拳と蹴りがぶつかる。相手の魔力での強化が強すぎてむしろこっちの方が吹き飛ばされる。若干九歳ぐらいの女の子に身体だけとはいえ、十六歳が吹き飛ばされるというのはどうなんだろうか?
「いやはや、こいつは予想以上だな。まさかそこまで強いとは驚いたね」
「私は近づく者すべてを壊してしまう……。だからお願いです。私に近づかないでください。……私はもう誰も壊したくない」
「……舐められたものだね。この程度で?この程度で俺が壊れるだって?そんな訳ないだろ。君には家族がいるんだろ?それならどうしてそいつらを信じてやろうとしないんだよ!」
「もう親しい者を壊したくない……。だからお願い。私に近づかないで」
「そればっかりかよ……。まあ、止めてと言われても止める気なんかないがな。せいぜい抗わせてもらう。手加減が許されるような状況でもなさそうだしな」
魔力弾の大量精製。もう数えるのも馬鹿らしくなる程の数の魔力弾がある。しかもご丁寧に一発一発の威力だけで制限付きとはいえ、障壁を突破出来そうなレベルの数だ。シャレにならねえ。
「おいおい……一体君は何を持ってるって言うんだよ?明らかに人が持てる魔力量じゃないぞ。それはもう人外の領域だ」
「無限結晶イグザミア……闇の書の本当の闇である私が持つ無限魔力精製機関。だからこそ、私はこう呼ばれるんですーーーーUnbreakabl Darkness、砕けえぬ闇と……」
「けったいな名前だな。……それで?それがなんだって?俺だって力の権化、赤龍帝だ。化け物みたいなもんだ。それでも俺は生きている。君にだって頼れる奴がいるだろ?まずはそいつらを頼ってみろよ!そういうことは、失敗した後にほざけ!」
魔力弾に魔力弾を正確にぶつけているが、相殺どころか逸らすだけで精一杯。やっぱりこういう時に枷ってのはうっとうしいもんだな。邪魔くさくってしょうがないんだよ、な!
逸らした物ですら身体に当たりはじめた。光輝の鎧は
赤龍帝としての力を使っている間は、サクラのサポート無しに大量の魔力弾を自分で作り出すことが出来ない。術式を使えば話は別だが、それだとそこに縛りつけられるため意味がない。
「元々空中戦闘は得意じゃないってのに……どうする?」
俺が空中戦闘が得意じゃないのは、単に飛ぶ事が滅多にないからだ。飛ぶことに利点がないと言ってもいい。何故なら大抵の人外の領域にいる奴らは飛べる。だから空中に上がっても利点など無いに等しい。
それに空中だと四方八方に気をつけなきゃならないから面倒、という理由もある。それなら地上で戦った方が戦いやすいからそっち方面で戦ってきた。だからあまり空中戦闘の経験がない。それはこと実力が拮抗した相手に対してはマズいと言わざるをえない。
「ここは退いた方が良いのか……?いや、そんなことを言っている暇もなさそうだな。……しゃあない。めちゃくちゃ痛いから俺自身の手じゃやりたくないんだが、しょうがない」
鎖が軋みをあげる。俺自身を縛りつける枷が壊されまいと抵抗するかのように、溢れ出さんとする力を縛りつけようとする。されど溢れる力に対抗しきれず、2、3本の鎖が粉々に砕け散る。それと同時に力が溢れてくる。その力の大きさに多少目眩がするが……戦闘に支障が出るレベルじゃない。
「チッ……やっぱり痛いな、こんちくしょうが!」
無理矢理枷を外すんだ。もちろん反動ーーーー痛みも返ってくる。その痛みが半端じゃなく痛い。例えるなら、身体が引き裂かれた挙句その傷に熱した棒で殴られる感じ。つまりすごく痛い。
とはいえ、大抵の痛みはグレートレッドの攻撃に比べればマシだ。あいつの腕の一凪ぎを食らえば、冗談じゃなく身体が粉々にされるような痛みに襲われる。掠っただけでもトラックに跳ね飛ばされるぐらいの衝撃がある。
「そんなことをぐちぐちと言っているような暇はないしな……取り敢えず三段階解放。徐々に封印を解放していくしかない。一気に三分の一も解放したせいか、身体の反応が鈍い……!」
防御力は増したけど、これはこれでまた致命的にヤバい。一分一秒が重要な俺の戦闘スタイルから言って、神経の伝達の低下はあまり起きて欲しくないことの一つだ。事実、魔力弾を捌けるようにはなったが痛みの余り普段通りの動きが出来ない。
『相棒、ここは引くべきだ。ちょっかいを出さなければあの娘も攻撃してはこないだろう。今の状態で戦っても相棒の勝てる可能性は低い』
「そりゃ分かってるけどよ!放っておくなんてしたくないだろうが!」
昔のよしみもあるけど、あんな今にも潰れちまいそうな娘を放っておけばどうなっちまうか見当もつかない。でも、ドライグの言うことももっともだ。俺はどうすれば……!
