『大海原を旅する冒険者たちに自然の祝福が!』
大音量のナレーションと共にテレビ画面に現れたのは巨大なふたつの虹だった。
問題集を解く俺の隣でテレビをじっと見ている慶次は、先程からすげーすげーと壊れたレコーダーのように繰り返しつぶやいている。
しかし俺はそんな慶次の発言にも考えにも興味がなかった。
夏休み最後の日曜日、俺は二学期最初に行われる実力テストに備えて勉強をしていた。
しかし親から呼ばれてリビングへ行くと前木さんのご両親が来ている。
この時点で俺はかなり嫌な予感を覚えていた。
そして前木さんの旦那さんから質問をされる。
「また慶次がいなくなってしまったんだけど、心当たりはないかな?」
問われた俺はすぐに「ありません」と返してリビングを出た。
俺に心当たりはないけれど、もしかしたらあの人なら何か知っているのではと思えたからだ。
その人は慶次に言わせると『ヒーロー』らしい。
地元の公立高校に通う二年生。茶髪で目付きも悪い。けれどその外見に反して真面目で面倒見も良いようだ。
家を出た俺は迷うことなく河川敷へ来ていた。
しかし目的の人は見つからない。もちろん俺もそう簡単にその人が見つかるとは思っていなかった。
河川敷の土手に腰かけて流れる河を眺めながらあのお騒がせ男の行き先を考える。
しかし神出鬼没で自由奔放な彼の行き先なんてやはりわかりそうもない。
しばらくぼんやりしていると俺のそばに誰かが立った。
「よう、どうした? みっちゃん」
少し茶化すような物言いを向けてきたのは例の高校生ヒーローだった。
私服姿の彼は俺の隣にしゃがみこむ。
「慶次の行き先を知りませんか」
しかし俺が質問を向けると高校生ヒーローの顔はきょとんと幼げな顔を見せていた。
「知らねぇけど……またいなくなったのか」
不思議そうな、けど少し呆れたような顔を見せる。
そんな高校生ヒーローへ俺はやや愚痴を吐きたい気持ちで言葉を向けた。
「慶次がいなくなるとご両親が俺のところに来るんです。慶次はいつも俺のところへ真っ先に来るので」
「あいつはおまえになついてるからな。俺と会うたびに『みっちゃんがーみっちゃんがー』って話してるよ。それだけ大好きだってことだな」
「でもはた迷惑です。今日だって俺は勉強をしていたのに、こうして探し歩くことになったんですから」
「お兄ちゃんは大変だな」
簡単に言い放った高校生ヒーローは立ち上がった。俺の肩をたたいて立ち上がらせるとそばに置かれた自転車を指差す。
「後ろに乗れよ。ぶらっと走ればどっかで見つかるだろ」
高校生ヒーローから自転車の二人乗りを勧められた俺は一瞬戸惑った。自転車の二人乗りは禁止されているはずだ。
けれどここで拒むのもいけない気がして、俺はおとなしく自転車に乗ることにした。
俺を後ろに座らせた自転車は風を切って走り出した。
蝉の鳴き声を遠くに聞きながら空を見上げるとはるか上空に薄い雲がある。
「夏休みももう終わりだなー」
空を見上げる俺のそばで高校生ヒーローは気安い雰囲気で言い放った。
そうして自転車は河を渡る橋を進んでいく。