「みっちゃん!おれランドセルかっけーよな!」
新一年生となった彼は毎朝のように同じ言葉を繰り返す。
まるで壊れたスピーカーのような彼はその日も他の小学生と待ち合わせて登校した。そして俺はいつものように中学へ向かう。
三月までの彼は園児で、毎朝親御さんの車で送られて登園していた。だから一緒に歩くことはなかったけれど、今年の四月にがらりと変わった。
新一年生となった彼は、なぜか毎朝のように俺を呼ぶために家へ立ち寄った。
そうしていつしか集合場所までの短い距離を一緒に歩くことが当たり前になる。
近所の大人たちは兄弟のようだ微笑ましいと言う。それに俺を迎えに行くためか朝寝坊しないから楽だと前木さんたちも言っていた。
きっとあの人たちは息子の世話を半分俺に押し付けてるんだろう。
そしてそれはとある日曜日に起きた。
珍しく姿を見せない彼の存在を忘れて勉学に励んでいたら母親に呼ばれる。
リビングに行くと前木さん夫婦が来ていた。しかし息子の姿は見えず、うるさい声も聞こえない。
どこかに隠れているのかと目だけで簡単に探していると手紙を差し出された。前木さんの旦那さんが置き手紙らしいよと教えてくれる。
ひらがなと俺が教えたばかりの簡単な漢字が散らばる置き手紙。
そこには俺に友人がいないかもしれない疑惑があると書かれていた。しかも彼は愚かなことに、だから友人を探す旅に出るとも書いている。
ここまでくると本当に小学生なのかと疑いたくなるほどだ。だが元々彼はそういう男で、だから俺は彼に捕まったのだという事を思い出す。
そうして考えていると彼の居場所に心当たりはないかと問われた。
けれど俺は彼の小学校での友人を知らない。小学校で何をしているのか、好きな教科は好きなスポーツは。
そんな当たり前の事をなにひとつ知らないことに気づいてしまった。
「……探してきます」
居場所も心当たりもないけれど、何もしないでいることはできない。なにせ彼はまだ七歳で、やっと小学校にあがったばかりの幼い子供なのだ。
ランドセルを背負って毎朝迎えに来ても、園児の頃となにひとつ変わっていない。彼は変わらず無謀で勇敢な前木慶次なのだから。
家を飛び出した俺はまず近所の公園から見て回った。そこから順番に、今まで彼と出掛けた場所を巡っていく。
公民館や図書館、そして少し離れた博物館にも向かった。さらに足を伸ばしてボール投げに付き合わされた川原にも行ってみる。しかしそのどこにも彼の小さな姿は見当たらず、これ以上は思い当たる場所もなかった。
半日走り回った俺は夕日が傾くのを尻目に家路に就く。
これで帰宅して、彼が見つかったか帰宅したという知らせがあれば良い。そうしたら俺は心配をかけたと謝罪する彼を放置して自分の部屋に引きこもれる。
そう思いながら近所の公園に差し掛かった時、それを見つけた。
名前を呼んで駆け寄ると彼はジュースのボトルを手にしていた。
彼はお金なんて持ち歩かない。少なくとも彼がそれを持ち歩くことなんて一度もなかった。俺と出かける時などは、俺が前木さんから必要なものを預かって管理している。
「そのジュースはなんですか?」
「ヒーローに買ってもらった!」
「……はい?」
いつものことながら、彼の言動は不可解で困ることしかない。
すっかり疲れはてた俺はこれ以上口を開くことをやめて帰宅することに決めた。
家路に就く俺の後ろで彼は六人目がなんだのとひとり元気に話している。
黒い色の六人目は足技が得意でかっこいい。自分もあんな大きな男になりたいと彼は楽しげに語る。
けれど俺はもうそんなことはどうでも良かったし、聞く必要もないと思っていた。
能天気な彼が無事に見つかり帰ることができればそれで良い。