もうどれだけ飲んだのかわからねぇ。
会合の付き合いで、若いからって飲まされ続けた。相手方もたぶん半分やっかみがあったんだろう。
年齢にそぐわない俺の地位が気に入らないヤツなんてごまんといる。
医学界の偉いさんから何から入れ替わり立ち替わり、年齢が上だから人生の先輩だからと理由をつけては酒を勧めてくる。
いくら酒に強いつっても、人間には限度ってもんがあるわ。
ただ今回は、自我が残ってるうちにメールで迎えを頼んでおいた俺の勝ちだ。
どうやって帰ったのかすら覚えてない俺を、うちの有能なスーパードクターが介抱してくれた。
仕事だからって……と、何か言ってた気がするが俺の頭には入ってない。
目が覚めると俺は自分のマンションに寝かされていた。まだ酔いが残っていて思考がうまく働かない。
「大丈夫か、寝てる間に水をいくらか飲ませたが」
急性アルコール中毒の処置として水を飲ますのは正しい。アルコールを薄めないことには何にもならないからな。
「まーこーとーくーん」
「なんだ?」
「ありがとなぁ」
妙に笑いが込み上げてきて、俺はへらへらと笑いながら真琴の頭を撫でた。
真琴はグラスを手にしてるからか拒むこともなにもしない。
「すっげー好きだわ」
俺のヒーロー。
おまえのためならなんでもしてやりたい。
なんだかんだで助けられてばかりだが、おまえが望むことならなんでもしてやりたいんだ。
ほんとにすきなんだ。真琴。
すげーすき。せかいでなによりもだいじにしたい。
おまえのためならなんだってする。
たとえそのために……
酔いに任せて気持ちを吐露したところでまた意識がプツリと途切れる。
翌朝は真琴の処置のおかげか、酷い二日酔いに襲われることもなかった。
今日は休みだからどこにも行かずおとなしくしてようと思ってる。
ただまたアレを着させられていることには驚かされた。
前に真琴が買ってきたバニー衣装の……今回は黒色。
一着五万だっけか?
手首や首にふわふわをつけて、やたら背中のあいた使途不明な服だ。
「なんだこれ……」
「着替えがなかった」
唖然とする俺の隣で密着するように横たわる真琴が平然と言い放つ。
いや、ないわけねぇだろ。ここは俺の部屋だぞ。
つっても、介抱してもらった立場であんま文句は言えないんだけどな。
「それより光秀は大丈夫なのか?」
俺の肩にすり寄りながら真琴が問いかけてくる。それに大丈夫だと返せば、真琴は安堵したように良かったとつぶやいた。
「で?」
「ん?」
俺の問いかけに真琴は視線だけ向けて返す。
「これはどうすりゃいいんだ?」
改めて問いかけるとやっと真琴が動き出した。覆い被さるように俺の上へ移動する。
「光秀」
「んー?」
「可愛いな」
「……っ!!」
真琴の言葉を受け取った瞬間顔が真っ赤に染まる。
くそ! 油断してたからモロに顔に出た。
つーか何なんだよ。こいつのたまに見せる天然のこれはなんなんだ。
「それにこっちはピンクと違って色気があるな」
「んなこと知るか」
真琴の言葉に短く返して赤くなった顔を腕で隠す。手首のふわふわがくすぐったい。
すると真琴は俺の太ももを撫でた。
ニーハイだっけか? タイツみたいに長い靴下と足の付け根の間をゆっくり揉むように撫でて内側に手を進めていく。
「おい、真琴」
「心配した」
真面目な恋人の真面目な言葉に俺の身体がわずかに震える。
「昨夜の事を覚えてるか?」
元々愛想なんて持ち合わせていない年下の恋人は、なぜか眉を潜めて俺を見下ろす。
「俺のためなら自分の命をなげうっても良い。おまえはそう言ったんだ」
ああ、そうか。
だからこいつは怒ってるのか。けど酔っぱらいの戯れ事だからと本気で叱りつけることができないでいる。
ここで下手に誤魔化そうなんてしてもムダだろうな。
「もしおまえの事が救えなかったら……そういう状況だったらそうするかもしれねぇな」
「そんなこと俺は認めない」
「けど救っただろ」
獣症に侵されていた恋人の頭にあった腫瘍は俺が取り除いた。俺の持ちうる最高の技術で最高の環境で、俺は真琴を救うことができた。
「だからそれはもういらない思考だ」
「だが昨日のおまえは……」
「酔い潰れて昔の考えが出ただけだろ。それよりな、真琴君?」
今度はこっちが質問する番だと俺は恋人の綺麗な顔を眺める。
「俺が言ったのはそれだけか?」
マジで覚えがないんだけどと問いかければ、目の前の美人さんが笑顔を見せた。
「教えてやらない」
「言ったってことか」
「おまえの気持ちが駄々漏れだった」
「へぇー」
何を言ったのか覚えてないが、それは真琴を喜ばせるものだったらしい。それなら問題ねぇわ。
今更恥ずかしいなんてものはないからな。
「光秀……二日酔いがつらくないなら、このまま俺の相手をしてくれないか」
笑顔のまま、不意にその眼光を強めた年下の恋人が俺の胸板に手を滑らせる。
「マジか……この格好でか?」
「可愛いからな。バニーな光秀」
軽く笑いながら真琴が顔を近づけてきた。
そのままキスされたせいで、「バカか」って言いたくても言えない。
でも絶対こいつのこういうところはバカなんだと思うわ。