IS~ワンサマーの親友   作:piguzam]

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久しぶりだな、兄弟

 

 

春。

 

それは麗らかな季節であり、出会いと別れの季節でもある。

冬眠していた動物達は厳しい冬を乗り越え野を闊歩し、樹木は次世代の生命を生み出し、己自身を彩る。

俺達人間は苦学を共にした学友と涙ながらに別れ、新たな出会いに胸を躍らせる季節でもある。

 

つまりは、色んな意味で再スタートを切る季節ってヤツだ。

 

そんな再スタートの季節、俺っち事鍋島元次は何をしてるかっつうと……。

 

パアンッ!!!

 

『痛てッ!?……げぇッ!?関羽ッ!?』

 

パアンッ!!!

 

『誰が三国志の英雄か馬鹿者』

 

教室の中から華麗に鳴り響く打撃音と、変わりが無さ過ぎる兄弟分に溜息を吐くのを我慢してる所だ。

 

 

あの恥らう千冬さんに折れた刀の面で地獄突きを喰らってから回復した俺は明日、つまりは今日の入学式についての説明を受けた。

その説明で、俺は今日の入学式に参加しなくていいと千冬さんから言い渡された。

理由としてはまず1つ目に、俺のIS適正発覚のニュースはまだ世間には公表されてない事が要因だということだ。

1人目の一夏は発見されてから直ぐにニュースになったが、そのせいで一夏は日中夜問わずにマスコミに張り付かれる事になり、碌に外出出来なかったそうだ。

俺のIS適正発覚がニュースにならなかったのは、適正検査を受けた学校に政府から圧力が掛かった事と、あのデブのお陰?らしい。

あのデブの手打ちの条件に『俺がIS学園に入学するまでは世間に公表しない』ってのを政府の人が追加してくれてた。

そうしないとまたデブの様なヤツが来たら『俺も爺ちゃんも冴島さんも、今度は手加減しない』って言ったからだろう。

それ聞いてあの喧嘩を見てたお姉さんが顔真っ青にしてたし。

 

2つ目の理由はまぁ……何と言うか……。

俺が千冬さんに2つ目の理由を聞いたらこう返されたよ。

 

『お前は図体がデカイ上に目つきも鋭い。そんな男がニュースに公表されてもいないのにIS学園の入学式に出ていたら、不審者扱いされてもおかしくないだろうが。そんな展開はお前も望んでいないだろう?』

 

……だそうです。

……理由はまぁ、理解はできました……が……納得はいきませんぜ千冬さぁん……ぐすっ。

 

つまりは『お前ゴツイし怖いから入学式出るな。女の子達を脅かすな』ってハブられたです。

こん時ばかりは自分のマッチョな体を恨んだっての畜生。

そんな訳で、俺は入学式に出ずに、入学式の後で校門で合流した千冬さんと共に俺の新しいクラスである『一年一組』に足を運んでいた。

 

『おい元次』

 

『はい?なんすか千冬さん?』

 

その道中に俺は前を歩く千冬さんに声を掛けられたので、それに返事を返す。

 

『その制服、改造したのか?』

 

千冬さんが振り向きながら聞いてきたのは、俺のIS学園の制服だ。

最初に渡された生徒手帳に『IS学園の制服は改造OK』と書いてあったので、俺は貰ったその日に婆ちゃんに改造してもらった。

上半身の制服はそのままノーマルだが、ズボンは足の太さを太くしておりダボっとしている。

USワークパンツみてえにルーズな仕様だ。

後、装飾品の装着もOKと、かなり服装については校則が緩い。

とりあえず首周りだけの短くて太めのシルバーチェーンは首元に着けた。

制服に隠れて見えねえけど、そーゆートコもオシャレしたい年頃なんです。

 

『あ、はい。俺、ピチッとしたズボンとか嫌いなんスよ』

 

ゆったり開放感がある長ズボンが俺の好きなタイプだからな。

 

『そうか……まぁ、なんだ……そこそこ似合ってるぞ』

 

そこそこっすか、随分と手厳しい事で。

まぁ、口に出しゃしませんがね?

 

『へへっ、ありがとうございます。千冬さんに褒められると嬉しいっす』

 

似合わないと言われるより百倍イイね。

結構千冬さんて辛口評価だから、そこそこならイイ線いってると思う。

 

『な、何を嬉しそうにしとるか馬鹿者……あ、あくまでそこそこだ……っと、着いたぞ。ここだ』

 

そんな風に駄弁っていたら、いつの間にか教室まで着いた。

教室の入り口の前で千冬さんから「呼んだら入って来い」って言われて待とうとしたんだが……。

 

『え……っと……織斑一夏です……』

 

教室の中から、懐かしくもあり、数日間分の怒りの矛先である兄弟分の声が聞こえてきたんだ。

どうやら自己紹介の途中らしい。

その声が聞こえた千冬さんは、一夏の自己紹介が終わってから入ろうと扉に掛けていた手を止めたんだが……。

 

『……』

 

何故か名前の後は無言。

教室に沈黙が降臨し、俺と千冬さんが訝しく思っていると……。

 

『えっと……以上です!!』

 

がたたたッ!!!

