あれから数週間、2人のペアとしての力量を確認しつつたまに勝負を挑んでくるジークフリートの相手をしたり、シスターグリゼルダと何故かお茶会をしたりしていた。と言うか、マジでジークフリートがしつこい。何回挑んでくるんだよ。
「そろそろはぐれ悪魔の討伐をやっても良い頃かな……2人の力量も結構順調に上がってきている事だしな」
修行に慣れてきたのか、2人とも無駄のない身体の動かし方を学んできたみたいだ。……まあ、こっちも段々とギアを上げてるからまだまだ負けたりしてないがな。それでも技量、因子の使い方。両方とも着実に進歩してきている。
そんな事を考えながら街を散歩していると、珍しい事に日本人の少女がいた。男性が話しかけているが、いかんせん言葉が通じないからか少女の方は怖がり男性の方は慌てていた。
「……どうかされたんですか?」
「ああ、神父様。ちょうどいい。この子が何か困っているようなので、力になってあげてください。どうも言葉が通じないみたいで……よろしくお願いします」
「困っている人にそうやって力になろうとするところは貴方の美徳だけど、なんでも救えるわけじゃないんだから限度を覚えるんだよ?……まあ、頼まれたよ。それじゃあ、汝に主のご加護のあらん事を」
俺がそう言うと、男性は去っていた。怪我人を治したり困ったり、悩んだりしている人の相談相手になったりしてると気付いたら神父様と呼ばれるようになっていた。俺は神父じゃないと何回言っても誰も止めてくれないから、正直もう諦めた。
「はぁ……。それで、そこのお嬢さん。何か困り事でもあるんですか?真昼間とはいえ、1人で歩いてると危ないですよ。タガのゆるんだ連中がまったくいないわけじゃないんですから」
「え、日本語?」
「こんななりですけど、歴とした日本人ですよ。って言うかなんで現地の言葉が喋れないのに1人なんですか?たまたまあの人が善人だったから良かったですけど、悪い人だったらどうするんですか?危機感がないなぁ……」
俺がほとほと呆れていると、少女はむっ。とした表情を浮かべながら文句を言ってきた。なんかちょっとイリナに似てるな、この子。
「むっ。今は人を待ってるだけです。そんな風に言われる筋合いはありません。そんな事より、貴方こそ何者なんですか?いきなり出てきたと思ったら……」
「深雪、どうかしたのか?……えっと、どなたでしょう?」
文句を言ってきた少女の後ろから出てきたのは顔立ちが目の前の少女に似ている男の子だった。まあ、歳の差としては一個ぐらいだろうが。呼び方からしてお兄さんか何かだろう。
「ちょっと教会で働いている者ですよ。そこのお嬢さんが男性に話しかけられていたんですがね?現地の言葉が喋れないみたいなので危険ですよ、と言っただけです。もちろん、その男性は好意で話しかけただけですから」
「なるほど……それはご迷惑をおかけしました。俺の名前は四葉達也です。こっちは四葉深雪。貴方も日本人のようですし、一応名前を伺ってもよろしいですか?」
「……なんだ。四葉の家系の人だったのか。ふぅーん……ああ、そういえば話で一回だけ聞いた事があったな。なるほどなるほど。それじゃあ、深夜さんか真夜さんかわからないけど兵藤一誠がよろしく言っていた、と伝えておいてくれ。それじゃあ、気をつけて戻るんだぞ」
「え……ちょ、ちょっと待ってください!貴方は母様と叔母様の知り合いなんですか!?」
「聞いてみりゃ分かる事さ。何言われるか分かったもんじゃないけど、責められるような事はないだろうがな。それじゃあ、また何処かで会える事を祈っているよ」
四葉という家は高天原が有する現代魔法使い十家の内の一家。現代魔法というのは科学的な媒体に魔法の起動式を入れておく事で、普通の魔法使いよりも早く魔法を使う技法だ。
これのメリットは速度。通常の魔法使いよりも早い上に術式を考えずに済む分、魔力をこめるのに集中できる。対してデメリットはバリエーション。固定化された術式を使う分、術式を把握されてしまえば対抗策もできてしまう。普通の魔法よりも進歩が要求されるピーキーな代物だ。
それに上位の魔法使いは時として現代魔法すらも上回る速度で魔法を放つ事ができる。つまり、雑魚を薙ぎ払う分には使えるが上位の相手には苦戦しそうな魔法。それこそが現代魔法という物だと言える。魔法や魔術は秘匿される物という大原則に従い、この技術は高天原に属する十家ーーーー通称『十師族』の血を引く者にしか使う事ができない。
さらにこの十家はそれぞれ特色と言うべき血統魔法を持っている。その中でも、四葉はその異常性が故に有名だ。なんせ受け継がれていく物である血統魔法がそれぞれ異なるのだから。それ故、と言うべきか四葉は十師族の三傑の中に名を連ねている。他には『
「それでマスター、挨拶しには行かれないのですか?確か最後に高天原に行ったのは7年ほど前だと仰られておられたと思いますが」
自宅にて、夕食を終えて八舞と共に茶を飲みながら談笑しつつその話をふってみた。八舞自身は四葉の事などかけらも気にはしていないだろう。関わりもなかった家系だし、それ自体は別に間違っていない。
「それはそうなんだけどな……当主殿とは多少の関わりがあるが、俺はその他の奴らには嫌われてるからな。下手に行っても他の奴らがいれば面倒な事になるのは目に見えている。それなら行かない方が良いだろう。言伝は頼んでおいたし、多分大丈夫だって」
そんな事を言いつつ、まったりと茶を飲みながら喋り続けた。他の子供たちも既に眠りにつきもう少しで寝ようと思っていると、仕事用の回線が開き内容はSSランク級のはぐれ悪魔が暴れているので討伐してほしいという物だった。面倒な物だ。そう思いながら仕事に出た俺は思いも寄らない光景を目にする事になったのであった。