翌日、さすがに悪魔討伐をしたという事もあって本日の修行は無しにした。俺自身、少々疲れていたこともあった。やはりと言うかなんと言うか、
「そう言えばマスターがずっと家にいる日は珍しいですね。……暑苦しくありませんか?」
「仕事が立て込んでたからな。しょうがないさ。この子たちにも大分さみしい想いをさせてたみたいだな。これからはたまに休暇を取るとするか」
フローリングに座りながら本を読んでいた俺に子供たちが集まってきた。膝の上とか背中に乗っかかってきていたが、日向にいたせいか眠くなって乗っかかったまま寝る子が続出した。暑苦しくはないが重いな。そう思いながらのんびりしていると、インターホンが鳴り響いた。
「客?そんな予定は無かったはずだけど……悪いがちょっと見てきてくれないか?ついでに誰の用事かも聞いといてくれ」
「畏まりました」
八舞に出てもらい、まったりしていた。気分的には日曜日の午後を子供たちと一緒に過ごしているお父さんって感じだな。しばらくすると、八舞が戻ってきた。
「戻ってきたか。それで、来ていたお客さんは一体誰に用事だったんだ?」
「えっと……マスターに、です。四葉家当主四葉真夜様と四葉深雪様、それに四葉達也様と名乗られた方が」
「四葉一家が?ふぅん……まあいい。それで今は何処に?ちゃんと客間の方にお通ししたか?」
「はい。どうされますか?お会いになられますか?先方は無理にとは言わないと仰られていましたが……」
「会うさ。また後日と言ったのは俺だし、昨日の件もある。謝罪の一つぐらいはしておいた方が良い事に違いないんだから。……すまん、子供たちを剥がすの手伝ってくれ。動けない」
それから数分して子供たちを全員剥がしてから紅茶の用意をして後で持って来るように言った後、客間に入ると気楽な様子で寛いでいる人が1人と緊張かは分からないが、固まっている人が2人いた。入ってきた俺に気付いて手を降ってきた。
「貴女はなんと言うか、変わりませんね。あの頃から姿も性格もお変わりになられていないようで。実に残念です」
「あら?別に良いじゃありませんか。少し明るい方が話もしやすいと言う物でしょう?緊迫した状態の話し合いには興味ないし、したくないのよ。特にあなたの相手をする場合はね」
「失敬だなぁ……別に構いませんけど。それで?本日は一体どのような用でいらっしゃったんです?まさかたまたま近くを通りかかったから遊びに来た、とか言うつもりじゃないでしょうね?」
「あら、よく分かったわね。……冗談よ、冗談。あなたが教会で働いている事は深雪さんと達也から聞いていたから、そこであなたの住所を尋ねたのよ。なんのお礼もなし、と言うのはこちらとしても本意じゃないしね。
元々、こちらとしてはバカンスのつもりで来てたから、ろくな武装を用意してなかったのよ。昨日の件は本当に感謝してるわ。ありがとう」
「礼を言われるほどの事をしたつもりはありません。むしろ遅れてしまった事を謝罪したいくらいなんですから。教会のお膝元だからと不注意でした。それにまさか悪魔と堕天使が手を組むとは思わず油断していました。申し訳ない」
両方が頭を下げあっていた。どっちも頑固だからな……多分どっちも言うのをやめる気はないと言っても過言じゃないだろう。過言じゃない。大事な事なので二回言った。
「……マスター、話が進まなくなるのでその辺にしたらどうです?貴女も……真夜様もマスターがお礼欲しさに貴女たちを助けた訳ではない事は分かっているのでしょう?それなら、無駄な事は止めてください。そこの2人も混乱しているではありませんか」
「ふむ……それもそうだな。まあ、言い分だけは受けとっておくとしましょう。何もいりませんけど」
「相変わらず強情だね。あ、ありがとう。……ふぅ、相変わらず君の作る紅茶は美味しいわね。うちの使用人が嫉妬するぐらいの手際だものね。……それであの件は考えてくれたかしら?」
