翌日、日課だったランニングを済ました後に朝食を作り喫茶店の準備を始めた。何時もならこの時間帯は誰も起きていないのだが、2人だけ起きている人物がいた。
「お前、確か俺が昨日ぼこぼこにしたはずだよな?なんでそんなにぴんぴんしてる訳?」
「……んーっと、身体が人間じゃないからね。回復能力は比じゃないし、そもそも回復する時に
戦えはしないけどねーーーーとそう言ったこいつの名前は
「茉奈、早く戻って高天原のクソジジイ共に言っておけ。俺は絶対に戻らないってな。あと、今度舐めた真似をしたらお前らを皆殺しにするぞとも」
「あ、あはははは……そんな事したら絶対に私、ただじゃ済まないよ。殺されるビジョンしか見えてこないし。しかも何さあれは?急に力が爆発的に増加したと思ったら次の瞬間には鳩尾に一撃だよ?」
「まあ天使化したからと言って動体視力とかが増加する訳じゃないからな。見えなくても無理ねえよ。お前でも出来るぞ?身体がズタズタになる覚悟があるのなら、だがな」
今回、茉奈が送られてきた理由は高天原のクソジジイ共が俺を連れ戻そうとしたからだ。俺が世界最強になった時からあいつらは俺の事を探していた。それがようやく所在が分かったので、俺との面識もあり高天原の一大戦力であった茉奈を送りこみ俺を捕縛しようとした。あの強烈な力は茉奈が
そして俺は自分ごと茉奈を次元の狭間にある別空間の結界に押しこんだ。しかしその時の茉奈は遠隔操作で操られていた。そんでその操っていた神は好き放題言ってきやがった。さすがに我慢しきれなくなっていた。自分の友人が操られている事、個人的な理屈をこねまわしてくる事、最後に俺の家族を侮辱した事。
そこから争いになり戦い続けていた。俺も茉奈も人間という制約がないため、フルパワーで戦ってもまったく問題がない。ちなみにサクラだが、今はレーヴァテインの中にいて力の調節なんかをやってくれている。たまに出てきた時は疲れ果てて眠っているが。とっておきの一発を叩き込んで茉奈を倒した。その後の事はもうお分かりだろうからなにも言わない。
「……それはちょっと嫌かな?元々私は遠距離タイプだから全然構わないしね。君ほど早く動けるのは上位の神格だけだろうし、私は気にしないよ」
「そんな事言ってると死ぬぞ?お前。……俺には好きにしろとしか言えんがな。俺とお前の仲なんてもうないに等しいんだから、俺にお前の行動をとやかくいう資格はないしな」
「……と言うか2人は一体どういった仲なのですか?見たところ旧友と言った感じですけど」
「うーん……私は一誠に何処かの組織に属するための手伝いをして貰ったんだ。その時に色々とお世話になったし、仕事を手伝ったりしてたんだ」
「俺がまだ高天原に在籍していた……ガキの頃の話だ。まさか聖人が空腹で倒れているとは思わなかったよ。仕事を斡旋したりしながら居場所を作った後、俺は高天原を抜けたんだよ」
「それはそうと……一誠はどうして高天原に戻ってこないのさ。月読様も須佐男様も心配してらっしゃるし、天照様だって」
「俺の意思は変わらない。あそこには戻らない。昔の俺なら未だしも、今の俺は何処かの組織に属するわけにはいかないからだ。俺は爆弾みたいな物だからな」
「世界最強になったから?そんなの気にしなくったって重役の方々がなんとか」
「出来るわけないだろ。お前が考えている以上に、世界は強い奴を恐れる。今まではグレートレッドとオーフィスという完結した存在だったから何も言わなかったけどな。
悪魔でもなく堕天使でもなく天使でもなく、ましてや神格ですらない人間がその場所に立ったんだ。行動に敏感になるのはしょうがないんだよ」
呆れるほどに世界は力という物に敏感だ。たとえ本人にその気がなくても最悪の事態を想定し、殺そうとしてくる。そこにあるのは勝手な思い込みによってできた真実と抗いようのない事実。どうしようもない現実に迷うように世界は出来ている。
「……とにかく、俺は戻らない。今の俺には守りたいものが、守りたい人たちがいるんだ。くだらない権力闘争に付き合う気はない。巻き込むようなら死を覚悟しておけと言っておけ。もし俺の大切な奴らを傷つけでもしたら……存在諸共全てを消し去ってやる、ってな」
「……了解。これ以上はどうしようもないね。今回の一件は月読様と天照様に報告しておくから。それじゃあまたいつの日か再会出来る事を願っているよ」
そう言うと、茉奈は朝食を平らげて出て行った。あいつは今回の、コカビエルの一件とは無関係だと報告してあるため巻き込まれる事はないだろう。今むしろ心配なのは、教会2人組だ。今まで信仰を心の支えにしてきた所為だろう。落ち込み具合が半端ではない。 さすがに俺にはどうしようもない事であるため、突っ込んだ話ができない。こういう事がないように、講師をやってた時に常々言ってきたんだがな。
「主に頼った戦いだけはするなと言っておいたのに……あのザマか。まったく世知辛いもんだな」
「主に頼った戦い?」
「これは我らが主の為だとか、理由を完全に他者に委ねる事ですよ。こういうタイプはどうしたら良いものか、よく分からん。要するに依存だけはするなという意味だったんだが……」
「あそこまで落ちこんでいるだったら、むしろそのままへこませておいた方が良い気がしますよ?それに一誠さんの言ってらっしゃる事を簡単に実行できる人は数少ないです」
「それはそうなんだが……戦う理由を他人に押し付けちゃいけないんだよ。どんなものにもしなければいけない事があるんだからね。俺は守りたい人たちがいる。命を賭してでも守りたい。その為に戦ってるんだ。できれば神のためではなく、人のために戦う人であって欲しいと願ったんだよ」
「でもそれは……いえ、そうですね。何かを成し遂げたいと想うその心が人を強くする。私はあなたの隣に立ちたいんですよ。一誠さん。その為に、あなたに追いつくためだけに修行を重ねてきたんです。だから一誠さん、お願いがあります」
「……俺としてはお勧めしない。これを施すってことは、人間ではなくなるってことだ。従者という言葉で包んでいるけど実質は奴隷に近いんだよ。無理に俺たちと同じ道を歩む必要はないんだ」
そう言った途端に胸ぐらを掴まれた上にーーーーキスされた。しかもわりとディープな奴を。その時のアイリスさんの顔はドライグと同じかそれ以上に赤かった。そんな状態が十数秒続くとようやく顔を離した。その眼は真剣味に溢れていたし、何よりも退く気がないことを表していた。これは何を言っても無駄だな。
「分かった分かった。でも施術を行うのは今日の夜だ。ちょっと準備がいるし、考える時間も必要だからそれだけ時間をとろう」
「……分かりました。でも!私の心は変わりませんからね!」
そう言って笑った彼女の顔は真っ赤で、それでも大輪の花のように咲き誇っていた。