 

長い沈黙の後、エラク気合の入った声でそう締めくくり、椅子のひっくり返るような音があちこちから鳴りだした。

かくいうコッチもずっこけそうだったぜ。

あ、あの馬鹿野郎は……何を高校デビュー初っ端でやらかしてんだ。

 

「はぁ、まったく……元次、私が呼んだら入って来い」

 

「はぁ……わっかりました、千冬さん」

 

そう言って千冬さんは、手に持ってた出席簿を軽く素振りしながらドアを潜っていった。

そんで最初に戻って、今は一夏の頭に何かが振り落とされた音が三度響いた所だ。

多分さっき素振りしてた出席簿だろうが……千冬さんが振るとあんな音がすんですね、わかります。

さて、宝具SYUSSEKIBOのこたぁ頭の片隅に追いやって……自己紹介、どうしたもんかね?

ここで千冬さんが出て行ったとなりゃ、この後で俺を紹介するのかもしれねえ。

つまりは一夏がブッ壊したこの空気を俺が回復しろって事っすか?

何と言う無茶振り、また俺がアイツのケツを拭くの?罪状追加だなこりゃ(笑)

 

『さてと、諸君。私が織斑千冬だ。君たち新人を一年で使い物にするのが仕事だ。私の言うことはよく聴き、よく理解しろ。出来ない者には出来るまで指導してやる。私の仕事は弱冠十五歳を十六歳までに鍛え抜くことだ。逆らってもいいが、私の言うことは聞け。いいな』

 

と、千冬さんが先に自己紹介しちゃったよ。

世界最強の後で自己紹介とかハードル上げないで欲しいぜ。

しかも千冬さんらしい自己紹介というか……まさしく暴君に相応しい言動。

しかし、教室には俺が予想してた困惑のざわめきではなく黄色い声援が響いた。

 

『キャ―――――――――! 千冬様、本物の千冬様よ!』

 

ちょっ!?千冬様ってアンタ……似合いすg、げふんげふん!!

あ、危ねぇ……教室からヤバイ殺気を感じたっス(汗)

 

『ずっとファンでした!』

 

お?ミーハーな子もいるんだな、まぁそれぐらいの理由なら解る。

 

『私、お姉様に憧れてこの学園に来たんです! 北九州から!』

 

ここって世界各国レベルじゃねぇのか?

北九州ならまだ近い気がするんだが。

 

『あの千冬様にご指導いただけるなんて嬉しいです!』

 

やめときなさい、サシでやったら軽く死ねるよ?

まだ命は惜しいだろう?

 

『私、お姉様のためなら死ねます!』

 

コラ最後、命は大事にしろって。親御さん泣くぞ?

キャイキャイと騒ぐ女子達の声が響く中で、千冬さんはかなりうっとおしそうな溜息をつくのが聞こえた。

 

『ハァァ………毎年、よくもこれだけ馬鹿者が集まるものだ。感心させられる。それとも何か?私のところにだけ馬鹿者を集中させてるのか?』

 

あらら、千冬さん本気でうっとおしがってら……まぁ、あの人騒がしいのはあんまり好きじゃねぇし、妥当っちゃ妥当か。

だがしかし、千冬さんのうっとおしがる声にも黄色い歓声は鳴り止まない、それどころかよりヒートアップした。

 

『きゃああああああっ!お姉様!もっと叱って!もっと罵って!』

ちょい待てそこ逝くお嬢さん、マゾ公言してんじゃねえ。

『でも時には優しくして!』

鞭と飴か、でも千冬さんは鞭しかくれねえと思うぞ?

『そしてつけあがらないように躾をして~!』

お ま え も か 。

 

一部、不穏な声が聞こえるが……聞かなかった事にしたい。

つうかこんなんばっかかIS学園、俺は3年も身が持つか不安になってきたぞ。

 

『で?挨拶も満足に出来んのか、お前は?』

『い、いや、千冬姉、俺は……』

スパァーンッ!本日三度目の出席簿がお見舞いされる。

千冬さん、身内贔屓しないからってポンポン人の頭を叩いていいもんじゃないと思いますぜ。

一発につき脳細胞2万個は死んだろあの音。

一夏の頭が悪くなる分にゃ一向に構わねぇが鈍感レベルが上がったらどうするんスか。

朴念神の上なんて拝みたくないっす。

ってありゃ?そーいや俺さっきまで「千冬さん」って呼んでたけど怒られなかったな?

 

『織斑先生と呼べ』

『………はい、織斑先生』

 

『え……?織斑くんって、あの千冬様の弟………?』

『親戚とかなのかな……?同じ名字だし、もしかして姉弟だったりして?』

『じゃあ、世界で唯一男で『IS』を使えるって言うのも、それが関係して?』

『ああっ、いいなぁっ。代わって欲しいなぁっ』

 

お?今のやりとりで何人かは一夏と千冬さんの関係に気付いたみてぇだな。

だが三番目の嬢ちゃんよ、それだと俺が説明つかねぇぞ。

 

『さあ、SHRは終わりだ。……と、言いたいところだが、諸君らにはもう1つ説明しておく事がある』

 

『『『『『?』』』』』

 

ここで千冬さんは凛とした声でSHRの締め括りを宣言しようとしたが、途中で言葉を切って生徒の注意をまた引いた。

やれやれ、やっと俺の出番かね?