「……何度も言ってますけど、俺は何処かの家に養子縁組で入る気なんてありません。何度言われても俺の心は変わりません。申し出自体は嬉しいですが俺にはその好意を受け取るつもりはないし、受ける訳にはいかないんですよ」
俺という存在は一種の爆弾みたいな物だ。行動の一つ一つが世界に影響を与えかねない。それ故にこんな申し出を出されても断る他ない。俺の存在一つでそんな目に合わせる訳にはいかない。それに縛られるのも嫌いだからな、俺は。
「そう……まあ、あなたは他人に迷惑をかけるのを嫌うたちだものね。しょうがないか。でも、偶には本家に来なさいよ?深夜だってあなたに会いたがってるし。それに……主も、天照大御神様もあなたと会いたがってる」
「俺は、あの御方とはもう会わない。どの面下げて会えって言うんですか?あと一歩で死なせたかもしれない男が、どうして平然と顔を合わせられるんですか?」
「あれは別にあなたの所為じゃないでしょ?重鎮の神々が勝手な行動に出たから起こったのであって、あなたには何の非も……」
「そうは思わない者もいると分かっていたから、俺はあそこを出たんですよ。話がそれだけなら失礼させていただく。俺にはもう、高天原に足を踏み入れる資格などない。そう天照殿にお伝えください。それでは」
「マスター!?」
俺は扉を閉めると、胸元に溜まった鬱屈とした気分を晴らすために屋上に向かった。オンボロ寸前で今にも壊れそうだったこの建物を修復させる時に屋上に通じる扉を造ったのだ。未だ降り注いでいる太陽の日差しを浴びながら眠りについた。
俺が昔、まだ世界最強を名乗っていなかった頃高天原にいたことがあった。高天原のトップであり、太陽神でもあった
でもそんな光景を嫌っていた者たちがいた。太陽神とは高潔な者であり、気高い者である。あんな人間に、否化け物に愛情を注ぐなどあり得ない。そう考えた者たちがいた。
要するに目障りだったのだろう。自分の神話こそが最強だと考える者たちが、俺のような人種を放っておくわけがない。そして彼らは事件を起こした。だが、そこで出た犠牲は俺ではなくーーーー天照だった。俺の身を守ろうとして、重傷ではないが負傷した。
それを機に多数の神々が俺の高天原からの排斥を求めた。
これが俺が高天原を出た理由であり、もう戻れない理由。あれだけの事を仕出かした俺が迎えられる理由などない。俺がいなければ天照は傷つく事はなく、須佐之男や月読があそこまで苦労する事はなかった。そしてその好意を踏みにじった俺が戻れるはずがないのだからーーーー
目蓋をゆっくりと上げると、八舞がいた。時間的に見てもう夕方といった感じだろう。日が沈んでいく光景がよく見える。俺が起きた事に気付き、うっすらと微笑を浮かべながら俺を見ていた。
「おはようございます。マスター、よく眠れましたか?」
「……さてな。お前、聞いたのか?俺が高天原でした事を」
「ええ。真夜様の主観による物でしたが、内容は大体把握しましたよ。……マスターは戻れるなら戻りたいと思いますか?」
「さあ、どうだろう。まあ、もう一度会いたいという想いはある。でも、会いたくないという想いもまたあるんだよ。……怖いんだ。
自分勝手に離れておいてこう言うのは何なんだけど、拒絶されるのは怖い。でも、また話をしたい。あの人は俺にとってもう1人のお母さんみたいな者だから。
でも、良いんだよ。もう話せなくても、顔を合わせる事が出来なくても、きっと心は繋がってるんだからさ。寂しくないよ。変わりつつある世界の中でまた何時の日か会えると信じているから」
「そう、ですか。なら私の言う事はありませんね。行きましょう、マスター。子供たちが待ってますよ?」
「ああ、そうだな。行くとしようか」
暖かい家族のところへ。