北欧の地
時は移り、俺たちは北欧を訪れていた。基本的に俺は移動に乗り物を使用しない。船や飛行機は基本的にメザンティスで空間を引き裂いて移動するし、歩いていけるなら歩いて移動するからだ。
街を外れて森の方に向かって一直線に進んでいると、いろんな生物が出てくる。妖精とか狼とか猪とかだな。それを眺めながら進んで行くと、一本の木の枝に鷹が止まった。
「久しぶりだな、ヴェズ。何か言伝でも預かってきたのか?」
「何を言ってるんですか?師匠。鷹が喋るわけが……」
「何も喋る必要はないさ。それで、
話しかけても左腕を挙げても何も反応しなかった。その様子を怪訝な表情を浮かべながら見ていると、向こうの方からアースガルズの方から1人の女性ーーーーヴァルキリーが走ってきた。
「あっ!ヴェズ、こんな所にいたのね!駄目じゃない、オーディン様に怒られるわよ?」
「ああ〜……ちょっと良いかな?そこのヴァルキリーさん」
「へっ?……こ、ここここれは失礼しました!
「いや、それ自体はまったく問題ないんだけど……そいつは主神殿のペットなのかい?何でまたヴェズルフェルニルなんてのを飼ってるんだい?」
「師匠、さすがにそんなにお付きの人に聞いたってしょうがありませんよ。そういうのは本人に聞かないとわかんないですし」
「すいません……それで一体御三方はどんな御用でいらっしゃったんでしょうか?来客の予定は伝えられていないのですが……」
「主神オーディン殿に『赤龍帝』兵藤一誠がやって来たと伝えてもらえば分かると思いますよ?返事が来るまで我々はここを動かないので、伝えて来ていただけますか?」
「あ、は、はいっ!今すぐにでも聞きに参りますので、少々お待ちください!」
「……よろしかったのですか?別にマスターならば、言わずに入ったとしても何も文句は言われないでしょうし、言うような命知らずはいないでしょう」
「誠意の問題だよ。そりゃ、オーディンは寛大だけどね。それでも他の神格が何も言わない訳がない。そりゃあトールのおっさんとだって知らない仲じゃないがな。あそこには面倒な神格がいるしな」
ロキ。神を殺せる牙と爪を持つ息子を従える悪神が。北欧の者を至上とし、それ以外の者にはこれっぽっちも興味を示さないどころか殺しかねないような危険人物だ。
いくら八舞が大概の者には負けないと言っても、シエナが才能を開花させ始めたと言っても、あれの相手をしながらこいつ等を守るというのはとてつもなく難しいだろう。やめる気はこれっぽっちもないがな。
そう思いながら待っていると、さっきのヴァルキリーとはまた違った人が俺たちの処に歩いてきた。しかもさっきの人よりも圧倒的なまでの差を感じさせるほどの強者だな。
「……お初にご尊顔賜わります。私はヴァルキリー部隊の筆頭であるブリュンヒルデと申します。以後、お見知り置きください」
「ブリュンヒルデ……勝利のルーンに通じる者か。前に来た時には会ってなかったんだよね。初めましてだ、最強のヴァルキリーよ。知っているとは思うが……俺の名は兵藤一誠。世界最強の人間さ」
片やヴァルキリー部隊の筆頭。片や世界最強の人間。濃密で圧倒的なまでの覇気と闘気がぶつかり合い、衝撃波すら生まれている。八舞は風を発生させて逸らし、シエナは魔法陣で防いでいる。片方は苦しげな表情を浮かべ、片方は楽しそうな表情を浮かべながらより多くの覇気をぶつけ合う。
「……降参です。やはり世界最強というのは此処まで隔絶した差が有るのですね。その齢でそこまでの境地に至ったあなたに素直に感服いたします」
「いやいや、ブリュンヒルデよ。俺にここまで強大な覇気をぶつけてきた奴はそういない。誇ってもいいよ。もしも貴女がフリーなんだったら……」
此方に欲しいぐらいだ、とそう耳元で囁いた。赤ーーーーというより紅い髪に赤と金のアイドットの瞳。こんな普通ではあり得ない幻想的な容姿をしている一誠に耳元で囁かれたブリュンヒルデは一瞬で耳と頬を真っ赤にした。それを楽しそうに眺めながら一誠はそのまま足をアースガルズの方向に向けた。八舞は黙ってそれに追随し、シエナは真っ赤になってしまったブリュンヒルデの手を引きながら歩き始めた。
その圧倒的な姿に誰もがその足を止めて見惚れた。その威風堂々とした姿は何者にもへりくだる事のない覇王を連想させ、事実彼の目の前にいる者は自ずから道を開けたほどだった。だがその中でも、世界でも数少ない者が立ち塞がった。
「……お?おお、久しいじゃねえかよ。そんなに月日が経っているわけじゃねえけど、濃密な一年を過ごした所為か久しく感じるぜ。なあ、そうは思わないか?ーーーー雷神トールよ」
「ふん、貴様も中々の化け物に成長したようだな。儂と相対した時よりも、覇気の純度が上がっておるじゃないか。やっぱり貴様はそうでなくては面白くないな。そうであろう?ーーーー兵藤よ」
ブリュンヒルデの時とはレベルの違う覇気に恐れを抱くと同時に、敬意を抱いた。これだけの圧倒的な力を宿している存在に。神と相対することができる程の力を持っている人間に。そんな場所に命知らずと言うべきか、別の者が割り込んで行った。
「あらあら、あなたは本当に変わったわね。一誠。本当に久しぶりね」
「フレイヤじゃないか。貴女と会うのも本当に久しぶりだね。っていうか、皆どうしたのさ?わざわざ会いにきてくれたのかい?それ自体は嬉しいけど、相当暇なんだろ」
「素直に再開できたことを喜べば良いのに。あなたの悪いところの一つよ?いつ会えるか分からないんだから、今を喜びなさいよ」
「これが俺なんだよ。悪いね。……さてと、俺はオーディンの爺ちゃんのところに挨拶に行かなきゃいけないからまた後でな。八舞、シエナ!行くぞ」
「分かりました。行きますよ、シエナ」
「は〜い!それじゃあ皆、また後でね!ちょっと待ってよ、2人とも!」
「……って!?ちょっと待ってください!勝手に先に行かないでください!」
ほうけていたブリュンヒルデを置いて俺たちはオーディンの爺ちゃんがいるところに向かって歩いていった。そして俺たちがとある部屋の前に着き、扉を開けてみるとーーーーヴァルキリーにセクハラしている変態爺さんがいた。
「ヴァルキリーにセクハラするのも程々にしなよ。オーディンの爺ちゃん」
「「っ!?」」
「おお、久しぶりじゃの。そんなところに立っとらんとそこのソファに座ったらどうじゃ?おや、初見の者もいるようじゃな。ならば言っておかんとな。ーーーーアース神族のトップにして主神をしておるオーディンじゃ。覚えておくが良い」
どもども、シュトレンベルクです。空白期第一弾は北欧神話の舞台アースガルズからお送りします。
海鳴の地を離れてから約半年の月日が経過しています。まだ原作に出てきていない雷神トールと愛の女神フレイヤ、それにブリュンヒルデを登場させてもらいました。
半年の刻で一誠もまたさらに力を増していっています。一誠たちの基本的な立場は傭兵ですので、一誠たちが受ける依頼などを空白期ではお送りします。
まだ梅雨も明けていないというのに暑い日が続いていますが、皆さん体調には気を付けてくださいね。それではまた次回!