僕は知ってるよ。君が本当はとても優しい子だって。
はじめて施設で会った時の君はとても悲しい顔をしていた。自分の事も何も話さないから施設の人がとても困ってたね。
小学校でも君は何も言わないから、みんな無口って遠巻きにしてた。
でも僕はそんな君とずっと一緒にいた。一緒に起きて一緒に登校して、一緒に施設へ帰って一緒に眠りにつく。
だから僕は知ってるんだ。
夜になると君が写真を握りしめてこっそり泣いてること。一枚しか残せなかったっていう写真。
水族館でお父さんとお母さんと三人で写ったその写真の君は嬉しそうに笑ってる。
だけど僕は君の笑顔を見たことがないよ。
ねぇ、真琴?
いつか僕が大きくなって、君の事を守れるくらい大きくなって。君を悲しませるすべてから守れるようになったら、君は笑ってくれる?
僕のために笑ってなんて言わないよ。ただ君が笑ってくれれば、それだけで僕は嬉しいから。
だから僕は大きくなるよ。大きくなって君を暖かく包み込む人になりたい。
「……おい起きろ。長政」
肩を揺すられて目を覚ました俺は寝ぼけた頭のまま声の主を見上げて微笑む。
「おはよ、真琴」
「おはようじゃない。こんなところで寝ると風邪を引くだろ」
真琴の部屋でレポートを片付けていたんだけど、いつの間にか寝てしまったみたい。だけどもう六月末だから、風邪を引くことはないと思うけどなぁ。
ビニール袋を手にして立ってる真琴はテーブルを挟んだ真正面に座る。
テーブルには俺のPCとたくさんの資料、それと真琴の本が積まれてた。
「コンビニ行ってたの?」
「スーパーでコーヒー牛乳買ってきた」
「瓶にウサギマークのついてるやつ?」
「そう、うさぎ牛乳」
子供の頃によく好きで飲んでた瓶牛乳。なぜかウサギのマークがついてて俺はとても好きだったんだ。でも真琴はそうでもなかったし、興味ない感じだった。
でもやっぱり真琴はそういう事も覚えてくれているらしい。
真琴はさりげなく優しい。
レポートの手伝いをしてくれてる真琴は大学の資料を見てくれている。そんな真琴に俺は笑顔のまま問いかけた。
「俺は大きくなれたかな」
真琴は少し鈍感だから俺の気持ちには気付かないと思う。だってほら、今も不思議そうに俺の頭を見てる。
「どうみても大きいだろ。なんだ? まだ大きくなりたいのか?」
真琴が留学する前はふたりともあまり背は変わらなかった。だから真琴は今も俺の背が伸びたことを気にしてる。
昔はあんなに世話してやったのにとつぶやく事もあるよね。
「ううん、身長はもう伸びなくていいかな」
真琴の質問に首を横へ振って返して、でもやっぱり顔が緩んでしまう。
今の真琴は天才外科医として月城医大に呼ばれてる人。だけど俺は医大の学生で研修医ですらないから、本当はとても遠い距離なんだけど。
それでも真琴は幼なじみとして接してくれる。
本当に優しくて、自慢の幼なじみなんだ。
「レポート、進んでるか?」
「うん、順調だよ。ああでも……」
ふんわりと柔らかな笑顔を見せていた俺はふと視線を落とした。どうしようかな、言ってしまおうかな。
「どうした?」
真琴が真剣な顔で何かあったのかと聞いてくる。だから思いきって言ってしまおう。
「俺は真琴が大好きだよ」