 

『先月、全世界で行われた男性のIS適性検査の結果だが……実はもう1人、男性のIS操縦者が見つかっている』

 

『『『『『…………えぇぇぇえええええ!!!?』』』』』

 

千冬さんの宣言に、教室から驚愕の声が上がる。

まぁそりゃ驚くよな、男が一夏1人かと思ったらもう1人いるなんて衝撃ニュースをいきなり聞かされりゃ。

 

『ほ、本当か千冬姉!!?』

 

あ、一夏がまた千冬姉って呼ん……。

 

ズパァァアアン!!!

 

ってなんかさっきまでと打撃音が違う!!?

どんだけレベル上げたの千冬さん!?

一夏も男が1人だけじゃねえって解ってテンション上がってんだよ!?

もう少し手加減してあげた方がいいんじゃねぇっすか!?

 

『ベリィッ!!?』

 

一夏!?お前なんだよその悲鳴は!?ニワトリでもあげねぇぞそんな悲鳴!?

 

『織斑先生と呼べと何度言わせる!!……もう1人の男の事だが、今日までニュースにならなかったのはソイツの入学までの生活の面を考えてのことだ』

 

千冬さんは一夏に怒鳴ったが、その怒声で教室が静かになった隙に俺の事情を説明していく。

ま、まさか教室を静かにするために、一夏を強くブッ叩くとは……恐るべし、千冬さん。

すると、俺の事情を聞き終えた生徒達はひそひそと何かを話し合っている。

扉越しだから良くは聞こえねぇが、まぁ気にしても仕方ねえだろう。

どうせもう直ぐツラを突き合わすんだしな。

 

『ソイツはさっきから扉の前で待っている……入って来い』

 

と、ここでやっと千冬さんからお呼びがかかった。

さあて、行きますか。

俺は服装の乱れを軽くチェックしてから扉に声を掛ける。

 

「失礼します」

 

パシュッ

 

俺の声に反応して目の前の自動ドアが開き、俺は中に足を踏み入れる。

扉は俺の背より若干小さく設計されていたので俺は頭を軽く下げて扉を潜る。

よっしゃ、俺の高校デビューの自己紹介だ、一夏みてぇにポカやんねぇようにしねぇとな。

 

「よっと…………え?」

 

だが、扉を潜って教室に入った俺は、目の前に広がる光景に間抜けな声を上げてしまった。

俺が教室に入ってから視界に入ったのはまず教卓、教師が使う机。

だがそれは別に問題じゃねえ、あっても不思議なモンじゃねぇからな、むしろ無いほうが不自然だ。

そして、その教壇の左手、俺から見て教室の手前側にいる何やら不機嫌そうな千冬さんも……問題っちゃ問題だが今は別にいい。

 

扉を潜って最初に視界に飛び込んできたのは……。

 

 

 

「お、おおお久しぶりででです!!げ、元次さん!!!わ、私の事、覚えて……ます……か?」

 

鮮やかな緑色のショートカットの髪を揺らし、レモンイエローのワンピースを着て、ちょっとサイズが大きいメガネを掛けた女の子。

去年の冬に町中でチンピラ共に絡まれてた少女……俺を上目遣いに見上げてくる、真耶ちゃんの赤く染まったプリティーフェイスだった。

 

うん、あの日と同じでどもりまくってるね……じゃあなくて!!?

 

「……え?えぇ?えええええ!!!?ま、ま、まま、真耶ちゃん!!?」

 

な、なんで真耶ちゃんがここに!?どぉなってんだ!!?

一体全体なにがどう化学反応を起こしてこんなワケ分かんねえ状況に!!?

余りにも突然すぎる再会にテンパッた俺は声を大きくして反応してしまう。

だが俺の傍にいた真耶ちゃんはそんな大声も気にした様子は無く、頬を赤く染めたままに可愛らしい笑顔を浮かべる。

 

「ッ!?はい!!お、覚えててくれたんですね!?また元次さんにお会いできて嬉しいです!!わ、私!!ずっと元次さんにお礼をしたかったんです!!」

 

「は!?え!?お、お礼って何だ!?」

 

その余りにも嬉しそうな表情に俺は今がSHRということも、自己紹介の前ということも完全に頭からスッポ抜けて真耶ちゃんに聞き返してしまう。

どうにもここ数日、毎日が驚きの連続で俺の心臓が持ちそうにありませんや。

 

「あ、あの時!!元次さんが私を変な人達から守ってくれた事です!!相手は3人もいたのに、たった1人で私を助けに割って入ってくれた事のお礼ですよ!!私、ちゃんと元次さんにお礼をしたくて、ずっと元次さんを探していたんです!!」

 

「は、はぁ!?ず、ずっとって……まさか真耶ちゃん、あの商店街を?」

 

「そ、そうです!!ずっとあの商店街の辺りで元次さんを探してました!!」

 

「……Holy Shit」

 

俺の問いに、真耶ちゃんは瞳を潤わせながら答えてくれた。

その答えを聞いて、俺は悪態をつきながら額に手の平を当てる。

おいおい待ってくれ、ずっとってまさか……き、去年の12月からずっと俺を探してたのか!?

俺があの商店街を通ったのは、偶々近くのATMに寄ったからであって普段はあの商店街に足を運んだりはしていなかった。

つまりはあの寒い季節の中、真耶ちゃんは1人で当ても無く俺を探し回っていたってことだ。

なんてこった、女の子にそんな事させちまうなんて……ってちょい待て?

