祐樹に熟練度によって枷を外せるように術式を組んだ後、久しぶりに日本に戻ってきた。そして向かった先はーーーー京都。
「久しぶりに来たな……。そういえば九尾の御大将の娘が産まれたばかりの頃だったか。大分昔だな」
「師匠も大分適当だよね。私は初めて来たけど、なんていうか日本特有の感覚がする。帰ってきたって感じがするな」
「そうかしら?湿気満載で私には合わないわ。そりゃあ化粧とかを気にしている訳じゃないけど、髪がパサつくのよね」
「そこらへんは大変だと思うがね。俺にはどうしようもないな。さて、観光してから行こうか」
「行くって……何処にですか?目的地って京都なんでしょう?他に何処に行くんですか?」
「確かに京都は京都だが、俺たちが向かうのは妖怪たちが統べる京都ーーーー裏京都だ」
そこから京都の観光地を歩いて回った。嵐山、銀閣寺、金閣寺、天龍寺、御所、その他諸々。そして店に入って食事をしていると、後ろの席に懐かしい気配を感じた。
「やあ、賀露。久しぶりだね。何か御用でもあるのかい?」
「それはこちらのセリフですよ、兵藤殿。久しぶりにいらっしゃったのですぐに裏京都に来られるのかと思ったら、中々来られないのでお迎えにあがった次第です。九尾の御大将もお待ちですので、なるべく早くお願いします」
「はいはい、分かった分かった。……すいませーん、注文いいですか?」
「人の話をちゃんと聞いてましたか、兵藤殿!?」
「うるさいなぁ、聞いてたって。でも滅多に来ないんだから、飯を食う時ぐらい楽しませてくれよ。今まであっちこっち回ってたからこんな風に日本の飯を食べるのは久しぶりなんだから、多少は勘弁しろよ」
「それなら言って下されれば、こちらで用意しますから!早くしないと……」
「相変わらず自分の道を行くものじゃの。賀露よ、それ以上は無駄ゆえ放っておくが良い」
「御大将!それに九重様まで……」
「へぇ……お久しぶりですね。それに九重ちゃんも大きくなりましたね。今何歳ぐらいなんですか?」
「六歳じゃ。それよりも……同席しても構わないかの?」
「どうぞどうぞ。八舞、シエナ。席を詰めろ。賀露もそこじゃなくてこっちのテーブルに来いよ。まだ余裕あるしな」
「あ、はい!」
シエナが九重ちゃんと遊んでいる傍らで俺と御大将は久方ぶりの再会を喜んでいた。徳利片手に、だがな。あん?未成年が酒を飲んじゃいけない?そんなのを律儀に守ってる未成年が何人いるんだよ。大体、俺の身体はいざとなれば大きさを変えられるから何も問題はない。
「相変わらず良い飲みっぷりじゃの。……お主が世界最強になったという噂は聞き及んでおる。その上で世界中を傭兵として渡り歩いておった事もな。一誠、お主は一体何がしたかったんじゃ?」
「……何、か。あんまりちゃんとした事は考えてないな。俺は自分のしたい事、俺自身の渇望が知りたかったんだ。世界を歩き回り、より世界を知る事で俺は一体何を望んでいるのか?その為に一体どうするべきなのか?それを知りたかったんだ」
「渇望、か……。わらわにはあまり考えぬ物じゃな。わらわは九尾の狐でありこの裏京都と京都の守護者。それが全てであり、それ以外は思い浮かばんしな」
「別に良いんじゃないですか?そこまで深く考えこまなくったってね。渇望とは己の思いの源泉。けして揺らぐ事のない願いの事を指す。どんな物を持ってしても、変える事のできない物は自ずと見つかる物ですからね」
それに、と続け酒を徳利に注ぐ。
「食事時にこんな重苦しい話は要らないんですよ。今は料理に舌鼓を打ち、会話に花を咲かしましょうよ。重苦しい話なんて会談の時とかだけで良いんですから」
「ふっ。ふっふっふ……変わったかと思ったがそこまで変わっとらんの。いやいや、確かに確かに。今はそんな重い話は要らんの。世界中を回ったのだろう?それなりに話せる事があるじゃろう。まずはそれを聞くとしようかの」
「別に構いませんけど、そっちも色々と話してもらいますよ?俺ばっかりって言うのもアレですし、俺が離れてから色々とエピソードには事欠かない筈でしょうから」
