月城町みたいな話   作:とましの

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大海原へ大冒険 本編

『大海原を旅する冒険者たちに自然の祝福が!』

そういう説明と一緒に出たのは大きなふたつの虹だった。

 

これを見たときにおれはピンときた。

男には冒険が必要なんだって。

 

 

日曜日の朝から家を出たおれは河原に来ていた。キラキラ光る川を大海原に見立てて、その向こう側を目指して歩きだす。

 

もちろん川を渡るなんてしないぞ。あぶないからな。

でもおれは生まれてはじめてあの橋を歩いて渡るんだ。川の向こう側なんて親と遠くへ行くときしか行ったことないし。

 

これも大冒険だろ!

 

 

橋の向こう側はおれたちの町よりかなり車が多くて大きなビルもある。あと駅がある。

あとのんちゃんの家はこっち側らしい。だから歩いてたら見つけられるかもな。

 

のんちゃんの家は大きい病院らしいからどっかの地図とかにのってたりきてなー

 

と思って近くの地図を見るけど、おれ、のんちゃんの名前知らないんだった。

それに地図は漢字ばかりで読めない!

 

 

しかたないからてきとうに歩いてるとテレビで見たセーラーなんとかみたいな服の小学生を見つけた。

走って近づくと金色のふわふわした頭のやつがこっちを見る。

おおーすげー!

「マンガのお姫さまみたいだな!」

 

思ったことをそのまま言ったら、そいつきょとんとした顔で首をかしげた。

こいつは小さいからみっちゃんのトモダチにはなれないな。女の子だし

「なんだ、ユキちゃん。知り合いか?」

じっとお姫さまを見てたら同じ服の小学生がもうひとりきた。

 

お姫さまのズボンはめちゃくちゃ短くて太ももとかすげー見えるけど、もうひとりは普通だな。

俺のズボンは普通だ。

「お姫さまはズボンみじかいな!」

「オレ、お姫さまじゃねーし……」

短すぎると言いたかったけど、それよりお姫さまがお姫さまじゃないとか言い出した。

おれはちょっとびっくりした。

 

「お姫さまじゃないのか!」

「ユキちゃんはこれでも男の子だぞ。近所の奥様がたにもよく間違われるけどな!」

わっはっは!ともうひとりが楽しげに笑うからおれはそんなものかと納得した。

みんなが間違えるならおれがまちがえてもおかしくないな。

 

「それでお姫さまはユキちゃんなんだな。おまえは?」

「おれは伊達川政宗だ! それより年上におまえなどと言ってはならんぞ」

「わかった!」

よくわからないけど、言ってはだめなんだな。

 

ユキちゃんとマサムネとトモダチになったおれはちょっと無敵な気分になった。

違う小学校にもトモダチがいるってすげーよな。

 

「お菓子食べたいからそこに寄ってくる」

おれと政宗が話してるとユキちゃんが店に向かって歩いていく。おれはマサムネに手をつかまれてそのあとをおいかける。

「なあ、マサムネ。なんでおれと手をつないだんだ?」

「む? 小さい子をひとりにはしておけんだろう」

「おれは小さくないぞ!ここまで冒険で来れるくらいだからな!」

「そうは言っても小さいではないか。おれたちよりも小さいのだからな」

おれより大きなマサムネからはっきりと言われたら何も返せなくなるじゃないか。

でもマサムネだってみっちゃんより小さいだろって、言いたいけど、そんなマサムネよりおれのが小さいのは間違ってない。

 

でも今までみっちゃんもヒーローも、おれのこと小さいとか言わなかった。

 

 

 

コンビニでお菓子やアイスを買ってきたユキちゃんは普通に袋からアイスを出しておれにくれた。

おれはなんとなくつまらない気持ちだったけど、アイスはもらう。

そしたらユキちゃんが少し怒った顔でマサムネを見た。

「なにかいじめた?」

「いじめてなどおらんよ。それよりユキちゃん、お菓子を買いすぎではないか?」

「そんなことない」

年上のふたりが話をしてるから、おれはアイスの袋をあけながら歩き出した。

そういえばよくみっちゃんが歩きながら食べるなとか言ってたなー。

 

「む、慶次歩きながら食べてはならんぞ」

いきなり声をかけられたおれはマサムネに振り向いた拍子に誰かにぶつかった。

後ろを向くと知らない学ランのヤツがふたりいる。

 

みっちゃんとおんなじ学ランを着たそいつらは、いきなり服にアイスがついたとか言い出した。

でもそんなのウソっぱちだ

 

「ウソつくなよ!おれ背中がぶつかっただろ!」

「うるせぇーだーまれー」

すげームカつく言い方をしたそいつは、おれからアイスを取った!

