それから数日後、異世界組と未来組が戻る時に記憶を封印するらしいが俺とアザゼルにまったく効果を発揮しなかった。結局俺がアザゼルの記憶を封印し、俺自身は黙っていることでケリがついた。あと、キリエにキスされた。それは後でキツいお仕置きがあったからあまり思い出したくない。
身体を休めることに専念した所為で時間がかかってしまった。今日は魔法教室の日だったが、魔導士組は何か用事があるらしく来ていなかった。まぁ、二度手間にはなるが別に構うことでもないか。
「今日は重要なお知らせがあります。まだ数ヶ月ほどしか経っていませんが、この教室を今日限りで終わりにすることにしました」
「……え?それってどういう意味」
「元々この土地に来た時から決めていたことがあったんだよ。それは“次の春を迎えた時に、俺はこの土地を出て行く”ということです。力の塊のような俺が一箇所に長く居続ければそれだけで此処の人たちに危害が及ぶ可能性が高いんです」
力を呼び寄せてしまう。それが龍という者の性質だから。古来より数多の英雄や勇者が龍に挑むのと同じように、力の塊である龍や人外がいる所には敵を呼び寄せてしまう。それだけは避けねばならない。戦闘経験もない一般人を守りながら戦うことはけして容易なことじゃない。
「そんな!だってまだ全然教えてもらってないよ?こんな中途半端な状態で投げ出して行く、って言うの!?」
「至極基礎的なことは教えたし、術式に関しても前回教えた。今回はそのチェックをするつもりだった。それにそれだけ上手く使えればほぼ問題はないと言っても過言じゃないだろ」
「でも、それでも……先に言っておいて欲しかった!こんな唐突なお別れを了承出来るわけ、ないじゃないですか!?」
涙を流しながらそう訴えかけてくるすずかの頭を撫でながら、涙を拭っていく。すれどもすれども止まらない涙を見てしょうがないなと思いながら抱きしめた。
「すずか、人はいずれ別れるんだ。それぞれのやりたいように、生きたいように生きるんだ。そのお別れがちょっと早まっただけの話なんだよ、これは。……っていうか、2人とも大分静かだな。アリサは特に何か言うかな、って思ってたんだけど」
「う〜ん……そりゃ納得は出来てないし、理解も出来ないけどさ。でも、何となく分かってたのよね。あんたがいつか此処を出て行くんじゃないかな、って。だから落ち着いてるんだと思うわよ」
「そう……それじゃあシエナは、って君は元々俺の授業がどんなのか気になって来てただけだもんな。だから……」
「私は教えてもらっていた身だもん。先生にだって都合があるだろうから、怒ることなんてしたくない。……でも、先に言っておいて欲しかったっていうのは、同感。先に言っておいてくれればここまで複雑な感情を抱かずに済んだのに」
「それは申し訳ない。でも、この土壇場で言わないと皆で引き止めてくるだろう?それじゃ困るんだよ。俺はこの土地とすっきりとお別れしたいんだよ。それにまた何時か、何処かで会えると俺は信じてるしね。この別れは永遠じゃないさ」
永遠の別れなんてない。何時か何処かでまた絶対に会える。幾星霜もの月日が経とうとも、これだけは変わらない。俺はこの摂理を信じている。だから別れる時はきっぱりと別れるんだ。ーーーーきっとまた出会えるから。これさえ分かっていれば十分なんだから。
「……本当に?また何処かで会えるの?」
「会えるさ。なんだったら誓いの代わりに、俺の血をくれてやろうか?……俺は約束を破らない主義だ。だから、な?いい加減泣き止んでくれよ」
上目遣いで俺を見てきた時のすずかの瞳は見事に紅色に染まっていた。それに頬が見事に赤くなっていた。なんていうか……発情期の猫みたいな奴だな。魔術障壁を解除して鱗が出てくるのを防いだ。龍鱗はせめてもの防衛本能で出てくる物だが、ドライグに制御してもらった。
「はむっ……不思議な味。甘いような辛いような苦いような。でも、美味しい」
今更だけど、人前で血を吸っても良かったのか?……まぁ、半分正気失ってるっぽいしな。気にしないようにしておこう。考えるのすら面倒に感じるし、今更どうこう言っても戻ってきなさそうな感じがする。
……っていうか、こいつは一体どんだけ血を吸う気なんだよ。いい加減にしないと、人間の身体だと致死量レベルになるぞ。でも止まる気配がまったく無いし……しょうがないな。首筋に手刀をふりおろして気絶させた。そして首筋から離して座らせる。
「……起きても何も言ってやるなよ。それと俺は明日の早朝6時ぐらいに海鳴市駅に行くから、送りたいなら来ても構わないぜ?なんだったらついて来ても俺はOKだ」