「よかろう。だが、まずはお主からじゃ。ほれほれ、早よ話してみい」
「若干酔ってるでしょ?……まぁ、良いですけど。それじゃあ、ギリシャの方の話でもしましょうか」
そんな感じで俺と九尾の御大将は会話に花を咲かせ、八舞と賀露はーーーー
「……ですからね、御大将も鞍馬様も幹部の皆様も迷惑をかけまくるんですよ。それで我々がどれほど迷惑しているか」
「はいはい、それは大変ね。……私にはどうしようもないと言うか対処のしようもないわね」
「ねえ、聞いてますか!?」
賀露が酔っ払って絡み上戸で八舞に日々の不満を愚痴っていた。それを辟易としながら受け流しつつも、酒を飲んでいた。一方、シエナと九重ちゃんはーーーー
「はい、九重ちゃん。あ〜ん」
「あ〜ん……もぐもぐ」
「美味しい?」
「うむ!たいへん美味なのじゃ!」
「そっか〜。それじゃあ、はいあ〜ん」
なんか微笑ましい光景だった。九重ちゃんがシエナのおもちゃになってしまっているような気がしないでもないのだが、両方とも楽しそうだし放っておこう。そして、改めて感じる。ーーーーなんだこの
場所は変わり、裏京都。様々な妖怪たちと挨拶を交わしながら先導の元進んでいった。若干足元がおぼつかない御大将と完全に酔っ払って八舞の背中でダウンしている賀露、さらに元気一杯の九重ちゃんと一緒に。
「それで一誠よ。お主らは今日は
「お願いしようかな。元々、ここに来るつもりではあったけど何処に泊まるとかちゃんと考えてなかったしね。……それに、ちょっとぎらぎらした目でこっちを見てる輩もいるしね」
こっちに敵意に満ちた視線を注いできている輩が何人かいるが、そいつらは覇気と闘気が全然弱い。ちょっと調子に乗ってるだけだと思うが、彼我の実力差と言う物をまるで認識できていない。幹部クラスの十分の一がせいぜいと言ったところだろう。
「ん?……ああ、あやつらか。これじゃから賀露を使いにやったのじゃがな。どちらにしても同じじゃったか。すまんな、一誠」
「気にしてませんよ。だって戦う必要を感じませんし、ふるいをかけてからにしますからね」
こっちに敵意を向けてきている連中に濃密な覇気をぶつける。俺に挑むのだからこれぐらいは耐えてもらわねば困る。中途半端に戦って不完全燃焼気味で終わってしまったら俺が嫌だからだ。そう思っていたらーーーー
「全滅って……弱すぎだろ。妖怪たちの質も落ちてきたんじゃないですか?」
「それだけ今が平和だと言うことだ。たいへん結構なことじゃろう。おーい、誰か賀露を運んでやってくれ!後客間の用意を」
そう言うと、狐がわらわらと出てきて賀露を連れていった。俺たちの荷物を持とうと思ったのか、俺たちに近づいてきた狐もいたが俺たちが手ぶらだったのを見て残念がっていたので頭を撫でておいた。そうしていると、一匹の烏天狗が飛んできた。ちなみに賀露は妖狐だ。
「やあ、鞍馬さん。お久しぶりだね。あんまり下っ端の妖怪を使い回しにしてちゃ駄目だぜ?」
「賀露の奴か。しょうがないだろう。こちらとしても秩序を保つ為には色々と必要な事があるんだからな。それにお前もどうした?此処まで来るなんて珍しいな」
「久しぶりに戻ってきたんでね。来なくちゃいけないと思っただけだよ。……京都料理を食べたい、って言うのもあるんだけど」
「絶対に後の方が本音だろう。まぁ、良い。今日はきっと宴会じゃ。そうでしょう?御大将」
「確かにそのつもりではあるが……鞍馬、お主はたらふく酒を飲みたいだけじゃろう?」
笑いながら酒を飲むジェスチャーをしつつ、御大将の方を向いた。御大将は鞍馬のそのジェスチャーに呆れた表情を浮かべつつ戻ってきた。周りの給仕をしている妖怪の顔は真っ青だったが。
鞍馬は裏京都の妖怪の中でも一、二を争うほどの酒豪なのだ。樽酒で表すなら、一人で五樽ぐらいは飲み干す。流石に言いすぎと思うかもしれないが、実際に見たらこっちの気分が悪くなるくらい飲んでいるのだ。
「あんまり困らせるなよ?大体、あんたはかみさんに睨まれてんじゃないの?」
「今あいつは療養中での。鬼のいぬ間になんとやらじゃ」