なんだこいつ!

「返せ!」

「ガキが買い食いなんて生意気なんだよ。おら、そっちのガキどももそれよこせ」

もうひとりのヤツがユキちゃんに近付いて袋を取ろうとするから、おれはとっさにそっちへ走った。

 

「それはユキちゃんのだぞ!!」

 

ユキちゃんを守ろうと走ったおれの目の前で、学ランのヤツがくるりとまわった。しかも背中から地面に倒れてる。

なんだいまの、いきなり回転して倒れたぞ。

 

「いってー!」

地面に倒れたヤツが声をあげて起き上がるそばにマサムネが立ってた。

今までの笑顔とぜんぜん違う顔だ。

けど誰かに似てる。

 

「己より弱き者をいじめてはならん」

 

まじめな顔のマサムネは地面に座り込んだままの学ランをじっと見つめてる。

そんなマサムネの後ろでユキちゃんはアイスをかじってた。

「政宗は合気道をやってるから子供しかいじめられないヤツじゃ勝てないヨ」

マサムネに守られてるユキちゃんは、やっぱりお姫さまぽい。

そんなことを考えてたらおれは後ろにいたヤツに腕をつかまれた。

 

「なにやってんのか知らねーけど、このガキ殴られたくなかったらおとなしくしてろよくそチビども」

こいつ悪者っぽいこと言い出した!

小学生相手に人質とはヒキョウだぞ!

 

でもつかまりたくないおれは慌ててそいつの手から逃げようと踏ん張った。

マサムネはすごいけど、ヒーローみたいだけど、人質を取られたらだめだ!

 

学ランのヤツの手をつかんでおれから手を離させようとするけど手の力が強くてびくともしない。

「ズルいぞ!はなせ!」

「うるせぇんだよ」

おれが大声を出してもコンビニから店員も誰も出てこないし、おれは悪者みたいなこいつに頭をはたかれた。

すげー痛いし、悔しくて涙がでる。

おれヒーローになりたいけど人質はイヤだ

 

「……小学生のガキにタカろうなんて、しょぼいなぁおい」

 

わらってるような声と一緒にチリンチリンと自転車の鈴が鳴った。

そしたらおれの手をつかんでた手が離れたから、おれは急いでそいつから逃げる。

けどすぐに別の手につかまって、今度は顔をハンカチで拭かれた。

相手を見たらみっちゃんだった。

 

みっちゃんがいるってわかったらなぜかもっと涙が出てきてとまらなくなったけど、みっちゃんは何も言わなかった。

黙っておれの涙をふいてくれて、もう大丈夫だからと教えてくれる。

 

 

 

学ランのヤツらはこの近くの中学生で、みっちゃんとは違う学校らしい。

けどすげー不良の中学生だから、ヒーローのことは知ってたみたいだ。

だからヒーローが来たらすぐに逃げた。

 

ヒーローはやっぱすげーって思う

けど……

 

あ、そうか。マサムネだれかに似てると思ったらヒーローみたいだったんだ。

 

騒いでる間にアイスは溶けちゃって、それはコンビニのゴミ箱に捨てられた。

 

みっちゃんは、アイスはやめなさいと言っておれに飲み物にしろって言う。

「おれアイス食べたかった……」

「チビなんだからスポドリにしとけよ。こんな遠くまで来やがって、水分補給は大事だぞ」

口をとがらせたおれにヒーローが笑いながらボトルを出してくれる。

 

みっちゃんとヒーローがトモダチになるのはいいけどさ

なんか強すぎておれ一生アイス食べられない気がするな

 

おれにジュースを買ってくれたヒーローはマサムネにはお茶を買ってた。

聞いたらマサムネはお茶のが好きなんだって。なんかみっちゃんみたいだな。

 

買い物を終えて外に出たらみっちゃんがおれを見下ろしてきた。

「それで、慶次はどうしてここまで来たんですか?」

「大海原を越えて大冒険したかったから、川を越えて大冒険した!」

「意味がわかりませんよ」

 

せっかくおれが説明したのにまたみっちゃんはわからないで終わらせる。

少しはわかってくれよ

 

 

 

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