 

「あ、あのなぁ……真耶ちゃん?俺はあん時言った筈だぜ?『真耶ちゃんを駅まで送らせてくれりゃ、それが充分お礼代わりになる』ってよ」

 

俺の呆れながらの問いに、真耶ちゃんは首をブンブンと音が鳴りそうな勢いで横に振る。

 

「あ、あんなのお礼になんてなってません!!だって、私が駅までまた変な人に絡まれないようにって元次さんが守ってくれた事がお礼になんてなったりしないじゃないですか!!」

 

「おいおい……意外と頑固なのね、真耶ちゃんって」

 

今度は頬をハムスターのようにぷっくりと膨らましながら声を張り上げてくる真耶ちゃんに、俺は溜息を吐いちまう。

なんつうか……俺としてはお礼なんて別にイイんだがな……なんせもう充分『受け取ってる』しよ。

俺がそんな事を考えていると、真耶ちゃんは頬を萎ませて俺をしっかりと見つめてくる。

 

「だ、だからですね元次さん?……ち、ちゃんと、私のお礼を受け取ってください!!」

 

真耶ちゃんはそう言いながら、俺の両手を握って上目遣いで見てくる。

だからもう充分受け取ってるんだって、そんなしっかり見つめないでくれ、可愛いすぎるぞ真耶ちゃん。

ううぅ、コレ『言わないと』わかっちゃくれねぇよな……仕方ねぇ、か。

俺はこれから言う恥ずかしい台詞に覚悟を決めて真耶ちゃんと視線を交える。

 

「あ~、その……な?……真耶ちゃん?」

 

「はい!!なんですか!?どんなお礼がいいですか!?」

 

俺の問いに、真耶ちゃんは瞳を輝かせながら聞き返してくる。

なんか「私!!どんな事でも頑張ります!!」って感じだ。

なんせ瞳からキラキラと星が出てるように見えるし。

悪いけどその期待にゃ応えてあげらんねぇぞ?

 

「あ~……お礼ならよ、もうさっき受け取ったぜ?」

 

「……はぇ?」

 

俺の言葉に真耶ちゃんは呆けた声と、ポカンとした表情を浮かべる。

よし、この隙に言い切っちまおう。

 

「あん時、俺はこうも言った筈だ。『俺が守った真耶ちゃんの可愛らしい笑顔が、曇らずに済むならそれでいい』……ってよ?」

 

「ふ、ふえぇッ!!?……あ、ああぁぅうぅ~(ぷしゅ~)」

 

俺の言葉を聞いた真耶ちゃんは顔から煙を噴きながら、あの日と同じ様に可愛らしい声を上げて押し黙る。

だぁぁあああああああ!!?クッソ恥ずいぃぃいいいいいいい!!!

多分、俺の顔は今かなり赤くなってると思う。

なんせさっきから顔が熱いのなんのってな事になってるし。

 

「さ、さっき見せてくれた真耶ちゃんの笑顔は……ま、まままぁ、曇って無かったし……その、なんだ。……か、可愛かったし……よ…」

 

「あ……あぁぁ……ひぅ……(ぼぉーーーーッ!!!)」

 

ドンドンと畳み掛ける様に紡がれる俺の気障過ぎる言葉に、真耶ちゃんの顔のボルテージもガンガン上がっていく。

さっきまでヤカンみてぇに煙吹いてた顔が、今や蒸気機関車になってるからな。

俺も顔の血管が弾けそうですたい。

 

「だ、だからまぁ、な?俺としてはもう充分なわけよ……俺は本当に、真耶ちゃんから礼を貰いたくて助けたってわけじゃねぇんだ……なのに、さっきの笑顔まで見せてもらって、その上で礼なんざせびろうモンならバチが当たっちまう」

 

「……」

 

「と、とゆーわけで、この話はもう終わりだ。……悪いがそれで納得してくれねぇか……な?」

 

お、おし!!全部言い切った!!もうコレで恥ずかしい台詞は打ち止め!!もう出ません!!

伝えたい事を伝え切った俺は、真耶ちゃんからの返事を待ってたんだが……。

 

 

 

「……ひゃぃ」

 

 

 

返ってきたのは、なんとも呂律の回っていない、気の抜けた返事だった。

なんか俺を見つめる瞳は蕩けてる上に、顔の赤さは増すばかりの表情を浮かべてらっしゃる。

おいマジでどーすりゃいいんだこの状況。

もう恥ずかしすぎてブッ飛びそうなんだよ、いっそのこと誰か俺を殺してくれ。

 

 

とか何とかアホな事を考えていた俺だったが……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうか。なら望みどおりにブチ殺してやろう」

 

いきなり背後から聞こえた冷たい声に反応する前に……。

 

ゴキィイイッ!!!!!

 

聞くに堪えない鈍い打撃音と共に、見事な延髄蹴りが俺の首筋にブチ込まれた。

その鮮やか過ぎる荒業に、視界はグラリと横にズレ、俺の身体はよろけて地面に倒れていく。

ってちょい待て!!?

 

ズザァアアアッ!!!

 

「痛ってえええええええええええ!!!??」

 

なんとか地面に倒れ込む前に足を踏ん張って、蹴られた首に手を当てながら蹴りをカマされた背後に視線を向ける。

そこには綺麗なポーズで大人の女を思わせる黒いストッキングに包まれた美脚を上げたまま静止してる千冬さんが。

あ、なんだ延髄蹴りじゃなくて廻し蹴りですか……ってちょっとぉ!?

