元々多忙な男ではあるが、最近のそれは異常なレベルだった。
その根源となっていたのは学会の準備で、若くして外科部長を務める光秀はその面でとくに力を入れている。医師が集まる場で不手際があれば月城医大の名に響くためだ。
とはいえ恋人が疲弊していく様を見るのはつらい
やはり癒しは必要だと思う。
そう考えた俺は学会前日の夜に光秀のマンションへ押し掛けていた。資料をにらみ動かない光秀に食事を取らせて、ついでに煙草を遠ざける。
次に風呂へ行かせるとその間に資料を整頓した上でまとめておいた。もちろんさりげなく目を通すことを忘れない。
やがて風呂から上がった光秀は資料の片付けられたソファに腰をおろす。
「今夜は何を企んでんだ?」
風呂に入っても消えない疲労感をそのままにしながら光秀は笑って見せる。疲れていてもそれを見せない態度は尊敬に値するけどな。
「光秀を癒そうと思ってる」
「へー……」
俺の話を聞きながら光秀の目は煙草を探してる。既に煙草はリビングの外に隠させてもらったけどな。
「煙草、知らねぇか」
「隠した」
「おい」
率直に答えた俺に光秀は楽しげな顔のまま立ち上がろうとした。ソファの後ろに回り込んだ俺はそんな光秀の両肩を押さえて座らせる。
「まずは肩のマッサージから」
癒しと言えばこれだろう。俺は遥か昔……自分が幼い子供だった頃を思い出しながら肩を揉み始めた。
凝り固まった肩や首元の筋肉を揉みほぐしながら腰のマッサージを勧めてラグの上へうつ伏せにさせる。
子供の頃は小さすぎて肩のマッサージもままならなかっただろう。しかしそれでも親は喜んでくれていたような記憶がある。
子供の頃と違って今の俺はこうして癒す方法を心得ている。筋肉組織の場所と向きを正しく把握してそれに合わせたマッサージを施せば良いだけだから。
いや、それだけでは駄目かもしれない。緊張状態の広背筋を揉みほぐした後に大殿筋へ手を移した時、俺の思考が停止した。
やはり……この絶妙な感触。柔らかさ。
「何やってんだよ」
尻の感触に感動していると光秀の声が飛んできた。
「マッサージだ」
「揉んでるだろ。揉んでるよな?」
「マッサージだ!」
「手つきが変わっただろーが!」
光秀に手を弾かれてマッサージが中断した。
せっかくの尻が。
「おまえ今せっかくの尻がとか考えたろ」
「エスパーか!」
素直に驚く俺の目の前で光秀は馬鹿かとつぶやきながら笑う。
ん? さっきよりリラックスしたような顔だな。マッサージの効果か?
「あー、けど腰のマッサージは良かったな。もう少しやってくれよ」
再び顔を伏せた光秀は楽しげな声で言う。
広背筋マッサージがそんなに良かったか。
俺は大殿筋のほうが好きだが、光秀が気持ちいいのなら今夜は我慢してやろう。