結婚してからも俺と政宗の間にはいろいろなことがあった。
政宗が過労で倒れたことで俺自身甘えすぎていた事に気付いたり。だからと頑張ろうとしたら、今度は俺が倒れてしまったり。
そんなこんなで俺と政宗は互いに無理のない関係を築いていこうと決めた。
でもずっと引っ掛かっていることがある。
器用で何でもこなせる政宗は家事も完璧にこなしていた。
いつも俺の好きな魚料理を出してくれて、しかもその味付けも完璧。その辺りは政宗も無理なくこなしてしまえるらしい。
ただ一緒に暮らし始めてから一度も政宗が蕎麦を打っているところを見ていない。
政宗は無理に俺に合わせているに違いない。だが正面からそれを告げたところで政宗は否定するだろう。
だとしたらやはりこう言うしかない。
「政宗」
名前を呼ぶと政宗はいつもと変わらないおおらかな表情を向けてくれる。
「次の休みは蕎麦が食べたいんだ。政宗の打ったやつが」
ねだるとか甘えるとか、そういうことは苦手だ。でも思えば政宗には、知り合った当初からわがままが言えていた気がする。
そんな気持ちで告げた俺の目の前で政宗がパッと笑顔を輝かせた。
「そうか!真琴も蕎麦に目覚めたか!」
嬉しそうに笑う政宗を見ていると俺まで嬉しくなる。
政宗は蕎麦の良さを共有できる相手を好むと前にどこがで聞いた記憶があった。幸村から聞いたのか、出所は忘れたが。
そうして休みの日は政宗と蕎麦を打つことになったが、やはりこういうことは慣れが大切だ。作業の大部分を政宗にやってもらい、俺は少し手伝うだけに徹した。
むしろ生き生きと蕎麦を打つ政宗を見ているのが楽しかった。
これなら良い息抜きになっただろうと心から思う。
無理をしない。できるだけ気を使わない。互いに支え合うという中でも、きっと政宗は俺に尽くしてくれようとするから。
それならこうして俺のわがままをかなえる形で政宗を楽しませてやれれば…
「真琴」
不意に名前を呼ばれて俺は政宗を見た。
いつも優しい笑顔の政宗が、たまに見せる凛々しい顔が俺は少し苦手だ。
「気遣ってくれてありがとう」
本当に駄目だ。苦手なんだ。心臓がおとなしくしてくれなくなる。
こんなにも誰かの言動で戸惑う事があるなんて月城に来た時は思わなかったのに。
「真琴と一緒になれて良かった」
穏やかに告げられるその言葉に、俺の中で抵抗とか思いやりとかそんなものはすべて砕け散った。
急速に熱くなる顔を両手でおおってしゃがみこむ。ああ駄目だ。抑えろ自分。
ここは耳を出すところじゃない。
「真琴、大丈夫か!?」
しゃがみこんだ俺の頭上から政宗の心配そうな声が降る。でも駄目なんだ。
今日は政宗を楽しませる為の日で、蕎麦打ちを思い切り楽しんでもらいたいのに。
「真琴、耳と尻尾が出ているぞ。つらいのであれば…」
「政宗が格好良すぎるから!」
「なんだと!?」
八つ当たりのように叫んだ俺に政宗の戸惑った声が返る。
それでも手を捕まれて立つように言われて、俺は赤くなった顔で政宗を見上げる。
「気遣ってくれたことは嬉しいが、ここからは俺に尽くさせてくれ」
目の前にあるのはいつもの笑顔だけど、今だけは落ち着けない。
政宗のことが好きすぎて発情するなんて、どう言い訳したら良いんだ。