 

「あだだだだ!!?い、いきなり何をカマしてくれるんすか千冬さん!!?俺じゃなかったら死んでますよ!!?」

 

そりゃもう惚れ惚れするぐらい綺麗に入ったからね!?

俺じゃなかったら確実にポックリ昇天、貴女堀の中にブチ込まれてますよ!?

 

「何だ生きてたか?殺すつもりで蹴ったんだが」

 

「確信犯!!?」

 

俺の抗議も何のその、やたら怖い目つきで俺を睨んでくる千冬さん。

しかも殺すつもりとは恐れ入るぜ、後どうやって俺の心メトリーしたんです?

それといつまでそのポーズでいらっしゃるんでしょうか?黒に包まれたピンクが……俺からは丸見えです。

やべっ、鼻血出そうって今度は後ろから殺気が!!?

慌てて振り向くと、真耶ちゃんが頬を膨らまして俺を見てますた。

もう顔全体で語ってますね、「いつまで見てるんですか!!!」って。

スンマセン、男は皆こんなモンです。

 

「ふむ、では次は確実に仕留めるか」

 

確実にって何すか!?そんなに俺が嫌いっすか!?さっきまでの優しい千冬さんカンバックッ!!!

背後から響く千冬さんの底冷えする声にもう一度振り返って向き直ると……またもやお美しい脚が迫ってました☆

いつの間に詰めたんすか?空いてた距離。

ってマジでやべえよ!?

迫り来る脚に、俺は急いで、身体全体を蒼い炎で覆うイメージを頭に浮かべる。

そして、千冬さんの蹴りが俺の首元に……。

 

「フンッ!!!(ゴキャアアアアアアアアッ!!!)」

 

さっきより豪快な打撃音を立ててブチ込まれた。

その音に、俺の後ろから『きゃあッ!!?』と、真耶ちゃんの悲鳴が響く。

 

「…?……!?」

 

「い、痛てぇ……ガチで死ぬかと思ったぜ」

 

「げ、元次さん!!?」

 

だが、俺は千冬さんの蹴りを真正面から受けた状態で、依然として立っている。

これぞ冴島さんの使う『猛虎の怒り』の下級バージョン、『猛熊の気位』だ。

ネーミングについてはツッコミ無しで頼む、文句がありゃ冴島さんにどぞ。

この『猛熊の気位』状態の俺は、大抵の攻撃じゃ怯まないんだが……千冬さんの今の蹴りは本気で効いた。

やっぱ冴島さんと同レベルの千冬さんにゃあんま意味ねぇか。

一応、この状態でなら木に括りつけた丸太の振り子の様な突撃は問題なかったんだが……それ以上っすか、千冬さんの蹴りの威力は。

 

「……フン、やたらと頑丈になりおって」

 

俺に蹴りが通じなかった事が不満なのか、千冬さんは鼻息を荒く鳴らして脚を降ろす。

言っときますけど、かなり効きましたからね?

 

「いやいやいや、充分効いてますって……(ゴキゴキッ!!)あたた……つうか千冬さん。なしていきなり蹴りなんすか?」

 

俺は二度も蹴られた首をゴキゴキと鳴らしながら廻しつつ、千冬さんに質問する。

いくらなんでもこんな理不尽な暴力は振らねえ人なんだがな。

すると、千冬さんは腕を組んで、依然として不機嫌な表情で俺を睨む。

 

「何、簡単な話だ。どこぞの図体がデカイ大馬鹿者が『教師』といつまでも乳繰り合っていた事への制裁だ」

 

そう言って千冬さんは俺から視線を外して明後日の方を向く。

図体がデカイ大馬鹿者って……まんま俺を指してますね、わかります。

つうか誰が乳繰り合ってんですか誰が。

『教師』とだなんてそんな背徳的な燃えるシチュは俺としては大歓迎……あん?

 

……『教師』?

 

 

……え?『誰が』?俺がさっき話してた相手が『教師』?

 

 

 

…………ま さ か ?

 

何やらいや~な予感がした俺は、ゆっくりと後ろに視線を向ける。

すると……。

 

「だ、駄目ですよぉ元次さぁん……わ、私と元次さんは『生徒』と『教師』なんですよぉ…だからそういう関係は…… で、でもでも元次さんがそう望むなら私は♪」

 

どうしよう、なんかスゲエ話しかけ辛い事になってるんだが。

千冬さんと話していて少しばかり目を離した隙に、真耶ちゃんは妄想の世界へとダイブしてらっしゃった。

しかもスゲエ嬉しそうに。

俺の目の前には両手で両腕を抱きかかえる様に手を組み、目を瞑ってだらしない顔をしてる真耶ちゃん。

しかもその腕に持ち上げられて真耶ちゃんの胸が強調されて……ってちょい待て!!?

 

(な、なんつーデカさだよ!!?)

 

俺の視線は真耶ちゃんの胸部にある豊かに育った二つのロマンに向かってしまう。

だってだって千冬さんより大きいんだぜ!!?束さんを超えてるんだぜ!!?

しかも真耶ちゃんの服ってば胸元にピンクのフリルがついてるのに谷間が見えるんだぜ!!?

