん、私の友達にもなってくれる?なってくれたら嬉しいな」
「別に良いけど?何処かから雷が飛んでくる可能性があるけど……まあ、今更だな。気にするほどでもないだろ」
後ろから抱きついて来たのは、テスタロッサ姉だった。多少驚きはしたが、まあこんな奴だったなと思い気にしなかったが周りの女子勢がむっ、とこちらを睨んできていた。
「一誠さん、どうしてアリシアちゃんを振りほどこうとしないんですか?」
「何を苛々しているのか知らないが、少し落ち着け。俺が力を出して振り回したらこいつ、えらい勢いで何処かに吹っ飛ぶぞ?それに抱きついてくるぐらい、何か問題が有る事なのか?」
セラさんやガブリエルさんなんか俺によく抱きついてきたり、抱きしめてきたりするけどな。正直な話、あれはたまに苦しかったりするから止めて欲しい時が有るんだよな。
でもこのままだと、授業にならないな。既に手遅れのような気がしないでもないが、このまま放置していい理由にはならないだろ。少し腕を指で突き拘束を緩めて抜け出した。
「さて、それでは次のステップに移るとしましょう。魔力の変化をしてみましょう。まあ、皆さんは最初ですから媒介を用いますが、慣れればここまで出来るようになる事でしょう」
左手に赤い魔力球を作り出し、炎を出したり、氷、雷、水と様々な属性を発生させた。それを見ていた皆はほうけていたが、俺が左手を握り魔力を消し潰すとはっ、となって意識を取り戻した。俺は人数分の水の入ったコップを用意してテーブルに置いた。
「それじゃあ、これを使って授業をしていきます。……必要なのはイメージです。この水をどう扱いたいか、それを考えながら魔力を使わないと碌な事になりません。それでは、頑張ってください」
「「「「「はい!」」」」」
よし、とりあえずこの5人はこれで良いだろう。あの2人は……なんかしょぼくれてるし。一体何がしたいんだ?こんな力、あの2人は特に必要ないと思うんだが。まあ、それははやても同じなんだが。
「何をしてるんだ?君たちは」
「あ……兵藤さん。あの魔力球を作るコツってないんですか?」
「コツ、コツねぇ……君たちはどういう気持ちでこの授業に参加してるの?正直な話、君たちがこの授業にいる必要性は皆無だと思うんだが」
「それは……」
「言っておくけど、皆が参加してるからなんていう理由は止めてくれよ?そんな適当な気持ちなら、君たちは力を持つべきじゃない。それに求めて努力した者にしか力は手に入らない。そんな理由なら使えなくて当然だ」
「……この力があれば、もっとたくさんの人を救えるかもしれないじゃないですか。あの時、母さんと姉さんとさようならをしなくちゃいけなかったかもしれない。
助けられなかった時に、力が足りなかったからなんて言い訳をしたくないんです!だから、私は……!」
「そう……それじゃあ君はどうなんだい?高町なのは。君の力を欲する理由って何?」
「私は諦めたくない。私の魔法で苦しんでいる人たちを助けたい。そんな時にこの力が役に立ったら、って思って……」
なんて言うか、馬鹿だな。この2人は。一生懸命なんだろうが、なんでも1人でこなそうとする。俺じゃないんだから、頼れる人ぐらいいるだろうに。人とは文字通り支えあって生きていく者のことだ。1人でやってどうするというのだろうか?
「まったく……潔い有様だな。間違ってるとはいえ、だが。2人とも手を出せ」
2人が出した手を掴み、魔力を流しこみオーラを操作してより魔力球を出しやすい状態にする。はっきり言って、これは普通に流しこまれるよりもはるかに気持ち悪いだろうな。なんせ直接操作されるんだから。気分はマリオネットって感じかな?
「はい、これで良し。……もう出せるだろ?」
「これが……」
「キレイ……」
リンカーコアから放出される魔力よりも鮮明に、濃く力を放出していた。魔力の濃度が高い所為だろう。普通はここまで濃くならないしな。ここは化け物みたいな才覚の塊だな。正直な話、あり得ない。悪魔にばれたら眷族にされる事間違いなしだな。秘密にしておこう。
「一誠く〜ん、これでええ?」
はやてに声を掛けられて後ろを向くと、凄い大きさの……不格好だが鳥がいた。そして周りの皆の空っぽになったコップ……という事は。
「……何を皆の分の水も使ってんだよ!それじゃあ、修行にならんだろうが!」
「あ、あははは……はやてちゃんの干渉力に負けちゃった。それにしても、はやてちゃん凄いね。もうこんなに魔力を使いこなしてるなんて」
「うん、驚き。多分、お父さんならこれぐらい出来るかもしれないけど今の私じゃ到底出来そうにない……あ」
「ああー!ちょっと、一誠くん!うちの作った力作を壊さんといてや!」
「ああん?これが力作?笑わせんな!大体、やりたきゃ自分の家でやれよ。あとな、力作ってのは……こんな感じだよ」
水で出来た鳥はその形を崩し、とぐろを巻く東洋の竜の形になった。見よう見まねだけど、やろうと思えば出来るもんなんだな。
「おお……中々格好いいな!って言うか、あんだけしかなかったのにどうしてここまで大きいもんが出来んの?」
「そんなもん決まってんだろ。ーーーー空気中の水分を凍らせたからに決まってるだろ」
「なっ!ズルい!ズルすぎるやろそれは!」
「授業用の水で遊んでいるお前からそんな事を言われる云われはない。さてと、こう分割して……」
新たにコップを2個取り出すと、はやての分を除いた全部のコップに注ぐ。そして後ろにいる2人に渡す。
「ほら、頑張れよ。自分の意思を貫く事は簡単じゃない。それなら頑張るしかないんだ。精々諦めない事だな」
「「はい!頑張ります!」」
「その息だ。諦めんなよ。応援だけはしておくからさ」
こうして最初の一日は皆で水を操作して遊んでいた。そこそこ難しいけど、自分の思ったとおりに動かせた時の感動を味わいながらやっていた所為か、終わる頃には皆笑顔だった。まあ面倒だけど……次もやってみようかな。そう思える光景だった。
まあ、はやての悪ふざけがなければもっと良かったんだけどな!