「……仕方が無い。一度退こう。体勢を立て直す。でもな、ユーリちゃん。ーーーー俺はお前を絶対に救う。それだけは覚えておいてくれ」
障壁で攻撃を防ぎつつ、取り敢えず海鳴の方面に転移した。そして落ちるように海辺の砂浜に落ちた。痛みに耐えつつ、魔力を回復している最中に誰かが来た。なんでこいつ、まだ此処にいるんだ?
「何か用でもあるのかよ?あんたがまだ此処に残っているとは思わなかったぜーーーーアザゼル」
「まあ、それはいいじゃねえか。しっかしまたこっぴどくやられたもんだな。そんなに強かったのか?お前の相手はよ」
「確かに強いけど、俺がこんな状態でいるのは半分自業自得だよ。無理をしすぎたし、何より相手の実力をちゃんと把握しきれてなかった」
「そうか。……さてと、俺も用事があるんだ。お前もどうせ今は碌に戦えやしないだろう?ついて来いよ、損はさせねえからよ」
「どうせ拒否ったって連れて行くくせによく言う。……それで?一体どこに行くつもりなんだよ?」
「管理局の次元航空艦アースラだよ。いや〜宇宙に行くなんてよく考えたら初めてだからな。楽しみだぜ」
「おい待て、俺は絶対に行かないぞ!なんであんな場所に」
「だがもう遅い。それじゃ、行くぞ〜」
抵抗しようとした時には、もう時すでに遅く転移の光に包まれた。アザゼルゥ……お前はいつか俺の五十回連続組み手に付き合わせてやるからな、覚悟しとけよ。
「ほい、到着っと。……ほぉ、これが管理局の航空艦って奴か。見たことも無いような部品が大量だな!」
「見たことがあるような物が大量にあったら、とっくに人類は宇宙進出してるっての。大体、なんの目的で此処に来たんだよ」
「ここの艦長ーーーーリンディ・ハラオウンとか言ったっけ?あいつと
「……なるほど。個人的なら、俺にとやかく言う権利はないな。それでも神器の情報はちゃんと管理しろよ。ただでさえ
「分かってるっての。お前こそ、魔術や魔法の管理はちゃんとしろよ?お前のそっち方面の実力はトップクラスなんだからな。広まりでもしたらヤバいだろ」
「大丈夫だ。特定のキーワードを特定の人物以外に発すれば記憶がなくなる術式をこっそり刻んでおいたから。問題ないさ」
「相変わらず、えげつないな。……っていうか、なんでお前の髪がちょっと金色に変わってんだ?お前はあれか。人間びっくりショーか?」
「しょうもないぞ。これは……ねぼすけがそろそろ眼を覚まし始めた合図だよ。そんなに訝しがらなくても、いずれ分かるさ。少なくとも三十分以内には分かるだろうさ。だから今は放っておけ」
レーヴァテインから少しづつ鼓動を感じる。デバイスなのに本当に人間みたいな奴だよな。それを批判する気はまったくないが……それなら一年という単位ははっきり言って寝過ぎだろ。
そのままアザゼルと一緒に歩いて行くと、いろんな奴らが集まっていた。作戦参加のメンバーか何かなんだろう。何人かこちらに気がついて声をかけてきた。
「一誠くん、怪我はない?あったら言ってね。私が絶対に治すから」
「お心遣いは痛みいるけど、直接的な怪我はないよ。副作用的な痛みはあるけど、それもちょっと大人しくしていれば治るさ」
「塵芥!貴様、UーDはどうした!まさかおめおめと逃げ返ってきたのか!?」
「残念ながらね。でも、まだ俺の結界の範囲内にいる。今もちゃんと補足しているから見失うような心配はないさ」
他の面子も心配してくれるのは有難いんだが、そんなに聞いてこられても困るんだがな。まずはこの痛みを抑えに入らないと何も出来ないし。