前に会ったときは、かなり大きめのコート羽織ってたから解らなかったのが悔やまれる!!

身長と童顔に似合わな過ぎる至高の塊が目の前にあ。

 

ベキャアァァアアアアアアアッ!!!

 

「あい痛でぇぇええええええええッ!!!??」

 

今度は脳天ですか!!?しかも踵落としですか!!?

宝具SYUSSEKIBOは使わないんすか!!?

『猛熊の気位』を解いていた俺はあまりの痛みに脳天を抑えて蹲ってしまう。

 

「教師のどこに目を向けているかこの馬鹿者!!!(直ぐにデレデレしおって!!そんなに大きい胸がいいのかこの助平が!!……私のISスーツ姿が直視できん等と言ってた癖に!!!)」

 

なんで反対方向向いてたのに解っちゃうんです!!?

的確過ぎて怖えよ!!!?

 

「ふぇッ!!?だ、大丈夫ですか元次さん!!?(サスサス)」

 

「お、おぅ……サンキュな、真耶ちゃん」

 

「い、いえいえ♪」

 

俺の叫びを聞いたせいか、真耶ちゃんは夢の世界から無事帰還。

蹲る俺の傍にしゃがんで頭を撫でてくれる。

あぁ、こっ恥ずいけど真耶ちゃんの手が俺の痛みを癒してくれるぜ……じゃなくて、真耶ちゃんが正気の今の内に聞いておかねぇと。

 

「な、なぁ真耶ちゃん?」

 

「?は、はい。なんですか?」

 

「いやその……真耶ちゃんって『教師』なのか?」

 

俺はてっきり制服が間に合わなかった生徒の1人かと思ったんだが。

俺の質問に真耶ちゃんはきょとんと首を傾げた後、直ぐに得意げな表情を浮かべて。

 

「はい♪私はこの1組の『副担任』です。もし、ISの事で解らない事があったらなんでも聞いて下さいね?なんてったって私は『先生』なんですから!!」

 

真耶ちゃんはそう言って得意げに胸を張る。

止めて、こんな至近距離で胸張らないで、すっげえ気になるから。

……同年代か、下手すりゃ年下だと思ったのは言わないでおこう。

得意げに胸を張る真耶ちゃんの顔を見ながら、俺は前に思った事を心の奥底に厳重にロックする。

 

「……ん、んん!!……げん……鍋島、」

 

と、凄い得意顔な真耶ちゃんを暖かい目で見ていたら、千冬さんからお呼びが掛かった。

しかも名前で呼ぼうとしたのを一度苗字に戻して、だ。

 

「なんすか?千冬さん……じゃねぇや、織斑先生」

 

俺も千冬さんが苗字で呼んだので、同じく苗字で応える。

なんか今更な気がするがな。

 

「(ムッ)……予定が大分狂ったが、まぁいい……さっさと自己紹介を済ませろ」

 

「え?自己紹介って…………あ゛っ」

 

千冬さんの言葉に最初は首を傾げた俺だが、段々とその意味を理解し、変な声を上げてしまう。

 

Q,思い出せ、鍋島元次よ、俺は何処に入ってきたんだ?

 

A,IS学園1年1組の教室。

 

Q,じゃあ何のために教室に入った?

 

A,これから一緒に学ぶ同級生に自己紹介のために。

 

Q,じゃあ今までの行動は?

 

A,全て見られてた。

 

Q,俺の高校1発目の自己紹介は?

 

A,色んな意味でアウト。

 

頭の中で組み上がるパズルの回答は最悪のものであり、俺はギギギッと油の切れたロボットの様な動きで生徒達のいる方へ振り向く。

振り向いた俺の視線の先に映るは……。

 

 

 

 

 

『『『『『『…………(ポカーン)』』』』』』

 

 

 

 

 

もはや顎が外れてるとしか言い様のねぇ淑女の諸君だった。

駄目だこりゃ、完全にヤラかしたぜ☆

しかも列の一番前にいる一夏までもが顎が外れてる。

まぁ俺が来るとは思って無かったんだろう。

しっかし、この状況で自己紹介すりゃいいのか?

さすがに困った俺は横におわす千冬さんに視線を向ける、「助けて下さい」って意味を込めて。

 

「はぁ、まったく……(パァアアンッ!!!)」

 

『『『『『『キャッ!!?(ビクゥッ!!!)』』』』』』

 

俺の視線の意味を理解した千冬さんは教卓を出席簿で叩いて大きな音を出し、生徒を正気に戻す。

その音を聞いて、一夏以外の女子が正気に戻った。

 

「今から鍋島に自己紹介をさせる。全員静かにするように……鍋島」

 

千冬さんは生徒が騒ぐ前に言い切ってコッチに流れを作ってくれた。

俺は視線で千冬さんに感謝を示してから生徒に向き直る。

すると、目が合うのは31人分の視線。

こりゃ確かにキツイな、まぁしっかりと自己紹介しますか。

 

「あ~、とりあえず自己紹介すんぜ。俺の名前は『鍋島元次』だ。こんなナリだが、歳は皆と一緒。さっき千冬さん、じゃねぇや、織斑先生が言った様に俺もISを動かせる。ISに関してはド素人だが、まぁ仲良くしてくれりゃありがてえ。「そこまででいいぞ鍋島」……え?」

 

と、俺が順調に自己紹介を進めていたら、千冬さんからストップが掛かった。

いきなりなんでだ?って思って千冬さんに視線を向けたんだが……何やら、すんごいイイ笑顔を浮かべてらっしゃる。

あっるえ?なんかその笑顔見てると背筋がゾクゾクしてくるんですが?