「ヘェ〜誰が鬼だって?」
「そりゃ、お前。決まりきってることを抜かすんじゃねえよ。ウチのかみさんに決まってんだ」
「中々楽しそうな話をしてるんじゃないの。ちょっとそこら辺、詳しく聞かせてもらうとしましょうか。ねえ、あ・な・た♪」
鞍馬さんの表情がピシリと固まり、まるでゼンマイ人形のように首を後ろに回すと満面の笑みを浮かべている鞍馬さんの奥さんーーーー朱音さんがいた。その容姿は可憐の一言であり、どうやって強面の鞍馬さんが朱音さんを堕としたのか裏京都の妖怪たち全員の謎である。ちなみに朱音さんも烏天狗である。
「ああ、朱音さん。お久しぶりです。療養中との事ですけど、お加減は大丈夫なんですか?」
「あら、心配してくれてありがとう。本当にお久しぶりね、一誠くん。あんなに小さかった子がこんなに大きくなっちゃって……これも時の流れと言う物なんでしょうね」
「まぁそれはそうなんでしょうけどね。心配しなくても相変わらずお綺麗ですよ」
「ありがとう。それじゃあ、あなた?ちょっと一緒に来てくださいね。聞きたい事が山のようにありますから」
そうして鞍馬さんは朱音さんに襟元を掴まれて引っ張られていった。それを御大将と共に苦笑しながら見つつ、俺は給仕の手伝いに回った。そこで牛鬼だの一つ目だの雪女だの色んな妖怪を相手にしつつ、宴会が始まった。
とはいえ、やいのやいのどんちゃん騒ぎ。本当の意味で妖怪が空中を飛んだりしていた。そんな楽しげな光景を見つつ、料理に舌鼓を打っている内に殆どの物が酔っ払って寝ていたり、倒れていたりしていた。とんだ地獄絵図だ。八舞もシエナも部屋に戻して、裏京都を散歩していた。
そうして一本の満開の桜の木の下で、持ってきていた酒の蓋を開けた。秘密裏に厨房に行って一本掻っ攫ってきた。まぁ、宴会で消費されたと思うだけだろう。そこで桜を見ながらちびちびと飲んでいると、後ろからいきなり衝撃が来た。振り返ってみると、そこにはほろ酔いで済むのか分からない程度に顔を赤くした御大将がいた。
「ふぅ。急に後ろから抱きついて来るの止めてくださいよ。聞いてます?御大将」
「八坂」
「は?」
「2人っきりの時は名前で呼ぶっていう約束、もう忘れたのか?ずっと我慢してたんだから、今ぐらい良いじゃろう?」
「……八坂。ちょっと退いてくれよ。酒が飲みにくい」
「……むぅ。仕方ないのう。きゃっ!?」
離れた八坂の身体に抱きつき、一気にけれど優しく膝の上に八坂の頭をおいて撫で始めた。最初はくすぐったかったのか軽く反抗していたが、どうしようもない事が分かったのか途中からはされるがままになっていた。
「のう、一誠よ。桜が綺麗じゃな。……お前が此処を旅立ってから長い月日が経った。お主と会う前の我らであれば、そこまで深くは感じなかったであろう月日がとても長く感じた。鞍馬も強がってはいたが、内心心配しておったようじゃし朱音もお主の身を案じていた。あの時のお主は……とても危うかったからの」
「……俺には家族と言う物が分からなかった。血が繋がっていれば家族なのか?そもそも家族とは何だ?何故人は家族を作ろうとするのだろう、てね。
でも、世界を旅して分かったよ。理由なんてないんだ。ただ一緒にいたい、ただ共にありたい。そういう感情が広がっていって……やがて家族になるんだってね」
俺が紡いできた絆はきっと無駄にはならない。俺の共にありたいというこの感情は、けして無駄にはならないのだと信じたい。そう、思い続ける事ができるなら。きっと俺にもーーーー
どもども、シュトレンベルクです。梅雨の筈がもう真夏と言わんばかりの猛暑に苦労しております。
一話で終わらす京都編。不思議!まったくそんなつもりはなかったのにいざ書いてみると八坂がヒロインみたいになってる!実はこの先にRー18的な想像が作者の頭の中に湧いていますが……読みたいですか?ぶっちゃけそっち方面の文才があるか、作者自身未だ手がけた事がないので分かりませんが。
さて、次回はstrikers編に入るまでご無沙汰になってしまう彼女たちの登場回。お楽しみに!それではまた次回!