「まぁ、送る時くらいは行くけどこれからどうするの?すずかも気絶しちゃってるし、正直授業どころじゃないと思うんだけど」
「そうだな……とりあえず術式をチェックして問題があれば訂正する。あとはこのノートを見てくれれば君も立派な魔法使い!って感じだ。それが終わり次第、翠屋とか商店街でお世話になった人たちに挨拶回りかな」
旅に戻ると言っても、俺1人ではなく八舞も同行する事になっている。精霊界では暇を持て余しているらしく、する事も無いらしいので誘ってみたら行くという事になった。今はサーシャたちと共に荷物の整理をしてくれている。……出る前は何故か火花が散っている幻覚を見た気がするが気にしない。してはいけない。
なんというか、この身体になってから
問題は彼女たちが人間形態になった時に、その身体がほぼ人間と言っても過言ではなくなった事。おそらく彼女らは
まぁ、それはさておいても武器である彼女たちがもし死んでしまったら。それは武器が砕け能力を失う事とほぼ同義なのではないか?其処も心配だし、それを除いても大切な相棒で家族だ。それは喜べることじゃない。
魔法教室から数時間、みっちり教えこんだあとに商店街の挨拶回りをしながら翠屋に向かった。途中途中でいろんな物を貰ったけど、それは割愛させてもらう。翠屋に入ると、ちょうど忙しい時間帯は終わったようで、人はあまりいなくがらんとしていた。
「おや、いらっしゃい。カウンター席で構わないかな?」
「何処でも構いませんよ。それじゃあ、まずはコーヒーを一杯下さい。喉渇いちゃって……」
「はははっ、分かったよ。……はい、どうぞ。それで今日はまた一体どんな御用なんだい?」
「明日此処を発ちますので、ご挨拶をと思っただけですよ。そんなに緊張しなくったって大丈夫ですよ」
「そう、か……もうそんな時期なんだね。時が過ぎるのは早いものだね。君がこの街に来てかれこれ一年ってところかな?……君はこの後どうするつもりなんだい?私だって裏事情には少しは通じている。なんだったら頼れるところでも」
「大丈夫ですし、そこまで迷惑をかけるわけにはいきません。士郎さん達は未だしも、見ず知らずの人が俺の事を聞いても怖がらせるだけです。俺の力というのはそれだけ恐ろしいものなんですよ」
此処は理解がある人が沢山いた。でも、そうじゃない人の方が世界には大勢いる事に違いはなく、その感情は別に間違っていると言われる程の物でもない。誰しも理解できない者は怖がるものだから、否定はしない。
「明日の早朝6時。此処を発ちます。駅まで行くつもりなのでお見送りに来てくれたら嬉しいですね。……それじゃあご馳走様でした。お代は」
「別に構わないよ。僕の奢りだ。その代わりと言ってはなんだけど、またこの街に来てくれたら嬉しいな」
「……考えておきましょう。マスター、魔導士組の子たちにもできれば伝えておいてください。俺が言っても引き止められるのが目に見えてますからね」
「そういう大事な事は自分で言うべきだと思うんだが……まぁ、なのはに言えばなのはが広めてくれると思うよ。それじゃあ、いい旅を」
「ええ。それじゃあ、さようならと言わせてもらいます」
そして俺が翠屋を出て戻ろうとしている最中に会うとは思っていなかった相手ーーーー夜天に出会った。しかも何やら怒っている様子だった。
「よお、夜天。奇遇だな。何を怒ってんのか知らないけど、数日ぶりだな」
「ああ、そうだな。……一誠、お前が此処から出て行くというのは本当なのか?」
「本当だ。俺は好んで嘘をつくほど酔狂な性格はしていない。夜天、これは俺の決めた誓約だ。それは誰であっても阻む事はできないし、させない。
別に俺とお前らの繋がりが断たれる訳じゃないんだ。ただ何時でも会えるというわけにはいかなくなるだけ。永遠の別れじゃないんだ。気にするな」
「気にするな!?無理に決まっているだろう!古代ベルカの時代に別れてから永き時を過ごした。もう何処かで失ってしまうんじゃないかと怯えるのは嫌なんだ!」
「……だったら夜天。俺の旅についてくるか?お前には今二つの選択肢がある。八神と共に過ごす日々か、俺と八舞と共に旅をする日々か。この二つがな」
「それは……」
「明日の早朝6時に海鳴市駅に行くから、それまでに決めておいてくれ。行くか行かないかはお前次第だよ。ただ言えるとしたら……後悔しない、は無理だからより後悔の少ない方を選べ。それじゃあ、また明日」
はてさて明日はどうなる事やら。そんな風に考えながら俺は家に戻った。