何そのSッ気たっぷりの笑顔は?

俺が千冬さんの表情に薄ら寒いモノを感じていると、千冬さんは前に進み出て……。

 

「さて、お前達も色々と鍋島に聞きたいことがあるだろう?そこでだ、質問したい者は挙手しろ。鍋島に答えさせよう」

 

とんでもねえ事をおっしゃって下さった。

ってちょい待って!!?

 

「ちょ!?千冬さん!?何言ってんすか!!?」

 

そんなモン聞いてねえんですが!!?

だが、俺の抗議もニヤニヤした顔で受け流し。

 

「何、これぐらいはやっても構わんだろう?お前は自己紹介の大鳥なんだからな」

 

「初耳なんすけど!!?」

 

なんてこった!!?つまりはこっちが言わなくても良かった事を突っ込まれた時は答えにゃならんのか!!?

そんな面倒なこと絶対やらね……。

 

ズババババババババッ!!!!!

 

俺が千冬さんに詰め寄ろうとした瞬間、俺の背後から軍隊張りの速度で挙手の手が綺麗に上がってた。

……一夏と他2人以外、全員手ぇ上げてるよ。

一足遅かった……はぁぁ。

俺は心中で溜息を吐きながら、生徒の方へ向き直る……って何時の間にか真耶ちゃんまで手ぇ上げてるじゃねぇか!!?

 

「ふむ。では、手前の席からいくか」

 

まさかの全員の質問に答えるんですか!?

鬼!!

 

「では、相川から順に質問を」

 

「はい!!あの!!鍋島君は織斑先生とどうゆう関係ですか!?」

 

俺の心中ガン無視で質問コーナーは幕を開けた。

仕方ねぇ、とりあえず答えられる質問は答えて行きますか。

 

「織斑先生とは前に住んでた家が近所でな。良くガキの頃から遊んでもらった」

 

「はーい!!じゃあ、織斑君とも仲良いの!?」

 

「おう、一夏とは幼稚園から中学までの付き合いだ。俺にとっちゃ、血の繋がってねえ兄弟みてえなモンだな」

 

「中学までって、高校は違うトコを受けたの?」

 

「俺の爺ちゃんが兵庫県の方で自動車工場をやっててな。俺が後を継ぐ予定だったから、高校は兵庫県の高校を受けたんだ」

 

「彼女はいる!?」

 

「いねえなぁ」

 

「タイプの女性は!?」

 

「やっぱ優しさのある子だな」

 

「趣味は!?」

 

「音楽鑑賞と料理、それと自動車やバイクの雑誌を読む事だな」

 

「お菓子も作れるの~~~?」

 

なんだあの裾がダボダボの子は?なんか見てると癒されるぜ。

 

「パフェだろーがケーキだろーがドンと来いや」

 

「わ~~い♪じゃあじゃあ、パフェ作って~~~♪」

 

やけにのんびりした喋り方だな。よっしゃ、俺を癒してくれたお礼に、美味しいパフェ作ってやんよ。

 

「任せとけ」

 

「やった~~♪言ってみるもんだね~~♪」

 

さぁ次だ次。

 

「特技はあるんですか!?」

 

「ん~~~、特技っつうか、昔宴会芸でボイスパーカッションを覚えたぜ」

 

ダチ連中には『口の中に楽器が詰まってる』とまで謂われた技だぜ。

 

「聞いてみたい!!聞かせてください!!」

 

「いいぜ。スゥ……~~~♪(解りやすく、赤い配管工のテーマをやる)」

 

『『『『『おぉぉ~~~~~!!!?』』』』』

 

「~~~♪プァプァプァ~~~~ン(レゲエDJのスクラッチエフェクトであるサイレンを鳴らす)ふぅ……こんな感じだ」

 

「すっご~~い!!」

 

「ヒューマンビートボックスってヤツね!!」

 

「じゃあ次次!!織斑先生のキックを受けてたけど、なんで気絶しなかったの!!?」

 

「そりゃあ鍛えてるからな」

 

「身長何センチ!?」

 

「186だ」

 

「じゃあ、体重は!?」

 

「91キロ」

 

「重!?もしかして太ってるの?」

 

「生憎と、体脂肪率は8パーなんだなこれが」

 

『『『『『羨ましい!!!妬ましい!!!』』』』』

 

「じゃあ殆ど筋肉!?」

 

「まぁそうなるな」

 

「はいはいは~い!!山田先生とはどういったご関係!?なんか『助けられた』って言ってたけど!?」

 

「真耶ちゃんか?これはさすがに真耶ちゃんのプライバシーがあんじゃ……」

 

「わ、私はいいですよ元次さん!!」

 

「あ、いいの?ってことらしいが……聞かせろってことね、OKOK。つってもたいした話じゃねぇよ?去年の冬に真耶ちゃんがチンピラに絡まれてたのを助けたってだけだ」

 

「た、たいした事無いなんてありません!!だって元次さん、相手が3人いても怯まずに私を助けてくれたじゃないですか!?す、すす、すすす凄くカッコよかったですぅ!!」

 

「そ、そうか?なんか照れるな……ありがとな、真耶ちゃん」

 

「は、はぃ♪」

 

そんな感じのテンポの良さで質問は大体消化してきたんだが……。

 

「…………ハッ!!?ゲ、ゲゲゲゲゲ、ゲェンンンンンンンンンンッ!!!??」

 

今頃になって一夏が覚醒した。

いくらなんでも遅すぎやしねぇか兄弟?

俺は俺を指差して驚愕の声を上げる一夏に苦笑いを贈ってやる。

 

「よぉ、一夏。久しぶりじゃねぇか」

 

「ひ、久しぶりって!!それよりお前!?その制服は!!?」

 

「見てわからねぇのかよ?俺もIS動かしちまったんだよ」

 

俺の言葉を聞いて、一夏は目を輝かせる。

 

「じ、じゃあ!!お前も一緒にこの学園に通うんだよな!?なぁ!?」

 

「だからそうだって何遍も言ってんじゃねぇか」

 

ホント何回言わせる気だ?痴呆でも始まってんのかよ?

俺の答えをきいた一夏は……涙を流し始めた。

え?なんで?

 

「よ、良かったぁ!!俺、マジで1人で女の子だらけの中でやっていかなきゃならねぇと思うと……すっげえ不安だったから!!」

 

「一夏……」

 

お前、そんなに泣く程不安だったのか……弾辺りが聞いたらキレてくるぞ?

まぁ、泣いてる親友を放置するほど俺は薄情じゃねぇんでな。

 

「それが!!まさかゲンが一緒にこの学園で過ごしてくれるなんて!!頼もしくて泣けてきたぁ!!」

 

一夏は感極まったのか、涙を流しながら俺に向かって走ってきた。

両手を広げてる辺り、ハグをしようとしてるんだろう。

何故か周りの女生徒は「素敵な友情だね!!」とか「ハァハァ……泣いてる一夏君」とか「元次×一夏!!今年の夏は決まりよ!!」とか言ってる。

とりあえず最後の子、後でちっとツラ貸せ。

 

 

 

 

俺はそんな周りの視線を敢えて無視して、俺に走りよってくる一夏に笑顔を浮かべながら……。

 

 

「ゲンーーーッ!!!うぅおぉぉお~~!!これは夢か!?夢なのかーー!?」

 

 

 

 

「ゼィイイッ!!!(ズドゴォオオオンッ!!!)」

 

 

 

 

 

「ぐぼぉあ悪夢ぅぅううううううううッ!!!??」

 

顔面に腰の入ったストレートパンチを見舞った☆

 

『『『『『えぇぇぇぇえええええええええええええええッ!!!???』』』』』

 

周りで見守っていた女生徒から驚愕の声が上がるが、俺はそんなこと知ったこっちゃねえッ!!!

俺は俺のパンチで床にノックダウンした一夏の胸倉を掴み上げて引き起こす。

さあッ!!俺の怒りをしっかりと刻めやゴルア!!!

 

「寝言タレてんじゃねーぞゴルアッ!!!テメエがISを起動しちまったせいで俺まで検査を受ける羽目になるわ、受けたら受けたでISが起動しちまうわ、必死こいて受験した高校は退学扱いになるわ、政府のクソッタレたアホはやって来るわ、千冬さんには殺されかけるわ、テメエは女だけじゃなく俺にまで面倒フラグぶっ立てやがってッ!!なんだ?恨みか?恨みでもあんのか!?それとも喧嘩売ってんのか良い度胸だ買うぞ幾らだごるあああああああああああああああああああッ!!!!」

 

俺は引き起こした一夏をブンブンと振り回しながら怒鳴り散らす。

完全に両足がブラブラと浮いてる一夏は、糸の切れたマリオネットの如くプラプラと揺れるだけだった。

周りの女生徒達は怒れる俺にビビッて近寄ろうとはしない。

 

「…ず……ずびばぜん……です……た……ガクッ」

 

『『『『『織斑君ーーーーーーーーーーーーーッ!!!???』』』』』

 

そして遂に一夏は気絶。

女生徒達から悲鳴が沸き起こる。

まぁなれてない子達からしたらこの光景はショッキング過ぎたか、反省反省☆

 

「はぁ、やれやれ……鍋島、ちゃんと片付けておけよ?」

 

「ういーす」

 

『『『『『織斑先生、手馴れてる!!!??』』』』』

 

「ちゃんと鍋島も手加減して殴っていたからな……よし、お前等!!これでSHRは終了だ。5分後に授業を始める」

 

千冬さんはそう言って教室の扉から出て行った。

後を追う様に真耶ちゃんも教室を出て行き、周りにいた女生徒も慌てた様子で自分の席に着いて教材を準備し始める。

俺は空いていた一夏の隣の席に腰を降ろして、カバンから参考書とノートを取り出す。

一夏?アイツの席に放り投げておいたから、その内目を覚ますんじゃね?

さて、後は千冬さん達が来るのを待つだけだが……。

 

「えへへ~~♪ゲンチ~。パフェ、忘れないでね~?」

 

「任せとけ、ホッペが落ちるぐらい美味いヤツ作ってやんよ」

 

「わ~~い♪パフェパフェ~~♪」

 

俺まだこの子の名前知らねえんだが?


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